第10話 もっと知りたい。
男子が苦手な私にとって、今年の10月は非常に大きな変化をもたらしたひと月だったと思う。
同じクラスの男の子に助けてもらったり、両親に背中を押してもらって、その男の子と友達になったり、夕飯を家で一緒に食べたり、応援したり、ハロウィンでお菓子をもらったり、一緒に帰ったり・・・。
笹原君と友達になって、たったひと月の間に、彼の存在が私の中でどんどん大きくなっていった。
だから私は、変わるきっかけをくれた彼のことを『もっと知りたい』って思うようになっていた
「はっ・・・!はっ・・・!はっ・・・!」
10月の最後のイベントであるハロウィンも終わって、今は11月に入った。
今日は土曜日で学校が休みなので、朝からランニングをしている。
最近は悶々とすることが多かったので、こうして走ることで気分転換をしていたら、すっかり日課になってしまった。
体力も付くし、元々体を動かすのは結構好きなので、今は始めてよかったと思っている。
「ふぅ・・・今日はこの辺で・・・」
「・・・あれ?柊木さん?」
「えっ?」
そろそろ切り上げようとしたところで、後ろから名前を呼ばれので、足を止めて振り返ると、声をかけてきたのはジャージを着たポニーテールの女の子、戸田桜さんだった。
「おはよう。柊木さんもランニング?」
「う、うん。最近始めて・・・」
「そうなんだ。私よくランニングするから、もしかしたら、これからはこうしてばったり会うこともあるかもね」
「戸田さんは普段この辺り走ってるの?」
「私はいろんなルートを気分で決めて走ってるから、この辺りだけじゃないよ」
「そうなんだ」
こうして休日の朝に、同じクラスの人に会うなんて思わなかったけど、普段喋ったことのない人と話すきっかけができるので、やっぱりランニングを始めてよかったと思う。
そういえば、戸田さんは笹原君と仲が良かったっけ。
もしかしたら、笹原君のことなにか聞けるかな。
もし迷惑じゃなかったら、この後ちょっと時間があるかだけ聞いてみよう。
「戸田さん。この後って少し時間あるかな」
「えっ?うん、そろそろ切り上げようと思ってたところだから大丈夫だけど・・・」
「それなら、どこか近くで座りながらお話したいんだけど、どうかな」
「うん、いいよ。今日は特に予定もないしね」
「ありがとう」
二人で近くのファミレスへ入って、ドリンクバーと軽くつまめるものを頼んだ。
ドリンクを取りに行ってから、私はさっそく話を切り出した。
「えっと、戸田さんは笹原君と私が友達になったことは・・・」
「うん、知ってるよ。拓道から直接聞いたからね」
予想通り、笹原君はその辺りの話をしていたようだ。
おそらく、もう一人の友達にも、その話はしてあるのだろう。
「拓道と何かあったの?」
「なにかあったわけじゃなくて・・・その、笹原君のことをもっと知りたいなって思って。私、あまり彼のこと知らないから」
「あ~なるほど。拓道はあまり自分のことを話すタイプじゃないからね~」
「だから、笹原君の話、聞きたくて」
「ん~・・・といっても実は私とナル・・・あ、隣のクラスのよく一緒にいる南成人ね。最近再会したばかりだから、知ってるのはどっちかっていうと、昔の拓道になるかな~」
「最近再会したって・・・?」
「拓道とは小学校の3年のときに、ナルと一緒に遊んでいた流れで仲良くなったんだ。そこから小学校卒業まではよく一緒に遊んだりしてたんだけど、そのあとは拓道も、親の仕事の都合で引っ越しちゃって、卒業後は離れ離れになってたから、中学の間のことはよく知らないんだ」
「そうなんだ」
「それでもいいなら、話すことはできるけど・・・」
「お願いします」
「それじゃあ、最初はどうやって仲良くなったかからかな~」
そこから、笹原君とよく遊ぶようになった経緯や、昔の笹原君は意外と負けず嫌いで、ゲームで負けるといじけたりしてちょくちょく喧嘩になったり、親に連れられて一緒に遊園地に行ったときに絶叫マシーンに乗ったら、大泣きして降りてきたとか、笹原君が聞いたら顔を真っ赤にしそうな話まで聞けた。
聞いてもよかったのか若干不安になったのは内緒にしておこう。
それにしても、今の笹原君に比べて、ずいぶん明るい性格だったように思う。
いまの笹原君は、暗いわけではないけど、どこか少し冷めているというか、クールな印象があったから、少し意外だ。
「とまあ、昔はこんな感じだったかな~」
「今の笹原君とだいぶ違う印象だね」
「確かに昔に比べて、落ち着いているというか、テンション低くなったかな~って思うよ。まあそれも仕方ないのかもしれないけどね。拓道のお母さんのこともあったし・・・」
「笹原君のお母さん?」
「あ、ヤバッ・・・」
戸田さんが「やってしまった・・・」みたいな表情をして、バツが悪そうにしている。
そういえば、前に家に来た時に家族の話でお父さんの話はしてたけど、お母さんの話はしていなかったような・・・。
「・・・なにかあったの?」
「・・・口を滑らせちゃった私が悪いんだけど、ごめん。これは結構デリケートな話だから、私からは話せないかな」
「・・・そっか」
すごく気になる・・・。
仲が悪かったのか、家族間でうまくいってなくて、離れたくて一人暮らしをすることを選んだのか・・・いろんな考えが頭の中を回る。
「・・・まあ、拓道と仲を深めていけば、いずれ話してくれるかもしれないから、もし聞くときは本人から聞いてほしい。でも、お願いがあるんだ」
「お願い?」
「自分で言っておいて、あれなんだけど・・・この話は、拓道から話すまでは、触れないで上げてほしい。本人はもしかしたら、吹っ切れたつもりかもしれないけど・・・私もナルも、なんだかんだ付き合いそこそこ長かったから、なんとなくだけど、まだ立ち直り切れてないと思うから」
「わ、わかった・・・」
戸田さんが、ものすごく真剣な表情で頼んできた。
笹原君とお母さん・・・いや、家族の間になにかあったのか・・・気になるけど、笹原君から話があるまでは、待とう。
嫌われたくないから。
そして、話してくれた時に、彼が立ち直れていなかったときは、できれば私が力になってあげたい。
私が変わるきっかけをくれた笹原君の助けになりたいから。
「とまあ、暗い話はこれでおしまい。一応私が話せるのはこんなもんかな~」
「ありがとう、戸田さん。いろいろ聞けて良かった」
「ううん。私も柊木さんと話ができて楽しかったから。こちらこそありがとね、誘ってくれて」
戸田さんとは学校で話したことはあまりなかったけど、今日で少しだけ仲良くなれた気がして、嬉しかった。
「もし、拓道のことをもっと知りたいなら、遊びに誘ったりして、もっと踏み込んでいった方がいいよ。自分からはあまり行かないだろうからね」
「う、うん。頑張る」
「それと、昔の拓道のことは、ナルのほうが知ってると思うから、まあもし機会があったら聞いてみてよ。きっと話してくれると思うから」
「わ、わかった」
まだ笹原君以外の男の子と話したりできる気はしないけど、いずれは、話せるようになりたいなと思う。
「あ、あと連絡先交換しよ。もし、何かあったら連絡取れたほうがいいし、個人的にも柊木さんと友達になりたいからさ。どうかな?」
「うん!私も、戸田さんと友達になれたら、嬉しい」
「そっか。じゃあ、よろしくね、柊木さん」
「うん。こちらこそ」
そして、連絡先を交換して、頼んでいたメニューと食べ終わってから、ファミレスを出て解散した。
今日1日で戸田さんと友達になれたし、昔の笹原君の話も聞けたし、よかったな。
少し、笹原君の過去に何があったのか気になるけど、いつか話しても大丈夫だと思ってもらえるような友達になれるように、少しずつ頑張ろうと思いながら、家に帰って行った――。
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