第22話 試し試される枠とバチ その5

 ここだ!


「『消去イレース』!」


 僕は『方体キューブ』から右手を離し、左手だけで持つ。次いで右側で進路を塞いでいた《枠》を消し、右方向にサイドステップしながらトーの左側に体を倒れ込ませ、振り下ろされた一撃の範囲から抜け出した。


「何?!」


 そう叫んだトーの左足首を右手で掴む。同時に左手の『方体キューブ』を寄せ、四角い額縁形状の《枠》を作った。


「『角枠スクウェア』!」


 そこからは全速力で地面を転がって一回転。トーの左後方にエスケープした。片膝立ちになって先程の『角枠スクウェア』の効果を確認する。


「ふう、上手くいったかな」


「ああ、見事だった」


 トーの左足首には四角い《枠》が掛かり、そこには先ほどまで僕が持っていた『方体キューブ』が繋がれていた。


 左足を上下に動かし、繋がれた《枠》と『方体キューブ』の様子を確認するトー。


「かかとを削り落とさなければ外れそうにない。たまにかかとの固くなった皮膚を軽石で落とすが、どこまで削ればいいかな」


「うおお、背筋がヒュッてなるう。そんな痛そうなこと言わないでくれるかな」


 角質除去のついでみたいに言うけど聞いてるだけで痛い痛い。まったくこの治癒前提者め。


「冗談だ。もし削ったとしてもおかあさんなら治せると思うが、人の力に頼るのは一致一の模擬戦に相応しくない」


 筋を通す人だね、まったく。無茶な方法をとることはなさそうだが、こちらとしては油断なく詰めていきたい。


「『角枠スクウェア』」


 そう言ってさらに《枠》を作り、足につながれた『方体キューブ』を障害物である別の《枠》と繋げた。


「さて、他の《枠》をどんどん繋げば、ますます動きにくくなっていくよ」


「私の《ドレス》能力である"スピードアップ"にとっては致命的だな」


 なんとなく予想はしていたが、オミの【ラガーシャツ】の"筋力アップ"と同様の身体強化系能力を持っているらしい。


「時間が立つにつれて逆転の目が無くなりそうだ。ここで勝負をかけさせてもらう!」


 そう言うと、トーは両手を高々と上に挙げた。


 トーと僕の間には【バチツチ】のバチ打撃攻撃では届かないだけの距離がある。勝負手としての攻撃手段は投擲か? 《ドレス》能力か?


 〈不燃物〉の時はクチバシを拘束して遠距離攻撃を防ぐことが出来たが、今回はまだそこまで上手くいっていない。遠距離攻撃を警戒する必要がある。


 どうする? 《枠》での拘束か? 【枠枠連棍】での攻撃か? それとも防御か? 何を優先すべきなんだ?


「【バチツチ】のツチ」


 トーがそう言うと、両手のバチの先に何かがくっついて生成されようとしていた。直径が一メートルくらいで…… 円筒型なんだけど真ん中あたりは膨らんでいる…… 太鼓?


 バチの先っちょに太鼓がつくの? どんな武器だ? といぶかしがって、凝視するうちに正解がわかった。


 あれは"ツチ"だ。木槌、金鎚の"ツチ"だ。【バチツチ】は【バチ鎚】の意味か!


「あの武器の本当の姿はハンマーだったんだ!」


 僕が叫ぶと、正解だと言わんばかりにブンッとトーが二つの大ハンマーを振った。


 勝負をかけると言ってたぞ。もしかしたら武器を失ってもいい覚悟で、あのハンマーの投擲があるかもしれない。あれだけの大きさだ投げられたものに当たったらただでは済まないだろう。


 そう予測して、急いで周りの《枠》の障害物の中に身を入れる。


 それに、あのハンマーなら僕の《枠》を破壊できるかもしれない。ただ、破壊出来たとしても、《枠》を構成する"辺"の一つか二つだと思いたい。


 もし破壊されたら、それを上回る速度で《枠》を作り続けてやる!


 そして〈不燃物〉戦のような《枠》での拘束を狙う!


 がんじがらめにしてしまえば、僕の勝ちだ!


 そう思って構えを取るとトーが二本のハンマーを頭上高くかかげて、叫んだ。


「私の力をこの鎚に伝う! 防御あたわず! 波動、『垂直打チョップヒット』!」


 それと同時にトーが勢いよく地面にハンマーを振り下ろす。


 トーの巨大ハンマーと地面、すなわち『ドレサース』そのものがぶつかり、その両者の大きさが示す通りの腹底に響く重低音が体を抜けた。


 ドッドォン!


 自分を拘束する《枠》ではなく地面を叩いた? そう疑問に思っていると、ゴゴゴという音と共に地面から重い振動が足裏に伝わってくるのがわかった。


 やばいぞ! 何かまずい!


 しかし、そこから回避行動を取る間もなく、足下の地面がドッバァァンという激しい爆破音と共に爆ぜ上がった。その勢いで身を入れていた《枠》ごと空中に放り出される僕。


「わわわわわっ」


 手足をばたつかせるが、あいにく《枠》の中で思うようには動かない。まあ、思うように動かせたところで人間は空を飛ぶようにはできていないが。


 そうして、健闘むなしく、物理法則通りに地面に叩きつけられた。


「グエッ ゴハッ」


 《枠》の"辺"で胸を打った。本日二度目の呼吸困難だ。バウンドしてさらに全身を打ち付ける。うう、駄目だ。動けそうにない。


 は、早く…… ち、治癒を…… オリカ……


「ニイちゃんッ! 今の見た? 初めの立ち回り、この障害物だらけの場所で《枠》を器用に避けつつ、ヒデンでんに近づくトーちゃん! それ対してヒデンでんは隠していた力で棍を作ったよ。《枠》を作る能力って言ったら、今ここで転がってる四角や立方体を連想するよね。丸い形のやつは多分だけどわざと作ってなかったんだよ。丸い《枠》で作った棍に、さすがにトーちゃんもびっくりだったみたい。でもそこからの攻撃についてはヒデンでんは練習が足りてなかったかー。トーちゃん華麗に回避! それからさあ、かわした後トーちゃんが棍を掴みに行ったときのヒデンでんのやり方なんだけど、ちゃんと見た? 見た? 見てない? いっぺんに消さずに先から順番に消して"縮める"ように見せていたんだよー。何でそんな事するのかなーって思ったけど、最後に分かった。追い詰められるまで、"《枠》を消す"力をトーちゃんに気付かれないようにしてたんだ。そして最後に消す能力を使う! 力のこもった一撃を避けられて、捕まっちゃったトーちゃん! 絶体絶命! でも最後の最後はトーちゃんも隠してた技を放つ! 時間差で地面を叩いて振動を走らせたー! ヒデンでんの位置で右手と左手の振動がぶつかり、共振で地面が大爆発! それでヒデンでんを打ち上げた! トーちゃんは自分で言った通り初見の技を確実に決めて、K! O!  面白かったねー」


 オ、オリカさん? 興奮して目の前のけが人のこと忘れてない?


「た、たすけ、タスケテ……」


 どうなるの僕?

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