第21話 試し試される枠とバチ その4
僕は左手を伸ばし、親指と人差し指と中指を直角にする形、つまり"フレミングの左手の法則"の形に指を開いた。
そして、開いた三つの指でシャンパングラスの乗ったトレイを支えるような向きに手を据える。それから親指と人差し指と中指それぞれの指を辺としたワイヤーフレーム状の立方体の《枠》の
うん、いい感じだ。そしてその《枠》の
「『
前方五メートル程度の位置で《枠》を実体させる。
すると一辺が二メートルほどの十二本の辺からなる立方体がそこに出現した。
「わっ、これは初めて見る。これも《枠》?」
出現した立方体を見てオリカが言う。
「あのミマツの木を囲ったときに《枠》をつなげたでしょ。それで立体になるように四角い『
「ん? ちょっと待って、考える…… なるほど、平面の四角い《枠》を六面つなげたらあんな風に立体になるね」
オリカが立方体を見ながら言った。
「まあ、最初の発想はそうだったんだよ。さらにそこからもう一つ発展させたんだ」
「ふむふむ。というと?」
「"立方体や直方体って、立体の《枠》じゃん"って思えたんだ。そうしたらわざわざ平面の《枠》をつなげなくても、立方体そのものの《枠》のイメージができて、一回で作れるようになったんだよ」
「なるほど。出来上がったこれを見ると確かに私にも立体の《枠》って思えるよ。そういうことか、すごいね」
前世ではこういった"辺"だけで構成された形状、すなわち"ワイヤーフレーム"を最初期の3Dゲームでよく見ていた。
"フレーム"はすなわち《枠》だ。そこから、立体の《枠》をイメージできた。前世さまさまだ。
「ふふん。やるでしょ。じゃあ、続けるね」
そうして今度は両手を使って立方体の《枠》をポンポンと作って置いていく。上下に重ねたり、立方体と立方体を『
こうして僕の周りに大量の
「さて、二回戦とまいりましょうか」
そこで黙って作業を見ていたトーが口を開いた。
「これはすごいな、一人で地形をも変える力を持つとは。先ほどの一回戦の段階でも私としては仮入団に問題はなかった」
お、嬉しい評価だね。
「これを見せられた今となってはなおさらだ。ニイもそう判断するだろう。なあ?」
「うん…… これは文句のつけようがないよ……」
「それでももう一回行うということは、私の力が不満ということか?」
「いや、もとからこのメガネを気に入ってくれた人だし、問題なかったよ。ただ……」
"フレミングの左手の法則"のハンドサインを保ったまま左手人差し指でトーを指して言う。
「負けっぱなしは嫌ってだけだよ」
「フッ。そうか、分かった。では始めよう。おかあさん、開始の合図を頼む」
「分かった。レディ…… ファイト!」
「【フレームワーク】!」
「【ビートマスター】!」
開始時の二人の距離は一回戦と同じだが、トーと僕の間には無数の
そして、それぞれの《枠》は強く固定されている訳では無いため、上を飛び跳ねて渡ろうとすると足場が崩れる可能性がある。
トーは上側ルートの危険性を理解しているのか、僕との間の
高さのある"辺"をくぐり、縦の"辺"横にステップしてかわし、時にハードラーのように腰の高さの"辺"を跳び越えながら、接近してくる。
だがやはり先程のような速度はない。
僕はここで第二のとっておきをだす。
「『
文字通りパイプを握るように手を丸め、その内側に円柱形の《枠》を作る。そしてその円柱の先にさらに円柱を継ぎ足していく。ミマツの木を囲った『
こうして西遊記で孫悟空が持つ如意棒のような棍を《枠》で作り上げた。
二メートル
「【
僕の手に二メートル弱の棍が出現したのを見て、トーが目を見開いた。そのままトーの方に【
「『
トーを目掛けて【
ただ、伸びているように見せているが、継ぎ足している形なので、攻撃するときは僕が自分で突き出さなければならない。 せいっ!
「クッ!」
目標の大きい胴体を狙ったが、トーに体をひねってかろうじて躱された。すかさず、トーが棍を掴もうとしてきたので、先の方を消す。"消失"ではなく"短縮"しているように見えるように先端から順々に。素早く。
「厶ッ」
棍を掴む目論見が外れたトーが苦い顔をする。すかさず、トーに再度【
はっ!
「ッ!」
躱されたがギリギリだ。余裕はないように見える。僕はこの機を逃すまいと連続で突きを繰り出した! だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!
「フッッ!」
だがしかし、残念ながら標的はすぐ落ち着きを取り戻したらしい。渾身の連続攻撃は今度は余裕をもって躱されてしまった。
「相手にとって初見の技を使うときは、一回できちんと仕留めないと意味がないぞ」
「そのつもりだったんだけど、相手の回避が
トーが進行を再開して迫ってくる。
僕は【
時折トーを拘束できないかと《枠》を生成するが、あちらも動き、こちらも動きで狙いが定まらず、あらぬ個所に《枠》を作ってしまう。
やがて《枠》が積み重なった袋小路に追い詰められてしまった。複雑に絡み合った《枠》で右も左も後ろにも僕がすぐ通れるほどの隙間がない。
「クッ! 『
攻撃手段である【
それを見たトーはここが攻めどきだと判断したんだろう、自分の武器を用意した。
「【バチツチ】!」
トーが腕を一直線に伸ばして、両手のバチを頭上に振りかざす!
「《枠》は破壊できずとも、その腕は耐えられるかな?! 『据え置き打ち』!」
やばいやばい、どう切り返す?
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