第8話 燃えるゴミ燃えないゴミは分別を その1

 それから僕たちは森に入り、遭遇したアボアという種類の〈不化〉した大イノシシを三人で仕留め食事にした。この辺は最初に語ったね。


 オミは軽自動車ほどの大きさのアボアをすべて食べ尽くしたが、リツと三人で暮らしているときはあれ程の量の食事は摂っていなかった。


「久しぶりにあんだけのアボアが取れてテンションが上がってしもうた」


 テヘっという顔をするが、濃い顔のおっさんがやっても可愛くないぞ?



《》 《》 《》 《》 《》



「もうじきじゃ」


「ふう、行きは何事もなくてよかったです」


「なんもないんが一番よ。まあまだ、行き道じゃ。行きはよいよい帰りは怖いいうていうど」


「帰るまでが岩塩採掘です。とも言うね」


「言うか?」


「初めて聞きます」


 あ、あれ? こっちではそんな言葉ないのかな。


 大きい〈不化〉した獣を問題なく仕留めて、その後の行程も順調だ。軽口も出る。こういうときにお約束のように危険を引き寄せるのが《枠力》ってやつだろうか?


 ふと、自分の右側に目をやると木の陰からニワトリのような格好の鳥が現れた。ニワトリと同じように赤いトサカがある。だが体の大部分は白ではなく黒い羽毛で覆われている。


 首と足がニワトリより長い。首回りは青色であごの下から真っ赤な肉垂が垂れている。なんだっけ? 実物は見たことがないけど、ドキュメンタリー番組でみたことがある……


 思い出した。ヒクイドリだ。


 空を飛ぶ翼は退化して、地面で生活している鳥のはずだ。小型恐竜であるラプトル類に似たとんでもなく鋭い足の爪を持っていて、過去にはギネスブックに「世界一危険な鳥」として登録されたこともあるという……


 目が赤いぞ? そしてぶら下がる二つの赤い肉垂にそれぞれ黒い"不"と"鳥"の文字が見えた。


 あれは!


「着用!」


 慌ててオミとオリカに〈不の付く災〉の到来を告げる。二人の《ドレス》着用、僕の準備と〈不の付くヒクイドリ〉の警戒鳴きは同時だった。


「【ラガーシャツ】!」「【ナイチンゲール】!」「【フレームワーク】!」


 カキキキキキキ-------------------


「僕の右だ!」


 オミとオリカがそちらを向く。


「見えとるヤツはこまいの。気づかんかったわ」


 ニワトリ程度の大きさの〈不の付くヒクイドリ〉を見て、油断のない顔でオミが言う。ツンと鶏舎の周りに漂っているようなすえた臭いが立ち込める。


「でも、多いです」


 オリカが【ナイチンゲール】で空気の動きを探知した索敵結果を教えてくれる。


「ものすごくたくさんいます。百? それより多い? ちょっと数え切れません。大きさも最大二メートルくらい」


「そりゃあ難儀じゃの。〈不化〉した鳥の群れか」


 オミが唸り、僕はごくりと唾を飲み込み付け加える。


「世界一危険な鳥だよ」


 小型恐竜を思い浮かべた。あれに襲われる映画を見たことがある。普通の人間では太刀打ちできない。僕は今、地球人にはない能力を持ってはいるが、勝てるイメージはわいてこない。


 警戒声を聞きつけた他の個体が姿を現す。そいつらに気をとられて、僕は最初に見つけたニワトリ程度の大きさの一羽への視線を外してしまった。


 と、そいつが地面を蹴ったのを目の端でとらえた。あわてて向き直ると、前蹴りの格好で跳躍してくるのが見えた。


 速い!


 足先には鋭い爪が光っている。


 そのヒクイドリの体はそれほど大きくないが、刃物を腰だめに構えて体ごと突っ込んでくるヤクザを思わせる迫力を感じた。


「『角枠スクウェア』!」


 とっさに右手で、銃のハンドサインを作り《枠》の素を発射、敵の目の前で実体化させる。


 が、カンという軽い音とともにはじかれた。


 それはそうだった。軽いし。速度もない。このときはそこまで頭が回ってなかった。


 攻撃が通用しなかった僕は必死で防御行動を取る。


「わわわわわ、ちょい待ち、『鎧胴ボディ』!」


 胴回りを囲うように円柱の《枠》を作る。ガツっという音を立てて爪が『鎧胴ボディ』に当たったが、刺さることはなく、方向がそれた。


 そいつは前蹴りの姿勢のまま跳び続け、木の幹にその爪をズドッと突き立てる。これが僕自身に刺さっていたかと思うと血の気が引く。


 だけど、「ギリギリセーフ!」 だぞっと!


 際どいタイミングではあったが、作った《枠》で攻撃を防げたことで、少し落ち着いた。実戦経験にとぼしい僕は慌ててしまったが、〈不の付く災〉への対応は前もって相談して決めていた。


 僕の役目は《枠》による防御、分断や拘束だ。


 ヒクイドリは幹に刺さった爪を抜こうともがいている。


「逃げてもらっちゃ困るな」


 僕は、打ち払った枝の束を持つように両手で形を作り、円型の《枠》の素を飛ばす。


「『円環サークル』!」


 《枠》は見事に鳥を木の幹に縛り付けた。木こり生活で身に付いた木の大きさに対する感覚が生きたと思う。オミさまさまだ。


 オミとオリカは僕よりは慣れてるし、大丈夫。そう信じて、二人とは反対の方向を見ると、近付いてこようとしてくる奴らが何羽か見えた。


「来させない」


 僕は両手とも拳銃のような『角枠スクウェア』のハンドサインを形成し、そこに《枠》の素を作った。さらにそいつを左右に広げる。


「『角枠スクウェア 橋渡しブリッジ』!」


 左右に広がりながら前方に向かう長方形の《枠》の素を射出する。広がるもとの両端それぞれに森の木を収め、すかさず実体化させる。


 こうして、二本の木に《枠》による橋をかけた。目の前に急に障害物が現れたために、ヒクイドリ達は、驚いた様子を見せる。


 そのまま休まずに『橋渡しブリッジ』を二本追加で飛ばし、高、中、低の三箇所に橋を架ける。バリケードの完成だ。


 これでこの方角から襲われることはなくなったはず。


 オミとオリカは!? どうなってる?

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