第35話
「……成程……。通路として鬼族砦付近の森を使っているのか……」
独り言とともにまぶたを開く茶髪の人物は、その瞳をゆらゆらと紫色に燃やしていた。真剣な表情で遠くを見つめるその横顔は、厳しい表情をしていたが、やはり美しかった。それを見入るようにじっと見つめていると、それに気が付いた王が、ため息交じりに視線を向けた。
「……ハクライ……何だ……?」
訝しげな表情に変わる王の瞳は、またあの緑色に戻ろうとしていた。その瞳をまっすぐに見て、問われた男は答えた。
「綺麗だから見てただけ」
「……大抵、俺が本気の顔は怖いと言われるんだがな」
呆れるようにため息を挟んでまた窓枠によりかかる相棒に、長髪を揺らしながら男は無邪気に答えた。
「紫色の目も綺麗だから。俺好きだよ、そういう時のミズミも」
「……やはりお前、変わり者だ」
そう言って呆れがちに視線をずらす茶髪の人物は、こころなしか頬が赤らんで見えた。
「あはは、ありがとう」
「褒めとらん」
変わり者、と言われる事は、彼にとって決して悪いようには思えなかった。そのやり取りだけで嬉しそうに笑う長身の男に、もう一度だけ視線を向けて、茶髪の人物は小さくため息を付いていた。しかしそこに邪険な様子は見られない。穏やかな空気を感じて、長髪の男は首を傾げて見せた。
「まだここに居ていい?」
「……好きにしろ」
言いながらまた視線を外に向けるミズミに、男は立ち上がって近づいた。それに気付いて、下から見上げるように視線を向ける相棒に、腰を曲げるようにして窓枠に肘を着けば、二人の顔の位置が同じくらいの高さになる。あの緑色の瞳を真っ直ぐに見て、男は穏やかに微笑んだ。
「やっぱり俺、ミズミ好きだよ」
本日二度目の発言に、言われたほうは困惑したように目を細めていた。しかし穏やかな風に吹かれ、茶髪を遊ばれながら静かに男の相棒は口を開いた。
「……俺も嫌ってないから安心しろ。そう何度も言うな」
この人物にしては珍しい発言に目を丸くすると、言った方は視線をすぐに外し、また外を見ていた。長い茶髪の前髪に隠されていたが、頬はやはり赤らんでいるように見えた。
「あれ、照れてる?」
「…………」
「嫌ってないなら、好きってこと?」
「………………」
「安心していいなら、そう受け取っていいかな」
「……………………」
「そう受け取りたい」
「……お前やっぱり部屋から出てけ」
つかの間の平和なやり取りは、二人きりの部屋に穏やかに響いていた。
邪悪な王に悩まれる curono @curonocuro
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