第8話 無邪気な男が参られる
カラスは怯えていた。
羽根の中に顔をうずめるようにして耳をふさぎ縮こまり、背後で聞こえる恐ろしい音を遮断するように、その存在から隠れるように、震えながら椅子の後ろに身を寄せていた。
そうカラスが怯えるのも無理はない。彼が隠れる椅子の向こう側では、まさに血の雨が降る残虐な戦いが繰り広げられていたのである。あちこちから響き渡るのは痛みにもがき苦しむ声や断末魔の悲鳴。悲鳴の直後、舞い上がる血しぶきに、噛みちぎられたかのような手足、吹き飛ぶ生首。まさに阿鼻叫喚地獄がそこにはあった。
そんな惨たらしい情景を、薄ら笑いを浮かべるくらいにして頬杖ついて眺めているのは、この邪悪な大陸の王である闇族王ミズミ。サラサラな茶髪の隙間から紫色に揺らめかせる瞳を鋭くし、次々床に転がっていく死体の山を、彼は微動だにせず眺めていた。
この景色の原因は、邪悪な王ミズミである。王はこの日、自分同様闇族王の座を狙っていた「王座の大会」の参加者たちの生き残りを、王の城に呼んだのである。強欲で傲慢な猛者たちで埋め尽くされた王の間で、美しき王は声高に宣言した。
「よくぞわが城に集まってくれた。ここに集まった者の殆どが、今俺がいるこの王座に座りたいと思っているだろう。いいぞ、俺と同じ様に王としての権限をくれてやる。ただし、俺を含め生き残った者だけに、だ」
その発言に――尤も、その発言があってもなくても、大会参加者たちの行動は同じだっただろうが――王の間に集まった全員が、闇族王ミズミも含め自分以外の者を殺してしまおうと、殺戮を始めたのである。
しかし、不思議なことに闇族王にはその恐ろしい攻撃の手は届かなかった。勿論、手が届いたものなら、彼からの反撃に遭っていただろう。しかし彼が手を下したわけではない。どういうわけか王を狙おうと牙をむく者たちは、別の誰かによって先に仕留められていたのだった。
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