第7話 応援してもらえば
「まったく・・・なぜお前は1限目が私の授業のときに限って遅刻するんだ?」
「た、たまたまですよ。
新しい一週間の始めである月曜日の昼休み。
職員室で担任である
原因は日曜日にラノベを読みまくって夜更かししたせいである。
先週の金曜日に読んでいるラノベの最新刊の発売日だったので、書店に寄って気になる作品と合わせて購入した。
しかし、その次の日の土曜日が柊木家で夕飯を食べる日だったため、集中して購入したラノベたちを読むことができなかったのだ。
結果、日曜日に読みまくることにしたのだが、読んでいる途中で寝落ちして、目を覚ましたら遅刻が確定していたというわけだ。
「これで3回目だぞ・・・しかも全部私の授業だ。お前私のこと嫌いか?」
「いえ、そんなことないですよ。たまたまです」
天草先生の言うように遅刻は今回で3回目。
理由は大体今回と同じだが、遅刻する日は決まって天草先生の授業なのだ。
狙って寝坊しているわけではなく、本当にたまたまだ。
理科か数学だったら、狙って寝坊していたかもしれないが。
ちなみに天草先生の担当は社会科だ。
高身長でスタイルもよく、おまけに普段はジャージか動きやすい恰好でいることが多いため体育の先生だと思われがちだが、社会科の先生だ。
「まあお前は真面目だし、テストとかの成績についてはあまり心配していないが、そのほかのところで評価を下げざるを得なくなるからな。私としてもそんなことで下げたくはないから、程々にしてくれ」
「そこは『次からは絶対するなよ』じゃないんですね」
「お前がわざと遅刻していたのなら話は別だがな・・・。お前はわざとじゃないからタチが悪いよほんと。好きなことに没頭するのは悪いことじゃないが、学生の本分である勉強に支障が出ないようにしてくれ」
「気を付けます」
「それじゃあ話は終わりだ。戻っていいぞ」
「はい、失礼します」
軽く頭を下げ、職員室を後にした。
昼休みはまだ40分ほどあるので、食べ損ねていた昼飯を食べるために食堂に向かうことにした。
「ん?・・・あ~、そういえば今週の金曜日マラソンがあるんだっけ・・・」
食堂へ向かう途中の廊下に、生徒会が作成している掲示板があり、そこにはこの学校で行われる行事やお知らせなどが載っていた。
そのうちの一つに、今週の金曜日のマラソンについて書かれている紙が張り出されていた。
先生たちの説明では、3年生が修学旅行に行く日は1年生がマラソン、2年生が球技大会をするのが、この学校では恒例になっているそうだ。
なぜ1年生がマラソンなのかについてクラス内でも文句が出たが、球技大会で2年生がグラウンドと体育館を使用するため、1年生は学校の敷地外でも実施できるマラソンにしたそうだ。
説明されても文句を垂れている生徒がまだいたので、天草先生が「嫌ならプリントの問題を解き続ける1日にしてもいいぞ?」と満面の笑みで言ったら、生徒たちが黙ってしまった。
「運動はそんな得意じゃないんだけどな・・・」
少し憂鬱な気分になりながら、改めて食堂へと向かった。
食堂に着いたので、注文を済ませる。
この学校の食堂は、安くてうまい料理を提供してくれるため、生徒の間でも非常に人気だ。
注文した生姜焼き定食を受け取ってから、空いている席を探す。
昼休みなので、生徒が大勢いるなか座れそうなところを見つけるのはなかなか大変だ。
「おーいタク!こっち!」
「ん?」
僕を呼ぶ声が聞こえたので辺りを見渡すと、成人が手を振って呼んでいた。
どうやら、桜と二人で食堂に来ていたようだ。
どうにか人混みを避けつつ、彼らのところへとたどり着く。
「二人とも、今日は食堂なんだね」
「おう。母さんがちょっと寝坊して弁当用意できなかったみたいだから」
「私はちゃんとお弁当作ってきたから、ナルの付き添いで一緒にここで食べることにしたってわけ。拓道もこっち来るだろうと思ってね」
「そういやお前今日寝坊して、そのことをさっきまで担任に叱られてたんだって?」
「まあ・・・うん。程々にしてくれって言われたよ」
「言われるだけで済んでよかったな」
笑いながら肩を叩かれる。地味に痛い。
「そういや、今週の金曜マラソンだよな」
「そうだね。あんまり気乗りしないけど・・・」
「私は楽しみだけどね。元々陸上やってたし、走るのは好きだから」
「タクはラノベばっか読んでないで運動しろ運動。なんなら一緒に走り込みするか?」
「やだよ。」
運動できないわけではないけど、好きなわけではないし、どちらかといえばインドア派なので、授業以外で運動するなんてごめんだ。
「マラソンは程々に走るよ。別に2年生と違って大会ってわけでもないんでしょ?」
「いや、どうやら上位10位以内に入った人が一番多いクラスにはご褒美があるらしい」
ご褒美があるのは知らなかった。
男女別で走って、6クラスのなかで10位以内でゴールした人が一番多いクラスにご褒美があるらしい。
同数の場合は、ご褒美が小さくなったり、同数だったクラス全員にご褒美があったりと、年によって違うようだ。
それにしても先生の説明にもそんな話はなかった気がするが、情報の出何処はどこだろうか。
「サッカー部の先輩に聞いたら、去年のご褒美は焼き肉食べ放題だったらしい」
「ずいぶん豪華だね?」
「それ聞くと勝ちにいきたくなるよね~」
「だな。まあ俺だけ別のクラスだから、お前らとは戦うことになるけどな」
「そうだね。拓道、全力で勝ちに行くよ!」
「いやいや!無理だって!」
「やる前から諦めないでよ!」
この二人も相変わらずの負けず嫌いだ。
二人は生粋の体育会系なので、6月の体育祭でも大活躍だった。
ちなみに僕は借り物競争で8人中3位と、そこそこの戦績で貢献した。
まあ、1位じゃなかったのを悔しそうにしながら怒ってきた人が目の前にいるんだけど。
「そうだ!柊木さんに応援してもらえば、やる気出るんじゃない?」
「出ません」
「え~」
たしかに柊木さんに応援してもらえれば嬉しいかもしれないが、そもそも僕に10位以内は到底無理だ。
やる気を出しても桜の期待には応えられないので、半ば諦めている。
「まあでも、応援してくれたら嬉しいだろうし、タクも柊木さん応援したら喜んでくれるかもしれないだろ?」
「そうそう!そして拓道が覚醒して、10位以内に入ってくれれば文句ないよ」
「いやどんな奇跡が起きれば僕が10位以内に入れるんだ?」
「さあ?拓道を応援した柊木さんに走者全員が驚いてコケるとか?」
「ないない。戦うなら二人で戦ってくれ」
「ぶ~!」
頬を膨らませながら、不服そうにしている桜は放っておいて、生姜焼き定食を食べ進めることにする。
全力でやる気はないが、応援してくれる柊木さんを想像して、もしほんとにしてくれたら、ちょっとは頑張れるかもしれないと思ったのは、ここだけの話―—。
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