第20話 初詣②
多くの人で賑わっている境内を進み、なんとか参拝の列にたどり着いた。
柊木さんとはぐれないように、そして転ばないようにと結ばれた手はまだ握ったままだ。
こちらの様子をちょくちょく確認しながら前を歩いていた華さんたちは、僕たちの繋がれた手を見るや否や意味深な笑みを浮かべるので、少し気まずかった。
もう列に並んでいるのではぐれることはないだろうし、そろそろ手を離してもいいと思いそっと手を離そうとするが、柊木さんの手から力が抜けてくれない。
ぎゅっ、としっかり力を込めて離す気はないことが伝わるので、自分たちの番が来るまで手を繋いだまま待った。
「笹原君は何をお願いしたの?」
参拝を終えて少し列から離れたところで、柊木さんが問いかけてきた。
「今年も元気に楽しく平和に暮らせますように、ってお願いしたよ。そういう柊木さんは?」
「私は・・・内緒」
「えぇ・・・」
柊木さんは口元に人差し指を当てながら可愛らしく微笑む。
教えてくれないなら想像するしかないが、おそらく男子苦手を克服できますように、とかだろうか。
一応自分のお願いと一緒に密かに僕もお願いしているので、今年で大きな進歩があればいいなと思う。
「二人とも、温かい飲み物買おうと思うんだけど甘酒とおしるこどっちがいい?」
「私、おしるこがいい」
「じゃあ、僕もおしるこでお願いします」
「おしるこ2つね。それじゃあ買ってくるわ。敦さん、行きましょう」
「あぁ」
希望を伝えると、華さんと敦さんは二人で手を繋ぎながら買いに行く。
手を繋いだ二人を見ると、先ほど柊木さんと手を繋いでいたことを思い出し、少し顔が熱を帯びてくる。
隣の柊木さんをチラッと見てみると、なにか思うところがあるのか柊木さんも顔が少し赤くなっている気がする。
「・・・」
「・・・」
お互いなんだか気まずくなって無言が流れる。
「・・・柊木さん、さっき並んでた時―—」
「あれ、栞と笹原じゃん」
柊木さんに並んでいたとき手を離さなかった理由を聞こうとしたところで、僕たちの名前を呼ぶ声が聞こえ、振り返るとそこに永沢さんが立っていた。
「二人ともあけおめ。二人で初詣?」
「ううん、うちのお母さんとお父さんも一緒に。いまは飲み物買いに行ってて」
「ふ~ん。それにしても栞、振袖似合ってんじゃん」
「あ、ありがと」
「永沢さんは振袖じゃないんだね」
「アタシは普通に面倒だから着ないだけだし。それとも期待してた~?」
「いや全然」
「はぁ~?それはそれでムカつく」
なんだかからかうような聞き方をされたので素気なく即答したところ、少し怒った風にガン飛ばしてくる永沢さん。
「あらあら、なんだか賑やかになってるわね」
「あ、お母さん」
「お待たせ。はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
華さんたちが温かい飲み物の入ったコップを両手に戻って来た。
僕と柊木さんはお礼を言ってから自分たちの分を受け取る。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう、樹木ちゃん。今年も栞をよろしくね」
永沢さんが華さんたちに挨拶をする。
どうやら永沢さんと華さんたちは面識があるようだ。
まあ柊木さんと一番仲のいい友達だし、家でも遊んだりしたこともあるだろうから不思議ではないか。
「そうだ。これから三人で屋台とか回ってきたらどうかしら?」
「え、いいの?」
「せっかく会えたんだし、楽しまないと損だわ。もちろん、笹原君と樹木ちゃんが良ければだけれど」
「僕は大丈夫ですよ」
「アタシも大丈夫です」
「それじゃあ、三人とも気を付けて楽しんでらっしゃい。私は敦さんと二人で回るからなにかあったら連絡してね」
「うん。わかった」
そうして、華さんたちと別れて三人で行動することになった。
そろそろお昼時なので、ひとまず屋台が並んでいるところへ向かう。
「そういや戸田とその彼氏はどうしてんの?今日来てないの?」
「ん~、どうだろ。あの二人正月は桜の家で一緒に過ごすって言ってたし、二人で来ててもおかしくないけど」
「ちょい待ち。あの二人、同じ屋根の下で一緒に年越したってこと?」
「え、うん。桜とナルは昔から仲良かったし、家も隣で親同士も友達だから、昔からよく一緒に年越してたよ」
「へぇ~・・・仲いいとは思ってたけど、幼馴染ってやつね」
「そう」
「まあ、桜ちゃんに今日初詣来てることは言ったし、びっくりさせようとして来てそうだよね」
「たしかに。まあでもナルは意外と真面目だから、桜が変なことしようとしても止めると思うけどね」
「・・・意外は余計だ」
「・・・へっ?」
突然背後から肩に手が置かれて、聞き覚えのある声がした。
素っ頓狂な声を上げながら後ろを振り向くと、そこに成人が立っていた。
「ナ、ナナナル!ど、どうしてここに!」
「驚きすぎだろ。俺たちも初詣来たら、お前たちを見つけたんだ」
「ナルがいるってことは・・・」
「あぁ、いるぞ。いまも柊木さんの背後からしがみ付こうとこっそり近づいてきているぞ」
「えっ!?」
成人が指をさした方を全員で一斉に見ると、少し背を低くしながらこちらにのそのそと近づいてくる見覚えのある顔が一つ。
あれ、不審者に見られないだろうか。
「もー!驚かせようとしてたのになんでバラすかなぁ!」
「いてて!肩殴るな!柊木さんが可哀そうだろ」
僕たちを驚かせる作戦が失敗し、バラした成人の肩を殴りながら文句を垂れる桜。
まったく、噂をすればなんとやらだ。
意図せず新学期から集まろうとしていた面々が集まる。
「あけましておめでとう、桜ちゃん。・・・え、えっと・・・南君も」
「おう、あけましておめでとう。今年からよろしくな。もしなにかあったら遠慮なくいってくれ」
「あけおめ~!今年もよろしくね~!」
「うわっ!さ、桜ちゃん!危ないよ」
「こら戸田!栞が困ってるでしょ!」
「えぇ~いいじゃん、永沢さんも一緒にどう~?」
「ちょ、ちょっと二人とも~」
結局柊木さんに抱き着く桜と、それを咎める永沢さん。
なんだかんだ盛り上がってる女性陣を、僕と成人で見守る。
「賑やかな一年になりそうだな」
「まあ、そうだね。ナルも同じクラスだったらよかったけどね」
「こればっかりは仕方ない。三年で一緒になれればって感じだな」
「だね」
「お~い、三人とも。そろそろ腹減ったから屋台で何か買って食おうぜ」
「そだねー!私たこ焼きと焼きそばとアメリカンドッグ食べたい!」
「そんなに食べたら太るよ」
「あー!拓道、女子に言ってはいけないことを・・・」
ぶつくさ文句を言う桜を適当に流しつつ、たこ焼きを売っている屋台を探すためにみんなで移動する。
わいわい盛り上がる4人を横目に、新学期から楽しい日常が始まる予感を確かに感じながら、今日はたくさん楽しむことにするのだった――。
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