第14話 柊木家とクリスマス 後編

 少しして、柊木さんが戻ってきた。

 そして座ってから、先ほどのことについて聞いてきた。


「・・・笹原君、なにか言いかけてなかった?」

「・・・なんかタイミング逃しちゃったし、後で改めて話すよ」

「?・・・わかった」


 柊木さんは不思議そうにしていたが、頷いてくれた。

 今回はタイミングが悪かったが、帰り際にでも時間を作ってもらって話をすれば問題ないだろう。

 そんなやりとりのすぐあと、華さんが準備を終え、用意していた料理をテーブルへ運んできた。

 テーブルに並んだ料理は、ビーフシチュー、サラダ、ローストチキン、フライドポテト、ミネストローネと豪勢だった。

 もちろんどれも美味しそうで、料理の香りだけで食欲がそそられる。

 ちょうど料理を並べ終わったくらいで、敦さんも着替え終わって戻ってきた。


「それにしても、すごい豪勢ですね」

「クリスマスだし、張り切っちゃったわ。まあ、ローストチキンとフライドポテトはお店で予約して敦さんに受け取って来てもらったものだけれど」

「それにしたって、頑張ったね。お母さん・・・」

「ふふっ。それじゃあ、さっそく食べましょうか」


 華さんの合図で、全員手を合わせて。


「「「「いただきます」」」」


 と言ってから、食べ始めた。

 まずはミネストローネスープから。

 トマトの酸味と、一緒煮込まれた野菜の旨味を感じて、旨い。

 続けてビーフシチューだ。

 なかにはしっかり煮込まれた大きめの牛肉に、にんじんやじゃがいもといった野菜が入っていた。

 肉の塊の一つをスプーンですくって口に運ぶと、口の中で溶けたと表現したくなるほどに肉が柔らかく、しっかり煮込まれているのがわかる。


「すごく美味しいです」

「それはよかったわ」


 野菜も肉の旨味を吸っているのか、味がしっかりしていておいしい。

 付け合わせのパンをシチューに浸してから食べるのも食材の味をしっかり吸っているので、当然だが手が止まらない。

 お店に出てくる料理と遜色ないと思う。

 やはり、華さんは料理がすごく上手だ。

 これは手が止まりそうにない。

 


 そして他愛のない会話を挟みつつ、料理を食べ終える。

 敦さんが持ってきたローストチキンは、パリとした皮にほろりと身がほどけて美味しかった。

 なかなかここまでの料理は食べられないので、誘ってもらえてありがたいかぎりだ。

 あとは食後のデザートだ。

 僕が買ってきたロールケーキを華さんが、人数分のコーヒーと一緒に持ってきてくれた。

 ちなみに片付けとロールケーキを出す手伝いをしようとしたのだが、やんわり断られてしまった。


「それじゃあ、笹原君が持ってきてくれたロールケーキ、いただきましょうか」

「すごい美味しそう」


 買ってきたロールケーキは、クリスマス限定販売ののイチゴのロールケーキだ。

 クリスマスではショートケーキなどが一般的だが、買ったお店は毎年クリスマスで出すお菓子が変わることで有名(桜の情報)で、今年の新商品がロールケーキだったのだ。

 個人的にも、美味しそうだと思って予約したのだ。


「このロールケーキはあの駅前のお店か」

「あ、はい。毎年クリスマスの商品が変わるって友達から聞いて、見てみたら美味しそうだったので」

「たしかに美味しそうだわ」


 巻かれたロールケーキにはホイップクリームと一緒にイチゴが入っていて、ケーキの上には雪をイメージしてか、粉砂糖が振りかけてあった。

 

「それじゃあ、栞も待ち切れない様子だし、いただきましょう」

「お、お母さん!」

「そうですね。食べましょう」


 柊木さんが華さんにからかわれているのを横目に、ロールケーキをフォークでひと口大に切って食べる。

 イチゴの甘酸っぱさがホイップと一緒になることで、くどくない甘さになって食べやすくて美味しい。

 これは、華さんの淹れてくれたコーヒーにも合いそうで、このケーキにして正解だった。

 コーヒーを飲みながら、柊木家のほうを見ると、みんな美味しそうに食べていた。

 どうやら気に入ってもらえたようで一安心だ。

 三人とも幸せそうに食べているこの光景で、胸があたたかくなるのを感じる。

 ・・・そして同時に少しだけ、眩しくて、悲しい気持ちになってしまった。

 

「・・・笹原君?大丈夫?」

「!・・・あぁ、大丈夫だよ」


 少し顔に出ていたか。

 気を付けないと・・・。

 少し話題を変えるためにも、ここで用意したプレゼントを渡しておこう。


「あ、そうだ。ちょっと待ってて」

「?」


 柊木さんや華さんたちが少し不思議そうにしている中、立ち上がって荷物と一緒に置いてある袋の中身を取り出してから戻る。

 

「はい、これ。柊木さんに」

「えっ?私に?」

「そう。クリスマスだから」


 柊木さんに差し出すと、恐る恐るではあるが受け取ってくれた。

 

「開けてもいい・・・?」

「うん。まあ大したものじゃないんだけど・・・」


 柊木さんは丁寧にリボンを解いて、クリスマス仕様の袋を開けて中身を取り出した。

 

「・・・マフラーと・・・ニット帽?」

「うん」


 柊木さんにプレゼントしたのは、ピンクに白の水玉模様のマフラーとお揃いカラーのニット帽だ。

 本人の好みを聞いたわけではないので、気に入ってもらえるかはわからないが、自分なりに似合いそうだと思ったものを選んだつもりだ。


「・・・ありがとう。大切に使うね」

「・・・うん。気に入ってもらえたなら、よかった」


 プレゼントをぎゅっと抱きしめて、はにかみながらお礼を言う柊木さんは可愛かった。

 そっちの方を見れず、顔を逸らしながらなんとか言葉を発した。

 ちなみにその様子を華さんは少しニコニコしながら、敦さんは若干黒いオーラのようなものを発しそうになりながら、眼鏡を光らせていた。

 

「あらあら。よかったわね栞」

「・・・栞が喜んでいるなら、いい」

「ふふっ。栞はいいの?せっかく用意したのに渡さなくて」

「わ、渡すから!」

「えっ?」


 柊木さんは慌てた様子で席を立って、リビングを飛び出して行ってしまった。

 階段を上る足音が聞こえるので、おそらく2階にある自室へ向かったのだろう。

 華さんとの会話を聞くに、どうやら柊木さんもプレゼントを用意してくれていたようだ。


「はぁ・・・はぁ・・・お待たせ」


 すぐに戻ってきた柊木さんは少し息を切らしながら、僕のほうにプレゼントを手渡してきた。


「開けても?」

「う、うん。どうぞ」


 許可を得て、プレゼントの袋を開けていく。

 すると中から、グレーの手袋と手作りだと思われるパンダの刺繡が入ったしおりが入っていた。

 

「これは、手作りのしおり?」

「うん。笹原君、本をよく読むって言ってたし、あると便利だと思って」


 実はちょうど、去年使っていた手袋はボロボロになったので、捨ててしまって持っていなかった。

 しおりについても、普段僕がよく読書をするということを覚えていてくれて、考えて用意してくれたことがわかって嬉しかった。


「うん。ありがとう柊木さん、使わせていただきます」


 僕は柊木さんにお礼を言って、プレゼントを袋に戻した。

 すると、なんだか視線を感じたので、そちらの方を見ると、華さんがすごいニコニコしていた。


「ど、どうしたんですか。華さん」

「いえ?ただ喜んでる二人を見てると、こっちまで嬉しくなってきただけよ」


 たしかに嬉しかったし、柊木さんも喜んでくれていたようなのでよかったが、その様子を見られていたと思うと、なんだか恥ずかしくなってきた。

 それは柊木さんも同じようで、少し顔を赤くしながら俯いていた。

 そしてお互いに顔を赤くして俯いていた姿を見て、華さんからさらに温かい視線を送られたのは言うまでもない――。



 柊木家のクリスマスパーティーも、だいぶ遅い時間なのでお開きになった。

 華さんたちに改めてお礼を告げ、今は玄関に柊木さんと一緒に出てきていた。


「今日はありがとう。楽しかった」

「うん。こちらこそ、来てくれてありがとう」


 さて、帰る前に、タイミングを逃して言い忘れてしまったことを言うとしよう。

 ここに来て、少し緊張してきた。


「柊木さん、あの・・・」

「?」

「よかったら今度、年明け前にどこか一緒に二人で遊びに出かけませんか?」

「・・・!」


 ようやく言いたいことが言えたが、緊張で思わず敬語になってしまった。

 柊木さんのほうは、少し驚いた表情をしている。

 しばらく返事を待っていると・・・。


「うん・・・!私も一緒に遊びに行きたい・・・!」

「そっか。・・・それじゃあ、また詳しいこと決めたらメッセージ送るよ」

「わ、わかった」

「それじゃあ、今日はこれで。お邪魔しました」

「うん。気を付けて帰ってね」

「うん、またね」


 そうして、柊木家を出る。

 遊びに出掛けるお誘いもOKしてもらえて一安心だ。

 まだどこに行くかは決まっていないけど、今からすでに楽しみな自分がいるのを感じながら、家へと帰って行くのだった――。





 笹原君が帰った後、しばらく玄関で立ち尽くしていた。

 先ほど、笹原君から二人で一緒に出掛けないかとお誘いを受けた。

 私も同じ話をしたかったけど、なかなか勇気が出せずにいるうちに、笹原君のほうから話が出たので、少しびっくりしたけど、すごく嬉しかった。

 男子が苦手なはずの私が、ここまでテンションが上がっていることに自分自身驚いている。

 笹原君からプレゼントをもらった時も心が温かくなるのを感じた。

 そして、桜ちゃんに相談して手袋と、お母さんに協力してもらって手作りしたしおりも喜んでもらえて嬉しかった。

 笹原君と友達になってから、私にとって初めての体験や感情がたくさんだった。

 二人で出掛けるのを、今から楽しみにしながらリビングへと戻って行った。

 


 ちなみにリビングへ戻ったら、お母さんたちに温かい視線を送られて、居たたまれなくなりました・・・――。

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