第10話 燃えるゴミ燃えないゴミは分別を その3

 オミがあまりいい予感のしないセリフを言ってからしばらく走ると、〈不の付くヒクイドリ〉達が現れなくなり、鳴き声が後ろからしか聞こえなくなった。


 そしてそのうち、それらもかなり小さくなっていった。においもなくなっている。どうやら群れと少し距離を取れたようだ。

 

「一息はつけるかの」


 流石に幾分かホッとした様子でオミが言う。その言葉を受けて僕はあたりを見回した。すると木々の向こうに明るい場所があるのが分かった。


「あっちの方ちょっと明るいみたいだけど、何があるのかわかる?」


「走り回ったせいで、はっきりとはわからんのぉ。じゃが多分あそこかの。行ってみょうか」 


 明るい方向に進むと、ぽっかりと開けた広場が現れた。木がないから明るかったのか。ただし広場の中央にだけは木が生えている。周りの木に比べると十倍くらい太い幹を持ち、背も高い。


 まだ【ヴィノ】の後部に後ろ向きに乗ったままなので、首を後ろに向けながら見ていると、オリカが口を開いた。


「ここはなんですか?」


「特に決まった名前はなぁが、この辺の木こりや猟師はミマツ広場言うとる」


「あの真ん中のミマツは見事だね」


「あんだけの大きさじゃし、大事にされとるわ。見てみいや」


 オミの指指す方を見ると小さなヤシロのようなものが立っていた。手入れされているようで清潔さを保っている。後で手でも合わせとこうか。


「ほいでここは岩塩の洞窟は行き過ぎとるわ。あの山があそこに見えるけぇ…… あっちのはずじゃな。こっからぁほんまにすぐじゃ」


 オミが広場中央の大ミマツの向こうを指差す。


「それなら、このまま進もうよ」


「だいぶ走ってきたど。しんどうないか?」


 チームの状態を確認するためと見せかけて、僕らに気をつかってるんだろうな。このまま移動したほうがいいのはわかっているだろうに。


「今は群れからさらに離れるのが先決じゃないかな? オリカさんはどうですか? 僕は乗せてもらってただけだからおかげさまで疲れていません。オリカさんが疲れてなければ、このまま行くほうがいいと思うんですけど」


「まだまだ大丈夫なので、行きましょう!」


 声からは無理している様子は感じられない。じゃあ進もう。


「案内頼むよ、オミ」


「ほんなら行こうか」


 オミを先頭にしてフォーメーションを崩さずに進む。

 

 大ミマツのヤシロに近づく。さて手を合わせようかと思っていると、ぬうっと木の陰から三メートルはあろうかという巨大なヒクイドリが姿を現した。


 それがあまりにも静かで、自然だったから、目の前の巨大な鳥が何なのか、何が起こったのか一瞬考える必要があった。


 えっ? まさか?!


「しもうたっ! 動きも鳴き声も消しとったんか! こりゃあ待ち伏せじゃ!」


 オミが、僕の考えを肯定した。


 大ヒクイドリは僕たちを視認すると、硬いはずのクチバシをニヤリと歪ませ…… 首を上に向けて吠えた!


 ガギググゲゲゴゴーーーー


 同時に広場を取り囲む木の陰からおびただしい数のヒクイドリが現れた。周りのヒクイドリがリーダーに応えて鳴く!


 カキククケケココーーーー


 その合図より一瞬早く、僕たちは防御体勢に入った。大ヒクイドリが集団を動かすには鳴き声という合図が必要だったが、僕たちはヒクイドリを見た瞬間に各々の判断で動き出せた。


「『土丘つちおか』!」


「『角枠スクウェア 橋渡しブリッジ』!」


 オミが左右に小さな土の隆起をいくつも作り、左右からの攻撃の足止めを図る。


 僕はまずオリカと僕を繋いでいた《枠》を消してスクーターから降り、後ろ側に広場を横切る長い《枠》を架けた。最初の一個はへその高さに、その後は高さを変えて架けまくる。


 これで後ろからの飛び道具以外の襲撃は防げたと思う。ただし、退路も断つ恰好になった。


「『ウインドブロウ』」


 オリカが風を巻き起こし、一部のヒクイドリ達を宙に舞わせる。


 彼らはリーダーへの呼応の最中に飛ばされた。ダメージは与えられないが、敵に囲まれにくくなるように使用した技だ。


「やるしかなさそうじゃの。おどりゃあああああ!」


 オミが両腕に力こぶを作って雄たけびを上げる。


「頑張りましょう!」


「怖いけど、やれるだけやるしかないね」


 二人がいるんだ。信じよう。


 それから、一斉に突っ込んでくる〈不の付くヒクイドリ〉達と僕らの大乱闘が始まった。


「『ダブルモーション』!」


 オミが両腕を水平にし、コマのように回りながら、ラリアットでヒクイドリ達の首、頭を殴りつける。


「『ウインドサイズ風の鎌』!」


 オリカが無数の風の刃をヒクイドリ達の足もとに飛ばし、進軍を阻む。


「『角枠スクウェア列車トレイン』 きぃ!」


 僕は作った長方形の《枠》を手につかんでヒクイドリ達の胴体を突いた。


 僕が危なくなると、二人に気を使わせてしまう。


 格好悪くても必死にヒクイドリ達を押し返す。追加でバリケードを作りたいが、この乱戦中にそれができるほどの技量はまだない。


「ここは広うてやりやすいわ。『ノットストレート』!」


 ヒクイドリの頭を横からフックで殴りつけながらオミが言う。


「見通しが良くて助かります。『ウインドボール』!」


 二人は強く、一方的にヒクイドリ達を蹂躙している。この場で一番弱い僕からあまり離れないように動き回らずに戦ってこれだから、相当強いだろう。


 だが、それでも相手の数は多い、二人の体力は持つだろうか。それだけが心配だ。その前に僕がへばってしまう可能性の方が高そうだけど。


 しばらくはこちらが優勢に戦闘を進めていたが、やがてヒクイドリ達はむやみに突っ込んでくるのをやめ、遠巻きに囲んできた。


 オミが一歩進むとその先の鳥たちは後退する。しかし、囲みから逃がす気はないらしく、牽制のような攻撃を繰り出してくる。


 オリカが風の技を放つと退化した翼で一斉に風を送って対抗してきた。


「作戦を変えて神経や体力を削りに来たのかな…… 結構知能高いし、連携取れてるよね…… もしかして森で小さいのがかかってこなかったのも誘導する連絡係だったってことかなあ」


「ほうかもしれんの。ん?」


 突然、オミの真正面のヒクイドリ達が左右に分かれ、できた道から大ミマツの陰にいた大ヒクイドリが進んできた。


 そいつは囲みのふちに着くと立ち止まり、翼でオミの方を指してきた。そしてその翼を自分の顔の方に向ける。


「え? 何何? どういうこと?」


「わからんのか?」「わかりませんか?」


「「タイマンのお誘いじゃ」です」 


 これから何が始まるの?

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