第23話 なろうワークでの出会い その1
「ああっヒデンでん! ごめんごめん。『ヒール』!」
駆け付けたオリカの治癒魔法で痛みが引いていく。寝そべった状態から何とか体を起こし、地面に座る体勢をとることができた。
「ふうぅー。負けたかぁ」
「いや、引き分けだな。見ろ、これを外せていない」
トーがそう言って、足に繋がった《枠》を指す。
「これは外して貰わなければこのままなのか? この先の生活に多いに支障がありそうだ」
「いや、実はだんだん硬さはなくなって紐みたいになるんだ。引っ張ってもなかなかちぎれないけど、横から刃物で切れるようになるよ」
「ふーむ…… 《枠》であろうとする方向には強いままであり続けるということなのか? ふにゃふにゃでも輪っか状なら《枠》と言えなくもないからな。だが変形するようになるなら、かかとを削らなくても外せるな」
「だから痛い話はやめてって。でもそうなるまでには一か月くらいかかるよ」
「む、そんなに待つことはできない。外してもらえるか?」
「了解。『
「ありがとう。さて、では改めて、ようこそヒデン。我々はあなたを歓迎する」
トーが右手を差し出してくる。
「どうもありがとう。今は"仮"メンバーだけど"仮"を外せるよう頑張るよ」
手を握りかえすと、そのまま引っ張ってくれた。座っていた体を立ち上がらせてもらう。
「よっし。じゃあ"ナワ亭"に戻ろうか。それから何処かでご飯食べようよ。ヒデンでんの歓迎会第一部!」
威勢よくオリカが提案してきた。それにしても、第一部? 何部まである予定なんだろう?
「急がなくていいけど、とりあえず移動しますか」
《》 《》 《》 《》 《》
"なろうワーク"の待合室に戻ると受付で他の"なろうワーカー"の対応をしていた職員が、こちらに向かって声を上げた。
「あーっ! "スーパーダイナマイトガールズ"のみんな! よかったー。話したいことあるからちょっと待っててー」
周りにも聞こえたらしく、何人かこっちを見た。そして「お、本当だスーパーダイナマイトガールズ」なんて声も小さく聞こえる。
まさかとは思うが、このダッサい名前がオリカ、トー、ニイのチーム名だったり…… するのか? 仮入団の辞退は可能だろうか。
オリカの方を見ると目が合った。そして顔を赤くする。うーん、照れた顔も可愛いね。許す!
「あー、若気の至りってヤツで。今は違う名前だよ」
「僕は何も言ってないよ? じゃあ流れで聞くけど今はどんなチーム名なの?」
「"
「頭文字にしただけやん」
とはいえ、現在の名前は僕基準で言うと持続可能で長続きしそうな
そんなふうに思っていると、先程の受付嬢が窓口対応を終えて席を立ち、ファイルを抱えて小走りに近づいてきた。
"なろうワーク"の制服を着て、ピンクの髪をベリーショートに整えている。元気で人の良さそうな職員さんだ。
「会えて良かったあ。いくつか見てもらいたい依頼があるんだ。あっちの歓談スペースで話させてもらってもいい?」
「いいけど、昔のチーム名を大声で言うのやめてよね」
「でも"スーパーダイナマイトガールズ"だと、オリカは絶対気付いてくれるでしょ」
職員と"なろうワーカー"の関係のはずだけど、すごく親しそうな口ぶりだ。前のチーム名も知っててわざとそれを使うあたり、昔馴染みってやつだろうか。
歓談スペースに移動するのに僕もついて行く。するとピンク髪の職員が僕に気付いてオリカに聞いた。
「あれ? この人は?」
「この人はヒデンでん。守りの力がすごくて、今うちのチームに仮で入ってもらってるんだ。依頼の話も一緒に聞くよ」
「えっ!? 男の人をチームに入れるの? ずっとガールズチームでいくんだと思ってた」
トーがそれに答える。
「おかあさんが彼を気に入ったからな。ヒカグチ村の岩塩採掘依頼者の甥っ子さんだ。ちなみに私も気に入ったぞ」
「へええ!? ほお? ふーん。そうですかー」
値踏みの視線が激しいな。こう、上から下まで何かを見極めるようにじっくりと眺められると、堂々と振る舞っていればいいはずなんだけど緊張する。
「力は申し分ないと思う。先程訓練場で私と模擬戦を行なったが、引き分けだった」
正確には一敗一分だけど、持ち上げてくれてるのを否定するのも無粋なので、黙っておく。
「わ! それはすごいな。トーちゃんと引き分けならかなり上位だ」
そう言うと、ジロジロと見ていた無粋な視線を改めて、好印象を与えたいのが透けて見えそうな笑顔で挨拶してきた。変わり身早い。
「初めまして、ヒデンデンさん。"なろうワーク"職員のホリィ=ピーチマウントです。"スーパーダイナマイトガールズ"改め"SDGs"の皆さんにはいつもお世話になってます」
「こちらこそ初めましてホリィさん。ヒデン=オーツです。よろしくお願いします」
「あれ? ヒデン? ヒデンデン? デンはいくつ?」
「"ヒデンでん"はおかあさんが付けたあだ名だ。"デン"は一つが正しい」
トーからそれを聞くとホリィは慌てて謝罪してきた。
「それは失礼しました。申し訳ありません、ヒデンさん」
「ホリィさんが悪いわけじゃありませんよ。悪いのは初対面の相手に対して僕のことをあだ名で紹介したこの人」
「はっはっはっはっ………… スミマセン」
「へえ、ずいぶん親しいんだね。おっと立ち話が長くなっちゃった。依頼の話に戻ってもいい? 座って座って」
テーブルについても、僕に関する話題がもう少し続いた。ホリィが言う。
「チーム入りは"仮"なのか。そうか、それでニイちゃんがなんか大人しいんだね」
「そうなんだよ。早く慣れてほしいんだけどね〜」
「……」
いい機会なのでちょっと突っ込んで聞いてみる。トーの影に隠れがちな大人しい美少女という印象なんだけど違うのかな?
「ニイちゃんはコレが
「ニイは極端な人見知りなんだ。今は大人しいが、親しくなると違った面が見れるぞ。今は内緒にしておくが」
「そうだね。私たちが言っちゃうのも違うと思うし、そのうち親しくなるか」
ニイを見る。僕の視線に気付くとすごいスピードで目を伏せた。うーむ。先は長そうだ。
ぼちぼち仲良くなっていきたいもんだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます