第13話 燃えるゴミ燃えないゴミは分別を その6

「ッ!?」


 軽いめまいを感じ、倒れそうになる。《枠》を作りすぎたせいか? 貧血ならぬてか?


 木こり生活ではこれほど《枠》を作ったことはなかったけど、神界での修行の時はこれくらいやったことはあったはずだ。やはり現実世界ではある程度の上限はあるということだろうか。


 それよりオミだ。どうなった?


「『ヒール』、『サプライ』」


 オミのほうを確認すると、オリカが治癒と《着力きりょく》割譲を行っているところだった。


「ん、んん」


 やがて、オミがうっすらと目を開けた。


「オミ!」「オミさん!」


「お、おお…… ! おい! 逃げとらんのか! おみゃぁは女の子を逃がさんとなんしょうるんな!」


 目覚めたばかりだと言うのに、襟をつかんで顔を寄せてくる。


「ちょっと待った待った! 分別ふんべつある人間として、逃げる以外の選択肢が取れそうだったからそうしたんだよ」


「落ち着いてください。大丈夫です。ヒデンさんがやってくれました」


 オリカが八咫火喰鳥を指さす。見た目はもぞもぞと動く巨大な《枠》の塊だけど。


「うお、なんじゃぁ? あれがさっきの鳥か? ようやったのぉ」


「それが、オミが焼かれているときに、ちょっと思い出した格言があってね。大きかったからつい見上げちゃってたけど、下を見たら冷静になれたというか」


「格言? どんなんじゃ?」


「"足元がおるすになってますよ"ってやつ」


「聞いたことないですね」


「それ格言なんか?」


 こらこら今しがたそれのおかげで命びろいしたんだぞ。


「それであいつはどうする?」


「〈不要品〉持ちなので、〈不要品〉を分けましょう。それで〈不化〉も解けるはずです」


「〈不要品〉?」


 またあれか《ドレサース》特有の言葉か。


「うーん、この辺りで〈不要品〉持ちが出るという話は聞いたことがないので知らない人もいるかもしれないですね。"不"という漢字の入った熟語がついていて、〈不化〉のかなめとなるモノ、を〈不要品〉と呼ぶんです」


「へー。それがあいつのどこかにあると」


「あの鳥だと"不燃物"と書いてあるところです。それを切り離せばいいと思うんですけど、そこの《枠》だけ消せますか?」


「できるけど…… あそこ燃えてましたよね。熱そうです」


「火傷は治してもらえるど。ワシが保証するわ」


「責任持って治します。ファイトです」


 火傷はする前提なんかい。


 しょうが無いので覚悟を決めて、《枠》に近付いて消す。


「わちゃちゃちゃ」


「『ウインドサイズ風の鎌』!」


 風の鎌がそれぞれ"不"と"燃"と"物"と書かれた三つの肉垂の先を切り離した。


 コロンと転がったそれらは、周りの皮が蒸発していき、赤い球に姿を変えた。そして三つの珠が引き合ってくっつき、表面に"不燃物"と書かれた一つの珠になった。


 おそるおそる指先でチョンと珠に触れてみる。熱くはない。僕はそれを拾い上げて、しげしげと眺めたのち、ひとまずポケットにいれた。


 それから、八咫火喰鳥の方にも変化が起こった。体が縮んでいき、最終的にタイマンを張った大ヒクイドリより少し小さいくらいの大きさになったのだ。


 縮む際に、三本あった巨大な脚が一本だけ切り離され、それは元の大きさのまま残った。残った〈不の付くヒクイドリ〉たちも〈不化〉が解けていく。


 小さくなった元八咫火喰鳥は《枠》から抜け出すと、自分が蹴飛ばした大ヒクイドリの所に駆け寄った。


「ガキギョグ」


 何を言っているのかはわからないが、声色や態度で大ヒクイドリを心配していることはわかる。大きさ的につがいなんだろうか。


「オリカさん、鳥たち治せます?」


「できますよ」


 大ヒクイドリに近づく。周りの鳥たちも雰囲気を察してか、道を開けてくれた。


「『ヒール』」


 元気になったヒクイドリたちはギャアギャアと騒がしく、互いの無事を喜びあってるようだ。オリカはそれを微笑みながら見ている。


「ふー。これでこの騒動も終わりかの」


「〈不燃物〉を〈不要品〉とヒクイドリに分別して、めでたしめでたし。やっぱり分別は大事だね」


「くくっ。うまいこと言うたつもりか?」


「ぐっ」


 いやなことを言うオミは無視して、この際だ、少し〈不要品〉や〈不化〉についてオリカに聞いておこう。


「〈不化〉って〈不要品〉が必ず必要なんですか? あのアボアも〈不燃物〉の影響だったりします?」


「〈不化〉はパターンがいっぱいあるんです。原因も色々。なぜ〈不化〉しちゃうのかもわかってません。前のアボアは鳥たちとはちょっと離れてましたし、〈不要品〉なしで〈不化〉しちゃったんだと思います」


「必ず〈不要品〉が必要なわけじゃ無いということか」


「そうです。〈不要品〉についても、〈不化〉した後で体から〈不要品〉が生まれてもっと厄介な〈不の付く災〉になっちゃったり、〈不要品〉が自然にできて、それを食べちゃって〈不化〉したりとか」


「〈不要品〉無しより有りの方が厄介ではありそうだよね。なんとなく」


「それも場合によりますけどね」


「まあ確かに。〈不燃物〉は僕の《枠》で捕まえられたけど、あっちの大ヒクイドリの方はスピードあったから無理だったろうし」


「相性ってありますよね。〈不化〉が解けた後についても色々で、そのままの形だったり、あの子みたいに縮んでしまったりもします。ただ、あんな形でちょっと残るのは聞いたことないです」


 バカでかい一本の八咫火喰鳥の脚を指さす。


「色々あるなぁ」


「そうですね、性格についても〈不化〉したら大抵は凶暴になりますが、この鳥たちは、理性があるように見えました。色々です」


 なるほど。パターンを特定できないのは分かった。臨機応変な対応を心がけないとってことだな。


「ところであいつの〈不化〉は解けとんよのぉ。なんかコゲくそうないか?」


「え?」


 パチパチという音が聞こえた。見上げると、大ミマツの枝の端から炎が上がっていた。


 火事!? やばいぞ、どうする!?

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