第16話 柊木さんとお出かけ②
喫茶店を後にして、僕と柊木さんは近くのショッピングモールへと向かった。
年末ということもあり、ショッピングモール内はかなりの人で賑わっていた。
僕は普段家で引きこもっているので、こういった人混みにはあまり得意ではないが、これからは慣れていかなければならない。
「いろんなところ年末セールとかやってるから人が多いね」
「そうだね。服屋とかもセールやってるみたいだから、僕もこの機会に冬物の服を何着か買おうかな」
普段からお洒落にあまり気を遣うことはないのだが、成人や桜からもうちょっと興味持てばいいのにと言われることが多いので、この機会に揃えるのも悪くない。
ただ僕はファッションのことには疎いので、できれば柊木さんにも意見をもらえるとありがたいのだが、そこはまたあとでお願いしてみるとしよう。
「それじゃあ、女性物とか置いてあるエリアのほうが近いし、柊木さんの見たいところから回ろうか」
「うん、ありがとう。それじゃあこのお店から回っていい?」
そういって柊木さんは案内板の二階にある一つのお店を指さした。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
僕と柊木さんはさっそくそのお店へと向かった。
やって来たのは、アクセサリーショップだった。
男の僕が居ていいのか不安になるほど、女性用のものがずらりと並んでいる。
「アクセサリーショップ?」
「うん。服はお母さんと買いに行ったんだけど、一緒に合わせる小物とかほしいなって思って」
「な、なるほど。ところで、僕・・・ここにいて大丈夫?」
「えっ?どうして?」
「い、いやその・・・こういうお店は男の僕がここにいて大丈夫かなって不安になるというか・・・」
「・・・ふふ・・・!あはは・・・!」
突然柊木さんが笑い出した。
おかしなことを言ったのだろうか。
「ここはただのアクセサリーショップだよ?男性用のアクセサリーとかも置いてあるから大丈夫」
「・・・あ、ほんとだ」
周りをよく見ると、女性物よりは少ないけれど、確かに男性用のアクセサリーが置いてある場所があった。
アクセサリーなど着けたことも、身に着けようという発想にもならなかったので、勝手に女性専用のお店だと勘違いをしてしまった。
恥ずかしい・・・。
そんな恥ずかしい思いをしたのも束の間、何点かアクセサリーを購入した柊木さんと次に向かったのは、靴屋だった。
「最近ランニングしてるから、ランニング用のシューズも見ておきたかったんだ」
「あ~、最近桜と一緒に走ってるんだってね。柊木さんがランニングしてるの意外だったよ」
「みんなに言われるよ・・・。でもランニング始めてよかったよ。体力も付くし、桜ちゃんとも友達になれたから」
桜と友達になれたことを嬉しそうに話す柊木さんを見て、こちらも嬉しくなった。
成人も入れて4人で遊びに行けるようになるのも、そう遠くない話だと思う。
「まあ、仲良さそうで何よりだよ」
「うん」
柊木さんはしばらくランニングシューズを見て、気になったデザインのものはあったが、どうやら所持金的な面を考えてやめておいたようだ。
少し残念そうに頬を膨らませていたところが可愛いと思ったのは、ここだけの話だ。
「・・・お年玉で、また買いに来る」
「そっか。じゃあ次どこに行く?」
「ん~・・・笹原君の見たいところで大丈夫だよ。私ばかり見てるのも悪いし」
「そう?じゃあ、行こうか」
そして僕が選んだ行先は・・・本屋だった。
「笹原君、ほんとに本好きなんだね」
「まあ本というか、ラノベとか漫画が好きなだけだよ。表紙とかで気になった作品とか見るとつい買いたくなっちゃうんだよね。だから出かけたついでに本屋に寄っていろいろ買いに行くようにしてるんだ」
一人で出かけたら基本的に本屋には立ち寄るようにしている。
僕の知らない間にも、新しい作品は発売されているので、気になったものは随時買うようにしてる。
まあその結果、まだ読めずにいる小説が数冊ほど積まれているが、読むものがなくなるよりいいので、出かければ買いに行っている。
「私、小説とかほとんど読んだことないな・・・。少女漫画を少しだけ読んでたことがあるくらいかな」
「まあ小説って文字を読むのが疲れる人は苦手かもしれないけど、僕は文で綴られている話を、自分なりに想像することが楽しくて、気が付いたらやめられなくなっちゃったよ」
物語の考察、いろんなシーンを想像してその世界観の中に飛び込んだり、楽しみ方は作品の数だけある。
予想外の展開に興奮したり、感動的なシーンで涙を流したり、一冊でたくさんの感情を楽しめるので、中学のときからずっと読み続けている。
「・・・お、これ面白そうだ」
「どれ?」
手に取ったラノベを柊木さんにも見せた。
表紙には、可愛い女の子が頬を染めながら教室でこちらを見つめているイラストが描かれている、いわゆるラブコメだ。
背表紙のほうに書かれているあらすじ部分を読んでみて、面白そうだと思ったので、これを買うことにしよう。
「・・・・・・」
「?どうしたの、柊木さん」
なんか柊木さんが少しムッとしながら、今手に持っているラノベを見ていた。
もしかして、こういった本を女子の前で買うのは引かれるのだろうか。
「・・・笹原君、こういう感じの女の子が好きなの?」
「はい!?」
突然の問いかけにびっくりして、本屋ではあまりよくない大声を出してしまった。
確かにイラストの女の子は可愛いと思って、話も面白そうだから買おうとしていたところだけど。
「どうなの?好きなの?」
「す、好きというか、可愛いなとは思ったよ?話も面白そうだから」
「ふ~ん・・・」
少しジト目になりながら、柊木さんは同じラノベを手に取った。
どうしたのだろうか、と考えていると・・・。
「私も買う」
「えっ?」
「私も同じのを買って、読んでみる」
「そ、そっか。じゃあ、一緒にレジに行こうか」
よくわからないけど、柊木さんがなぜか少し不機嫌になってしまったようだ。
今度から女の子と出かけるときにこういった本を買いに来るのはやめておこうと、心の中で決めるのだった。
本屋を後にした僕たちは、自分用の服を見るためにアパレルショップに向かった。
普段着ているものは中学から使っているものが多いので、新しく服を買いに来るのも久しぶりだった。
なので、お店に着いて早々様々な種類の服を前に、途方に暮れることになった。
「・・・来てはみたものの、どうしようか」
「どうしたの?」
「いや、洋服とかほとんど買いに来たことないから、どういうのを選んだらいいかわからなくて。柊木さん的にはどういったのを選んだらいいと思う?」
「ん~、男性服のことは、さすがに私は分からないよ」
「そうだよね・・・」
基本的に男子が苦手なのだから当然か。
こうなれば似合う似合わない関係なく、着心地がよさそうなものを選ぶか。
「・・・それじゃあ、店員さんに聞いてみるのはどうかな」
「えっ?」
「私も自分で何選んだらいいか分からないときは、お店の人に聞いたりするから」
「な、なるほど・・・!」
たしかに、このお店で働いていて詳しい人たちに聞けば自分で選ぶより確実だ。
あまりにもこういったお店に来ないから店員さんに聞くという発想はなかった。
さっそく、近くにいた若い男性の店員さんに声をかけてみることにした。
「すみません。ちょっといいですか?」
「はい、いかがなさいましたか?」
「服を見に来たんですが、どういうのを選んだらいいのか分からなくて・・・」
「なるほど、それでしたら今流行りのものから選んでみるのはいかがでしょう。あちらにコーナーがございますので、ご案内いたします」
そういって、お店の真ん中辺りのコーナーに案内された。
見ると何種類かの服が置かれていて、マネキンにはお洒落なコーデで着飾られていた。
「ありがとうございます。見てみます」
「では、また何かございましたらお気軽にお声掛けください」
店員さんは元居たところに戻っていった。
改めて案内されたコーナーを見ると、ニットセーターやアウタージャケットがメインに置かれている。
色も白や黒、ベージュなど様々だった。
「思ったより大人っぽいコーデが流行ってるんだ。今どきの高校生はすごいな」
「笹原君も高校生だよ・・・」
「まあでも、こういう落ち着いた雰囲気の格好もしてみるのもいいかな」
ちなみに今日の格好はグレーのクルーニットに黒のコート、黒のチノパンという格好だ。
そのうち上に着ているコートやグレーニットは元々父さんが使っていたお下がりを着ていた。
「・・・よし、これでちょっと試着してくるね」
「うん、いってらっしゃい」
店員さんに声をかけ、試着室に入って着替える。
最後に鏡で、どんな感じかを確認する。
「・・・うん、まあ悪くない気はする」
選んだのは黒のチェスターコートにアラン編みの白いタートルニットだ。
デニムも検討したが、仮に買おうとすると予算オーバーだったので、今回は諦めることにした。
さて、柊木さんにも見てもらって、買うか決めるとするか。
そうして試着室のカーテンを開けて柊木さんに声をかける。
「お待たせ、柊木さん。どうかな」
「・・・うん、似合ってる。笹原君は落ち着いた雰囲気の格好がいいね」
「ありがとう。じゃあこれにするよ」
さっそく買う服が決まったので、試着室で元の服装に着替えてからレジへと向かって購入して、お店を後にする。
普段は『ユニ〇ロ』でしか買わないので、こういったお店で服を買うのは何気に初めてだった気がする。
「お待たせ。これで僕の見たいところは終わったけど、柊木さん、他行きたいところある?」
「ん~・・・」
現在時刻は15時半ごろ。
解散するにはまだ少し早い気がするので、行きたい場所がほかにないか聞いてみる。
「あ、私、ゲームセンターにいってみた・・・」
「・・・栞?」
「・・・えっ・・・?」
柊木さんが行きたいところを言おうとしたところで、柊木さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「い、樹木ちゃん・・・」
そこにいたのは、柊木さんと特に仲のいい友達で僕たちのクラスメイトである
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