第5話
「いたな、じいさん」
急に背後から声をかけられ、年老いたカラスは飛び上がった。驚きから確実に寿命は一日縮んだことだろう。
「は、はい!ミズミ様!」
慌てて振り向き答えれば、あの白く美しい顔がカラスを見下ろし、わずかに首を傾げている様が見て取れた。
「じいさん、妙にお前の仲間が増えてるんだが……これはどういうことだ?」
いいながら窓の外を指差す闇族王は、中庭の枯れた木々に止まる同族を見て訝しげな表情を浮かべていた。
「すごい数だな。ここはカラスの巣か」
思わずツッコミを入れている王に、じいさんと呼ばれたカラスはうやうやしく頭を垂れた。
「驚かせて申し訳ございません。我が一族は貴方様の願いを叶えるべく、必要な数が集まるのです。毎回闇族王となられる方は、様々な命令を我らに下しますゆえ、それに備えているのです」
その言葉に、茶髪の人物は鼻を鳴らし不機嫌そうに呟いた。
「成程な……。闇族王が妙にやりたい放題なのは、こういった従者を活用していたからというわけか……」
「ミズミ様も必要があればお申し付けくださいませ。財宝でも、食料でも、美しい女性でも、なんでも命令に従い集めてくるのが我らでございます」
いいながら、歴代の闇族王の命令は恐ろしい、と思いつつ顔には出さず頭をたれていた。するとそんな頭上から、かすかに笑みを含んだ声が聞こえた。
「……フ……。成程な、なんでも……か、使えそうだな」
その言葉にそっと顔を上げ王の表情を覗き見れば、王は窓の外を睨むように視線を鋭くし、口の端を歪めて冷笑を浮かべていた。不思議なことに王の瞳は紫色の輝きを湛えており、その表情は美しさと相まって恐ろしく冷たく見えた。
その顔を見てカラスは思った。やはり闇族の王ともなる人物は恐ろしい顔をする、見た目の美しさに油断していたが、きっと恐ろしい命令を下してくるだろう。そう思って深く息を吸ったその時だった。
「じいさん、では……お前達一族の力を使って、仕事を一つ頼まれてくれないか」
その申し出に、年老いたカラスは覚悟を決めるのだった。
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