第15話 柊木さんとお出かけ①
柊木家でクリスマスを過ごしてから4日が経ち、今日は柊木さんと遊びに出掛ける日になった。
今は待ち合わせ場所である駅の前で、柊木さんを待っていた。
緊張で昨日はあまり寝付けず、変な時間に目が覚めてしまい、送れるよりはマシだと思って、約束の時間よりだいぶ早く着いてしまった。
現在時刻は10時30分ごろ。
予定では11時に集合になっているので、柊木さんが来るまでは少なくとも20分くらいはあるだろうか。
今日は、電車に乗って3つ隣の駅まで行き、その近くで喫茶店に行って軽く昼食を食べてから、近くのデパートへ買い物に行くことになっている。
最初は遊びに誘ったはいいものの、何をすればいいかわからなかったが、最初に柊木家へ夕飯を食べに行ったときに、喫茶店へ一緒に行こうと話をしたのを思い出し、それを提案したところ、ちょうど柊木さんも行きたい喫茶店があるということで、そこに決定した。
そのあとは時間も余るので、無難にショッピングするという形になったのだ。
もし他にやりたいことがあれば、そのときで決めれば問題ない。
「寒っ・・・」
冬の寒空の下で待つと当然体も冷えてくる。
柊木さんからもらった手袋、成人からもらったニット帽、普段使っているマフラーを身に着け、コートを羽織っているものの、風が強いこともあって寒い。
なにか温かい飲み物でも買っておけばよかったと後悔をしていると、前方から小柄の女の子がこちらへ小走りで向かってきているのが見えた。
「ご、ごめんね・・・!遅くなっちゃって・・・」
やってきたのは、柊木さんだった。
急いできたのか、息を少し切らしていた。
今はまだ約束の時間15分前なので、決して遅くなったわけではないと思う。
むしろだいぶ早い。
「い、いや・・・大丈夫。今来たところだから」
なんてカップルの待ち合わせシーンで使われる定番の台詞を口にする日が来るとは思いもしなかったが、実際10分くらいしか待っていない。
「・・・むぅ」
なぜか柊木さんが頬を少し膨らませている。
不思議そうにしていると、突然こちらに上着のポケットから取り出したモノを無言で押し付けてきた。
温かいお茶だった。
「笹原君、結構待ってたよね・・・?」
「えっ?」
「少なくとも10分以上は前にいたよね・・・?寒そうにしてたし・・・ごめん」
柊木さんも少し前に着いたようだ。
そしたら、すでに僕がいたことにびっくりして、寒そうにしているのを見て、長い時間待たせてしまったのではないかと思って、急いで自販機で温かい飲み物を買ってきてくれたらしい。
余計な気を遣わせてしまった。
これならちゃんと時間通りに着くように動けばよかったのかもしれない。
いや、そうすると柊木さんもだいぶ早い時間に着いていることになるので、立場が逆になるだけで、結果は変わらないな。
「気にしないでいいよ。僕が早く着いただけだし、10分くらい平気だから」
「・・・次は、もっと早く着けるように頑張る・・・!」
「いやいや、時間通りでいいからね?」
変な方向に努力してしまいそうな彼女を止めつつ、少し早いけれど、さっそく電車に乗って目的地へ行くことにした。
電車で移動すること10分ほどで目的の駅に着き、喫茶店の場所をスマホのマップ昨日で確認しながら向かった。
電車内は比較的人が少なく、運良く座ることができたので結構助かった。
駅から歩いて10分ほどで、目的のお店に到着した。
お客さんは多いものの、思いの外静かだ。
暖房も効いていて、落ち着いたお洒落な雰囲気の店内は、体も心も暖かくしてくれそうな気さえしてくる。
ひとまず、空いている席に座る。
「なんだか、落ち着くお店だね」
「うん。ここ、お母さんがおすすめって教えてくれて、行きたいなって思ってたの」
「そうなんだ。楽しみだ」
あの人の淹れるコーヒーも美味しいし、華さんがおすすめするのであれば、間違いないだろう。
さっそくメニューを見ると、比較的リーズナブルな価格で、料理を提供しているようだ。
デザートや軽食、飲み物などは種類も豊富だ。
今回は昼食も兼ねているので、僕はカルボナーラと食後にチョコバナナパフェとカフェラテを注文することにした。
柊木さんは、ホットサンドの紅茶セットとパンケーキにしたようだ。
注文をしてから15分ほどでカルボナーラとサンドイッチのセットが運ばれてきた。
「おいしそう」
「だね。さっそく食べようか」
「うん」
二人で『いただきます』と言って、それぞれの注文した料理を口に運ぶ。
濃厚でクリーミーなソースが麺と絡まって、めちゃくちゃ美味しい。
「旨っ・・・!」
「うん!こっちのホットサンドもおいしい」
柊木さんの方もすごく美味しそうに食べていて、頬が緩んでいる。可愛い。
これは手が止まらなくなる。
パルミジャーノチーズもかけてから食べると、味がさらに濃厚に、ベーコンも厚切りで味もしっかりしているので、どんどん食が進んだ。
二人ともあっという間に平らげてしまった。
「おいしかったね・・・」
「だね。それじゃあ、あとは食後のデザートだ」
さっそく店員さんに声をかけ、あらかじめ注文していたパンケーキとチョコバナナパフェ、カフェラテをお願いした。
しばらくして運ばれてきたパフェは、なんか大きかった。
「・・・大きいな」
「・・・だね」
メニューに料理の写真などは載っていなかったので、大きさは想像するしかなかったが、思っていたものよりも1.5倍くらいの量だった。
器にはいろんな味を楽しめるようになっているのはパフェなので当然なのだが、一番上はバナナ丸々1本は使っていて、アイス、焼き菓子、チョコ、ブルーベリーなどが溢れんばかりに盛り付けられていた。
もちろんデザートは別腹なので完食は問題ないが、これはびっくりだった。
「せっかくだし、パフェの写真撮っとくか」
自分のスマホを取り出して、カメラ機能を使いパフェの横で手だけピースして写真を撮る。
普段こういうところに来ることは少ないが、たまにはいいだろう。
海外にいる父さんにもたまには写真でも送っておかないと、連絡しろーってうるさく言われそうだし。
たまに父さんの海外の写真を見せつけられていたので、お返しの意味も込めて送っておこう。
正面に座る柊木さんを見ると、同じようにいろんな角度から写真を撮ってはしゃいでいた。
こういうところはやはり女子高生らしい一面だ。
「それじゃあさっそく・・・」
ひと通り写真を撮り終えたので、いざ実食。
チョコソースのかかったバナナから口に入れる。
チョコのほのかな苦みとバナナの甘さがちょうどいい。
アイスはバナナ風味で、焼き菓子はチョコ味で、どこまでもチョコバナナだ。
冬にパフェというのも悪くない。
冷たくて体が冷えるが、美味しいに人は逆らえない。
口の中が冷め切ったところに温かいカフェラテを飲むと、甘さを和らげつつ温めてくれるのだ。
そして最後にいちごのフルーツソース、ヨーグルトとコーンフレークの層で上の方とは違う触感を楽しんで完食した。
「ふぅ~・・・おいしかった」
「うん。私も満足・・・」
お互い満腹になって満足できた。
ここを教えてくれた華さんに、心の中で感謝の言葉を述べておく。
「それにしても笹原君、たくさん食べるね」
「まあ食べるの好きだからね。外食すると大盛とか特盛とか頼むこと多いよ」
「そうなんだ。美味しそうに食べてて、見てて面白かった」
「見てて面白いのか分からないけど、美味しいものは美味しそうに食べるものだからね。そういう柊木さんも、幸せそうに食べてて可愛かったけど」
「か、かわっ・・・!?」
『可愛い』というワードに反応したのか、『ぼんっ!』という音が聞こえてきそうなほど頬を赤くしながら俯いてしまった。
言って気づいたけど、軽率にこういうことを言うのは引かれたりしないだろうか。
急に言われて嫌だったかもしれない。
「ご、ごめん。急に可愛いっていうの、なんか嫌だった?」
「い、嫌じゃないけど・・・その、急でずるいっていうか・・・心臓に悪いっていうか・・・慣れてないから」
「そ、そうか。嫌じゃないなら、よかったけど」
しばらく顔が真っ赤な柊木さんが復活するのを待ってから、喫茶店を出る。
ちなみに会計は各々自分の分は自分で支払いを済ませた。
最初は僕がまとめて払うのも考えたが、そうすると柊木さんが少し負い目を感じてしまうような気がしたので、今回は致し方ない。
僕たちは喫茶店を後にして、次は買い物をするためにショッピングモールへと向かった――。
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