第13話

「ミズミの部屋ってどこだっけ?」

 ある日そう王の側近に尋ねられ、年老いたカラスが王の自室を案内すると、長髪の男は迷いなくその部屋をノックして、

「ミズミ、入るよー」

と、間髪入れず扉を開ければ――

 直後、鈍い音がして男の顔面に靴が張り付いていた。

「だから貴様は勝手に入ってくるな!」

 鋭い怒鳴り声が響いたかと思うと、そのまま開きかけの扉に白い腕が伸び、即座に扉は勢いよく閉められた。

「……は、ハクライ様……大丈夫ですか……?」

 靴がようやく顔面から落下した男にそっとカラスが気遣えば、その顔に靴の赤い跡を残したまま、男はポリポリと頭をかいていた。

「……着替え中だったみたい……。怒られた」

 いくら王の相棒でも、許される範囲とそうでない範囲は明確なようであった。

「じいさんも、アイツに易々と俺の居場所を教えるな。アイツ遠慮がないからこっちが来て欲しくない時にもずかずか入ってくるんだよ」

 着替え終わった直後、真っ先に王に釘を差されたのは、相棒の男ではなく従者のカラスだった。どうやら今回が初犯ではないらしく、共に生活してから既に何度目かのトラブルだった様子だ。王に叱られ、老カラスはしゅんとしてしまった。

「も、申し訳ございません、ミズミ様……」

 その隣では廊下であぐらをかいて、王を見上げている側近がいた。黒髪の男に王が怖い視線を向けると、男は即座に口を開いた。

「ごめんってば。風呂のときはさすがに悪かったなって思ってるよ」

「当たり前だ!」

「部屋なら大丈夫かと思ったんだよ。着替え中とは知らなくて」

「お前な、いくら俺の側近になったとはいえ、多少遠慮しろ。俺だってお前の部屋に勝手に入らんだろ」

「俺の部屋には勝手に入っていいのに」

「だからって俺の方も良しとするな」

「それに一応ノックはした」

「入室を許可した覚えはない!」

 王とその側近のやり取りを見上げて、カラスは暫し呆気にとられていた。王の方が怒っているとはいえ、どうにもこの二人、お互いにこう言い合えるくらい仲は良いようである。しかも聞いていると、王がツッコミ返している雰囲気で、それは妙に笑えるやり取りにも聞こえた。

(今回の王様たちは……困惑するだけではない……。少し……楽しいかもしれんのう……)

 そんな事を思って思わず口元が緩むと、王の鋭い視線がカラスに向いた。

「……じいさん……。人の苦労を楽しむなよ」

「た、楽しんでなどおりませぬ……!」

 どきりとする発言に、咄嗟に年老いたカラスは首を振るのだった。

 今日はそんな、平和な一日のやり取りだった。

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