第19話 初詣①
久しぶりの父との通話から始まった新年。
今は朝から柊木家の人たちと初詣へ行くために、集合場所である最寄り駅の近くで柊木さんたちを待っていた。
初詣をする神社には、近くの駐車場が埋まる可能性と周辺の渋滞を考えて徒歩で向かうことになっている。
一応スマホで集合場所に着いたことを伝えたところ、柊木さんから『もうすぐ着きます』とメッセージが返ってきたので、あちらもそろそろ着く頃だろう。
「おーい!笹原くーん!」
「・・・ん?」
名前を呼ばれて声の方に顔を向けると、振袖を着た柊木さんが手を振りながら、小走りでこちらに向かってきていた。
その少し後ろから華さんと敦さんも歩いてついてきている。
「おはよう、柊木さん」
「おはよう。遅れちゃってごめんね」
「全然大丈夫だよ。えっと、改めて・・・明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」
「あ、明けましておめでとうございます。こちらこそ今年もよろしくお願い致します」
メッセージで挨拶はしているものの、改めてちゃんと挨拶をしておく。
お互いに新年の挨拶をしていると、華さんたちもやってきた。
「おはよう、笹原君。待たせちゃってごめんなさいね」
「おはようございます。全然待ってないので大丈夫ですよ。お二人とも、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」
「明けましておめでとう。こちらこそ、娘共々、今年もよろしくね」
「明けましておめでとう、今年もよろしく」
華さんと敦さんとも挨拶を済ませておく。
「それじゃあ、合流もできたし行きましょうか」
無事合流で来たので、さっそく初詣をする予定の神社へと向かう。
歩いて20分ほどで目的の場所へ到着した。
境内は大勢の人で溢れかえっていて、屋台もやっているためか活気が凄まじい。
参拝の列もかなり並んでいるので、お参りを済ませるのには少し時間がかかってしまいそうだ。
「すごい人ね。二人ともはぐれないよに気を付けてね」
「うん、分かった」
「はい」
前方を華さんと敦さん、その少し後ろを僕と柊木さんで二人肩を並べて歩き出す。
華さんたちを見失わないように気を付けながら、人混みの中を進んで行く。
歩きながら横目で隣の柊木さんを見る。
松竹梅柄の桃色の振袖に身を包んでいて、桜の髪飾りをしていてすごく似合っていた。
「振袖、似合ってるね」
「うぇっ!?あ、ありがと・・・」
振袖姿を見た素直な感想を伝えると、柊木さんは、ぼんっ!という音が聞こえそうなほど顔を赤くなった。
「でも、突然褒められるのはその・・・心臓に悪い、というか」
「あ、ご、ごめんね。嫌だったか」
「い、嫌じゃないから!ただ、びっくりするというか」
「そ、そっか」
嫌がられてはいないようなので、ひとまずホッとする。
今度からはタイミングは選ぼう。
「この振袖、私が高校生になったお祝いにおばあちゃんからもらったものなんだ。今日せっかくだからお母さんに着付けを手伝ってもらったの」
「そっか。たしか松竹梅の柄は松が不老長寿、竹が成長、梅が女性の強さってそれぞれ意味を持ってて、縁起のいい柄だったっけ?」
「うん。おばあちゃんからも、健やかに元気に大きくなってねって小さいころから言い続けてたから、きっとそういう願いも込めて子の柄にしたと思う」
「そっか、いいおばあちゃんだね。」
「うん。私もおばあちゃんのことは好きなの」
そんな他愛もない会話をしながら歩いていくと、参拝を終えて戻ってくる人で多くなってきて、だんだん進みづらくなってきた。
「柊木さん、人多くなってきたけど大丈夫?」
「あ、うん。だいじょう・・・きゃっ!」
大丈夫と言いかけて、前の方から歩いてきた男性にぶつかってしまい、体制を崩して転びそうになった柊木さんを咄嗟に腕で支える。
「っと・・・だ、大丈夫?」
「う、うん・・・ありがと」
ぶつかった男性は「すみません」と言いながら行ってしまった。
「ちょっと危ないね・・・ほら」
「・・・えっ?」
僕は柊木さんに向かって手を差し出す。
やはり人が多くなってくるとこういうことも起きやすくなるし、場合によってははぐれる可能性も出てくるので、少し照れくさい気持ちもあるが、ここは手を繋いで歩いた方がいいだろう。
柊木さんは差し出した手と僕の顔を交互に見ながら、困惑の表情を浮かべている。
「はぐれると行けないし、人も多いから」
「・・・」
「もちろん、嫌だったら・・・」
「・・・っ!」
僕の言葉を遮るように、柊木さんは慌てて僕の手に自身の掌を重ねる。
「嫌じゃ、ないよ」
「・・・そっか。それじゃあ行こうか」
二人で手を繋いで歩き出す。
女の子と手を繋ぐなんて初めてのことなので、少し緊張してしまう。
この状況は周りから見ればカップルに映るだろうか、なんて余計なことを考えてしまい、そんな邪な考えを追い出そうと頭をブンブン振った。
「・・・ふふっ」
煩悩を追い出すのに集中して、柊木さんがほんの少し手を握る力を強くして、ほんのり頬を染めながら微笑んでいることに気が付かなかった――。
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