第3話
二日経ち――再び、カラスは焦っていた。
既に王が城に来て、生活は二日が経とうとしていた。その二日の間、自分が死ぬこともなく、実に平和に過ごせていることはありがたかったのだが……
「……は、果たして……これでよいのじゃろうか……」
年老いたカラスはそう言って深いため息をついた。カラスが悩むのには訳があった。
「じいさん、俺が使っていい部屋はあるか?」
手始めに王が望んだのは自室だった。代々闇族王が使ってきた部屋は当然あった。広く黒光りする石畳、その上に広がる血のように真っ赤な絨毯、禍々しい彫刻が飾られ、窓枠も不気味さを醸し出しつつ繊細な彫り模様が施された、いかにも邪悪な王が使っていそうな部屋はあったのだが……
「こんな悪趣味な部屋使えるか。もう少し手狭でいい」
と言って、王の側近たちが使っていた一室を、この新しい王は使うことにしたのである。
「こ、こんなみすぼらしい部屋で良いのですか⁉」
思わずカラスが口を挟むのも当然だった。王が選んだ部屋は、棚が壊れ机はひびだらけ、ソファですら穴が空いている、まさに廃墟の一室のような部屋だったのだから。唯一ベッドだけは壊れておらず、それを本人は気に入ったようだった。
「広いし、柔らかすぎなくて俺にはいい。今後ここを王の部屋ってことにしてくれ」
そう言って茶髪の隙間から緑色の瞳を細め、ニヤリと王は笑うのだった。
またある時は――
「ミズミ様、お食事でございます」
王のための食事の準備を作るのも、彼ら一族の日課だった。骨付き肉に魔物の姿焼き、魔物のお頭スープ、そしてデザートの果物などなど。代々の闇族王を満足させてきた不気味で豪華で、量も多すぎるほどの食事だ。そんな万全の食事を揃えてみれば、意外にも王は不機嫌にため息をついた。
「俺にこんな飯を準備しなくていい。準備も大変だろうが」
そう言って、王はテーブルに山盛り盛られた食事のたった一つ、果物の山盛り皿だけを選んで、それをかじりつきながら従者にもそれを一つ投げた。
「今後、俺の食事はこのくらいにしてくれ。俺の好物は果物だ」
そう言って王はその皿を持って窓枠に座って食べるのだった。
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