第3話 「緊急会議です、柊木さん。」

「緊急会議です、柊木ひいらぎさん」

「は、はい・・・」


 水曜日の放課後、僕は柊木さんを屋上に呼び出していた。

 理由はもちろん、昨日のメッセージの件と学校内での接し方についてだ。

 柊木さんは若干目を逸らしている。


「まず昨日のメッセージについて、ご説明いただきたい」

「・・・笹原ささはら君を夕飯に誘いました」

「うん、誘われたね」

「・・・母が」

「・・・へ?」


 なんと、柊木さんのお母さんからそんな話が出たらしい。

 しかし、なぜ僕を夕飯に誘う話になったのだろうか。


「・・・この前のお礼がしたいって・・・お母さんが」

「あー・・・なるほど」


 どうやら、柊木さんを送っていった日のお礼がしたいから、夕飯に誘ってくれているようだ。


「・・・笹原君に助けてもらった日のこと、あの後詳しく聞かれて、それでお母さんテンション上がっちゃって・・・。止めようと思ったんだけど、もう聞く耳持たない状態で・・・」

「はは・・・」


 柊木さんが、若干申し訳なさそうな表情で説明してくれた。

 なぜテンションが上がったのかよくわからないが、一応止めようとしてくれたらしい。

 その努力むなしく、押し切られてしまったようだが。


「・・・それで、お母さんとお父さんが、笹原君とオハナシがしたいから家に呼んで、お礼も兼ねて一緒に夕飯を食べないかって話に・・・なったんだけど・・・」

「ちょっと待って今恐ろしいこと言わなかった?」

「・・・」


 また目を逸らされる。

 どうやら柊木さんのご両親はオハナシもしたいらしい。

 仮にお誘いを受けたとして、僕は生きて帰れる気がしない。

 主に柊木父あたりに消されたりしないだろうか?正直不安しかない。

 さて、どうしたものか。

 柊木さんはまだ僕と一緒にいるときは緊張しているようだし、僕らのぎこちない姿を見せて、果たしてご両親はどう思うだろうか。

 より一層、心配させるのではないか?それに、まだ友達になって間もないのに、いきなりご家族と一緒に夕飯というのは僕にとってはハードルが高すぎる。

 考えただけで胃が痛くなってくる。


「・・・私は・・・できれば笹原君に来て・・・ほしい」

「柊木さん・・・」


 柊木さんは顔をほんのり赤くしながら、恥ずかしそうに言った。

 そうだ、こんな風に僕を友達として自分の家に呼ぶのだって、すごく緊張しているはずだ。

 今こうやって僕と話をするのもまだ慣れていないし、もしかしたら少し無理をしているかもしれない。

 それでも、はっきりと『来てほしい』と言った。

 それなのに・・・。


「・・・また、一人で考えちゃってたな・・・」


 昨日、成人たちに言われたばかりなのに、柊木さんがどうしたいのかを聞くことをしなかった。

 彼女がどうしたいかなんて、僕が決めることじゃないのに。

 柊木さんが変われるように、力になりたいと思ったのは本心だ。

 でも、変わるのは柊木さん自身だ。

 変われるように手助けしたいという僕の気持ちだけ先行させて、どうする。


パチンッ!

「!?」


 自分を叱るように、両方の頬をひっぱたく。

 僕の突然の奇行に、柊木さんも驚いている。


「・・・土曜日のお誘い、受けるよ」

「ほ、ほんと・・・?」

「うん、ものすごく緊張するけど・・・頑張るよ」


 柊木さんもほっとしている。

 初めて男子の友達を自分の家に呼ぶのに、緊張しないわけがない。

 僕が逆の立場なら、緊張で誘うことさえできなかったと思う。

 こうなれば、僕も覚悟を決めて、土曜日に臨むしかない。

 大げさかもしれないが。

 

「とりあえず土曜日の件はこれでよしとして、あとは学校の中での接し方について話し合いたいんだけど」

「・・・学校での接し方?」

「そう。僕たちは教室や廊下とかで、お互い話かけたりしてないわけでしょ?そのあたりをどうしようかって話だね」


 僕と柊木さんが友達になったことを知っているのは、成人と桜だけだ。

 他の生徒たちは当然知らない。

 柊木さんに友達のように話しかければ、お互いに変な注目が集まる可能性がある。

 僕としても、面倒事はなるべく避けたいが、まず柊木さんがどうしたいのか確認しなければならない。


「柊木さんはどうしたい?学校の中で友達であることはひとまず伏せて、学校の外で遊んだりするのをメインにするか、注目は浴びるけれど、学校の中でも話しかけていいのか。まあこれはほかの男子とかも刺激しかねないけど・・・。」

「・・・私は、まだ笹原君以外の男子と、話すのはまだ怖い、かな。・・・いずれは大丈夫だって言えるようになりたいけど・・・」


 やはり柊木さんも、他の男子が話しかけてくる可能性はできる限り避けたいようだ。

 ならば、そこは尊重するべきだろう。


「それじゃあ、しばらく学校内では今まで通りにして、主に学校の外で友達として仲を深める感じでいいか」

「うん、それでお願いしたい・・・かな」

「わかった」


 今後どうしていくのか詳しく決まったわけではないが、ひとまずこんなところだろう。

 なにかあれば、相談して話し合えばいい。

 お互いのことをよく知らないままスタートした友達関係だけど、少しずつでも、お互いのことを知っていけたらと思う。


「そうだ。もし、柊木さんが少し男子が大丈夫になれば、僕の友達も紹介するよ」

「それって、戸田さんと・・・えっと、隣のクラスの・・・?」

「あ、そうそう。戸田桜と南成人。同じ小学校出身で、僕は親の仕事の都合で別のところに引っ越しちゃったから中学は別だけど、高校で再会した友達」


 たまに教室に3人で集まって雑談したり、一緒に学校の食堂まで行くのをたまたま見ていたのか、二人のことは知っているようだった。

 いずれは二人とも友達になってくれればいいなと思う。


「・・・いつか、友達になれたら、いいな」

「・・・!」


 はにかみながらそんなことを言った柊木さんを見て、少しドキッとした。

 なぜ、どうしてこんなに心臓がバクバク言うのか。

 それが、今の柊木さんが可愛かったからだと理解した時には、直視できずに顔を逸らしていた。


「・・・?」


 これは、男子が可愛いと言っていたのもわかる。反則だ。


「ちょっとだけ・・・不安になってきたな・・・」


 柊木さんには聞こえないように、小声でつぶやいた。

 この先、友達として接するなかで、あんな表情をもっとたくさん見れるかもしれないと思うと、楽しみでもあり、少し不安でもある。

 どうやら、心臓に悪い一日になるのは、土曜日の夕飯だけではなさそうだ――。




 

 


 


 

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