第11話 燃えるゴミ燃えないゴミは分別を その4
ヒクイドリたちは広場の端に、僕らは大ナミマツの根元にそれぞれ離れて陣取った。そこで、改めて先程の"タイマン"ハモりについて、二人に聞く。
「タイマンってなに?」
「知らないんですか?!」
とんでもない世間知らずを見た! という顔でオリカが言う。
「えーと、わかりやすく言うと一対一で戦うことです。仲間の人が手を出すとそっち側の人の負けになります。豆知識ですけど、"マン対マン"が縮んで"タイマン"らしいですよ」
人差し指を立ててドヤ顔で教えてくれた。そういうことじゃないよ。
「言葉の意味は知ってるよ! なんかそれっぽい仕草もしてたし。ただ、二人とも普通に受け入れてるからそれが不思議なの! 〈不の付く災〉とのやり合いでは割りと普通のことなの?!」
理屈としては、被害をこれ以上大きくしないためにボスが出張って来たというのは分かる。そんな知能があるのか?
「"タイマンで決める" そこに人間だからとか〈不の付く災〉だからとか、要るか? やるか、やらんかじゃ」
オミが言い、オリカもうんうんと頷いている。
全然回答になってなくない? 話ずれてるよ。というかオリカ
仕方なく別の質問をしてみる。
「だけど、さっきまでの戦いはこっちが有利っぽかったし、別に受けなくてもよかったんじゃないの?」
「おみゃあは血が通うとるんか? タイマン言われたら受けるじゃろ。それに、体力があるうちに決着をつけられるんなら、こっちにもメリットがあるわ」
体力については僕も心配になったから、その心配がなくなるのはいい。ただ、
「負けたらどうなるの?」
「どーもせん。最初の予定通りじゃ。逃げるど」
「あ、それは逃げていいんだ」
「向こうもリーダーが負けたら残りは逃げるじゃろ」
「そりゃそうか」
今逃げたらどう? と聞くのはやめておこう。
「さて、おしゃべりはここまでじゃ」
そう言ってオミが両こぶしを胸の前で叩き合わせた。
大ヒクイドリとオミが十メートルほどの距離を開けて向かい合う。群れと僕たちは戦いがよく見える位置に移動している。
「これって合図はどうするの?」
「シッ!」
オリカに唇に人差し指を当てられて黙らされた。
勝負は、一瞬だった。
先に動いたのは大ヒクイドリだ。
まだ距離があるのに一発目の廻し蹴りを放つ。そのまま後ろ廻し蹴りに移行し、さらにそれで勢いを増して再度廻し蹴りを繰り出す。
ヒクイドリは廻し蹴り、後ろ回し蹴りを繰り返しながら移動してくる。そうやって距離を詰めて、威力を上げた必殺の一撃を叩き込む技だろう。
一方、オミはファイティングボーズをとり、カウンターを狙う。横回転の廻し蹴りに対してフックパンチを合わせるつもりか? そんな姿勢だ。
ビュッビュッと言う風切り音と共に大ヒクイドリは連続で蹴りを繰り出しながら進む。そして、あと一回転でオミに届くという距離に来た時、不意に回転を縦に変えてきた!
体格の差を活かし、オミの真上から打ち下ろしてくる!
「『ギガキック』!」
彼らに発音可能な”カ行”だけ使って技名を叫ぶ!
その時オミは右でフックパンチ『ノットストレート』を打ちかけていた。強引にそれを止め、左でアッパーカットを放つ。
「ぬうううん。『ハイパント』!」
オミのこぶしが大ヒクイドリの足を捉え、振り抜かれた。鳥は蹴り込んだ方向とは逆の縦回転で上空に吹っ飛ぶ。ビュンビュンビュンビュンと風を切る音を出しつつ、回転しながら打ち上がっていく。
打ち上げられたヒクイドリは、なすすべなく回転を続けていたが、上昇の頂点に達するとやがて落下をはじめ…… 地面に達して、ドシャという音を立てた。
「ギュギュギュ…………」
大ダメージを受けたであろう大ヒクイドリは弱々しく鳴き、ガクリと頭を地面に着けた。オミはリーダーが負けたら、群れは逃げると予想していたが、メンバー達はリーダーの周りに集まり、心配そうに見守っている。
「ええ勝負じゃった」
「見た?! あれ! 大ヒクイドリさんの方、得意の爪を使った攻撃での廻し蹴りを選択してる。突きだと避けられたら終わりだけど、廻し蹴りなら連続攻撃に繋げられるからかな。しかも! 歩幅や振り足の長さを変えて、距離の詰め方や回転スピードを読みにくくもしてた! そして最後の縦回転キック! それまでの横回転スピードプラス体重の質量を活かした見事な一撃! フェイントにもなっていて、オミさんは最初引っかかりかけたけど、そこから力技でパンチを止めてアッパーに変化! 何万回、何十万回はたまた何百万回もオノをふるった足腰のなせる技だよね。そして十分に《
めっちゃしゃべるやん。人間って好きなことについては饒舌になるよね。喋ってる間ずっと僕の肩甲骨あたりを手のひらでバンバン叩いてきた。痛い……
「ホントですね…………」
そんなふうにそれぞれ勝負の余韻にひたって、高揚していた時に、突然、大きな羽音がした。それは、この騒動の中で聞いたなによりも低く重い音だった。
バッザッ バッザッ バッザッ
ド ズ ン
降り立ったのは、さきほどオミと死闘を繰り広げた大ヒクイドリのゆうに三倍はある超巨大なヒクイドリだった。
着地した脚から土ぼこりが舞い、獣のにおいが立ち込める。
「え? 何こいつ?」
僕はあまりの現実感のない大きさと急な展開にあっけに取られて、動くことができなかった。
さっきの大ヒクイドリがオリカの言っていた〈
ドゴッ
オミにやられて気絶していた大ヒクイドリが大ナミマツの木に叩きつけられて、鈍い音を立てた。
何が起こったんだ?
超巨大ヒクイドリの脚が目に入った。どうやら大ヒクイドリを蹴り飛ばしたようだ。期待に添えなかった手下に怒りをぶつけたのか。
何を考えているかわからない、冷たい目で大ヒクイドリを見下ろしている。
この、威圧感。全身が総毛立ち、汗が吹き出る。知らずと呼吸が荒れる。
こいつだ。こいつが、この不化したヒクイドリたちの群れを束ねる者〈
よく見ると脚が三本あり、肉垂も三つ垂れている。他の不化したヒクイドリたちとは違い、肉垂には別々の文字が書かれていた。
文字を読む。
"不" "燃" "物"
読み取ると同時にトサカと肉垂に火が付き、ゴウと炎を纏わせて燃え上がった。さらにトサカから首の後ろにまるで馬のたてがみのように炎が吹き昇る。
熱で蜃気楼のように空気がゆらぎ、熱風が顔にかぶさる。
そいつは口から火をチロチロとのぞかせながらオミをにらんでいる。先程も見た無機質でゾッとするような目で。
ここで空中に筆文字の書が浮かぶドレサースエフェクトが発動し、この〈不束者〉の名前が記された。
〈 不 燃 物 〉
八 咫 火 喰 鳥
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