2章 新緑の季節は森に行こう
第6話 麗しの運び屋 その1
それから、オミとともに森に入り、斧をふるって木を切り、鉈を使って枝を払う、そんな木こりとしての生活が続いた。
残念ながら木こりの作業には【フレームワーク】の能力を適用させるのは難しく、地道に自分の肉体を使って仕事をするしかなかった。
「おどりゃぁぁ!」
掛け声とともにオミが斧をふるう。オミは【ラガーシャツ】を着用しており、恐ろしい威力で斧が木に突き刺さる。
オミが切り口から斧を離した後、反対側に立つ僕が同じように斧を叩き付けるが、削れる部分はほんの少しだ。それでもへこたれずに僕は斧をふるう。
楔形の切り口が幹を進んでいき、少し幹を残した状態になったら、反対側に回ってオミだけが斧を打ち付ける。
「方向ヨシ! 倒すどー!」
万が一にも周りの人を巻き込まないように倒す方向をしっかりと確認してから、声も出して注意を促し、最後の一撃を加える。
メキメキと音を立てながら、木が倒れていく。地面に達するとドズンという鈍い音がして土ぼこりが巻き上がる。あたりに土くれのにおいがただよう。
そこからオミが手早く枝をはらう。僕も同じように枝をはらうがスピードの違いは歴然である。その後の木の寸断に関しても、オミに遠く及ばない。
「僕、役に立ってるかなあ?」
「正直言うとあんまり役に立っとらんなあ。仕事がそがぁにはよう終わるわけじゃないしのぉ」
カクッ。つい片膝を折ってよろめく。
「もう少し言い方あるんじゃない?」
「取り繕うてもしょうがなかろうが。それに能力を持ったけえゆうても、とんでもなく強うなったり、何でもできるようになったりするわけじゃないんがようわかるじゃろ」
ニヤリと口の端を上げながらオミが言う。ひょっとして、前世で持ってなかった能力を手に入れたせいで調子に乗らないように釘を刺してくれたのかな?
「今、存分に身に染みてるよ。労働は尊いね。それでも、枝をまとめるのは楽になっただろ? よいしょっと」
直径三十センチメートル程度にまとめた枝の束を両手で左右から挟む。親指は手前、残り四本の指は向こう側においた状態だ。ちょうど円柱を持ち上げるときのような持ち方をする。
「【フレームワーク】 『
そのまま、指で作られた円の大きさで《枠》を作る。きっちりと枝がまとめられ、運びやすくなる。
「ほうじゃが、前にも言うたとおり、おみゃぁ以外のやつでもその《枠》を外せるようにしといてくれりゃぁもっと便利になるど」
「練習しとくからみててよ。【フレームワーク】の使い方もいろいろ考えてるし、楽しみにしといてよ」
そんな会話を交わし、額の汗をぬぐう。
森の木漏れ日、木を切る音、木の皮のごつっとした肌触り、おがくずのにおい、今日もいい日だ。
《》 《》 《》 《》 《》
その日の夕食時、オミが肉をパクつきながら話し始めた。
「そろそろもう一個の仕事もヒデンに手伝ってもらうかのぉ」
食卓にはリツの料理が並んでいる。神界での料理に比べると食材の新鮮さやバリエーションは劣るが、柔らかく食べ飽きない味は一級品だ。
「そうね。この近くでの仕事も慣れてきたみたいだし、いいと思うわ」
「もう一つの仕事って?」
僕はパンをちぎりながら尋ねる。
「岩塩掘りじゃ」
なんでもこの山間の村から片道で四日ほど山に入ったところに洞窟があり、中で岩塩が取れるらしい。
「場所は他の人には秘密じゃ。もしバラしたりしたら……」
「どうなるの?」
「生活がかかっとるし、連れてきたリツにゃぁわりいが…… 分かろうが?」
「おいおい物騒だね」
「演技が下手ねえ。別になにもなりませんよ。洞窟の近くに〈不化〉した獣が出ることがあって、村の子どもたちや戦闘力のない人が近付かないように秘密にしてるんです。村長さんなんかは普通に場所知ってますよ」
「なるほどね。いろいろ経験させてくれて嬉しいよ。初めての遠出かぁ、ウキウキしてくるね」
「遊びじゃなぁど。言うたように、〈不化〉したんが出ることもあるんじゃし、ヘラヘラしとったら置いてくど」
「すみません! 頑張ります! よろしくお願いします!」
素早く立ち上がってオミ向かって頭を下げる。
「こんなぁはホンマに」
呆れ顔で苦笑するオミ。リツも笑っている。こういうやり取りもできる関係になっている。
「ところでいつ頃出発する予定?」
「一週間後じゃ。役場から運び屋を手配して、来てもらうのに、それくらいかからぁ」
「運び屋? 岩塩を運んでもらうのか。役場とかあるんだ?」
「そりゃああらあ。〈不の付く災〉が出る地域に入るときは、資格を持っとる人間と一緒なんが推奨されとる。そういう人間を頼んで、ついでに荷運びも
「メインは資格の方か。なるほどね、分かった。往復十日くらいってことだね」
よし! しっかり体調を整えるぞっ
「まあ、いけにゃぁ途中で引き換えすわ。無理が一番いけん」
本当に濃い見かけによらず優しいね、このオヤジは。
さて、どんな人が来るのかな? わりと長い間一緒に居ることになるわけだし、いい人だといいなあ。
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