第21話 気持ち
今年・・・より正確に言うなら、この3か月の間はほんとにたくさんの『初めて』があったと思う。
初めて男の子の友達ができたり、その子と同じ食卓でご飯を食べたり、一緒に遊びに出掛けたり、今まで感じたことのない初めての感情を抱いたり・・・。
その『初めて』の中心にいつも、笹原君がいる。
男子が苦手であることを克服するための第一歩として、両親に背中を押されながら友達になった彼との時間は少しずつ、でも着実に踏み出せなかった一歩を踏み出す勇気に繋がっていると感じている。
少なくとも、もう笹原君に苦手意識や恐怖を感じることは一切ない。
おそらくだけど、他の男子相手でも緊張はするけど、話せないことはないくらいには苦手意識も薄れていると思う。
(・・・笹原君は何してるかな)
新しい年が始まるまで、あと少しだ。
お母さんたちみたいにテレビで正月の特番でも見てるのかな。
小説でも読んでいるのかな。
もしかしたら寝ちゃってるかな。
寝顔はかわいいのかな。
「・・・ふふっ」
ふと彼のことを考えるだけで、胸が温かくなって自然と口から笑みが零れる。
「来年はもっと・・・仲良く・・・」
今よりもっと、友達として仲良く・・・。
そこまで考えて、何か心の中で引っかかったような気がして思考を一時中断する。
私は、笹原君とどうなりたいのだろう。
一番の友達・・・なんだかそれでは満足できない自分がいる。
パートナー・・・恋人・・・。
「・・・!!///」
(何を考えているの私!!)
思い浮かんだワードで急激に体の芯から熱が噴き出たのかと思うくらいに真っ赤になった顔を枕に埋めながらベッドの上で転げ回る。
「・・・恋人・・・か」
少しだけ心を落ち着けて、先ほど思い浮かんだワードを口にする。
考えたこともなかったけど、これが一番胸にすとんと落ちてしっくりくる。
そういえば、たまに他の女の子と仲良さそうに話してるのを見たときに少しモヤモヤとした気持ちになっていたような気がする。
もしも私が笹原君のことが好きだとするなら、その気持ちにも名前を付けられる。
思いがけない気持ちの正体に心がざわつく。
「・・・笹原君は、どう思うかな」
私が笹原君のことを好きかもしれないと知ったら。
きっと、困った顔をするんだろうな。
「栞~!もうすぐ年が明けるわよ~!」
「!・・・はーい!今行くー!」
一階にいるお母さんに呼ばれ、部屋に置いてあるデジタル時計を見れば23時55分と表示されている。
今年の振り返りをしている間に結構時間が経っていたようだ。
後半ほとんど笹原君のことばかり考えていたような気がするけど。
今はどうすればいいかわからないけど、この気持ちはまだ仕舞っておこう。
来年でもっとお互いを知って、この想いにはっきりと名前を付けて呼べるようになったら、その時考えよう。
今は両親と年を越すために、まだほんのりと熱を帯びたまま一階のリビングへ向かう。
「あ、ようやく降りてきたわね。栞も一緒に年越しそば食べれば・・・あら?」
「ん?どうしたのお母さん。私の顔に何かついてる?」
お母さんがじっと私の顔を見つめる。
「・・・栞、顔赤いけど熱でもあるの?」
「うぇっ!?」
「・・・栞、熱があるのか?」
テレビに視線を向けていたお父さんも熱というワードに反応してこちらを向いた。
「ち、違うよ!これはその・・・そう!部屋のエアコンの温度高めにしてたから!体調悪いわけじゃないよ」
笹原君のことを考えていたら、恥ずかしさとかいろんな感情が原因だなんて言えない。
「・・・まあ体調悪いわけじゃないならいいけれど、エアコンの温度設定は気を付けなさいね。ほら、年が明けるわよ」
「う、うん」
なんとか誤魔化せたようでよかった。
お母さんたちはお酒を、私にはオレンジジュースを注いだコップを持たせる。
テレビの方を見ると、年越しのカウントダウンが始まった。
「「「・・・5、4、3、2、1!あけましておめでとう!」」」
家族全員で年越しを祝い、乾杯をする。
ジュースを飲んでから、スマホを取り出して『あけましておめでとう!今年もよろしくお願いします!』の文を打ち込んで、笹原君や樹木ちゃん、桜ちゃん、学校の友達に送った。
すぐさま笹原君から返信が来て、その後に続いてほかのみんなから返信が届く。
(ふふっ、あいかわらず返信早い)
初めてメッセージを送った時のことを思い出して、少しだけ笑う。
「・・・栞、なんだかうれしそうね」
「・・・うん、私も友達増えたなって実感しちゃって」
「・・・よかったな、栞」
「うん」
「あ、そうそう。朝早いから早めに寝なさい。笹原君には集合場所と時間は伝えてあるから」
「うん」
「・・・初詣、おばあちゃんからもらった振袖着てく?」
「・・・えっ?」
「着ていきたいなら着付け手伝うわよ?それに・・・」
「それに?」
お母さんがこちらに耳を貸すようにジェスチャーをしたので、その通りにお母さんに近づいて耳を貸す。
「・・・笹原君、喜んでくれるかもしれないわよ?」
「・・・!!!な、なな、なんで!」
突然言われた言葉に思わず動揺してしまう。
どうしてここで笹原君の名前が出るんだ。
「そんなにわかりやすい反応しちゃって。それでどうするの?着てく?」
「・・・着てく」
「はーい。じゃあ朝少し早めに起きて支度しましょうか」
「・・・うん」
無駄に鋭いところがあるので、もしかしたらお母さんには私の気持ちがバレているのかもしれない。
「それじゃあ、今日はもうおやすみなさい」
「うん。二人ともおやすみなさい」
「おやすみ」
その後寝る準備をして自分の部屋のベッドに潜り込んだ。
朝起きたら笹原君と初詣だ。
まだ、この気持ちをはっきりと口にはできない。
なんとなくそうかもしれないっていう曖昧なものだ。
もし、私が自信を持てたらそのときは・・・。
そのときのための勇気を少しだけ分けてもらえるように、お参りでお願いしよう。
そんなことを考えながら、今年最初の夢を見るために目を閉じるのだった――。
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