22:境界暴走族検挙案件(後)
暴走族達の中で違法ポータルプログラムこと『旅券』が流通しているという情報を受け、境界警察局が検挙に乗り出した。雄二達4人はその内の艶辺羅悪(エンペラー)と沫怒棲迦琉(マッドスカル)の2チームの検挙に乗り出し、艶辺羅悪を無事に検挙した。
次は沫怒棲迦琉だ。
事前情報を見る限りではこのチームは先程の艶辺羅悪よりも凶悪性が高いチームらしい。リーダーが女らしいが、これまた恐ろしく残虐な性格だという。チームの男達もリーダーのお気に入りばかり据えており、暴走行為を主目的としていた艶辺羅悪と違って沫怒棲迦琉は暴力行為や略奪行為を主目的としているというとんでもない集団だ。何度も地元警察と衝突しており逮捕者も数知れずだが、それでも勢いは留まるところを知らない。
そんな沫怒棲迦琉が最近になってパタリと静かになったという情報が入り、地元警察も捜査を続けているところであった。
「はい、これが最新の情報ですよ〜。」
エルメナが持ってきた資料。そこには沫怒棲迦琉たちが静かになる直前までの情報が記されていた。ソース元はネット上の裏掲示板群である。
「…確かに動きがぱったりと止んでいるな。メンバーと思しき者達の書き込みもない。」
雄二がその書き込み群を見て眉をひそめる。
そんな中、メリスがある書き込みを見つけた。
「あの、ここ見てください。沫怒棲迦琉リーダーの最後の書き込み。」
指し示した先にあったのは、沫怒棲迦琉のリーダーことキキョウという女の書き込みだった。
『おもしれーおもちゃゲッツ!!全員アジトに集合なーwwww』
この書き込みが最後であった。
これを見た雄二とメリス、ギルディアスは呆れ顔になる。
「……『旅券』をおもちゃ呼ばわりか…!」
『呆れてものも言えん。』
「ホントですよ!何考えてるんですか!」
三者三様の反応を見せる雄二達をよそに、エルメナが座標データを開いた。解析されたアジトの座標だ。
『ほぉ、もう割り出したのか?』
ギルディアスが感心する。エルメナはさも当然といった感じでメガネをクイッと動かしながら答える。
「そもそも暴走族っていうのは若者の集団。まともな社会経験もなければ学も学ぼうとしなかったおこちゃま集団みたいなもんなんです。だからネット上でこうした詰めの甘さを見せびらかしちゃうんですよねぇ〜♪」
そう言ってエルメナは先程の書き込み内に記録されていた様々なデータを展開。その中に発信元のIPアドレス他、様々な位置情報が記されていた。
「こういう時はIPとか諸々はせめて解析困難になるよう手動で暗号化するもんですけどねぇ…まぁ知らなかったんでしょう♪」
数時間後、最後の書き込みの発信元とされているアジト…繁華街内にあるガレージ付きの雑居ビルの前に4人は集まった。
ガレージはシャッターが降りており、シャッターどころか壁一面に無秩序な落書きが大量に描かれていて不気味なことこの上ない。
予め土地所有者に問い合わせようとしたが、なんと土地所有者は沫怒棲迦琉のリーダーことキキョウの実の祖父母であり、その祖父母もキキョウに暴力でねじ伏せられているため土地利用を諦めて放置しているらしい。
「そういう方向には知恵が回るんだな…本当に呆れたものだ。」
パワードスーツ姿の雄二が頭を抱えて溜息を付く。
「まぁ、その祖父母さん方にも「自由にしていただいて構いません」と言質は頂いてますし…。」
メリスがフォローを入れる。そんな中、人間形態のギルディアスが前に出る。
『それでは、まずは我が景気よく行かせてもらおう。』
そう言ってギルディアスは口を大きく開き、口内に眩い電気を迸らせる。
『ガアアアアッ!!』
そうしてギルディアスは口からライトニング・ブレスを吐き出した。シャッターは無惨に破壊され、ビル内への道が開いた。
「今更だが、その形態でもブレスは吐けるんだな。」
『当然であろう。』
雄二の言葉にさも当然という感じで返すギルディアスであった。
ビル内に突入するも誰もおらず。シャッターの先に広がるガレージに仕舞われているであろうバイクも全く見当たらず。
しかしそのガレージの奥に、停止状態ではあるが『旅券』が設置されていた。
「エル!」
「はいはいわかってますよ〜!」
即座にエルメナがハッキングを開始、すぐに『旅券』を強制起動させ掌握した。
「さぁ掌握しましたよ〜!ただ未登録の異世界ですから用心してくださいね!」
「了解だ!よし、行くぞメリス、ギルディアス!」
「了解!」
『心得た!』
雄二がアームキャノンを構えつつ、『旅券』から異世界へと突入。メリスとギルディアスも続いた。
『旅券』によって繋がった先は前回同様草原。しかし火でも放ったのか草は焼き払われ禿げ上がっており、剥き出しの地面には大量のタイヤ跡。ここに来ていたのは明らかだ。
『すぐに周囲を捜索するぞ!我の背に乗れ!』
ドラゴン形態に戻ったギルディアスが雄二達を背に乗せ、認識阻害を展開しつつ空へと飛び上がった。
やがて、街道の先に煙が上がっているのを発見した雄二達。
「ギルディアス!」
『分かっておる!』
雄二の指示で煙の立ち上る先へと急行するギルディアス。
認識阻害で隠れつつ近づいたことによって見えてきたのは、想像のはるか斜め上を行く最悪な光景であった。
「っな!?何ですかこれは!?」
メリスがその光景を見て、思わず声を上げるのも無理はなかった。
煙の出元は街道の先にあった小規模の村だった。
だが村の家々は殆どが放火され炎に包まれていた。加えて住民と思しき人間に獣人、老若男女問わず様々な人々の死体、死体、死体。
その死体の山の中で歓喜の声を上げていたのは、派手な違法改造バイクに跨る沫怒棲迦琉の構成員達。特にリーダーのキキョウは喜色満面であった。
「ヒャッハーーーー!!これだよこれぇ!こういうのを求めてたんだよアタシはーーー!!サイコーー!!」
それを見た雄二が苦虫を噛み潰したかのように言う。
「……ここまで残虐な奴だったとはな!!」
メリスも言葉は無いが同じ心境なのだろう、怒りに顔を歪ませていた。
ここでギルディアスがあることに気づく。
『雄二にメリスよ、向こうを見るのだ。』
「何だ?」
雄二がその指示に従って前方を見やる。
雄二達がたどった街道とは反対側の街道方面から、武装した兵隊が隊列を組んで前進してきていたのだ。先頭には指揮官と思しき立派な装飾の武具に身を包んだ騎士が馬に跨り前進している。
『我が思うにあれは村の救援に駆けつけた領主の兵隊ではないか?』
ギルディアスが考えを述べ、それに雄二とメリスも同意する。
「だろうな…。」
「どうします?このままぶつかり合わせるというのも…。」
メリスが考えを巡らせる。しかしそれを雄二が遮った。
「流石に異世界側権力者との接触は慎重にならなければいかん…一度エルに通信を繋いで支部からの判断を仰ぐぞ。」
そう言って雄二はヘルメット内蔵のマギ・コールでエルメナに通信を繋ぎ、支部へ中継させた。
「こちら雄二!エル、支部へ中継を頼む!」
『こちらエルメナ、了解ですよ!』
「支部からの認可が降りた。ここからは俺達の判断に委ねるとのことだ…俺からの指示を伝えるぞ。」
通信を終えた雄二がメリスとギルディアスに向き合う。
「まず、俺とメリスで村へ上空から突入し、沫怒棲迦琉を制圧する。その後逮捕した沫怒棲迦琉は進軍中の現地騎兵隊に引き渡す。ギルディアスは俺達を降下させた後はそのまま現地騎兵隊の元へ行き、引き渡しの約束を取り付けた上で合流してくれ。」
「了解です!」
『承知した。』
雄二の指示にメリスとギルディアスは頷き、返事をする。
現地騎兵隊に沫怒棲迦琉を引き渡す、つまり処遇を現地側に任せるということである。今回は現地側住民を多数殺害し集落の壊滅を図ったという、あまりにも重すぎる犯罪を喜びながらしでかしたという手のつけられない事態であり、日本国側刑法や国際法に境界司法においてももはや情状の余地無しという判断が下されたのだ。こうなるともはや日本の行政機関の出る幕は無く、全ては現地の権力者である領主が対処することになるのだ。そしてこう言った場合、現地側の刑罰は大抵厳しいという言葉では足りないような場合が多いのだ…。
「行くぞ!作戦開始!」
「はい!」
『うむ、任せたぞ!』
ギルディアスの背から飛び降りた雄二とメリス。
雄二は降下しながらショックビームを連射、呑気に残虐な宴を挙げていた沫怒棲迦琉の構成員を次々痺れさせてゆく。
「があっ!?」
「な、何だぁ!?」
突然降下してきた雄二とメリスを見て驚く構成員達。その中にはリーダーのキキョウも含まれていた。
「て、テメェら……!どこから……!」
キキョウの言葉を遮り、雄二が声を張り上げる。
「全員動くな!境界警察局だ!!」
「あなた達全員、拘束させて頂きます!!」
そう言いつつメリスが飛び出し、両腕から茨の蔓を展開する。だがそこへキキョウが割って入ってきた。
「誰が捕まっかこのクソアマぁ!!」
そう言うとキキョウは両手を掲げる。そして両手のひらに何やら液体のようなものを具現化させ、投げつけてきたのだ。
「くっ、ギフテッド化していましたか!?」
咄嗟にメリスは茨を編み上げて即席の盾を形成し液体を防ぐ。しかしそこでメリスは鼻を突く匂いに気づく。
「っな、この匂い…まさか!?」
「気付いたって遅ぇんだよギャーッハハハハ!!」
下品に笑いながらキキョウは火をつけたオイルライターを投げつける。
瞬間、液体を浴びたメリスの茨の盾が一気に炎に包まれる。
「ぐぅっ!?…ガソリンを生成する能力ですか!!」
驚愕するメリスにキキョウは笑いながらがなり立てる。
「ギャハハハハ!そうだよアタシはガソリンを生成しちまうギフテッドなのさ!てこたぁテメーの茨ごときただの火で……燃えろーーー!!!」
「くうっ!」
メリスは炎に焼かれつつも展開させた茨を切り離し、再度茨を展開し始める。
「させんぞ!!」
メリスを庇うように雄二が前に出てショックビームを発射。しかしキキョウは即座にガソリン玉を投げつけて防いでしまう。しかもショックビームの火花にガソリンが引火して爆発する。
「くっ!!」
「ちぃっ!!」
爆炎でキキョウを見失う雄二とメリス。それを察知したキキョウが他の構成員達に檄を飛ばす。
「お前等何やってんだ!!とっととこのボケ共をとっ捕まえな!!」
「ヒャッハーーーーー!!」
「ヒャッハーーーーー!!」
「死ねオラァーーーー!!」
「ヘッドに続けぇーー!!」
雄二とメリスめがけて構成員達が群がってきた。その様はまさに蜂の巣を突いたかの如しだ。
(マズイ!)
身構える雄二とメリス。その時だった。
『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
上空から轟く竜の咆哮。と同時にこの場を猛烈な吹雪が覆い始める。
「っが……何だいコリャ!?」
「さ、寒っ……!?」
「ひいいい……凍えちまう!!」
吹雪により燃え広がっていた火は鎮火されていった。雄二とメリスもこの吹雪に巻き込まれているのだが、二人は安堵の表情になる。
「…間に合ったか!」
「ギルディアス…助かりましたよ!」
吹雪が消え去るとそこには翼を羽ばたかせて滞空するギルディアスの姿があった。この吹雪はギルディアスの放ったブリザード・ブレスによるものだ。
「こんのクソドラゴンがぁ!」
そこへ激昂したキキョウがガソリン玉を投げつけてくる。が、それもギルディアスの翼による突風で吹き返されてしまう。
「クソがぁ!!」
なおもガソリン玉を投げようとするキキョウだったが、ギルディアスのブリザード・ブレスによる極寒の中にいたために段々体が凍えて動けなくなってゆく。
「今だメリス、他の下っ端共を茨で捕まえろ!」
「はい!」
雄二の指示のもとメリスが茨を一気に展開、ギフテッドでもなんでもない他の下っ端達を次々と茨で縛り上げていった。
「ぎゃああ!!」
「チ、チクショーー!!」
「トゲが痛ぇぇぇぇ!!」
下っ端達が無力化されてゆく中、キキョウはなおも抵抗しようとガソリン玉を生成しようとする。
「クソが…クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがああああああ!!テメェらクソッタレの大人共がアタシ等の邪魔してんじゃねーよおおおおおおおおおお!!!!」
なおも狂った叫び声を上げるも、やはりブリザード・ブレスには敵わず膝をついてしまう。その隙をついて雄二はフルチャージのショックビームを発射した。
「終わりだ!」
「ガッ!?」
まともにショックビームを食らったキキョウは気絶し倒れ伏した。
ようやく、暴走族「沫怒棲迦琉」は全員お縄となったのであった。
そして、ギルディアスが話をつけていた現地騎兵隊が合流した。
「そなた等が境界警察局だな?話は機光竜殿から聞いている…我々はこの村を襲撃したという盗賊共の討伐のために派遣されたエンヴェルド領直属騎兵隊である。」
騎兵隊隊長が雄二達に敬礼する。
「境界警察局の烏山雄二です。この度は我々地球世界側の者達によりこのような事態を招いてしまい、誠に申し訳ありませんでした…。」
雄二は深々と頭を下げ謝罪した。
「いや、貴殿が頭を下げる道理はなかろう。貴殿らはむしろ族共を撃滅してくれたのだから我々から感謝の意を示さねばな。」
「そう言って頂けるとありがたいです……。」
騎兵隊長がフォローを入れてくれる中、メリスが雄二に話しかける。
「では作戦通り…沫怒棲迦琉の者達は…。」
その言葉に雄二は頷く。
「あぁ、現地騎兵隊に引き渡す。処遇も彼等側の法に則って裁いてもらうことになる。」
「了解です。」
『承知した。』
メリスとギルディアスも頷く。そして雄二は次に倒れているキキョウを指差した。
「メリス、茨の封印でキキョウのギフテッドを封印するんだ。」
「はい。」
雄二の指示でメリスは茨を展開、キキョウの両手をがっちり縛り上げる。今縛り付けた茨は封印用に力を込めているのでこれでギフテッドとしての能力を封じることが出来るのだ。
そしてその時の茨の棘の痛みでキキョウが目を覚ました。
「いでででで!!!こんのクソアマァ…!!」
「ほぉ、この少女が盗賊の首領か?」
騎兵隊隊長がキキョウを見て軽く驚く。
「はい、残念ながらそうです。」
雄二が説明し、隊員達がキキョウを取り囲む。それを見たキキョウは偉そうにふんぞり返る。
「ハッ!何だよクソどもが!所詮異世界のサル共が調子こいてんじゃねーよ!!アタシはテメェ等みたいなのを嬲り倒してぶっ殺しまくるのが必須栄養源なんだよバーーーーーーカ!!」
完全に追い詰められて、なおこんな言葉しか出てこない。哀れな少女である。
「それで隊長殿、こういう場合はどのように処置を?」
雄二が騎兵隊隊長に問う。隊長は事も無げに答えた。
「我々は討伐せよとエンヴェルド辺境伯から命令を受けているからな。当然皆殺しだな。」
そう言って抜剣する騎兵隊隊長。それを見てキキョウは露骨に焦りだす。
「お、おい何してんだよクソザル!!」
「はははは!威勢の良いことだな!!安心しろ、慈悲も容赦もなく即座に一太刀で殺してやる!」
そう言って隊長がキキョウに近づいていく。その目は殺意に満ち満ちていた。それを見て怯えるキキョウ。
「おいおい何やってんだよそこの境界警察局!!こういう時にアタシらは少年法で守られるもんじゃねぇのかよ!?」
キキョウは怯えるあまり、ついさっきまで戦っていた相手である雄二達に向かってわめき出した。
だが雄二達は汚物でも見るかのような目つきで見下ろすだけ。
「生憎だが…少年法が適用されるのは日本国内だけだ。その意味を理解できるか?」
冷たく言い放つ雄二。
「はぁ??どういうことだよ!?」
なおも食い下がるキキョウだが、それをドラゴン形態のギルディアスが一笑に付す。
『ッハハハハ、貴様等はよほどの愚か者なのだな!今我々や貴様らが立つこの場所は、日本国『ではない』のだぞ?新参者である我ですら学んですぐ覚えたというのに、貴様等は学ぼうともしなかった…これを愚かと言わずして何と言う?』
ギルディアスはこう述べた後にキキョウ達沫怒棲迦琉を睨みつけ、牙を剥き出す。
その声に、騎兵隊隊長も続いた。
「機光竜殿の仰る通りである。貴様らが今立っているここはエンヴェルド辺境伯領である。よってこの領内で重罪を犯した貴様等族共は我らがエンヴェルド辺境伯領の法に則って始末されるのだ!ニホンコクのショウネンホーとやらなどは役に立たぬというわけだ!」
「あ……あぁ……。」
ギルディアスと隊長の言葉を聞いてキキョウはやっと理解した。
(ここは…ニホンじゃ……ねぇ……!)
そこでキキョウは自分の行動を振り返る。これまでの行動を振り返り、そして後悔の念が湧いてくる。
(いやでも、アタシはまだ何もしてねーよ!まだ殺し足りねーしこれからだって殺す気だったのによ!!何が罪だっつーんだよクソったれぇえええええええ!!!!)
そう思っても後の祭りである。どう足掻いても自分の命はないと判断したキキョウは最後の悪足掻きに能力を発動してガソリンを大量生成しようとする…が、これも腕に巻かれたメリスの『封印の茨』で封じられているため発動出来ず、キキョウは絶望する。
「あああ……ああああああ!!」
涙を流し始めるキキョウに、隊長は冷淡な面持ちで剣を構える。
「案ずるな。我々には貴様等のような残虐趣味は無い。」
「い……いや………!」
「一太刀で終わらせてやる。」
「いやだ…死にたくない…!!」
「死ね。」
「いやだあああああああああああああ!!!」
自分達がついさっきまで散々聞いていたであろう、惨めな命乞いを自らすることになったキキョウ。当然それを聞き入れられるはずもなく、キキョウの首は、宙を舞った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、沫怒棲迦琉の構成員は全員同じ末路を辿ることとなった。
首は全て討伐証明としてエンヴェルド辺境伯領で回収される事になっており、残った首から下の死体は騎兵隊によって山積みにされた後に焼却処分された。残されたバイクはこの世界にとってオーバーテクノロジーとなるためギルディアスが全て回収した。
「再三になりますが、この度は我々地球世界側の不埒者達により多大な犠牲者を出してしまい、誠に申し訳ありませんでした。」
騎兵隊とメリスが滅ぼされた村の住民の遺体を丁重に片付け弔っている中、雄二がヘルメットを脱いで騎兵隊隊長に深々と頭を下げ謝罪した。
「境界警察局のユージ殿、こちらも再三申し上げてますが貴殿らは何も悪くありませぬ。貴殿らがいなければ我々騎兵隊にも被害が出ていたでしょう…ありがとうございました。」
騎兵隊隊長は雄二の礼儀に敬意を評し敬礼で返した。そして次にギルディアスに目を向け、微笑する。
「しかし、最初は驚きました。まさか盗賊討伐に向かっていたら突如ドラゴンが現れ、しかもそのドラゴンが我らの前で頭を下げたのですからなぁ。」
その言葉を聞き、ギルディアスが照れ笑いをする。
『ッハハハ、それくらいせねば話を聞いてもらえぬのではと踏んだが故だ。』
「ははは、お心遣いありがとうございます。しかし…。」
騎兵隊隊長は礼を述べた後、轟々と燃え続ける沫怒棲迦琉の死体の山を見る。そしてこう呟いた。
「遠い世界でも、族というのは皆同じような者達、なのかも知れませぬなぁ…。」
「…かも、しれませんね。」
雄二もまた、燃え続ける死体の山を見て呟くのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あれから数日。エンヴェルド辺境伯領に繋がっていた『旅券』は境界警察局によって回収され、正式に境界門管理所に移設。以後は正規交流に向けて協議を進めてゆく予定との事だ。
雄二達4人は改めてあきる野市の巨大レーシングサーキットにやって来ていた。
改めてテストマシンに乗り込んだ雄二がテストコースのスタートラインに立つ。
隣にはレーシングチーム「レッドアロー」のレーサーが乗る赤いテストマシンが並ぶ。
「今日はよろしくお願いします!」
レーサーが雄二に大きい声で挨拶する。それに雄二はハンドサインで返した。
それを見て、レーサーはふと雄二に問う。
「……何かあったんスか?」
それに対して雄二はこう答えた。
「……いや、お前達が心根の優しい奴らで本当に良かった、と思ってな。」
「……はい?」
レーサーは首を傾げるが、スタート前のカウントアナウンスが聞こえたので両者とも前を向き表情を変えた。
「さて、イメトレに付き合ってもらうぞ!」
「望むところッス!!」
『3…2…1…GO!!』
2台のテストマシンはスタートシグナルに合わせ、勢いよく走り出した。
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