23:長期出張・召喚被害者捜索案件(前)

異世界『エンデ』。オスティア大陸に存在する、エルビア王国の王城内、謁見の間。

かつてこの場所で、複数人の勇者を召喚する儀式が執り行われ、地球世界の日本国から4人の日本人が勇者として召喚された。

うち一人は役に立たなそうなスキルしか持っていなかったため多少の路銀を掴ませて追い出し、残り3人は素晴らしいスキルを持っていたので王は早速騎士団に鍛錬を命じた。

3人の勇者達は当初は不安になっていたものの、実力とともに見目にも優れた騎士達に持ち上げられたことですぐにモチベーションが上がり、メキメキと実力をつけていった。その中で秘密裏に、3人には「加護の腕輪」…と称した『隷属の腕輪』が装着されてしまっていたのに気づかぬまま。


「あれから半年か…勇者達の様子はどうだ?」

玉座に座る、国王ロンディ・ベン・エルビアは跪く近衛騎士団長に問うた。

「はっ、勇者達は順調にレベルアップを続けております。既に周辺の村々で魔物の討伐を行わせておりますが、やはりスキルの恩恵もあって成長も早いです。この調子ならあと1ヶ月もすれば周辺諸国や魔族領への侵攻も可能になりましょう。」

近衛騎士団長はスラスラと報告。その内容に王ロンディは笑顔を浮かべる。

「っフォッフォッフォッフォッフォッ…そうかそうか!それは楽しみじゃ!いよいよ我がエルビア王国がオスティア大陸を統べる時が来たというわけだな!」

王ロンディは待ちわびた瞬間が見えてきたことに大喜びだ。

当初勇者達には「魔王の脅威からこの国を、世界を救ってほしい」という願いを説いたのだが、この世界の魔族領に暮らす魔族や魔王は別に世界に牙を向いたりなど一切していない。実際は自国を大陸の覇者とし、周辺の国々を攻め滅ぼし全てを略奪するのが目的で勇者達を召喚したのだ。一人が予想外の役立たずだったのが口惜しいが、そんな輩は野に放ってしまえばすぐに野盗なり何なりが始末してくれるだろう(そのためのエサとして多少の路銀を掴ませたのだ)。

あとは隷属の腕輪で奴隷化させた3人の勇者達の圧倒的火力で一気に周辺の国々を攻め落とせば…。







『はーい、そこまで!!』






突如謁見の間に知らない女の声が響き渡った。

「な、何者だ!?」

「おのれ曲者め!どこにいる!!?」

王ロンディは驚いて周囲を見渡し、近衛騎士団長ら騎士団も抜剣して構える。

そして王ロンディは気付いた。いつの間にか、謁見の間の中央の空中に、大きな『空間の歪み』が発生していたのだ。

「な、何だこの空間のうねりは!?」

「総員、警戒せよ!」

王ロンディは空間の歪みをまじまじと見る。そして歪みから再び声が響き渡る。



『えー、こちら境界警察局です。連盟からの承認無き異世界召喚は立派な誘拐事件であり取締対象となっています。これより捜査のためそちらの世界に介入します。今のうちに投降姿勢を取っておくことをお勧めします!』



美しい女の美声で、「誘拐」やら「投降」やらの内容が伝えられる。

「何を言うか、ここエルビア城に不躾なものを出しておきながら……!」

「ああそうだ!どんな輩だろうとここで倒す!!」

騎士団長が空間の歪みに向けて剣を突きつける。

すると歪みからは小さくこんな声が聞こえる。


『あー、やっぱり敵対姿勢ですね…そろそろこのテンプレ変えたいですね…。』

『まぁこの文言も長き研究の中から選ばれたものであろう?まぁここからは我がやるぞ。』


こんな小声の直後…。





『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』




此方からは見えないが、何か凄まじい魔物の物であろう咆哮が響き渡った。

「うわあああああ!!」

「ひいいいいいい!!」

団長以外の精鋭騎士達が揃って腰を抜かし、王ロンディも玉座から立ち上がれなくなってしまう。




『そこな召喚者達よ。貴様等には今、我らが地球世界は日本国から4人の一般市民を何の承諾無く召喚したという疑いがかかっておる。これが真実ならば、貴様等を「悪意を持った誘拐犯」と見なさねばならなくなるのだ。汚名を着たくなければ大人しくしておるが良い!』




今度は人間のものとは思えない悍ましい響きの男の声。全く同じ文言をまるで二人の人間が喋っているかのような、2重に重なった声であった。

王ロンディは恐れ慄き、他騎士団達も震え上がる。

しかし騎士団長は怯んでいない。

「き、貴様こそ何者だ!!魔導具の類を使っているのだろうが、このエルビア城の謁見の間に不埒な物を出現させおって!貴様等こそ王に対する不敬罪で死刑だ!素っ首跳ね飛ばしてくれるわ!」

まくし立てる騎士団長。

だがそんな言葉に耳を貸すことなく、次の変化が起きた。





ズガシャン!!!!!




巨大な空間の歪みの中心部から、銀色に輝く巨大な爪が突如突き出てきたのだ。他の騎士団達は驚き腰が抜ける者が続出。

そして突き出てきた爪を起点に、歪んでいた空間にひび割れが広がっていき…。




ガシャーーーーーン!!!!




歪んでいた空間が盛大に砕け散り、この国にとっての異世界である…地球世界、日本国と繋がった。



「はい安定化プロセス起動〜♪」

砕けた空間の先、日本国側から戯けた女性の声が響くとともに砕けた空間が綺麗な円形の『門(ポータル)』となって安定化。

そして日本国側から2名の境界警察局員が降り立った。一人は藍色のドレス風局員服に身を包んだ長い銀髪の女性、メリス・ガーランド。一人は全身を藍色のパワードスーツで固めた大柄の男性、烏山雄二。

続く形で今度は全長15mもの巨体のドラゴンである、機光竜ギルディアスが門(ポータル)から半身だけ乗り出してきた。その左半身は美しい黄金の鱗、しかして右半身は最新魔科学技術の結晶である銀色の機械義肢だ。


「初めまして、この国の国王陛下とお見受けします。」

メリスは騎士団長をスルーし、王に軽く礼をする。

王ロンディは驚いてばかりで声も出ない。

「な………ななな………何者なのだ貴様等は……!?」

震える声で尋ねる王ロンディ。それに対しメリスはあっさりと答える。

「先ほど事前警告致しました通り、境界警察局です。私達の任務は『異世界召喚によってこの世界に連れ去られてしまった日本人4名の救出と再発防止』で御座います。我々側で召喚の痕跡を調べました結果この国に繋がりましたが…何かお心当たりはございますか?」

淡々と答えるメリス。それに対し王ロンディは震えながら、しかし叫ぶように答えた。

「き、貴様等…!よもや我が国の神聖で崇高なる儀式魔法である『勇者召喚』をただの誘拐と愚弄するのか!?」

王ロンディの言葉に、メリスは呆れ顔になり、ギルディアスが牙を剥く。パワードスーツ姿の雄二も右腕のアームキャノンを構える。

「いえ、全く愚弄などしておりません。しかし、今回のように異世界から勝手に人を攫ってきて『勇者』だのと称えて人権を無視する行為をするのは犯罪行為であると……。」

そう言うメリスの言葉には深い怒りの感情がこもっている。

そしてそれを聞いた王ロンディが突然激昂し、唾を飛ばしながら捲し立てる。

「ゆ、許さんぞ貴様等!ただでさえこの儂に対し無礼を働き続けているというのに……何をしておる騎士団よ!この狼藉者共を斬り捨てるのだ!!」

王命が下った。これでエルビア王国は境界警察局を敵と見なした。

「はぁ…もっとお話を伺いたかったのですが…残念です。」

メリスは落胆した。

「何をしている!我らエルビア王国近衛騎士団の意地を見せてみろ!」

騎士団長が檄を飛ばし、騎士団達が再び立ち上がり始める。

しかし、

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

機光竜ギルディアスが再び咆哮を上げる。またも騎士団は床にへたり込んでしまった。

「くそ!こうなれば我一人でも斬りかかってくれる!」

と、ただ一人立ち上がれていた近衛騎士団長がギルディアス目掛けて突進していく。

だがここで、アームキャノンを構えた雄二がフルチャージのショックビームを近衛騎士団長目掛けて発射した。

「なっ…ぐあああああああ!!!」

何とか剣でいなそうとする騎士団長だが、電撃であるショックビームを金属である剣で防ぐなど出来るわけもなく通電、騎士団長は強烈な電撃により全身が痺れて動けなくなり倒れ伏してしまった。

「ぐっ……ぐっ……」

「こ、近衛騎士団長殿!?」

「は、早く回復魔法を!!」

抵抗力を削がれた騎士達からそんな声が上がる。そしてメリスはその隙を見逃さなかった。

「は〜い大人しくしてくださいね〜!」

メリスは両腕から無数の茨の蔓を伸ばし、周囲にいる他の騎士団員達を次々と縛り上げてゆく。

「な……何だこの蔓は……!?や、やめろ……!」

「ぎゃあ!?」

「ぶげはっ!!」

騎士団員達は次々と、メリスの茨により捕縛されてゆく。

「ば……バケモノ!?」

玉座で震えている王ロンディはメリスの茨地獄を見てそう喚いた。

騎士団達も同様である。

「失礼な!バケモノなんかじゃありません!!境界警察局に勤める局員です〜!!」

メリスは憤慨して抗議する。が、彼女の両手の茨がメリスの憤りに呼応してギチギチと音を立てている。

「まぁ私はリッチですけど。」

ボソッと呟くメリスであった。

「おのれえええ!!勇者は…勇者達はどこじゃ!?すぐに呼…」

「呼ばせんぞ。」

王ロンディの発言にすぐに反応して雄二がショックビームを発射、王ロンディは痺れて動けなくなる。

さらにその王ロンディをメリスが茨で縛り上げて身動きを完全に封じる。

「あぐぁ……!?」

「は〜い、それでは…支部までご同行願いますよ?」

メリスは茨で引き寄せた王ロンディに向かって濁った笑顔で連行を宣言したのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




容疑者として、エルビア王国国王ロンディと近衛騎士団長が門(ポータル)を通じて境界警察局日本支部へと連行された。

城内捜査のため騎士団員一人を茨で簀巻きのまま連れ回すことにし、残りの騎士団員達は同じく茨で簀巻きのまま謁見の間に放置。

謁見の間を人化魔法で人間に変身したギルディアスが見張り、雄二とメリスは騎士団員一人を連れて城内を捜査し始める。

「さて、まずは4名の日本人が今どこにいるかですが…。」

「ご存知ですか?」

雄二とメリスが騎士団員に問う。既に心がバキバキに折られていた騎士団員は冷や汗に塗れながらも答えた。

「ひぃっ……ゆ、勇者様方は今なら騎士団の訓練場で訓練中かと…。」



団員に案内させたことですんなり訓練場にたどり着いた雄二とメリス。そこで目的の4人のうち3人を無事に発見した。

「あぁ、よかったです…。」

「見た感じ特に危害等は加えられてはいないようだが…。」

そう言いながら雄二はパワードスーツのヘルメットバイザーに搭載されているスキャン機能を利用して遠目から要救助者である日本人3名を分析し始める。

その結果、『鈴木康太(すずきこうた)』『加藤義人(かとうよしひと)』そして『飯田純一(いいだじゅんいち)』と表示された。行方不明者データベースとも一致した。

そして…。

「ステータス『隷属』…アクセスルートは右腕に付けられている腕輪から……現在はコマンド待機状態か…。」

分析結果を告げる雄二。それを聞いてメリスは眉間にシワを寄せる。

「それってつまり、隷属化アイテムを装着させて『奴隷』にしてしまっているということですよね?ぐぬぬ……なんて酷いことを……!」

憤慨するメリス。

「全くだ。行くぞ!」

雄二は駆け出した。



訓練中の3名の元へ、雄二とメリスは駆けつける。

「境界警察局です!助けに来ました!!」

「大丈夫ですか!?」

二人の姿を見て康太や義人、純一の3人は目を見開く。

「え、境界警察局…?」

「もしかして助けに…??」

3人はやや目が虚ろながらも意識ははっきりしているようで、訓練の素振りを放り出して駆け寄ってきた。

「あ、あの…助けに来てくれたんですよね!?」

「俺達、これ付けられてしまって…!!」

そう言って純一が右腕に付けられた隷属の腕輪を見せる。

「分かっている。少し待ってくれ。」

そう言って雄二がヘルメットバイザーの機能を切り替え、さらにマギ・コールで地球側にいるエルメナに繋ぐ。

「こちら雄二、要救助者4名中3名を確保。だが外部装着式の隷属化アイテムを装着させられている。ハックバイザーに切り替えたからそちらから解除できないか?」

『こちらエルメナ〜、今分析してますよ〜。』

通信の向こうからエルメナの声が返ってくる。そしてものの数秒で腕輪が解除され、外れて地面に落ちた。

『ハイ解除完了〜♪いやはやお粗末すぎる術式でしたからラクショーでしたよ〜。』

鼻歌交じりのエルメナの声が響いた。

「あぁ、ありがとうございます!!」

「よかった…これで助かるぞ…!!」

純一たち3人はやっと安堵するのであった。


「それで、召喚されたのは4人と伺っていますが…残り一人はどちらに?」

メリスが要救助者3人に問いかける。

それに対し康太が答えた。

「あぁ…あと一人なんですが…路銀だけ渡されて追い出されちゃったんで今どこにいるかは…。」

「何だと!?」

その答えに雄二は驚愕する。

「ちょ、追い出されたってどういうことですか!?」

メリスは康太に質問する。

「えっと…俺達って召喚された時にスキル…つーかギフトを授かって『ギフテッド』になってるんですけど、その人…確かミズキさん、だったか…なんか授かったギフトが奴らも想定外のヘンテコなやつだったらしくって、それで戦力外通告受けてたんですよ。」

「んで、いらねぇから出てけってあのクソ王が言ったら、ミズキさんも負けじと「なら召喚した責任として路銀くらいよこせ」って言って…それで金貨掴まされて出てったんすよ。」

義人も続く。

「なんてこった…!!」

雄二は絶句した。

「それで、そのミズキさんは今どちらに…!?」

メリスは行き先を問うも…。

「いや、俺等も何も聞いてねぇっす…。」

「もう半年も経ってるしなぁ…。」

康太と義人はこう答えるだけであった。

「半年経過…地球じゃ1週間経過ですから時間軸ギャップありますね…。」

メリスは眉間を押えてため息を付くのであった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





本事件での要救助者4名のうちの最後の一人、館森瑞稀(たてもりみずき)。

他3名は皆高校生男子で、彼女だけ30代会社員。

そして現在彼女だけがこの異世界『エンデ』にて行方不明のままとなっている。あの王は掴ませた路銀を嗅ぎつけて盗賊か何かが始末してくれるであろうことを狙っていたという証言も後々得られたため、生死も不明として緊急性が更に上がってしまった。

ということで、定期報告をマギ・コールで行う形で異世界側での捜索を引き続き行うことになり、雄二とメリスとギルディアスの3人は異世界出張継続となった。

「久しぶりだな、長期出張…。」

「あうぅ、しばらくスイーツ食べれません…。」

『今更地球の酒を知ってしまうと異世界のはなぁ…。』

三者三様の反応を示す境界警察局員達。

今雄二達はエルビア王国王都にある酒場兼冒険者ギルド、その酒場スペースにあるテーブルに3人で座っている。王城の後始末は後続の局員に任せており、高校生3人は無事に地球に帰還した。

「まぁセオリー通りだが、ここは依頼人としてギルドに捜索願を出して、並行して聞き込みだな。どうせ経費は出るし。」

テーブルに出した館森瑞稀の写真を出して説明する雄二。

『移動の際には我が雄二達を乗せて飛べば問題はないしな。』

ギルディアスも同意する。

「一時的に私達自身も冒険者登録しておいたほうがいいですね。少しは行動範囲が広がるかと。」

メリスも意見を出す。

「よし、その線で行くか。」

「了解!」

『心得た。』

雄二は椅子から立ち上がり、行動を開始。メリスとギルディアスも続いた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




捜索を始めて1ヶ月が経過。

宿屋の部屋内に小さな門(ポータル)を再設置して臨時拠点とし、雄二とギルディアスはそれぞれスーツや義肢のメンテのために一時帰還しつつ異世界側での捜索を続けていた。メリスもほぼ異世界に出ずっぱりながらも同じく捜索を続けている。冒険者ギルド側に捜索願のクエストを発注し、同時に自身らも一時的に冒険者として登録。捜索範囲を広げるためにいくつか別のクエストを受けながら聞き込みも続けていた。

エルビア王国王室側は国王と騎士団長が逮捕拘留中ということで政治的空白が発生したために急遽第一王女が離宮から戻って国王代行を努めているらしい。もちろん境界警察局監視のもとだ。

「…はぁ、今日も今日とてクエストで薬草集めに魔物退治…。」

ややボサボサになってきた銀髪ロングヘアーを適当に流しながらメリスは愚痴る。

「まぁ、発注したクエストから続報がないとな…。」

同室でヘルメットを脱いでいる雄二も同じく愚痴る。

「ですけどぉ〜…!」

頬を膨らませるメリス。

そんな中、部屋にギルディアスが入ってきた。もちろん人間形態。

『おい、雄二にメリス!これを見るのだ!』

そう言ってギルディアスが出してきたのは、ポーションボトル。

「ポーションボトルですか?」

「何か妙な物でも入っているのか?」

メリスと雄二がそれぞれ問う。ギルディアスはボトルのフタを開けてから答えた。


『この中に入っているのはリンスインシャンプーだぞ。この世界にあるはずのない物だ!』


「「!?」」

雄二とメリスは驚いた。

「それを一体どこで!?」

雄二はギルディアスに問う。

ギルディアスは答える。

『王宮に来ていた御用商人から買ったのだ。何でもこの商人は貴族夫人向け商品を卸していて、これは最近になって隣国のアーノルド帝国から流れてきたらしい。王宮の状況確認で局員として我が王宮に行った際に商人にも会ってな…これ、今国王代行をしている第一王女がご執心であった。』

「隣国、アーノルド帝国からか…。」

雄二は机に置かれたリンスインシャンプーを見て呟く。

「ギルディアス、これが流れてきた時期は聞いたか?」

さらに追加で問う雄二。

『うむ、ここ半年くらいで流通し始めたそうだぞ。』

「よし、ならばもうクエスト報告を待つ理由もない!すぐにここを引き払ってアーノルド帝国へ飛ぶぞ!」

ギルディアスの答えを聞いて雄二は即断した。

雄二達がこちらに出張して1ヶ月経過…召喚事件発生から実に7ヶ月になる。そしてこの世界にないはずのものが流通し始めた時期もこの期間内…このリンスインシャンプーに、未だ行方不明の館森瑞稀が関与している可能性が非常に高い。召喚時に授けられたと言われる瑞稀の「ヘンテコなギフト」も関与しているのだろう。

それを確信した雄二はすぐに準備にかかる。

しかしここでメリスが挙手。

「あの〜、ちょっといいですか…?」

『む、どうしたのだ?』

ギルディアスが問い返す。そこでメリスは涙目になりながら答えた。


「とりあえず、そのシャンプー使わせてくださいぃぃぃぃぃ……!!」


ボサボサとなってしまった銀髪ロングヘアーをつまみ上げながらメリスは慟哭するのであった。


「あ、あぁ…。」

『お、おぉ…。』

悲痛な様のメリスを前に、雄二とギルディアスはそっとリンスインシャンプーを渡すしか出来ないのであった……。

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