第9話 燃えるゴミ燃えないゴミは分別を その2

「オミ! オリカさん!」


 二人はそれぞれ別の〈不の付くヒクイドリ〉相手に戦っており、僕の叫びに応える余裕はなさそうだった。僕から見て遠くにオミ、近くにオリカがいる。


 オリカの後方から背中を狙って走るヒクイドリが見えた。


 危ない!


 オリカと鳥の間にバリケードを作りたいが、そこに見えるのはオミだけだ。それならこれでどうだ?!


「ごめん。オミ! ちょっと踏ん張って!」


「えっしゃ!」


 こちらを見もせずに、すぐ答えてくれた。ありがたい。


 僕は小さく前へならえし、両手の親指を向き合わせる。親指側が短辺、手のひら側が長辺となる長方形の《枠》の素を作り、それをオミの方に伸ばす。


 イメージしやす名前、イメージしやすい名前……これだ!


「『角枠スクウェア 列車トレイン』!」


 オミの胴体を《枠》内に収めたところで実体化させ、踏ん張るために僕も《枠》内に滑り込む。《枠》を使った電車ごっこスタイルだ。


 《枠》にヒクイドリが突っ込んできたときの衝撃に備えて、踏ん張る。そこにヒクイドリがぶつかり、ギャッと声を上げた。


「「ふん!」」


 ぶつかったヒクイドリを二人で弾いた。振り向いたオリカがすかさず攻撃を加える。


「『ウインドボール!』」


 風の玉が鳥の頭部に命中し、〈不の付くヒクイドリ〉は昏倒した。すると肉垂に表れていた"不"と"鳥"の文字が薄くなって消えていった。


 オミとオリカ、二人の周りを見ると地面に数羽のヒクイドリ達が横たわっている。どの個体も文字が消えていた。


「これで〈不化〉を解除できたってことですか?」


「そうです。しかも命も無事なんですよ!」


 オリカの《ドレス》には一部ナース服のようなモチーフもみられるため、白衣の天使を連想してしまう。相手が世界一危険な鳥でも、まあ、命があるならその方がいいよな。


「ええようにできとるじゃなぁか」


 僕の後ろにある《枠》製のバリケードを見て、オミがそう言った。


「連携を確認したときも思いましたけど…… すごいです。こんなに硬いのをこんなにたくさん出せるなんて」


 まだオミと僕の体に引っかかっている《枠》『列車トレイン』を触りながらオリカがつぶやく。


「《着力きりょく》めちゃ多くないですか?」


 "元が地球人だから《着力きりょく》ないんです"とは言えないし、そこには触れられたくないな。なんと答えようか迷っているとオミが助け舟を出してくれた。


「あんまり悠長に喋っとるヒマはなぁど、まだまだおるんじゃろう?」


「そうでした。囲まれているのは変わりないです」


「ほんなら決めた通り、動くど」


「はい」「了解」


「【ヴィノ】ちゃん!」


 車輪のないスクーターが現れた。


「よろしく」


 挨拶してから【ヴィノ】の後部座席に後ろ向きに乗る。 


 続いて、オリカと僕の体を繋いで固定する《枠》を作るために手を後ろにやる。と、手が彼女の腰あたりに触れてしまった。


「きゃっ!」


「うわ、すみません!」


「いえいえ、気にしないでください。急いでるんでハプニングもありますよ。私は気にしません」


「助かります」


「いえいえ」


 こっちだけ顔を赤くしてしまう。見られてないかな?


「おおい、なんしょうるんな! まだなんか?! ? なんじゃ二人とも顔をあこうしてから」


「ああ、ごめんごめん。『角枠スクウェア』、よし準備オッケーだ」


 オリカと僕を《枠》で繋ぐ。後ろ向きの僕が振り落とされないための措置だ。


「えっしゃいくど!」


「はい!」「オーライ!」


 オミが走り出す。そしてオリカと僕を乗せた【ヴィノ】が続く。


 前方に現れるヒクイドリはオミが殴り飛ばし、側方に見えた奴はオリカの風の技で足止め、牽制する。そして僕は後方にバリケードを作って追撃を阻止する。


 各々の能力特性を活かしながら、固まって移動して群れの囲みを抜ける作戦だ。獣臭いにおいと無遠慮な鳥の鳴き声により囲まれていることが僕にもわかる。


 ヒクイドリたちは大きめのやつがこちらに向かって来て、小さめのやつは少し離れて鳴いているだけだ。〈不化〉しているとはいえ、絶対に勝てなさそうな相手は襲ってこないということか? そこは野生の本能なんだろうか。


っきな群れだし、フツツカモノがいるかも知れません」


「フツツカモノ?」


 日本では"不束者"と書くその言葉だが、今言っているのは全然違う意味なんだろうな。日本では、"慣れないために迷惑をかけることがあるかもしれない"時に謙遜して使う言葉だ。


「知らないんですか? 〈不を束ねる者〉と書いて、それで〈不束者フツツカモノ〉です。〈不化〉した者たちの群れのボスです。『ウインドボール』!」


 牽制の技を放ちながら教えてくれた。漢字は同じか。字の意味からはむしろそっちの方が合ってそうに思う。


「危険なんですか?」


「モノによっては国が頑張らないとダメな場合もあるみたいです」


「ああ……」


 以前、リツからドラゴンクラスの〈不化〉について聞いたことを思い出した。そういえば〈不の付く災〉の中には、国家レベルで対処しなければならないほどの存在もいるという話だった。


 〈不束者フツツカモノ〉か、日本でその漢字で表される存在とは比較にならない厄介さだなんだろうな。


 そんな会話を交わしているとオミが参加してきた。


「〈不束者フツツカモノ〉にうた時のこと決めとらんかったな。勝てそうにないやつじゃったらワシとおみゃぁら二人は別々の方向に逃げる。村の方向には逃げんとく。落ち合うんはちいと遠いがヒカグチの村じゃ」


 ヒクイドリを殴りつけながら、パパッと決めていく。


「わかりました」「了解」


「こんだけ襲われ続けたら、探るんに集中できんけえ、どこで会うかわからん。いつでも逃げれるようにしとけ」


「大丈夫でしょ。この戦いが終わったら、家に帰ってリツの料理を堪能しようよ」


「おみゃー……前に説明してくれとったが、そういうんを"フラグ"いうんじゃないんか?」


「あ」

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