第24話 みんなでボウリング
「それっ!」
そんな掛け声とともに投げられた球はレーンを勢いよく転がっていき、奥に三角形の形に並べられた10本のピンに当たって、豪快な音を響かせながらピンが倒れる。 そしてレーンの上に設置されているモニターにスコアが表示される。
「あー!惜しい!」
桜が投げた球はピンをすべて倒すには至らず、2本だけ残ってしまった。
惜しくもストライクは逃してしまったが、もう一度投げられるのでそれで倒せればスペアは取れる。
幸い残ったピンの位置は纏まっているので、比較的取りやすいだろう。
「・・・なんでボウリングなわけ?」
僕の隣に座る樹木がそんなことを聞いてきたので、身体をそちらの方に向ける。
レーンの方では二球目を投げた桜の「そっち行かないで~!」という悲鳴が響いている。
「桜が体を動かしたいって言ってたからでしょ」
前に5人で遊びに出掛けようという話をした際に桜が体を動かしたいと言っていたので、様々なスポーツが楽しめる施設、エンジョイスポーツ、通称『エンスポ』に遊びに来ていた。
みんなで話し合った際には、樹木も特に反対はしていなかったはずだが、何か不満絵もあるのだろうか。
「いやそれはわかってるんだけど、どうしてボウリングなのかって聞いてんの。他にもいろいろあるでしょ、上の階に」
「普段ボウリングなんてやらないから、せっかく来たんだしやらないと損でしょ?」
自分の番を終えた桜が僕の代わりに答える。
ちなみに順番はくじ引きにより桜→成人→樹木→僕→栞なので、今は成人が投げている。
「お疲れ様、桜ちゃん」
「ありがと~しおりん!惜しくもストライク逃しちゃったよ~」
「ストライクどころかスペアも逃してたよね」
「拓道うっさい!」
「いてっ」
先ほどスペアの逃していたことで桜をからかうと、頭を叩かれてしまった。
外してたのは本当じゃん・・・。
「それで?いっちゃんはなにが不満なの?もしかしてボウリング下手で負けるのが怖いとか?」
「ハァ!?あんな取りやすい位置のスペア逃すアンタよりは上手いし!」
「ほほう?ならスコアで負けたほうがジュース奢りっていうのはどう?」
「上等だ!あとで吠え面かくなよ!」
桜の明らかな挑発に乗ってしまった樹木はそう言うと、立ち上がってレーンの方に向かう。
気づけば成人の番は終わっていた・・・ストライクで。
「俺のストライクの瞬間を誰も見てなくて悲しいぜ・・・。ガッツポーズして振り向いたら誰もこっち見てないんだもんな」
「ごめんごめん。こっちはこっちで面白いことになっててね」
「わ、私はちゃんと見てたよ!成人君のストライク」
「うぅ・・・ありがとな栞」
先ほどのストライクの瞬間を見ていなかったことがショックだったのか、うなだれる成人を栞が慰める。
「あー!嘘でしょ!」
レーンの方からそんな声がしたので見てみると、樹木が投げた球は7本のピンを倒したようだが、残った3本は両端に2本と1本というスペアを取るのが非常に難しい形で残ってしまっていた。
「樹木ちゃん・・・」
「あらら・・・あれは難しいね」
「ぷふー!いっちゃんどんまい!」
「うっさい!見とけ!」
桜の煽りには即座に反応して返す樹木。
「・・・なるほど。そういうことね」
どうやら成人は今の桜と樹木のやり取りを見て状況を察したようだ。
「桜も煽るのはほどほどにしとけよー」
「いやそれはいっちゃんが・・・」
「よっしゃー!」
桜がなにか言いかけたところで、レーンの方から今度は嬉しそうな声が響く。
声に反応してみんなでレーンの方に目を向けると、先ほどのスペアが取りにくい位置で残っていた3本のピンが倒れていた。
2本纏まっているほうを狙い、弾いたピンが上手い具合にもう1本のピンに当たったようだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
「すっご・・・」
これはすごいと言わざるを得ないほど見事なスペアだった。
「どうだ!ざっとこんなもんよ!」
「ぐぬぬ・・・やりおる」
先ほどの煽りに対して、ドヤ顔を向ける樹木と悔しそうにする桜。
なんだかんだボウリングにそこまで乗り気ではなかった樹木も、桜のおかげと言っていいのか楽しめているようだ。
「樹木ちゃんすごいね!」
「ありがと栞。このまま勝って桜にジュース奢ってもらうから見てて」
「いやまだ分からないし!勝つから!私を応援してねしおりん!」
「え、えぇ・・・どっちも頑張って・・・?」
樹木と桜に挟まれて栞があたふたしていて、非常に微笑ましい光景だ。
「女性陣盛り上がってんな~」
「だね。さて、次は僕の番か」
「頑張れよ~」
ひとまず自分の番が回ってきたので、球を持ってレーンの方に向かった。
球を構えて深呼吸を一回して、狙いを定める。
「・・・ほいっ!」
そんな掛け声とともに、球を投げる。
レーンを転がり、球は狙った場所へ・・・転がっていかなかった。
「あっ・・・」
狙いを外れて転がっていった球はレーンの左端のガーターに入ってしまい、ピンを1本も倒すことなく奥へと吸い込まれていった。
「・・・・・・」
「タク、お前・・・」
「下手じゃん」
「い、樹木ちゃん!」
後ろの方からド直球な言葉に膝から崩れ落ちそうになる。
球を投げるときに重さと遠心力が想像以上に強く働いたことで、手元がブレてあらぬ方向へ球が転がっていったのだが、それにしたって下手と言われても仕方のない結果が目の前に広がっている。
「が、頑張って!拓道君!」
「・・・ありがとう、栞」
栞が後ろで応援してくれたので、なんとか持ち直して2投目を準備する。
先ほどの1投目で感覚はなんとなく掴めたので、今度は重さと遠心力に負けないように投げる際に腕に力を入れれば大丈夫なはずだ。
「・・・ふんっ」
先ほどとは違い、しっかりと狙った通りの方向へ球を投げることに成功した。
そのまま転がっていった球は、10本のピンの真ん中辺りを撃ち抜き、豪快な音を響かせながらすべてのピンが倒れる。
2投目で無事スペアを取ることができた。
「おお!やったな」
「よかった・・・」
「やったね!拓道君!」
「ありがとう。ストライクじゃないのが残念だけどね」
成人と栞も一緒に喜んでくれて、こっちも嬉しくなる。
ほんと、スぺアが取れてよかった。
「これで栞もスペア以上を取れば、桜以外スペア以上取ったことになるな」
「嫌ァ!しおりん置いてかないでぇ!」
「さ、桜ちゃん・・・」
先ほどのお返しと言わんばかりの樹木の煽りに、桜は栞にしがみ付いて一緒にスペア以上を取ってない組になろうと懇願している。
友達にそんなことをお願いするのもどうかと思うのだが、よほど自分だけスコアが低くなることを気にしているようだ。
「拓道があの状況でスペアなんて取るから!」
「理不尽だ・・・」
なんという理不尽な言いがかりだ。
むしろ友達がスぺアを取ったことを一緒に喜んでほしいところだ。
「それじゃあ私の番だから行ってくるね」
「頑張って栞」
「頑張れよ~!」
「うん」
そういうと栞は球を持ってレーンへ向かい、位置に着いて球を構える。
「・・・えいっ!」
そんな可愛らしい掛け声とともに勢いよく球を投げる。
勢いのついた球はレーンを転がっていき、10本のピンの真ん中辺りに当たった。
そして・・・。
「あっ!」
大きな音とともに10本全てのピンが倒れ、モニターにでかでかと『ストライク!』の文字が表示されている。
「やった・・・!やったよ!」
見事取ることができたストライクに、栞は大興奮している。
「おめでと!すごくいい投げっぷりだった」
「えへへ・・・。ありがと、樹木ちゃん」
「ほえー。これは俺も負けてられないな」
「うぅ・・・おめでとう、しおりん。でも・・・置いてかないでぇ!」
「わわっ!桜ちゃん・・・!」
みんなが栞のストライクを褒め、栞は満面の笑顔でそれらを受け取っている。
「おめでとう、栞。すごかった」
「・・・!えへへ、ありがとう、拓道君」
僕も素直な称賛の言葉を送ると、栞は頬を少し桃色に染めながら照れくさそうに笑った。
「さーて、これでスペア以上を取っていないのは桜だけだな?」
「ふん!今に見てなよ!ぎゃふんと言わせてやるんだから!」
華やかな雰囲気の中、桜だけ瞳を燃やしながらレーンへと向かっていく。
なぜかは分からないが、この後の展開が読めてきた気がするな。
ひとまず桜の健闘を祈ることにして、自分も負けないように頑張ることにした。
結果は桜が最下位で1ゲーム目は終了したのだった――。
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