24:長期出張・召喚被害者捜索案件(後)

異世界『エンデ』のエルビア王国によって4人の日本人が異世界召喚されるという拉致事件が発生。

雄二、メリス、エルメナ、ギルディアスの境界警察局員4人が介入し、首謀者であるエルビア王国国王ロンディらを逮捕、召喚被害者4名中3名の救助に成功した。


しかし…残り1名、館森瑞稀(たてもりみずき)の所在が未だ不明となっており、その捜索のために雄二とメリスとギルディアスの3人が異世界『エンデ』に長期出張することになった。エルメナも当然地球側からサポートを続けている。


そんな中、捜査を行っていたギルディアスが手がかりと思しきものを入手してきた。それが「この世界にあるはずのない品である、リンスインシャンプーが詰められたポーションボトル」であった。この流通ルートから、行方不明者である館森瑞稀がエルビア王国の隣国、アーノルド帝国へ向かった可能性が高いと判断した雄二はすぐに臨時拠点としていた宿を引き払い、隣国アーノルド帝国へ向かうことを決定した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆



王都正門を出た街道沿いの草原。

発注していた冒険者ギルドへの依頼も取り下げ、宿に開いていた門(ポータル)も閉じた。王国の政治は国王代行となった第一王女が境界警察局監視のもとで行ってくれている。

「ギルディアス、帝国領までのルートは把握できているか?」

装備を整えた雄二が、人化魔法を解いてドラゴンの姿に戻ったギルディアスに問う。

『うむ、王都のすぐ東にはヴァティスの森と呼ばれる広大な森がある。そこを抜けた先が帝国領となるのだ。…まぁ森など我に乗って飛び越えてしまえば関係ないがな。』

ギルディアスが答える横で、メリスは予め購入していた大陸地図を広げる。

「ええっと…ヴァティスの森を抜けた先に南北に伸びる街道があって、北側に帝国貴族ウェイン辺境伯の治める商業都市カーラリア、南側に同辺境伯傘下の農村がありますね。情報が集まるとすれば商業都市カーラリアを目指すのが定石でしょうね。」

地図上を指し示しながら説明するメリス。なお彼女の銀髪ロングヘアーは昨晩ギルディアスが入手してきた証拠品のリンスインシャンプーのおかげでツヤツヤサラサラになっている。心なしかメリスの表情も明るくなっているように見える。

「よし、先ずは商業都市カーラリアを目指そう。」

雄二は即断した。

『承知した。では我の背に乗るが良い。』

ギルディアスは姿勢を低くし、背中の義肢部位に座席をせり出させる。

「おう!」

「了解!」

雄二とメリスは慣れた足取りでギルディアス背の座席に乗り込む。

『では行くぞ!!』

乗り込んだことを確認したギルディアスは認識阻害魔法を展開後、魔法の光で出来た翼膜を持つ機械翼を羽ばたかせ空へと舞い上がった。

瞬く間に王都が小さくなっていく。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




『見えたぞ雄二、街道だ。』

数十分後、無事にヴァティスの森を飛び越えて帝国領の街道上空に差し掛かった。途中で野生型ワイバーンの群れに出くわしたが、どうやらこの世界ではワイバーンよりもドラゴンのほうが上位種らしく、ギルディアスの姿を見たワイバーン達は恐れをなして高山地帯方面へ逃げ出していった。

「あの向こうに見える都市がカーラリアだな?」

「えぇ、間違いないかと!」

街道の北側を向くと、遠目に城塞都市が見える。メリスが確認した地図の通りだ。

『よし、ならば近場まで……む!?』

都市へ向けて進もうとしたギルディアスが、街道上に上がっていた土煙に気づいた。ギルディアスは直ぐ様右目の義眼である高性能アイカメラで土煙の向こう側をスキャンし始める。

「どうしたギルディアス?」

雄二が背中から問いかけるが、ギルディアスはそのままスキャンを続ける。やがて…。

『…商隊のものと思しき馬車が2頭の熊の魔獣に襲われているぞ。どうする?』

結果を告げるギルディアス。雄二の決断は早かった。

「直ちに救援に向かうぞ!ギルディアスは認識阻害を解除してまずは咆哮で怯ませろ!」

『心得た!』

「メリス!俺が熊を仕留める!お前は馬車と被害者救護を!」

「了解!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ぶもおおおお!!!」

「ひいいいいい!!」

馬車は無惨にも横倒しとなり、商人である恰幅の良い男はその影に隠れながら怯えていた。側には妻と一人娘。馬は既に熊にやられてしまっており、護衛に雇った冒険者達4人も既に3人が負傷し、まともに立っているのは剣士一人だけ。

「クソッタレ!まさかこんなとこで暴食熊(グラトニーベア)が2体も出るとはな!!」

「リーダー…!!」

「下がってろ!」

心配する仲間をリーダーの剣士は叱咤して下がらせる。とはいえ現状は最悪だ。自分達のレベルを上回る魔獣である暴食熊が2体だ。

「くそっ……こんなところで……!!」



「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



突如上空から空気を震わせるほどの咆哮が降り注いだ。暴食熊達も一瞬怯んだ後に視線がそちらに逸れる。

「な……なんだあれは!?」

見上げたリーダーの視界には、天を衝くほどの巨体を誇るドラゴンがいた。しかも背中に人が乗っているではないか!

その背中に乗っていた2人が何の躊躇もなくドラゴンの背から飛び降りた。片方は銀髪の美しい女性、もう片方は全身鎧(フルアーマー)の男だ。

その全身鎧の男が落ちながら右腕を構え、なんと真っ赤な熱線を発射したのだ。暴食熊の片割れがその熱線を頭に食らい、首から上が消し飛んだ。

「ゴアア!?」

突然の仲間の死が理解できず、もう一匹の暴食熊は混乱する。

その隙に、既に着地していた銀髪の女性がなんと腕から無数の茨を生やし、剣士含む商隊一行と暴食熊の間を遮ったのだ。

「私達は一応冒険者です!今のうちに下がってください!」

茨を操っている銀髪の女性はそう叫んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


全身鎧の男ことパワードスーツ姿の雄二はプラズマビームでまず1体の熊を仕留めた。

未だ混乱しているもう一体の熊にはショックビームを連射し動きを鈍らせる。

「ぶもおおお!?」

体が電磁波で痺れ、うまく動けなくなる暴食熊。その隙に雄二は再びプラズマビームに切り替えてフルチャージ。

「悪いな。」

そう言って雄二は再びフルチャージのプラズマビームを発射。もう1頭の熊の頭を塵も残さず焼き尽くした。

「た……助かった……」

腰が抜けたのか、剣士は地面に尻餅をついて呟いた。



「本当に、本っっっっっ当にありがとうございます!!」

恰幅の良い商人の男がメリスのもとへ駆け寄り手を取って感謝を述べた。

「い、いえいえ…一応一冒険者として当然のことをしただけですよ。」

「何をおっしゃいますか!こんな我々なんかの為に危険な魔獣の前に飛び出していくなんて、あなた方がいなければ私達は今頃全滅していたでしょう!!あなた達は命の恩人です!!」

商人のリーダーはその恰幅のいい身体を極限まで縮こませて頭を下げ続けた。

「俺達からも礼を言わせてくれ。護衛を請け負った身としては情けない話だが、まさか暴食熊が2体も出るとは思わなくてな…おかげで命を拾ったよ。」

先ほど暴食熊と最後まで向かい合っていた剣士もメリス達に礼を述べた。

「いえいえ、たまたま目的があってカーラリアを目指していたところで貴方方を発見した次第でして…。」

メリスは手を振りながらそう言った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



やがて落ち着いた一行は互いに自己紹介し合う。

恰幅の良い商人の名はニコルソン。

妻のシーラ、娘ナタリアの3人で日用品を中心に手広く商売を行っている「ニコルソン商会」である。

今回護衛に雇っていた冒険者4人パーティ「疾風」。

剣士のアンドレをリーダーとし、格闘家のアラム、レンジャーのイルマ、そして魔術師のイェシカである。

そして雄二達は一応エルビア王国で冒険者として登録はしていたのでここでも冒険者として名乗ったのだが…。


「なるほど、冒険者の肩書はあくまで一時的なもので…。」

「本当は異世界からやってきた『境界警察局』という機関の局員…。」

日も落ち、暗くなった中で焚き火を囲みながらニコルソン夫妻は感嘆の声を漏らす。

「えぇ、今回我々は境界警察局員としての任務でこの世界『エンデ』にやってきていまして、その道中で貴方方を発見し救援したということです。」

食事のためヘルメットだけ脱いだ雄二が補足した。

『我々は人助けのためにある組織だからな。ならば危機に瀕する者達を救うのに迷いなどあろうはずもない。』

人化魔法で人間に変身したギルディアスも言った。

「えぇ、たとえどんな場所であろうとも困っている人がいるならば力になりたいですからね!」

メリスも続ける。

「はぁー……あなた方のその『境界警察』という組織には大変興味を惹かれますな……。」

ニコルソンが顎に手を当てて思案するように言う。

その横で魔術士イェシカも驚愕の眼差しで境界警察局員3人を見ていた。

「スキルを利用した魔砲を放つ全身鎧…茨を操る力を持つ聖属性のリッチ…失った半身と翼を魔道具仕掛けの義肢に置き換えたドラゴン…たしかにこの世界にはない、ぶっ飛んだメンツばかりだわ…。」


その中で、雄二達はカーラリアへ向かう目的を明かす。エルビア王国で勇者召喚が行われたことで地球側で4人の日本人が攫われてしまったこと、首謀者である王を逮捕連行したこと、4人中3人は無事に救出できたこと、しかし残り1人がまだ行方不明のままであること、そして…。

「王国で捜査を行っていた中で、これを発見しまして…。」

そう言ってメリスが取り出したのは、あのリンスインシャンプーが入ったポーションボトル。

それを見たイルマとイェシカが反応した。

「あれ、これって今帝国で人気の水石鹸じゃん?」

「貴族連中がこぞって買い求めてるっていう噂のやつだよね?」

「こちらでは水石鹸と言うんですね…それで、これの出元がもしかしたらと思いまして調査するために帝国に入ったんですよ。」

メリスは説明した。それを聞いたニコルソンが目を見開いた。

「なんと…この商品が異界からの捜査官の目に留まったということはもしや…?」

『そうだ、最初に見つけたのは我だが、この中身は元々我々地球世界側で一般に売られているものだ。それが何故かこの世界にて売られていたのでな。』

ニコルソンの声にギルディアスが反応した。

「なんと…!?」

ニコルソンは目に見えて驚愕と戦慄の表情に変わる。

「…もしや何かご存知で?」

それに反応する雄二。ニコルソンはソワソワしながらも答える。

「えぇ、実を申しますと私ニコルソン商会でもこの水石鹸を取り扱っておりまして…その仕入元としてある御方と専属契約を結んでおります。」

「専属契約を結んだ仕入元…!?」

「その方の名前は、何という方ですか!?」

雄二とメリスが思わずニコルソンに詰め寄る。


「えぇ、その…ミズキ・タテモリというお方でして…帝国でも珍しい…そう、雄二様と同じ黒髪を生やした女性の方でして…。」


「「『それだあああああああ!!!!』」」

3人が一斉に声を上げた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




翌日。

雄二達はニコルソン一家にミズキ・タテモリとの面会の約束を取り付ける代わりとして、破損し馬も失った馬車と積荷をギルディアスに運ばせてカーラリアまで護送することにした。ニコルソン商会としても、すぐにでもミズキとの面会がしたいという理由からこの提案は二つ返事で承諾された。

「本当に何から何までありがとうございます!」

ギルディアスに担がれている馬車の中で、ニコルソンがメリスに頭を下げた。

「いえいえ、コチラとしても重要な情報が得られて助かりました。この後はよろしくお願いしますね。」

「勿論でございますメリス様!お任せ下さいませ!」

メリスの言葉にニコルソンは弾んだ声で返答した。

雄二のみがギルディアスの背に乗り、メリスとニコルソン一家に疾風の4人が担がれた馬車の中に乗っている。そしてギルディアスが馬車を担ぎ、カーラリアへ向けて飛んでいるのだ。

「ふわあああ……飛んでる〜!お空飛んでるよ〜!!」

ニコルソンの娘ナタリアが大喜びしながらはしゃいでいた。

「ナタリア、あまりはしゃぐと落っこちるわよ?」

シーラが苦笑しながら窘める。

『そら、もうすぐ到着だ。着地する故、皆備えよ!』

ギルディアスが告げた通り、目的地カーラリアが目の前に差し掛かっていた。


ドラゴンが街に近づいたということで衛兵隊が駆けつけてきたが、ニコルソンが対応してくれたこととギルディアスが人化魔法で変身して冒険者証を提示したことですぐに開放された。

「対応ありがとうございますニコルソンさん!」

「いえいえ、これくらいはお安い御用ですよ!」


こうしてカーラリアの街に入り、まっすぐニコルソン商会へ向かった一行。先ずはここでニコルソン一家の馬車の荷を降ろす。

「いやはや、凄いですねメリス様のお力は…。」

ミズキ・タテモリとの面会前の手伝いとして、荷下ろしを手伝うメリスを見てニコルソンは感嘆の声を漏らす。

「いえいえ、いつもポータルレンズ設置とかでよくやってますから。」

メリスは両腕から出した茨の蔓で複数の積み荷をヒョイヒョイと運び出していた。

「よいしょ……と!お待たせしました!」

運び終えたメリスのところにニコルソンが寄ってきた。

「いやはや、とても助かりました……!ささ、ではミズキ様の元へご案内いたしますのでこちらへ……!」


商談用の応接室に通された雄二、メリス、そして人間形態のギルディアス。

しばらくすると扉が開き、ニコルソンと共に一人の女性、そして1頭の大きな魔獣が入ってきた。4本足の巨大な鷲のような魔獣…グリフォンだ。そして女性の腕の中にもう一匹、小さな犬と思しき生き物を抱きかかえている。雄二達はグリフォンが入ってきた瞬間驚愕するが、何とか努めて平静を保つ。

グリフォンは入るなり此方を軽く睨みつけてきたが、女性は雄二達を見てハッとする。

「え…その格好って…!?」

それに被せるように、メリスが発言。

「館森瑞稀さんですね?境界警察局のメリス・ガーランドです。助けに来ました。」

そう言って境界警察局員手帳を出すメリス。それを見て彼女も即座に理解した。

「あぁ…やっと来たんですね境界警察局さん……!!」

安堵感からか、涙を流し出す瑞稀。

「向こうでも捜索願が出ていますし、ご家族が待っています。それでは地球世界、日本国へお連れします。」

雄二が瑞稀に説明し、アームキャノンではない方である左手を差し出す。

しかし、瑞稀は手を取ることを躊躇してしまう。

「え、えっとその…。」

それと同時に、後ろで控えていたグリフォンがギッと睨みつけ唸りだす。そしてなんと、言葉を話したのだ。

『貴様等、我が主(あるじ)を連れ出そうというのか?ならば我は許さぬぞ。』

明確に殺気を向けてくるグリフォン。

「グリフ、やめて!」

グリフォンをグリフと呼んで止めに入る瑞稀。

『何を言うか主よ!こやつらは主を我らの元から引き離そうとしているのだろう?そんな事我は認めん!!』

「だーかーらーそういうんじゃなくって…あーほらフリルちゃんも泣かないでほら!」

グリフと呼ぶグリフォンを押さえ、尚且つ腕の中にいるフリルと称した子犬も宥めている瑞稀。大変そうである。

『……おい、雄二にメリスよ、まさか…。』

ギルディアスが雄二とメリスに問う。

「……あぁ、危惧してたパターン来ちゃいましたね…。」

「あぁ、間違いないな…。」

雄二とメリスはため息をつき、肩をガクッと落とすのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



実は召喚被害者の中には、地球への帰還を諸事情により拒否する者も珍しくない。

主な理由としては、地球側の環境よりも異世界側の環境のほうが馴染むからだったり、異世界側で生活基盤を築き上げたためだったり、あるいは現地の者と家族関係を結んだためだったり…などだ。

様子を見る限り、今回の帰還拒否の要因は『生活基盤』と『家族関係』であろう。

これまでの捜査で、瑞稀はこのアーノルド帝国にてギフトを利用して生活基盤を構築しているだろうことが判明している。そして今、言葉を喋る魔獣達と共に暮らしているのであろうことが見て取れた。

『一体どうするのだ雄二よ…?』

「こればっかりはな…本人の意志が最重要だからな…。」

「私達としてはご家族のもとへ帰してあげたいのは山々なんですがね…。」

雄二とメリスとギルディアスは揃って口ごもる。館森瑞稀の発見は無事に叶ったのだが、彼女を地球世界に帰還させるには彼女自身の意志を問わねばならなくなってしまった。

「……相当期間はあったのだし、こうなってしまうのも一応は想定していたさ…。ならば仕方あるまい。」

雄二が結論を出した。それにメリスとギルディアスも従う。

「ですね…では私が問いますね。」

『うむ、心得た。』

「あぁ、頼む。」

3人は瑞稀と対面する形で座り、語りだす。

「館森さん、よく聞いてください。あなたの無事が確認できましたので、改めて確認を取らせてもらおうと思います。」

「……はい!」

「あなたは現状このままの生活を続けることが望ましいと考えていますか?それとも地球世界、日本国への帰還を望みますか?」

メリスが改めて瑞稀に問う。その問いに瑞稀は言葉が詰まる。

『おい主よ、お主が元の世界に帰ってしまったら我らの飯の面倒はどうなるのだ!?』

瑞稀の後ろからグリフォンのグリフが苦言を呈す。

「クゥ〜ン……。」

瑞稀の腕の中で子犬のフリルも悲しげに鳴く。

『そら、フリルも行くなと泣いておるではないか!』

グリフがフリルの言葉を通訳した。

「あの、今更ながらこの子達は…?」

メリスが2体の魔獣達について問う。

「あぁ、すみません…改めて説明しますね。」

瑞稀は説明を始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


館森瑞稀はエルビア王国に召喚された後、与えられたギフトが奴らの想定していた戦闘系ではなかったことから追い出されることになり、その際に機転を利かせて路銀を王から毟り取った。

そしてギフトを確認したのだが、何と『ワイオンモールネット店』。まさかのショッピングモール大手のワイオンモールのネット通販サイトを開くことが出来、現地通貨で商品を購入することが出来るというものであった。

それで食料を確保しつつ、王国の冒険者ギルドに護衛を依頼してエルビア王国を脱出、ヴァティスの森を抜けてアーノルド帝国領内に入国。カーラリアに向かう途中で野営中に1頭のグリフォンに襲われかける。それも長年生きて高みに上り詰めた希少種である『エルダーグリフォン』だ。

しかしなんと瑞稀がギフトで購入していた調味料を使った肉料理であっさりグリフォンが陥落。契約まで結んでくれたため『グリフ』と名付けて共に行動することになったのだ。その後は無事にカーラリアに到着、グリフの件で一悶着になりかけるも護衛の冒険者のおかげで何とか解決。その後カーラリアで定住するためにギフトで仕入れられる品々を利用して商売を始めることにした。その際に採用した商品の中にシャンプーなどの日用品もあり、この日用品販売の専属契約先にニコルソン商会が名乗りを上げたというわけだ。

なおグリフの食料確保のためにちょくちょく狩りに付き合わされており、ある日の狩りのときにフレイムウルフの子供を発見。そのあまりの可愛さからフリルと名付けて保護したのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


およそ半年の間、これだけの出来事が起こり、すっかり瑞稀はこのカーラリアに定着してしまっていたのである。

そんなわけで瑞稀が下した判断は…。


「すみません境界警察局さん、私…もう地球世界に帰るわけには行かなくなっちゃいました…。こうして家族も出来ちゃいましたし、お世話になってる人達もたくさん出来ましたし、ギフトのおかげで結構社会に影響与えちゃいましたしね…。」


その答えを聞き、雄二達境界警察局員は一度目を閉じる。

そしてすぐ目を開き、メリスが発言した。

「わかりました。我々境界警察局は、館森瑞稀さん…あなたの意思を尊重します。」

その言葉を聞き、瑞稀は安堵の表情に変わる。

「はい…ありがとうございます。」

その言葉を聞いてグリフとフリルも嬉しそうだ。

「キャンキャン!!」

『そうかそうか!これでこれからも主の飯が食えるのだな!!』

「うん、そうだよ…!」

グリフとフリルの喜びように顔が綻ぶ瑞稀。




「では正式移住するにあたって、日本国側とアーノルド帝国側でた〜っくさんの書類手続きを行うことになりますので、お覚悟くださいね?」




「………え?」

喜んでいた瑞稀の表情が、メリスからの追撃の言葉で呆けたような顔で固まることになった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




館森瑞稀の異世界『エンデ』移住に際し、行うべき手続き。

先ずは日本国での就職先を退職するための手続き。

そして国籍及び境界籍変更手続き。正式にアーノルド帝国民として移住するために必要な手続きであり、これは日本国外務省とアーノルド帝国王室との交渉も必須になるので確実に時間がかかる。

またギフトがまさかの『ワイオンモールネット店』なので、ワイオンモール本社に商品売上に関する問い合わせもしなければならない。ギフトの件に関してもワイオンモール本社に説明する必要がある。

地球世界側の住居…賃貸物件に暮らしていたのでそれも引き払わなければならないし、家財道具一式も何とかしなければならない。

そして、手続きではないが…地球側家族との話し合いも必要だ。いつまでも行方不明扱いのまま心配をかけさせたくはない。

「覚悟してくださいね?」

メリスが再度念を押す。それに対し瑞稀は困り顔だ。

「は、ははは………意思を貫くって……大変なんですね……。」

「まぁ、その…頑張ってくれ。」

雄二がフォローを入れた。



「それで、よろしければですがこのカーラリア側の瑞稀さんのお住いか、もしくはこのニコルソン商会のいずれかに地球世界側との門(ポータル)を設置したいのですがよろしいでしょうか?出来ればグリフさんやうちのギルディアスも通れるような大きい門(ポータル)を開きたいのですが…。」

雄二が瑞稀とニコルソンに問う。するとここでニコルソンが名乗り出た。

「そう言うことでしたら是非とも当商会に設置していただけますでしょうか?今後辺境伯様方や帝国王室方もご来訪されることを考慮しますと、是非ともお願いしたいところです。」

「わかりました……それで構いませんか?館森さん。」

雄二が尋ねると、瑞稀は少し考えた後頷いた。

「えぇ、こちらでは生活も安定してきましたし、もし日本から使者が来たらご案内しても問題ありませんので……。」

「ありがとうございます。それでは早速地球側への門(ポータル)を設置しましょう。」


ニコルソン商会の倉庫区画にある屋外の広いスペースに案内された一同。

「此方でしたらグリフ様やギルディアス様も問題なくご対応出来ますでしょう。」

「ありがとうございます。それでは設置を行いますので皆様、少し下がってください。」

ニコルソンの案内を受けた雄二がニコルソン含む全員を下がらせる。

そしてマギ・コールを起動し、地球側のエルメナに繋ぐ。

「こちら雄二、館森瑞稀さんの確保完了。ただし瑞稀さんは移住希望者となったので手続きが必要だ。今俺達のいる地点に大型の門(ポータル)を開きたい。」

『こちらエルメナ、了解ですよ〜。ではこちらからポータルレンズ起動しますのでギルディアスにDクローを準備してもらってくださいね〜。』

「こちら雄二、了解。」

そして通信完了後、空間に巨大な歪みが発生する。

『こちらエルメナ、いつでもOKですよ〜。』

『こちらギルディアス、心得た。』

いまだ人間形態のギルディアスが通信を受け、歪みの前に立つ。

そして人化魔法を解除、巨大なドラゴンの姿に戻る。

「おおおおぉぉぉ!!」

初めてドラゴン形態のギルディアスを見た瑞稀が驚きの声を上げる。

『ほぉ、ライトニングドラゴンか!…しかも肉体の半分を絡繰仕掛けにしておるのか、面白い!!』

エルダーグリフォンのグリフもギルディアスの姿を見て興奮する。

『D(ディメンショナル)クロー、起動!』

ギルディアスが機械義肢の右腕を突きの姿勢で構え、魔力を集中。そして勢いよく空間の歪みにDクローを突き入れた。


ズガシャン!!


そしてヒビが広がり…。



ガシャーーーーーーン!!!



空間が砕け散り、地球世界との門が繋がった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆






あれからさらに数ヶ月が経過した。

その間瑞稀はカーラリアに在住しながら時折手続きで地球に『向かう』日々を過ごし、何とか無事に境界籍の書き換えが完了。同時にアーノルド帝国が境界協力連盟に加盟することとなり、異世界感交流が開始。その窓口を、門(ポータル)を開いた場所であるニコルソン商会が務めることになった。

それに伴い、地球と異世界『エンデ』との架け橋となったニコルソン商会は信用も増し、顧客が増えていた。これによって支店も増やして拡大しており、近々日本への進出も計画しているらしい。


その数ヶ月の中で、闘争心に火を付けられたエルダーグリフォンのグリフがギルディアスに闘いを挑むという一幕もあった。

本来なら決闘罪に当たる…のだが、エルメナの「義体性能テストにもなりますよ」という意見を上層部が採用してしまったため、お互い合意のもと交流試合として行われることになったのだ。

結果は…………グリフの判定負け。

エルダーグリフォンとギルディアスは実力伯仲(じつりょくはくちゅう)していたのだが、エルメナがギルディアスに搭載した追加装備…小型ミサイルポッドやワイヤーランチャーなどの装備がグリフにとって想定外の「わからん殺し」として通用したのが決め手だ。

戦闘終了後、ギルディアスとグリフはお互いを称え合った。

『良き手合わせであったぞ、グリフよ。またやろうぞ!』

『これが機械化の恩恵か…。次こそはお主に土をつけてくれようぞ!』

言葉を交わしあった後、互いに咆哮しあって〆た。

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

『クエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!』

同時に観戦していた周囲の者達からも歓声が上がった。

……こっそり賭博対象にもされてたのだが。

「あははは…生き生きしてたなぁグリフったら……。」

「フヒヒヒ…コチラこそ義体カスタムのいい参考になりましたよ〜♪」

対戦者達の後ろで主の瑞稀と整備担当であるエルメナも親睦を深めていた。

「館森さん。」

そこに、雄二とメリスが歩いてくる。

「あ、境界警察局さん…。」

「今日はお疲れ様でした。あれからどうですか?」

メリスの問いに頷く瑞稀。

「えぇ、こうして門が開いたおかげで普通に帰省したり、逆に家族をこっちに招待したり出来るようになりましたし…本当にありがとうございました。」

「いえ、これも我々の仕事ですから。我々は次の案件がありますのでこれにて本案件対応完了となりますが、また何かありましたら遠慮なくご連絡くださいね。」

「はい、よろしくお願いします!」

瑞稀はメリスに礼を述べ、頭を下げた。




こうして、本事件は幕引きとなり、新たに異世界『エンデ』のアーノルド帝国との国交樹立となった。

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