31:ゲーム内世界違法連結事件(前)

「ほわああああぁぁぁぁぁ………。」

大型テレビに映し出されている女子向け恋愛シミュレーションゲームのプレイ画面。

その画面を見ながら、境界警察局員であるメリスは呆然としていた。

「た、確かに聞いていた話通りの状況になっているな…。」

そんなメリスの隣で、同じく境界警察局員である雄二も顎に手を当てて考え込む。

「お〜、確かに魔力的なモノでコンセントがロックされて抜けなくなってますねぇ…ブレーカーも同様ですよ…。」

部屋の周囲を調べ回っていた、同じく境界警察局員のエルメナがうーんと唸りながら報告する。

「はい、正直どうしてこうなったのかが少し…その……怖くなっちゃいまして…。」

高校2年生で、このゲームの所有者である森下彩(もりしたあや)は、自ら招待した境界警察局員達に、困り顔でそう告げた。

「と、とりあえず俺と彩が揃ってればこの状態になるってのは以前からわかってたんですけど…。」

彩の隣で幼馴染の小林潤(こばやしじゅん)も、その状況を見て冷や汗を流しながらそう呟く。

「そうだね、これで局員さんの声も『向こう』に届けばと思うけど…。」

彩はそう言って、メリスの方を見る。

その視線を受けて、メリスは優しく頷き微笑む。

そしてメリスはゲーム画面に向かい、こう話しかけた。

「そう言うことですが…私は境界警察局の局員、メリス・ガーランドと申します。もしも私の声が聞こえましたら、私の名前を答えて下さい。」


そして。



『はい、聞こえております…メリス・ガーランド殿。』



画面の中に映っているゲームの登場人物、アルフレッド・トワイニングが、音声でそう答えたのだ。ゲームに存在しないはずのメリスの名を。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





事の始まりは今日の夕方。

高校での講演会を終えて撤収中の雄二達境界警察局の元にやってきた、講演先高校の生徒である小林潤と森下彩からの直接通報から始まった。

彩は以前から、女子向け恋愛シミュレーションゲーム『恋する乙女のメモリアル』シリーズの熱烈なファンで、グッズなども購入して暗記してしまう程にはやり込んでいた。

そんな彩が、ある日に布教目的で幼馴染の潤を家に呼んでプレイさせてみた際、一瞬画面がチラついた直後にゲーム内キャラクターであるアルフレッドが、彩と潤の会話に反応する内容を返答し出したというのだ。

初めこそただの偶然だと思っていた彩だったが、それからも何度かゲーム内キャラクター達から返答が返ってくるという出来事があり、流石にただの偶然ではないと感じたのだ。

その状況に気づいてからしばらくは、「ゲームキャラクター達と直に話せる!!」と大興奮で、彩と潤はゲームキャラクター達との会話を楽しんでしまっていたのだが……。

キャラクター達とコミュニケーションを取っているうちに段々と、「ただのゲームキャラじゃない、ちゃんと生きている人間じゃないか」という懸念が2人の中で膨れ上がってしまい、一気に怖くなってしまったのだ。そんな折に学校で講演会のために境界警察局が来てくれたので、彩と潤は思い切って境界警察局へと通報する事に決めたのだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「メリス、どう思う……?」

彩と潤から事情を聴取した後、雄二がそっとメリスに問いかける。

「かなり……不気味ですね。」

メリスも真剣な表情で雄二に答える。

「話を聞く限りでは、どうにも『目的が見えてこない』んですよね…。」

考え込むメリス。それもそのはず、今回のゲーム内世界『ファルンティア』とこの地球世界との通信が意図されて成されたものなのかどうかが全く読めないからである。

ゲーム内世界とはいえ、その世界『ファルンティア』で生きている者たちにとっては地球という異世界の存在自体全く感知してないのだからわざわざ接触する理由がなく、地球側から見ても『ファルンティア』との通信を成立させるだけの理由がない。

今回の一件は、その意図がわからないことによって不気味さが際立っていた。

「目的が見えてこない以上、『周囲』から色々と調べてみるしか無いか…。」

「地球側とファルンティア側の双方向から、ですね。」

雄二はひとまず今出来る事を発言し、メリスも同意する。そして彩と潤に向き直ってこう告げた。

「まずは通報ありがとうございます。今回の事態ですが、現時点では容疑者も目的も不明なので暫くの間は捜査にご協力頂くことになります。よろしいでしょうか?」

この言葉に彩と潤は少しの間俯いてしまうが、やがて意を決して顔を上げた。

「はい、わかりました。俺達で協力できるのであれば是非。」

「私も協力します!このゲームのファンの一人として、そして何より『エリたん推し』として、精一杯やらせて下さい!!」

彩と潤も、この事件に何か大きなものを感じており、その何かを突き止めたいと決意を固めたのだ。

「え、エリたん…?」

やや気圧されてしまうメリスと雄二。

「あぁスミマセン!エリたんってのはこのゲームで悪役令嬢として描かれている登場人物のエリザベス・ローフォードっていうキャラの事です!愛称みたいなものですよ!」

そう慌てて説明する彩。どうやら『エリたん』という呼称はこのゲームのプレイヤーには共通認識であるらしい。

「は、はぁ……。つまりその人物のファンなんですか……。」

メリスはその説明に面食らいながらもなんとかそう返すと、潤が照れくさそうに笑い出す。

「ハハ……実はそうなんですよ。俺達は特にエリたんのファンでして、彼女に幸せになって欲しくてこのゲームをやり込んでるんですよ!……俺は彩にエリザベスについて熱く語られているうちに感化されたクチですけど…。」

「ほぉ、そういうシナリオが?」

「いや、無いんですけどね…。」

雄二が質問し、潤は肩を落としながら答える。

「でも、声が届くようになった今の状況ならエリたんを助けてみんなも生き残れる、真のハッピーエンドに導けるんじゃないかと思ってこの状況を続けてたのもあるんですよね…。」

「ほぉ…。」

雄二はこの証言を聞いて考え込む。

ゲーム内のシナリオとして、特定のキャラクターの死が既定路線となっているのを、この状況なら覆せる可能性がある。その考察は非常に重要な事だった。「ゲームシナリオ」までであれば問題なかったこの内容も、実際に「生きた人間として交信できる相手」となったのであればそこには基本的人権が発生し、シナリオに従って死なせてしまうのは大きな問題となる。

そして同時に、やはりわからない。

「この一連の事象が一体『誰』によるものなのか……。」

雄二は再び考え込んでしまうのであった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





異世界「ファルンティア」に存在する、トワイニング王国。

その国内に設立された、王立魔導学院。

その中にある中庭に、女子向け恋愛シミュレーションゲーム『恋する乙女のメモリアル』の登場人物でもある男女5名が集まっていた。


主人公である少女、平民出身のアリス・エンソア。

悪役令嬢である少女、公爵令嬢エリザベス・ローフォード。

攻略対象の一人である青年、王太子アルフレッド・トワイニング。

同じく攻略対象の一人、伯爵子息アンドリュー・フィッツロイ。

同じく攻略対象の一人、子爵子息レイモンド・グレアム。


彼ら彼女らは先日、アリスとアルフレッドが聞いた『天の声』に従って集まってきていた。その『天の声』こそ、異世界である地球世界の彩と潤の『ゲームを通して届いた声』のことなのであるが。

「さて、放課後にここに集まってほしいという声に従って集合したは良いのだが…。」

アルフレッドは青空を眺めながら呟く。

「『天の声』…本当に彼等は創生の神々とは違うと仰せになられたのですか?」

アルフレッドの側でエリザベスが不安な眼差しを向ける。

「あぁ…今まで私とアリス嬢が聞いていた声は、「地球」という異世界に住まう平民の少年少女「アヤ・モリシタ」「ジュン・コバヤシ」の声であると仰せになられた。そして先日には「境界警察局」という特殊な役人の者達の声も加わっていた。」

「確か、「メリス・ガーランド」「ユージ・カラスヤマ」「エルメナ・エンジード」と名乗られてましたよね。」

アリスもアルフレッドの答えを補足する。

「その通りだ。そして先日の声の主であるメリス・ガーランド殿によれば、『ファルンティア』と地球世界との交信が出来るようになったのは向こうにとっても全くの想定外であり、一体どうしてこのような事態になったのかを調べなければならないとの仰せだ。」

アルフレッドの説明に、エリザベスは俯く。

「そう……ですか……。」

アルフレッドは少し心配そうな口調で告げた。

「エリザベス嬢……不安か……?」

「いえ、決してそのようなことは…!!」

アルフレッドの様子に慌ててエリザベスは背筋を伸ばし毅然とした態度になる。

「はいはい、婚約者同士だからっていちゃつかれてもこっちが困りますよ〜殿下〜?」

側で見ていたアンドリューとレイモンドがニヤニヤしながらアルフレッドとエリザベスの二人に茶々を入れる。

「いや、別にそんなつもりは……!」

エリザベスも顔を赤らめて慌てて否定しようとするが。

「それはさておき殿下、その『天の声』とやらはいつ頃聞けるのですか?」

レイモンドが話を戻す。

「そうだな…普段は前触れなく御声が聞こえるのだが、今回は場所も時間も指定されているのだし、そろそろ…。」

そうアルフレッドが考え出した時だった。



『アルフレッド〜、お待たせしてごめんね〜!』

『今こっちの準備が整ったから声繋いだよ〜!』

地球側からの声、森下彩と小林潤の声がアルフレッドとアリスの脳内に響き渡った。



「おぉ、アヤ様にジュン様!」

「こちらこそお待ちしてましたよ〜!」

即座にアリスとアルフレッドが反応する。

『やだな〜もう、私達は神様じゃないんだから様付けなんてしなくていいのに〜…。』

『そうだぜ〜……なんか畏まられると気恥ずかしいしな〜。』

アルフレッド達からは見えない向こう側で、彩と潤は気恥ずかしそうな声で話す。

「そうは言われましても…もう「様」で慣れてしまいましたし…。」

「今更かと。」

『そ、そっか〜…。』

『じゃぁぎこちなくなっちゃうのもアレだし、今まで通りの呼び方でOKってことで。』

これまで幾度となく交流を続けていた彩と潤、そしてアルフレッドとアリスは、既に気心の知れた間柄のような状態となっていた。

「…それで、今宵私達をお呼びしたのはどの様な要件で?」

アルフレッドが話を切り替え、彩達に問う。

『あぁ、実はさっき境界警察局の人達の分析が終わってね、これから私達の住む地球と、アルフレッド達の住むファルンティアとを繋ぐ『門(ポータル)』を開くことになったの!』

『あぁ、これでやっと俺達と自由に会えるようになるぜ!』

その言葉にアリスが驚き、声を上げる。

「そ、それは本当ですか!?」

『うん!まぁ……ちょっと色々問題もあるんだけどね〜……。』

「問題……ですか?」

彩の少しトーンダウンした言葉に、アリスが問いかける。

『うん、一応これって私達側の日本国と、アルフレッド達のトワイニング王国との「境界を超える」行為だから国際問題に発展する可能性もないわけでは無いんだよね〜……。』

「なる……ほど……。」

彩の説明にアルフレッドは頷くしかなかった。確かにこれは非常に重要な問題であった。

『そう言うわけで今からそっちに門(ポータル)を開くんだけど、私達以外にも境界警察局の局員さんと一緒に、日本の外務省の人も来ることになってるからよろしくね。』

「外務省…?」

アリスは首を傾げるが、アルフレッドは何となく察した。

「……つまり、門(ポータル)が繋がったら日本と我々トワイニング王国で『情報交換』という事ですね?」

『そう言う事!さすが王太子様だよ!』

アルフレッドの意見に彩は嬉しそうに答える。

『それじゃ、今から門(ポータル)を開いて私達がそっち側に行くから、詳しい話はどこかの教室あたりでも貸してもらってもいいかな?』

「はい、お任せ下さい。」

アルフレッドは彩のお願いを快諾する。

『ありがとうね!……それじゃあ境界警察局さん、お願いしまーす!』

彩の掛け声と共に、アルフレッド達5人の眼の前の空間が突如歪み出し、水の波紋のように揺らぎ始めた。

「「「おおおぉぉ!?」」」

エリザベス、アンドリュー、レイモンドの3人が思わず驚愕の声を上げる。

そして、空間の歪みの向こうから声が響き渡る。


『こちら境界警察局です。この度は事前のご承諾ありがとうございます。それでは今から捜査のためそちらの世界に介入します。安全のためこの空間の歪みから少しお下がり下さい。』


「その声は、メリス・ガーランド殿ですね?」

アルフレッドがその声に気づき返答するが、歪みからは応答はない。

代わりに『天の声』の側で彩が返答する。

『そうだよ〜。あ、歪みを通じての声は一方通行だからごめんね!』

「あぁ、そう言うことでしたか…。」

『それじゃ歪みから少し離れててね。これからこの空間の歪みを『割る』から!』

「はい。……割る!?」

やや不穏な単語を聞いて驚くアリス。そして慌ててエリザベス達を下がらせる。

「な、なんか空間を割っちゃうみたいです!離れて離れて!!」

「何ですって!?」

「おいおいマジか!?」


直後。



ガゴォン!!



歪みにヒビ割れが走る。



ガゴォン!!



ヒビ割れが更に広がる。そして…。




ガシャーーーーン!!!




空間が砕け散り、地球とファルンティアを繋ぐ門(ポータル)が開いた。

割れた空間はポータルレンズによって安定化され、円形の門(ポータル)となった。




「「「「「おおぉぉぉぉ!!」」」」」

その光景を驚きながら眺めるアルフレッド達。

そして遂に、開いた門(ポータル)からぞろぞろと地球側の者達が入ってきたのだ。

藍色のドレス風制服に身を包む銀髪ロングの境界警察局員、メリス・ガーランド。

藍色のパワードスーツに身を包む境界警察局員、烏山雄二。

人化魔法で人間に変身した、半身機械のドラゴンである境界警察局員、機光竜ギルディアス。

黒いビジネススーツに身を包む、日本国外務省職員、政田隆二郎。

そして最後に、高校の制服姿となった当事者の二人、森下彩と小林潤。

「改めまして、境界警察局のメリス・ガーランドと申します。」

手帳を開いて見せながら挨拶するメリス。

「日本国外務省の政田隆二郎と申します。よろしくお願いします。」

一礼する政田。

「ご丁寧に…、私はトワイニング王国王太子、アルフレッド・トワイニング。以後お見知りおきを。」

「ローフォード公爵家長女、エリザベス・ローフォードと申します。」

アルフレッド達もまた、丁寧に礼を返した。

「この度は、捜査協力のご承諾、ありがとうございます。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

政田の挨拶に、アルフレッドは礼を返す。

…と、ここで遂に我慢しきれなくなったのだろう。彩と潤が前に出てきた。

「あ〜もう我慢できない!!エリた〜〜〜ん、アルフレッド〜〜!!」

「あ、おい彩!!」

大喜びで駆け出す彩と、それを追って一緒に前に出る潤。

そしてアルフレッド達の前に出ると、改めて自己紹介をした。

「改めまして、私が『天の声』の正体の一人、森下彩で〜っす!」

「もう一人が俺、小林潤です!」

「あ〜、本当にこうして生で会えるだなんて…私、ちょー感激だよおおおおお!!」

目をランランと輝かせて話す彩。

「おぉ、確かにその御声は『天の声』そのもの…こちらこそ光栄です。」

アルフレッドはそんな興奮状態の彩と潤に笑顔で返す。

そしてこう付け加えた。

「アヤ様やジュン様のお導き…その御蔭で、私はエリザベスの可愛さ、愛らしさに改めて気づくことが出来たのです。こうしてお会いできたのもまさしく奇跡と言えましょう。」

「な、なななななな……!?」

アルフレッドの言葉に、エリザベスは顔を真っ赤にする。

「あ〜、お熱いね〜。」

「これはまた見せつけてくれるな〜。」

アンドリューとレイモンドがニヤニヤしながら茶化し、アリスは苦笑いする。

「うんうんそうだよそうだよ!エリたんはホント可愛らしくて愛らしくて、見てるこっちがニヨニヨさせられちゃうんだよね〜!!」

興奮状態の彩が同意するも、ここでメリスからストップがかかった。

「えーっと、彩さん…そろそろ場所を移動しませんか?」

「あ…す、すいません。」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





王立魔導学院内にある、広々とした応接室に案内された一同。

長机と複数の椅子があり、それぞれ『地球側』と『ファルンティア側』に分かれて向かい合う形で席に座り、話を進めることになった。

「……アヤ様やジュン様のお国では、この世界は一体どのような世界として認識されているのでしょうか?」

アリスが彩と潤に質問する。

「えっとね…まず私達の住む「地球」という世界って、少し昔までは魔法という概念が全く存在しなかった世界で、最近になっていろんな異世界間交流が行われるようになってから魔法技術も普及してってね…。」

彩がところどころ詰まりながらも授業で習った内容を説明。

「そして、異世界間交流関連の事件に対応するために私達境界警察局が組織されたわけです。」

メリスが補足。そのまま彩が続ける。

「それで、アルフレッドやエリたんのいるこの世界って、私達から見ればゲームの……そう、絵物語の世界として有名になっているの。あくまで創作上のフィクションとしてね…。」

「創作された物語…つまり、私達はその絵物語の登場人物として登場していて、それでアヤ様やジュン様は我々のことを知ったと?」

「まぁ、そういうことっす…。」

アリスの問いに、潤が頷く。

「それで、本来ならあくまでただの絵物語を楽しむに留まって、この世界に直接関与するというのはあり得なかったはずなのですが…。」

メリスが説明を続ける。

「そんな中で、私達から見るとある日突然画面がチラついたかと思ったら、私達の声がそっちに届くようになっちゃって…。」

「突然声が…あぁ、あの時ですね。私からは突然頭の中に声が響き渡ったんですよね。ちょうどエリザベスがアリス嬢に勉強を教えていたところに居合わせていたときだったね。」

彩の説明にアルフレッドは得心した。

「うん。それで、直接声を届けられるならゲームシナリオにないルートに導くことが出来るんじゃないかって思ったんだ。そうすれば、エリザベスを助けて、みんなでハッピーエンドに行けるんじゃないかって…。」

「……私を、助ける、ですか?」

ジュンの呟きに、エリザベスが首を傾げる。

そこに政田隆二郎が反応した。

「『ゲームシナリオ』に関してはこちらで資料をまとめました。まずはこちらをご覧下さい。」

そう言って隆二郎は荷物から小型のプロジェクターを取り出し、壁に映像を映し出す。

そこにはゲーム『恋する乙女のメモリアル』の簡単な概要がまとめられていた。

「ゲーム『恋する乙女のメモリアル』は地球で開発・発売された、いわゆる恋愛シミュレーションゲームというジャンルのゲームです。プレイヤーは主人公アリスとなって様々な登場人物達と恋仲になるのが目的……というのが大枠です。」

政田の説明に、彩と潤が頷く。


そこからは、大まかなシナリオの流れをかいつまんだ形でプロジェクターに映し出しながら説明。大まかな流れとしては「主人公アリスと悪役としてちょっかいを掛けてくる令嬢エリザベス、そしてアリスをかばう攻略対象男性キャラ」という構図の中で物語が描かれてゆくというもので、各ルートのエンディングも大体「アリスの才能と庇ってくれる男性の存在に嫉妬の炎を燃やしたエリザベスが闇に囚われ魔女化、最終的にアリスと攻略対象のペアで戦い撃破、エリザベスはその場で死亡、そしてアリスは世界を救った英雄として攻略対象と共に語り継がれる」といった形である。


「………なるほど、つまり私はそのゲームにおける『悪役令嬢』という役割なの……ですね。」

映像を見ながらエリザベスが頷く。その表情は引きつっている。

「うん。でもこの世界はゲームの世界じゃない……だからアリスちゃんと仲良くなってほしいし、エリたんも死なせたくない!」

彩は切実な表情でエリザベスに語る。

「アヤ様……!!」

そんな彩にエリザベスは感極まって涙ぐんだ。

「私だって、エリザベスを救いたい気持ちは同じです。……あくまで創作上の筋書きとは言え、エリザベスのあんな姿を描いた作者は一体何を考えている!?」

アルフレッドは静かに発言するが、その握りしめられた両の手は怒りで震えていた。

「ど、どうどう…抑えて抑えて。」

アンドリューとレイモンドが王太子アルフレッドを宥める。

「そして、ここからなのですが…。」

ここでメリスが発言。

境界警察局による地球側の現時点での捜査結果が報告された。


まず、販売されていたゲームディスクやダウンロードデータの解析が行われたのだが、そのデータ内に「明らかにゲームプログラムに不要な、没データですら無い謎のプログラム」が書き込まれていたことが判明した。

更にそのプログラムを解析したところ、違法なポータルプログラム、すなわち『旅券』に近い系統のプログラムだったことが判明。とはいえこの仕込まれていたプログラムのみではポータルを開くほどの効力はないため、やはり意図が読めないということしかわからなかった。

次にこのゲームを製作販売した会社側へも聞き込み調査が行われた。

当時の制作チームは既に解散となっていたので一人一人地道に聞き込みを行ったのだが、ここで「ディレクター、サブプログラマー1人、シナリオライター1人」がこのゲーム発売後に依願退職していたことが判明。また仕込まれていたプログラムに関しては社内では一切関知していなかったこともわかった。制作途中に例のプログラムが仕込まれ、なおかつその事は会社にもデバッグ担当にも一切明かさぬまま発売にこぎつけたという事だ。

そして退職したディレクターら3名も当然捜索されたが、ディレクターの木間聡史(きまさとし)は行方不明、サブプログラマーとシナリオライターは不可解な事故死として報告されていた。

「何とも不可解なことが続いていますね……。」

メリスからの報告を聞いて、政田が呟く。

「多分その仕込まれたプログラムってやつで俺と彩の声がアルフレッド達に届くようになったんだと思うけど、そもそも何で俺等が?って状態だしなぁ。」

潤も報告を聞いて考え込む。

「そうですね。現時点で他のユーザーからはそう言う報告は無いようですし…。」

メリスも考え込む。

『だが、これまでの捜査とこの世界の存在…我はこう考えるぞ。』

ここで、人化形態のギルディアスがこう述べた。


『恐らくその失踪したディレクターの木間聡史はこの世界出身の転生者なのだろう。そして、シナリオを通してこの世界に何らかの干渉をする目的でゲームを作り売り出した…直接ではなく間接的に干渉することでそなた等の運命を捻じ曲げようと、な。もちろん我も現時点では真相はわからぬがな。』


この推論に一同は感嘆しつつ、やはりまだまだ不明点が多いために皆考え込んでしまうのであった。

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