邪悪な王に悩まれる

curono

第1話 邪悪な王に悩まれる



 カラスは焦っていた。

 今日は自分が仕える王が、新しく城にやってくる日だったからだ。

 平和な国で、立派な国王が城に入ってくる、それだけの緊張感だけならまだ可愛げがあっただろう。しかしカラスが仕えるのは、このアルカタ世界で最も邪悪な民と言われる「闇族」の王だ。五年ごとに「王座の大会」が開かれ、そこで勝ち抜いた者のみが現国王と戦い、勝ったほうが次の王となる。まさに弱肉強食だけが唯一の法である邪悪な民らしい大会だ。その大会に勝った新しい闇族王が、この日城に入ることとなっていた。だからその王に仕えるカラスは焦っていたのである。

「ああ……まずは一番手のワシが、犠牲となって新しい王の扱いを見極めねばならん……」

 そうしゃがれた声でため息をつくカラスには哀愁が漂っている。見ればそのカラスは腰も曲がり、飛び出した脚も細くまさに骨のようで、随分と年をとっていることがわかる。丸い体を更に丸め、その骨のような脚は手の代わりに動く器用さだ。一方で、黒い服の中で翼の先端が脚のようになって体を支えている。勿論、普通の鳥のカラスではない。この闇族の王に代々仕える魔物の一族「闇烏」だった。

 この年老いたカラスがそう嘆くのも無理はなかった。というのも――

「たしか……先代の喰族の王は、喰ったことがない魔物だと言って最初の従者を喰ってしまったと聞くし……その先々代は強族の王で、やはり初めて見る魔物だと言って料理されてしまったと聞くし……ああ、ワシが仕える王は一体どんな方になるのやら……」

と、過去の同族の顛末を知っているからこそ、年老いて先の長くない者を真っ先に遣いに出すのがしきたりだった。それくらい、危険な仕事なのである。

 年老いたカラスがそんな事を思って怯えていると、城の門が開く地面をこする低い音がした。この闇族王の黒い城には仕掛けがある。一見黒くそびえ立つ古びた廃墟のような城ではあったが、城全体には結界があり、城の門にも王の証を持つ者か限られた従者にしか開かない仕組みがあった。今城に遣いに出されているのが自分だけだからこそ、城の門が開いたのだとしたら、王が入って来たことしか考えられなかった。

「いかんいかん、すぐにお出迎えの準備をせねば……!」

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