30:総合的学習・境界事件対策講演会

都内に位置する、城南大学附属高等学校。

今日、その屋外グラウンドに全校生徒が集められていた。

「ねぇ、今日の総合的学習ってさぁ…。」

「何か講演会って聞いてるけど…。」

がやがやと生徒達が会話している中、教頭が壇上に立ってマイクで話し始める。

「え〜、皆さんおはようございます!」

マイクで響く教頭の声に、生徒達はひとまず静かになる。

「本日は特別講師の方々をお招きしまして、見学を兼ねた講演会を行います。とても有名な方をお呼びしていますので、皆様失礼の無いよう、節度を守ってお話を聞いて下さい。」

教頭が話した「有名な方」という単語を聞いて生徒達の中にどよめきが走る。

「それでは、特別講師の方々にご登場頂きましょう。お願いします!」

教頭が号令をかけ、右手を上に上げて視線も上を向いた。

釣られる形で生徒達も上を注目する。



やや曇った空の一点が、一瞬黄色く光る。


直後、空が急激に揺らめき、眩い閃光が轟く。そして光が収束してゆく中から、黄金の鱗を持つ左半身と機械義肢となった右半身を持つ巨大なドラゴンが姿を表したのだ。

(実は認識阻害で隠れていただけなのだが。)



「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

生徒達は一斉に歓声を上げる。

そして歓声の中、グラウンドの広く取られたスペースにドラゴンが着地。そしてドラゴンの背に乗っていた、藍色の制服に身を包む3人のエージェントがグラウンドに降り立った。

3人はドラゴンの前に横列で並び、敬礼をしながら挨拶をする。

「おはようございます、境界警察局の烏山雄二です。」

「同じく境界警察局の、メリス・ガーランドと申します。」

「同じく〜、エルメナ・エンジードで〜す!」

そして、後ろに座るドラゴンも敬礼し挨拶する。

『テレビで我の姿を知るものは多かろうが改めて…、我は境界警察局員である、機光竜ギルディアスである!』

拡声器を使ったかのような大音量で響く二重音声に、生徒達の歓声はさらに盛り上がる。

「凄い!」

「本物!?」

「凄え!!」

そんな中、雄二とメリスは生徒に向き直り、話を始める。

「では改めまして、今日はお集まり頂きありがとうございます。早速ですが、本日皆さんには、『予期せぬ異世界召喚被害にあった時の対応法』を中心とした、我々境界警察局の救援活動と、実際の救出の流れを体験して頂きたいと思います。」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



昨今発生している、異世界召喚による拉致被害。

現在は境界警察局や境界連盟機構による救助の流れが出来ているものの、その事件の性質上「未然に防ぐ」ということがどうしても出来ないという側面がある。どんな異世界から干渉されるかというのは地球側からはどうしても感知できないためだ。

なので未然の予防よりも、実際に被害にあった際の対応策を学ぶ方が有効的なのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ではまず、『実際に異世界召喚された場合の対処法』を、我々境界警察局のエージェントが実例を交えて説明します。」

メリスがマイク片手にハキハキした声で講演を開始する。

「異世界召喚はタイミングを選びません。登下校中や自宅にいる時、お出かけ中や就寝中、はては授業中であっても向こう側にとっては関係ありません。例えば別の学校では修学旅行中にバスごと召喚されてしまったり、また別の学校では授業中に突如一人の生徒が連れ去られてしまったこともあります。」

過去の例を思い出しながら説明するメリス。

実際この事例がもっとも多く起きている。

「こういった場合、大抵の場合は気づいたら召喚されていた、という状況になります。そのため、大抵は不安になったり混乱したりしてしまうかと思いますが、先ずはそこで冷静になることが大事です。」

メリスのこの説明の後、ギルディアスの右目の義眼から光が照射され、空中に映像を浮かび上がらせる。映し出されたのはファンタジックな魔物が跋扈する森林や荘厳な神殿の映像である。

「まずは落ち着いて、周囲を確認しましょう。自分の置かれている環境が一体どんな環境なのか、それを把握することが先決です。これは言ってしまえば、山や海などで遭難した場合とほぼ同じですね。」

メリスの説明を生徒達は真面目に聞いている。

「周囲に何があり、どんな生物がいるのか、それを見極めるためにもまずは周囲の安全確認からです。後々我々が救助に駆けつけるまでの身の安全を確保するためにも、非常に大事なことです。」

メリスは一旦息を整え、少し間を置いてから、さらに話を続ける。

「ここからはパターンが2つに分かれますね。まずは降り立った場所が森や砂漠、草原などの自然環境だった場合ですね。」

その言葉とともにギルディアスの映し出す映像が森林や砂漠の光景になる。

「この時は山や海での遭難と同じですね。まずはその時に持っているものなどをチェックし、周囲を見渡して身の安全を確保できそうな場所を探しましょう。ただ、このパターンは比較的少ない傾向にあります。何故なら異世界召喚ということはすなわち『誰かしかの意図で引き込まれた』パターンが多いからです。ということでここからは2つ目のパターンです。」


次に映像に映し出されたのは、荘厳な神殿や王城など。よく見れば魔法陣が描かれている場所を中心に映し出されている。

「これは召喚された場所が異世界の何らかの組織や国家であった場合ですね。この場合、まずは周囲にどのような人物が立っているかを大まかにでも良いので把握することが先決です。相手の意図はどうあれ、いきなり敵意を向けてしまっては得られる情報も得られなくなってしまいます。」

メリスはそう言うと、手を2回叩いて周囲の注目を集める。

「このように我々は、異世界召喚にあった際に冷静になり、周囲をよく観察することが最も重要な事だと結論づけました。それはもちろん自身の安全確保にも繋がりますが、『誰が何の目的でこちら側に干渉してきているか』ということを知る意味でも重要です。」

そしてメリスの説明は終わりなのか、一歩下がる。すると雄二が入れ替わりで前に出て話し始める。

「このように、まずはしっかりと身の安全を確保し、我々境界警察局の救助を待つのが鉄則です。もちろんですが、召喚される瞬間を目撃した場合、もしくは前触れなく突然行方不明になった知り合いがいましたら、迷うことなく我々境界警察局に通報して下さい。どんな小さな情報でも構いません。我々は全力であなたの力になります。」

雄二は力強くそう言った後、一礼した。


その後も過去事例などの映像付きの講演が続き、午前の部が終了。

「それではお昼休憩となります。午後の部の開始5分前までには集合してくださいね〜!」

教頭の指示により、昼休みに入った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




生徒達が昼休みで各々昼食を食べに解散する中、雄二とメリスは大型コンテナサイズであるスーツキャリアー内で昼食。エルメナは人化魔法で人間形態となったギルディアスと共に外でポータルレンズの敷設をしながら昼食をとっていた。

そして、手早く昼食を取り終えた雄二とメリスがエルメナとギルディアスに声を掛ける。

「そろそろいいぞ〜。」

「映像出しちゃって下さ〜い。」

それを聞いてエルメナはメガネをキラリと光らせる。

「ふっしっしっしっし、OKですよ〜♪」

『うむ、心得た。』

ギルディアスも了承し、右目の義眼から再び映像を浮かび上がらせる。今度はもっと大画面で、だ。

「男の子と一部の女の子って、これ好きですもんねぇ〜♪」

エルメナもコンソールを操作し、映像を切り替える。

そうして映し出されたのは…。


スーツキャリアー内で、メリスの補助の元でパワードスーツを装着する雄二の姿であった。


首元から手首足首までをカバーするインナースーツを着用した雄二がスーツキャリアー内の装着用ポジションに立つ。

そのインナースーツにメリスが『雄二の生命力をスーツエネルギーに変換する』呪文を書き込んでゆく。筆は無数に展開されたメリスの茨、インクはメリスの血だ。

書き込み完了後、メリスの操作で周囲の機器を稼働し、パワードスーツ本体を雄二の体に圧着させるように装着してゆく。足、胴、腕、アームキャノンと、順番に雄二の身体に金属質の鎧が装着されてゆく。続いて装着済みの胴体中央部にエネルギーリアクターが組み込まれ、雄二の生命力に反応して光り出す。最後にヘルメットが装着され、バイザーがギラリと光り出した。


「装着、完了。」


そうして、スーツキャリアーのゲートがゆっくり大きく開き、中からフルアーマーとなった雄二が姿を表す。

ガシャン、という派手な足音を響かせながら、バイザーとリアクターを光らせつつ歩み出てくるその姿を、映像もしくはグラウンドで生で見ることとなった生徒達や教員達。

当然、大半がその光景に見とれてしまうのだった。

「ふおおっ!!」

「ちょ!?カッケェじゃん!!!」

「良いな!!俺も着てみてぇ!!」

男性陣が歓喜の声を上げる中、女性陣も『うわぁ……!』と感嘆するような声を漏らしている。この時点から大盛り上がりだった。

そして雄二が空に向けて右腕のアームキャノンを突き上げると、歓声が更に上がる。

「「おお〜〜〜〜っ!!」」

そんな盛り上がる生徒達を見て、メリスは満足げに笑みを浮かべる。

(うんうん♪今回のアピールも大成功ですね!)

そう思いつつ、午後の部の準備をするためにスーツキャリアー内に戻るのであった。


実はこうした形で境界警察局をアピールし、将来の入局希望者を増やそうという狙いもあるのだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




午後の部。

雄二はパワードスーツ姿のままで、ギルディアスは再びドラゴン形態に戻って午後の部開始となる。

ここからは、通報を受けて駆けつける境界警察局員が実際どんな救助活動を行うかをロールプレイする形で説明することになっている。

「え〜、まず通報ダイヤルへかけますと、我々境界警察局支部の通報受付に繋がり、すぐに私達エージェントに情報が伝わります。」

エルメナが壇上に立ち、ギルディアスが映し出す映像で説明をする。

『そしてすぐに現場へ駆けつけるのだ。特に、我が加わったことによって現着時間も大幅に短縮できるようになったぞ。』

映像を出しながらギルディアスも補足説明。何気に自慢だったりするが。

「このように、私達境界警察局員は異世界召喚被害者の救助に即時駆けつける体制を整えています。」

説明を締め括るエルメナ。


「それでは、すでに皆さん担任の先生方から事前に説明を受けていると思いますが…これからランダムに数名、実際に異世界召喚を『体験』して頂きましょ〜う!」


エルメナがマイクでそう叫び、右手を上げて指をパチンと鳴らす。


直後、並んで椅子に座っている全校生徒のうちの5名の生徒の足元に魔法陣が現れ輝き出した。

「うわっ!?」

「ちょっ!?」

「へっ!?」

「うお、マジか!?」

「おぉ〜来た〜!!」

生徒達は不意を突かれて驚き椅子から立ち上がる。魔法陣がさらに輝きを増し、光が全身を包んでゆく。

そして5名のクラスメイトが消えるのを見送った後、エルメナはマイクで説明を続けた。

「とまぁ、こんな感じで突如転送されて異世界へ転移させられるというのが特に多いパターンです。こんな現象に遭遇しました場合は迷わず通報して下さいね〜!」

そう言いながら笑顔で手を振るエルメナ。

次にギルディアスが映像を切り替えながら説明する。

『さて、今回は事前に話を通している正規交流先異世界の『セレネイア』に彼らは飛ばされている。向こうの様子を見てみるとしようか。』



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



異世界『セレネイア』。

かつて一人の日本人男子高校生「中澤良成」がここに召喚されるも、その彼の功績によって救われた世界であり、彼を捜索するために介入した境界警察局との連携によって境界協力連盟に加盟した世界である。

今回の境界事件対策講演会内での対策体験を行うに当たって、「実際に異世界召喚を行い、状況を体験してもらう」という役回りを現地セレネイアのマルドゥク王国に演じてもらえるよう事前に許諾及び協力を要請しており、王室からは「大賢者ヨシナリ様へのご恩返しになるなら是非に」と快く許諾を得られた。

そして地球側の『城南大学附属高等学校』で講演中の間、セレネイア側の『マルドゥク王立魔導学園』には地球側の映像がマギ・コールを通して映し出され、王立魔導学園の生徒達が説明を受けながら映像を見ていたのだ。

そして、地球側でエルメナが合図の指パッチンをする直前までの間に、セレネイア側では『荘厳な儀式魔法を行う神殿を模したセット舞台』を組み終えており、あとは召喚実行の合図を待つばかりのところまで来ていた。

「それでは、皆さんの召喚を開始します!」

王立魔導学園の生徒にしてマルドゥク王国第一王女エルセーナは映像の向こうにいるエルメナの合図を確認するとそう言い放ち、儀式魔法の発動のため呪文の詠唱を開始する。

他生徒達も一緒に詠唱を開始し、ステージの中央に大きな魔法陣が出現する。同時に映像の向こうでは5人の生徒の足元に魔法陣が出現、光り輝き出す。

そうして、地球側の5人の生徒がセレネイア側の王立魔導学園に召喚されたのである。


「おぉぉ!」

「ホントに一瞬だ…。」

「すげぇ、異世界だ〜!」

召喚されてやってきた5人は周りを見て大興奮である。

そんな中、エルセーナは召喚者達へ挨拶と説明に入る。

「ようこそ我がマルドゥク王立魔導学園にお越しくださいました!異世界の皆様。」

そう言ってスカートの端を持ってお辞儀をする。

「「「おぉぉ……!」」」

5人の生徒は生で見る本物の王女の可憐さに心奪われる。

「この度は異世界召喚被害対策体験とのことで、境界警察局の皆様からお話を伺い、連盟からの正式な許可を得て皆様を召喚させて頂きました。この後地球世界側の境界警察局の方々が救助用ゲートを開けるまでの間、私達のお話を聞きながらゆっくりお待ちいただければと思います。」

説明をしながら地球側へマギ・コール通信で確認を取ると、「OK」と返信が来た。

「それでは改めまして……私はマルドゥク王国第一王女、エルセーナ・フォン・マルドゥクです。」

5人の生徒達の目が見開き、見惚れる。

「異世界の王女様…。」

「綺麗…!」


映像向こうの地球世界側では、パワードスーツ姿の雄二がD(ディメンショナル)バンカーを用意し、エルメナの設置したポータルレンズの前に立とうとしているところだった。

すぐに地球側に戻る想定での体験召喚だったので、待ち時間の間エルセーナは自国で活躍した召喚者である、大賢者ヨシナリこと中澤良成の歴史を大幅に端折りつつ解説していた。

「……とまぁ、そう言うわけで、異世界召喚というのはすぐに救助が来るとは限りません。かつての大賢者ヨシナリ様のように、天寿を全うしてからようやく境界警察局が駆けつけるという可能性もあるのです。」

エルセーナの言ったこの内容を聞いて、5人の地球側高校生は戦慄を覚える。

「マジか…。」

「嘘……。じゃあ異世界にずっといる可能性もあるの……?」

「うわ、ヤベぇじゃん……。」

「…………!!」

そんな様子を見つつ、エルセーナはさらに補足する。

「そして、私達のような友好的な相手が召喚するとも限りませんし、今回の皆様方のように、『ギフテッド化しないことのほうが当たり前』でもあります。」

これを聞いて高校生達はハッとする。

「そういや先生から聞いてはいたけど…。」

「今回の召喚ってギフテッド化しないよう対策されてるんだっけか。」

「なるほど……。利用されたりとか考えると怖くなるね。」

納得したり、恐怖を覚える地球側の様子を余所に、エルセーナはさらに説明を続ける。

「ですので、まず皆様に心がけて頂きたいのは、『自身の身の安全を最優先に考えて行動する』ということです。残念ながらこの「異世界召喚被害」というのは常にケースバイケースであり、すぐに救助が来るとも限りません。ですので、召喚後は『周囲への警戒心』を常に持ちながら冷静に行動していただきたいのです。」

そして真剣な表情でこう言う。

「最悪の場合、自身が命を落とす可能性も考えられる、と言うことです。」

これを聞いて地球の高校生達が息を呑む。



『はーい、そこまで!』



そこに、地球側にいるメリスの声が響き渡る。

そこで5人の高校生達やエルセーナ含む魔導学園生徒達が声の聞こえる方向に注目。

そこにはいつの間にか、地球側のポータルレンズによって引き起こされた「空間の歪み」が発生していた。

それを見て高校生達は興奮する。

「おぉ、これがポータルレンズか!」

「異世界側からはこう見えてるんだ〜…!」

「何か不思議〜!」

他生徒の反応を見て、エルセーナは笑顔で説明を加える。

「そして、これによって異世界側の境界警察局員の方々がこちらにやって来るというわけですね。」

その説明の後に、空間の歪みの向こう側からメリスの声が響く。


『こちら境界警察局です。連盟からの承認なき異世界召喚は立派な誘拐事件であり取り締まり対象となっています。これより取り調べのためそちらの世界に介入します。今のうちに投降姿勢を取っておくことをお勧めいたします…………という警告を行ってから、我々はこのポータルを開くということです。それでは少し下がってくださいね〜!』


それを聞いた高校生達が慌てて扉から距離を取る。

『それでは雄二、お願いします!』

『おぅ、行くぞ!』

メリスの声に従い、パワードスーツ姿の雄二がポータルレンズの前に立ち、Dバンカーを構える。

そしてDバンカーをチャージし、空間の歪みに撃ち込む。


ガゴォン!!


映像向こうの雄二が撃ち込んだ瞬間、セレネイア側に発生した空間の歪みにヒビ割れが発生する。

「おぉぉ!」

「こんな風になるんだ…!」

「結構ビビるな…。」


ガゴォン!!


2撃目。ヒビ割れが広がる。

そして3撃目で…。



ガシャーーーーン!!



空間が砕け散り、地球側とのポータルが繋がるのだ。

「「「「「おおおおおぉぉぉ!!」」」」」

ポータルが開かれた瞬間、5人は興奮最高潮。

地球側で見ていた高校生達も驚くが、それ以上にエルセーナ達や魔導学園の生徒達は圧巻の光景に見惚れる。

「お父様やナカザワ家の皆様方もこれに立ち会ったのですよね…。」

エルセーナは父である国王ゲルトルートや大臣となったオルテシア・セージ・ナカザワを思い出す。

そして開いたポータルから、雄二とメリスがセレネイアに入ってきた。

「こうして我々境界警察局が介入し、皆様を救助するというわけですね。」

入ってきたメリスが周囲に聞こえるように説明。

続けて雄二も発言する。

「それではこのまま地球側へ皆さんをお連れしますので、体験召喚はこれにて終了となります。マルドゥク王立魔導学園の皆様方、この度はご協力ありがとうございました!」

そう言って敬礼。

「こちらこそ、良い体験となりました。よろしければ今度は修学旅行などの観光で来て頂ければと思います。その時は歓迎致します!」

エルセーナがそう言ってお辞儀をする。

それに合わせて他の魔導学園生徒達も現地式の敬礼で雄二達を見送る。

「面白かったです!ありがとうございました〜!」

「是非修学旅行で行きたいと思います〜!」

「いろんなお話ありがとう〜!」

「異世界召喚体験楽しかったです!」

高校生達もそれぞれお礼を言いながら手を振って別れを惜しんだ。


こうして、体験召喚された5人の高校生達は無事に元の地球世界側に帰還した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




こうして帰還後、まとめの時間に入る。


「今回は事前に打ち合わせていましたのでこのように安全に体験召喚を行えましたが、実際の召喚被害というのは本当に前触れなく襲ってくるものです。それこそ地球側では誰もが『明日でもいきなり召喚されるかもしれない』という状況にあります。」

メリスが発言して、映像を映し出す。

「もちろんこのような事態に陥らないに越したことはありませんし、確率自体は非常に低いものです。しかし、実際に過去異世界召喚されたことのある私としては『ゼロではない』という点を皆様にお伝えしておきます。」

映し出されている過去事例の映像を示しながら雄二が補足。

「そして、異世界への召喚という特別なイベント感を感じる現象ではありますが、結局のところこれは『誘拐事件』そのものと言えます。事実こう言ったケースで落命された被害者の方々も少なからずいますので、それを踏まえて召喚には警戒を強めていただくようお願い申し上げます。」

メリスのこの言葉で体験召喚された高校生達は自身の心に深く刻み込む。


『異世界召喚は誘拐事件』ということを。


「では、以上を持ちまして今回の境界事件対策講演会を終了いたします。皆様、本日はお集まり頂き誠にありがとうございました!」

メリスがそう締めくくり…。

「「「ありがとうございました!」」」

全校生徒が一斉に礼をし、境界事件対策講演会は無事に閉幕した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




生徒はそのまま解散となり、雄二達は教員達とこの後のことを話しながらポータルレンズ他各種機材の撤収作業をしていた。

「本日はありがとうございました。」

教頭が雄二達に挨拶。

「こちらこそ、色々ありがとうございました。」

雄二が礼を返す。

「これで、異世界召喚に対する『幻想』を抱く子が少しでも減ってくれれば良いんですけどね…。」

メリスの発言に、教員一同もウンウンと頷く。

『幻想』、それはすなわち『異世界に召喚されればギフテッドになれて自分が主人公になり無双できる』というモノだ。

漫画やアニメ、ライトノベルなどでよく扱われる題材であり、多くの青少年が抱きやすい幻想である。

「そうだと良いですけど……。それでも心の底で『特別なこと』だと思っている子も多いですからね……。」

教頭も現状は把握しているため、素直に同意するしかない。

「だからこそ、こうやって経験を通して少しでも意識を変えていくしかないので……。今回の講演会は本当にありがたいことでした。」

そう言って雄二が礼を言う。

「いえいえ、こちらこそ貴重な機会を下さって本当に感謝しております。」

教頭も礼を返す。



ここで、2人の生徒が教員のところにやってきた。男子生徒と女子生徒、同学年の2人だ。

「あ、あの…!!」

男子生徒が、撤収中の雄二とメリスに声を掛ける。

「ん?どうかしたのかな?」

雄二は努めて明るく対応する。

「え、えっと…その……!!」

緊張しているのか男子生徒はガチガチになっている。

横では女子生徒が小声で男子生徒に話しかけている。

「ねぇ、本当に大丈夫かな…?」

「大丈夫だよ……多分……。」

そんな二人の様子に雄二とメリスは「??」を浮かべながら様子を見る。

その様子を見て教頭が声を掛ける。

「ほら、局員さんが困ってますよ。まずは自己紹介をして、それから言いたいことを言ってみると良いんじゃないかな?」

そう言われて男子生徒は慌てて返事をする。

「は、はい!…じ、自分は2年A組の小林潤(こばやしじゅん)です!」

「わ、私は同級生の森下彩(もりしたあや)です。」

女子生徒も慌てて自己紹介する。

「2年A組の小林君と森下さんだね。どうしたのかな?」

雄二はニコニコしながら再度尋ねる。

すると、潤が意を決して発言した。

「あ、あの……!境界警察局の局員さんにお願いがあるんです!!」

「ん??」

雄二達が首を傾げる。

「この後……彩の家に来てくれませんか!?」

そう言い放つ潤。

一瞬、呆気にとられてしまう雄二とメリスだが、直ぐに気を取り直してメリスが問う。

「彩さんのお家に、ですか……何かあったのですか?」

その問いに、彩が困惑しながらも答えた。





「あの………、『ゲームの世界と現実世界が繋がってしまう』のも、境界事件になります…か?」





「「「『ゲームの世界???』」」」

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