第7話

 その後、王の命令に即座に闇烏たちは動き出した。真っ黒な城から一斉に飛び立つ大きな黒い鳥たちの姿は、赤焼けた夕焼け空を黒い渦で空を覆い尽くすように見え不気味に映った。それはまさにこれから起こる出来事を暗示しているかのような不吉な景色だった。そんな闇烏たちの手によって、大会参加者で生き残った全員に王から直々の伝達を伝えられたのだ。内容はこの様なものである。


「この度の王座の大会参加者に告ぐ。生き残った参加者全員を闇族王の城に招待する。無事生き残ることができたなら、王と同等の権限を与え、城への出入りを許可する」


 その伝達に、強欲で傲慢な大会参加者のほぼ全員が、指定された日時に揃ったと言っても過言ではなかった。


 そしてここにも一人、その伝達を受け取った男がいた。

「闇族王、ミズミ様からの伝達です」

 急に声をかけられ、その男は閉じていた瞳を見開いた。

 男は鬼族の町の一角で、呑気に昼寝をしているところだった。この邪悪な大陸の中では比較的平和な町が、この鬼族が領地とする町である。その町の商人たちの倉庫の屋根で、ひなたぼっこしながらウトウトしているところに、鳥にしては大きすぎて、その上羽根で立ち上がり足で器用に紙切れを持ち、それを差し出してくる奇妙な生き物が自分を見下げていたのである。男は二、三度瞬きした後、自分の頬をつねっていた。

「……あ、夢じゃないんだ。変な鳥ー。アンタ誰?」

 そう言って寝転がったまま問いかける男の声は、長身な見た目とその声の低さとは裏腹に、どこかのんびりしていて間が抜けて聞こえた。

「私は闇族王に使える従者の一人です。闇族王ミズミ様より、貴方様に伝達です」

 再び説明されて、男は屋根の上で半身起き上がった。長く尖った耳が髪から飛び出している姿は、彼が普通の人でないことの証拠だった。腰にまで届く長い黒髪を肩からこぼし前かがみになる男に、カラスは細い爪先でその紙切れを渡した。

「ミズミがわざわざ俺に手紙?」

 そう言って首をかしげる男は、バッサリと切った前髪の下で切れ長の瞳を丸くして、不思議そうに首を傾げ、その手紙に目線を移していた。それを確認して、カラスはぴょんと飛び跳ね男から距離を少し広げた。

「正確には貴方様だけではありません。読めばわかりますが、対象者全員にお送りしております。では、私めはこれで」

 ペコリと頭を垂れたかと思うと、奇妙な黒い鳥は翼を広げ風と共に飛び去ってしまった。その風に髪を揺らしながら、男は手紙を見つめたまま、その切れ長の瞳を鋭くしていた。

「……ミズミ……また無茶なことを……」

 そう小さく低く呟く声は、どことなく不安な色を感じさせた。

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