第14話 ミマツの木は残った その1
「『
オリカの風が、炎を上げる枝葉を切り払う。ところが、火のついた枝は暖められた空気による上昇気流で舞い上がり、少し上の枝に着地し、そこで燃え広がってしまった。
「ええっ、まさか?! すみません!」
「いや、ありゃあしょうがない。ほいでもミマツはよう燃えるど、なんか考えんと」
「くそ、あの〈不燃物〉が吐いた火で燃えてたってことか、いなくなっても迷惑かけてくれるよ」
ちらりと元〈不燃物〉のヒクイドリに目を向けると、何か感じ取ったのか、「キュキュ〜」と顔を伏せながら小さな声で鳴いた。
「ああ、ごめんごめん、悪いのは君じゃなくて、〈不要品〉の方だよ」
そう言ったときにひらめいた。
「そうだ! あの木を〈不燃物〉にしちゃうのはどう? 木に〈不要品〉を埋めるとか!」
「それで〈不化〉するかどうか、ちょっと予想が付きませんね。それに…… あの能力だと火が出てるけど燃えつきない、みたいなことになりません?」
「そういえばトサカとか火が出てたね……」
燃え続ける木とか危なすぎる。却下。
悩んでいる間にも、バチバチと木を焼きながら炎は広がっている。焼け焦げた臭いと共に火の粉が舞う。あれが他の木に燃え移ったら一大事だ。
「うーん。《枠》で木の周りを囲んでみようか」
「お? だいぶでかいど、いけるんか?」
さっきの
「分かんないな。まあ、倒れちゃったら、担いで逃げてよ。上手く囲えて、オリカさんの風で新しい空気が入らないように出来れば、消せるかも」
「なるほど、難しそうですが、やってみてもよさそうですね」
じゃあひとまず《枠》の素作りからだ。かなり大きな円になるから、難しいぞ。集中しないと。
伸びた枝のフチを見上げて確かめ、フチの下に立ち、腕を水平方向に伸ばす。と、突然オリカが手を握ってきた。
「《枠》作りってイメージが大事だって言ってましたよね。イメージしやすいようにみんなで輪になりましょう。オミさんもっ!」
「えっしゃ」
「おっ?!」
オミはすぐに反対の手を握ってきた。手をつなぐのにオリカよりオミの方が照れるのはなぜなんだ。
「おーい、おみゃぁらもやってくれぇ。急いでの!」
オミが号令をかけるとまず大ヒクイドリの番がそれぞれオリカとオミの隣に立ち、翼と手を触れ合わせた。
「やっぱりこの子たち賢いですね」
そしてそれを見たヒクイドリたちは一斉に僕らの真似をして翼を触れ合わせ、大きな輪になってくれた。
よし、これならやりやすい。遠く離れたところや木の幹に隠れて見えない向こう側についてもヒクイドリ達の足元を見ていれば線をイメージ出来る。
このみんなで作った輪から《枠》を生む。
「【フレームワーク】! 『
ぴょこっと鳥たちの足元に一メートルほどの高さの薄い壁のようなものができた。大きく、丸く、木を囲んでいる《枠》だ。
「まだまだ低いど、こがぁなん役に立たんじゃろ」
「僕のイメージ力の問題なんだけど、あんまり縦が長いと《枠》って感じがしなくていっぺんには作れないんだ。高くするために上にくっつけていってみる。実は初めてやるんだけど」
「おいおい、初めてか! 大丈夫なんか?」
できた《枠》に手を添え、それの上にもう一つ同じ《枠》を鉄と鉄とを溶接でくっつけるイメージをする。作った《枠》の形や大きさを変えることは今のところ出来ないので、こうするしかない。
それだってさっきまでは出来るかどうか分からなかった。でもオリカやオミ、ヒクイドリたちと手を繋いで"繋がり"を感じる事ができた今は"繋げる"ことができる気がする。
「ふっ!」
気合いを入れて《枠》を生成する。高さが二倍になった。繫ぎはどうだ?
オミがゴンゴンと《枠》を叩く。
「
その後、その倍の高さの《枠》をくっつける。これで、四メートルほどの高さの塀がぐるっと木を取り囲むような形になった。
くっつけるのはマスター出来た気がする。よし。
それからその壁に抱きつくように体全体をつける。
神界でやらされたなあ、あのときはリツの作った東京ドームほどの外径の壁を《枠》として感じる訓練だった。今回は僕の作ったこの《枠》を上に積み上げる仕事だ。
見上げて、高さもイメージする。
「ふーっ」
呼吸を整え、集中し気合を入れる。
「『
《枠》の塀がどんどんと積み上がる。
繋がる《枠》の高さが大ミマツの中程まで来たときに目眩を感じた。ヤバい。でも倒れても運んでくれるはず。
一度、肩をほぐし、軽く深呼吸する。もう燃えている部分は囲えている。続きに取りかかる。ミマツの木の八割程度の高さの所でさっきより強い目眩を感じた。そこから先は常にフラフラと眩んでいるように感じる。九割、九割五分。もうちょっともうちょっとと《枠》以外のことを意識から追い出し、《枠》を積み重ねていく。しんどい。でも森を守らなきゃ。つらい。なんとかするんだ。ガンバレ僕。もうちょい。もうちょい。もうちょい。
とうとう塀の高さが大ミマツを越えたころ、僕は気を失った。
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