第18話 父との通話
柊木さんとのお出かけが終わったのも束の間、今日は大晦日である。
大晦日に放送される特番などをテレビでBGM代わりに適当に流しながら部屋の大掃除をして、その後はのんびり読書をして過ごしているうちに、気が付けば年越しまであと十分くらいになっていた。
今年は一人暮らしを始めて、成人たちと再会して、柊木さんと友達になって、柊木家で夕飯を食べたり、クリスマスを過ごしたり・・・想像していたよりもずっと楽しい年になったと思う。
去年は母が亡くなって、時間も経たないうちに受験があったりで、あまり楽しむ余裕は精神的にも、時間的にもなかったから、余計に楽しく充実したと感じたのかもしれない。
来年からは、自分の周囲の環境に変化が生まれるだろうけど、不安よりも楽しみだと思う気持ちが勝っていた。
そんな風に今年の振り返りなどをしていれば、テレビの方で年越しへのカウントダウンが始まった。
『・・・5、4、3、2、1!明けましておめでとうございま~す!!』
テレビの方で鐘の音とアナウンサーの声とともに、年が明けた。
そして、それと同時にスマホでメッセージが届いたことを知らせる通知音が鳴り響いた。
メッセージアプリを開くと、成人や桜、柊木さん、華さん、先日連絡先を交換した永沢さん、中学の時の数少ない友人たちからも『あけましておめでとう』のメッセージが届いていた。
それぞれにメッセージを返しておく。
ひと通り返信し終えると、華さんから一件メッセージが届いた。
見てみると、今日の朝に柊木さんたちと一緒に行く予定の初詣の集合場所と集合時間を知らせる内容だった。
内容を確認して、了解の旨をメッセージで返しておく。
あらかた届いていたメッセージに返信し終わり、一息をついているとスマホの着信音が鳴り出した。
画面を確認すると、父である
「・・・もしもし?」
『久しぶりだな、拓道。それと、あけましておめでとう』
「あ、うん。あけましておめでとうございます。久しぶりだね、父さん」
時々父とメッセージのやり取りはしていたものの、最後に通話したのは引っ越してひと月経ったくらいの頃なので、半年以上声を聴いていない。
『そっちはどうだ?元気にやれているか?一人暮らしは順調か?困ったこととかないか?」
「元気だし、一人暮らしもおかげさまで特に困ったことなく過ごせているよ」
『そうか。学校の方はどうだ?』
「特に問題ないよ。ナルたちもいるし、新しい友達もできたし、なんだかんだ楽しくやってるよ。もちろん勉強の方も平均ちょい上くらいキープしてるよ」
『それならよかった。お前から連絡してくることはほとんどないから、もしグレてたり、孤立していたらどうしようかと心配していたよ』
「どんな心配してるの・・・。僕がそんな奴じゃないのは父さんもわかってるでしょ」
『そうだな。けど、私に余計な心配をかけたくないなら、たまにはお前からも連絡しなさい』
「気が向いたらね。それより父さんの方こそどうなの?仕事の方とか順調?」
『ああ、今はブラジルのとある地方で援助活動をしている。大変だが、なんとかやれているよ』
父はいろんな地域で困っている人たちの援助活動をしている人だった。
僕が中学のときまでは日本国内で活動していたが、今は海外へ活動の幅を広げている。
「相変わらず大変だという割に、声は楽しそうだよね」
『まあ、実際楽しいぞ。いろんな人が笑顔になるのを見るのは好きだしな。やりがいも感じている』
「父さんがうまくやれているならいいけどね」
『・・・お前は将来どうしたいとか決まっているのか?』
いつにも増して真面目な声色で聞いてくる。
「・・・特に決まってないよ。というかまだ高1だし、まだ何やりたいとかは思いつかないかな」
現状、将来やりたいこととかは特に思いつかず、高校卒業後の進路も多分進学するかなぁ、くらいにしか考えていなかった。
仮に好きなものを仕事にするならば、ラノベ作家とかになるだろうか。
といっても自分で書いたこともないし、自信もない。
読むのは好きでも書けるとは限らないし、好きなことで仕事をするというのは難しいことだと理解しているので、今のところ目指すつもりはない。
『・・・そうか。まあたっぷり悩んで、自分が納得できる将来が決まったら、話してくれ』
「うん。じっくり考えるよ」
『そうだ。8月ごろに私の仕事のほうも少し落ち着いてくる予定なんだが、そのくらいに一度日本へ帰国しようと考えている』
「あ、そうなんだ。数日こっちにいる感じ?」
『まだ確定ではないけど、その予定だ。お土産もいろいろ持っていくぞ』
「楽しみにしとく。父さんの部屋もちゃんと使えるように掃除してあるから」
『そうか、ありがとう。それじゃあまた決まったら連絡する』
「うん」
『ではそろそろ電話を切るぞ。お前もそろそろ寝たほうがいいだろう』
「そうだね。一緒に初詣に行こうって友達に誘われているから朝早めに起きないといけないし」
『友人たちとも仲良くやれているようで安心だ。それじゃあ、おやすみ。身体には気を付けろ』
「父さんこそ身体壊さないでね。おやすみ」
通話を終えると、自分のベッドの上に倒れ込む。
相変わらず心配性な父だが、元気そうでよかった。
写真では楽しそうな写真が送られてきてはいたが、声を聴いて改めて安心する。
さらに、3月・・・時期的には春休みくらいに帰ってくる予定らしいので、久々に会えるのも楽しみだ。
「さて、そろそろ寝るか」
時計を見れば深夜1時になるところだった。
普段ならもう少し起きているが、朝に控えた初詣のこともあるので、早めに寝ることにした。
新年一発目、いい夢が見られることを願いながら眠りについた――。
※このお話から、1話あたりの文字数を減らして更新していきます。
その分更新速度を上げられればと思いますので、引き続き宜しくお願い致します。
by小笠木 詞喪
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