第17話 仲間に誘われ次の町へ その2
「じゃあ、チームメイトにも話してきます。また一週間後くらいに戻ってきますね」
そう言ってオリカは、自分の町に戻って行った。それを見送った後でリツが僕に向かって話しかけてきた。
「ヒデンは世界を見て回りたいと言っていましたし、丁度良かったのかも知れませんね」
「さすがにもう少し慣れてからと思ってたけどね。機会は逃さないようにしようと思ってさ。ところで《裸族》ってばれるのは問題ないの?」
「基本的には隠したほうがいいでしょうね。オリカさんのような方にとっては、"別の世界から来た人"くらいの認識でしょう。でも、"別の世界の知識を持っている人"と分かれば、それを利用しようとする人もいるかもしれません」
「あいにく、こっちですぐ役に立ちそうな科学技術や料理の知識なんか全然持ってないんだけどね。そんな事情は相手には分からないし、この世界にない知識を持ってるのは確かなんだよなあ」
「もちろんオリカさんもあなたが"別の世界の知識を持っている人"ということに気付く可能性はあります。その時どうなるかは二人の信頼関係次第じゃないですか?」
「そうだなあ。ばれたらどうしようって考えるより、気付いた人と信頼関係を深めていく方が建設的だよね。前世の知識を活かそうとしたとき、周りの協力も必要になるだろうし」
「ワシもその方がええと思うど。あんなぁは信用できそうなし。チームメイトにも秘密にしとくいうて言うてくれとった。それも信用してえかろう」
「よし、まあチームメイトに断られる可能性もあるけど、準備するか!」
「仕事はせえよ。 働かざる者食うべからず じゃ」
「お、おう」
厳しいなあ。
《》 《》 《》 《》 《》
そうして、オリカがもう一度来るまで木こり生活を続けた。離れることになったら、森の木や動物たちもより愛おしく感じる。
短い間だったけど、ここは故郷のようなものだ。この感触、におい、光を覚えておこう。斧を打ち付ける作業は相変わらずしんどいけどね。
そんなふうに毎日しっかりと働きながら過ごしているとオリカが戻ってきた。
「みんなに相談したら、ひとまず様子を見るってことで納得してくれました。仮入団という感じです」
「まあ、いきなり正式に入団とは行かないよね」
「入団がいけなんだらどうするんな。戻ってくるんか?」
何故かリツの周囲の空気が変わった。帰ってきたら駄目なやつだ、これは。
「いや、どっちにしろ、オリカさんの町を拠点にして色々見てみるよ。そう言えばオリカさんの住んでいる町はなんていう名前なんですか?」
「今いるのは"イーストゴールドゥ"と言うところです。ゴールドゥと言う町は横になった瓢箪のような形になっていて、その東側の区域ですね」
「距離はどのくらいあるんですか?」
「ここから馬車なら六日程度の町です。ここヒカグチよりはかなり大きな町です」
「えっ!? 馬車で六日? 前に町に戻ってから一週間しか経ってないですよ? 往復の計算が合わないじゃないですか」
「ふっふっふ。私の《アクセ》を忘れていませんか? 【ヴィノ】ちゃんなら一日で着きますよ。かなり頑張らなきゃいけませんけど。今回は二人なので途中で泊まりましょう」
「あっちにゃあ いつ頃帰るか言うとんか?」
「一週間くらいで戻るって言ってます」
「ほんなら、二、三日はゆっくりすりゃあええ。おみゃぁも準備や挨拶を済ましとけえや」
「分かったよ」
準備と言っても持ち物はほんの少しなので、荷物についてはすぐ終わった。
その後、ヒカグチ村のみんなに挨拶してまわった。それが終わって空いた時間には木を切った。オミと僕が木こりをしている間、オリカはリツと料理をしていたようだ。
そして、出発の日が来た。
「じゃあ、行ってきます」
「気をつけてくださいね。何かあったら相談には乗りますので、気軽に帰ってきて下さい」
「ほんとにいいの?」
「もちろん。この人の機嫌も良くなりますし」
邪魔しない程度なら帰ってきても大丈夫そうだ。
「おい、いらんこというな! あーヒデン。餞別じゃ」
「これは…… メガネ?」
それは、レンズのフレーム部分に正方形とそれに内接する円がデザインされているメガネだった。ただレンズは入ってない。
「何これ?」
「わからんのんじゃったら、ええわ。返せ」
取り戻そうとしてきたのでそれはとっさに防ぐ。何かは分からないが、オミからのプレゼントだ、持って行きたい。そう思っているとオリカが解説してくれた。
「ヒデンさん。多分身につけるものにヒデンさんの《枠》を象徴した四角形と丸を入れてくれたんですよ」
「えっ?!」
オミを見る。そっぽを向いているが、オリカに言葉にされたせいか、少し顔が赤い。
「ありがとう! いつの間に作ったの? 大事にするよ。なにげに名前読んでくれたのも初めてじゃない?」
「フン」
材質はオミらしく、木のようだ。軽く丈夫に作られているのが分かる。おでこにかけてみると、ピッタリとしてずり落ちない。これはいいや。
「じゃあ行ってくる」
そう言って右手を差し出す。
「おう、行ってこい、気ぃつけての」
右手を握り返してきた。太い指、分厚い皮膚、頼りになった手だ。親元を離れる子供のような神妙な気分になる。
手を離し、オリカの方に向き直る。
「じゃあオリカさん、行きましょうか」
「わかりました。【ナイチンゲール】! 【ヴィノ】ちゃん!」
浮遊するスクーターの後部座席にまたがる。
「オミさん、リツさん、ヒデンさんをお預かりしまーす。また来ますね!」
「行ってきます!」
旅立ちはいつでも少しの不安と大きなワクワクを伴う。よし! いくぞっ!
こうして僕は次の街でコテンパンにのされるのも知らず、転生故郷を離れて旅立った。
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