21:境界暴走族検挙案件(前)

境界警察局日本支部内、機光竜ギルディアス専用義肢整備ドック。

出勤してきた烏山雄二とメリス・ガーランドがここに立ち入ると、そこには呆気に取られる光景が広がっていた。


「い、一体何が…?」

雄二が思わず呟く。そう思うのも無理はない。

『ギルディアスの人化魔法再構成プロジェクト』に参加していた日本人技術者達やエルフ医師団にドワーフの義肢装具士達、そしてチームメイトのメカニックことエルメナ・エンジード。彼等彼女等がドック内の広い作業場で皆グデングデンになって倒れていたのだ。まさに死屍累々、兵どもが夢の跡である。

その光景を見て、メリスも思わず呟く。

「お…お疲れ様です……?」

そう言って付近に倒れていたエルフ医師を介抱しようとしたところで、メリスはようやく気がついた。


ここにいるはずの、全長15mもの巨体であるドラゴンのギルディアスが見当たらない、ということに。


「あれ?そういえばギルディアスはどこに…?」

メリスは周囲を見渡すが、それらしい巨体は見当たらない。

「そういやどこに行ったんだ?」

雄二も気がついて周囲を見渡すも、やはり姿はなかった。

その声に気がついたのか、倒れていたエルメナが目を覚ました。

「あ”〜〜…おはようです〜二人とも〜…。」

より一層ボサボサになったミディアムヘアーをボリボリ掻きながら起き上がり挨拶するエルメナ。

「エル!?一体これは何があったんですか!?」

メリスが反応しまくし立てる。

「いやぁ〜そのぉ〜…ちょっと打ち上げで飲み過ぎちゃいましてぇ〜…。」

エルメナはそう言って足元に転がっていた空の一升瓶をつま先で小突いた。そう、ここで皆が倒れていたのは単に酒の飲み過ぎということだ。よくよく見れば日本酒の一升瓶が大量に転がっているだけでなく、エルフ医師達が持ち込んだであろう蜂蜜酒(ミード)の瓶やドワーフの火酒が入っていたであろう酒樽もたくさん転がっている。一体どれだけ飲んだのか想像もできない。

「飲んでたって…それでギルディアスは一体どこに!?」

雄二がエルメナに大声で問う。そんな雄二にエルメナは頭を抑えながら返答した。

「あううぅぅぅ……二日酔いで頭痛いんですけどぉ〜…ギルディアスならそこにいるじゃないですか〜…。」

エルメナが指し示した方向。そこにいたのは……。


ブロンドヘアーを後ろで1本に束ねた髪型、碧眼で白い肌、外観年齢およそ18歳〜20歳程度かと思われるやや小柄の青年男性が一升瓶を抱えてグデングデンになっていた。だがよく見ればその青年は右腕と右足が機械義肢であり、胴の半分も鎧を着ているように見えるが実際は機械、顔も義眼である右目を中心に右半分近くがまるで仮面を被っているかのような銀色の機械になっていた。


そのあまりに異様な外見に、雄二もメリスも言葉を失った。

「な、なぁメリス……これが本当にあのギルディアスなのか……?」

「え、ええ……なんかすごいことになってますけど……。」

戸惑いを隠せない雄二とメリス。だがそれは無理もないことだ。かつて人化魔法で人間に変身出来たというギルディアスだがそれは雄二達と出会う前の話、雄二やメリスは人化したギルディアスの姿を全く知らないため、二人は人化したギルディアスの姿を全く想像できなかったのだ。

雄二とメリスの反応に、エルメナは何かを察したのかニマニマ笑いながら一升瓶をさらにグイッとラッパ飲みしながら言った。

「それが〜人化魔法なんですよぉ〜……んぐんぐ……。いやーそれにしてもすごいですよねぇ〜……ドラゴンの人化魔法は……んぐんぐ……。」

そこまで言って、エルメナはまた寝転がってグースカピーと寝入ってしまった。

雄二とメリスは顔を見合わせて、思わず溜息を吐いた。

「……やれやれ。」

「…とりあえず、ギルディアスが起きるのを待ちましょうか。」

二人はそう言って作業用の椅子に腰掛けた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




『いやはや、見苦しい姿を見せてしまったなぁ。』

結局皆が目を覚ましたのはそれから2時間も経ってからであった。

プロジェクトメンバーがそれぞれ目を覚まして雄二達に挨拶しつつ撤収を進めている中、無事に人化魔法の再構築を完成させ人間への変身を成功させたドラゴンのギルディアスが雄二とメリスにそう言って詫びた。

「い、いえ…もういいですから…。」

「ははは……しかし、まさかこんな姿に変身するとは思わなかったな。」

二人は若干苦笑い気味に言った。無理もない。なにせ雄二達は人化前のギルディアスと今の人間の姿の違いがあまりも大きすぎて正直全くついていけなかったのだ。変身前のドラゴンの姿はとても雄大で力強さを感じさせる姿であったのに対し、今の人間体としてのギルディアスは身長がなんと160cm程とやや小柄であり、見方によっては少年にも見紛うほどの美青年となっているのだ。ちなみに雄二は185cm、メリスは175cm、エルメナも172cmと平均的に背が高い。

したがってこの青年姿のギルディアスは一人だけ、極端に背が低く見えるため子供っぽい感じとなっていた。

「すごい違和感ですね……。」

メリスも思わずそう漏らす。

『まあ仕方なかろう。我は一応竜としてはまだまだ若輩。連盟機構にいるバルディオス老が我のことを若者と呼んでいたのを忘れたか?』

「あぁ、そういえば呼んでたな…。」

ギルディアスの話に雄二も一応納得したがいまいち腑に落ちない様子だった。

『まあとにかく、これで我は一応人間とドラゴン両方の姿を持つことが出来るようになったわけだ。これからもよろしく頼むぞ。』

そう言ってギルディアスは義手である右腕を差し出した。

「ああ、分かった。よろしくな、ギルディアス。」

「こちらこそよろしくお願いしますね、ギルディアス。」

『ああ、頼んだぞ。』

そう言って三人はガッチリと握手をしたのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




それから数日後。

東京都あきる野市にある、巨大レーシングサーキット。以前雄二達がボーダーグランプリレース地球予選最終戦を観戦しに訪れた場所である。

普段レース開催がない時は予約受付によりいくつかのレーシングチームが練習や調整で利用する。それは雄二が代表レーサーを務める境界警察局日本支部も例外ではない。

そんな場所に雄二とメリスとエルメナ、そして人化したギルディアスの4人はやって来ていた。

『随分と広い場所だな。』

ギルディアスが広大なサーキットを眺める。

「普段は比較的静かなもんだが、グランプリや他レースの大会が開かれてる時は凄まじい熱気だぞ。」

レーシングジャケット姿の雄二がニヤニヤしながらギルディアスに言う。

そして後ろのガレージのシャッターが開き、中から白いレーシングラインが引かれたイエローカラーのレーシングカーが現れる。

「オーライオーライ〜!」

作業用ツナギ姿のエルメナが誘導灯を掲げてレーシングカーを誘導。運転席にはメリスが座っており、彼女の運転でゆっくりゆっくりとガレージから出される。

「オーライオーライオーライオーライ…はいストーップ!」

エルメナの指示に従いガレージから出たレーシングカーは無事にその動きを止め、運転していたメリスは降車しヘルメットを取って一息吐く。

「ふぅ……。」

『ほう、あれがこのコースを疾走する車か……なかなか美しいではないか。』

ギルディアスがマシンを見て感心するように言った。

「まぁ、これはイメトレ用のテストマシンだけどな。」

雄二が補足する。そしてそのまま雄二がヘルメットを被り、マシンへと乗り込もうとする。


その時、ある別のレーシングチームのスタッフの男が、雄二のもとへ駆けてきた。そして雄二の眼の前まで来た男が、最敬礼で挨拶してきたのだ。

「雄二さん!!お疲れ様です!!!!」


『何だこの者は?』

事情を知らないギルディアスが首を傾げる。それを聞いた男は雄二に質問する。

「…えと、こちらはどちらさんで?」

「最近入った俺の部下だ。こう見えてドラゴンだぞ。」

「マジっすか!?よろしくお願いします!!」

雄二からの説明を聞いて男はギルディアスにも最敬礼する。

『う、うむ、苦しゅうない。』

やや焦るギルディアス。

『それで、結局この者は何者なのだ?』

雄二にギルディアスが問う。するとエルメナとメリスが説明した。

「彼はレーシングチーム『レッドアロー』の所属メンバーですね。」

「私達、特に雄二にお世話になりましたからねぇ〜。」

エルメナはメガネをギラつかせて含み笑いをする。

『ん?何か縁があったのか?』

訝しむギルディアス。そこを雄二が補足した。

「こいつらは元々、暴走族『烈怒悪狼(レッドアロウ)』として大暴れしてた奴らでな。色々あって俺がシメてやって、以後はレーシングチームとして真っ当にやっているというわけさ。」

「押忍!!雄二さんのお陰です!!」

レッドアローの男は大声で感謝の言葉を述べる。それを聞いたギルディアスは更に事情を知ろうとメリスに質問した。

『何だと!?こやつら元は無法者であったのか!?』

「ええ、まあ……今は反省してますし更生もしましたけどね……。」

そう言って苦笑いするメリス。

「俺等チームが族だった頃にいわゆる異世界召喚を食らっちまいまして、そん時に雄二さんに助けられたんスよ。それだけじゃなく、族から更生させるために当時走り自慢だった俺等をレースに誘って模擬試合を挑んできたんスよ…流石プロって感じでけちょんけちょんに負けましたよ。」

とレッドアローの男は回想する。すると更に雄二が補足した。

「そのレースで俺の走りを間近で見たからか、コイツらは俺より前に出ようという気概を見せてな。エンジンとかセッティングの技術をエルと共に教えたらメキメキ上達してな……今では立派なレーシングチームとして、俺達のライバルだ。」

それを聞いたギルディアスは何か考え込む仕草をしてから言った。

『つまりこの者達にとって、烏山雄二とは師であり憧れであるわけだな?』

「そういうことッス!もうマジ尊敬してます!」

レッドアローの男は嬉しそうに言った。そして雄二もやや照れた様子で頭を掻いた。

『ほう、そんな経緯が……面白いな。』

ギルディアスはそう言ってニヤリと笑う。エルメナやメリスもその様子を見てクスクスと笑い出した。

「あ、そういや最近小耳に挟んだんスけど…。」

レッドアローの男はそう言って小声になり、雄二達に話し出した。

「何だ?」


「最近入った元族の奴から聞いたんスけどね…今どきの族の間で、流通してるらしいんスよ…『旅券』ってのが。」


『旅券』とは、正規のものではない違法な異世界渡航手段の隠語であり、裏社会での流通が社会問題にもなっている。


「…何!?なんでそんなモノが族の間で!?」

小声でだが、雄二はその話に食い付いた。

その声にメリス、エルメナ、ギルディアスも反応する。

「『旅券』ですって!?」

「おやおやおやぁ、情報提供ですか〜?」

『ほう、詳しく聞こうか。』

4人に詰め寄られ、恐縮しながらもレッドアローの男は続けた。

「いやその…その元族の奴から聞いた話じゃ、ある別の族共がその『旅券』でどっか知らねぇトコに飛んで、そこで暴走行為を楽しんでやがるらしいっス。中にはその飛んだ先で好き放題やってやがるような外道もいるとか…。」

「好き放題…だと?」

「ええ。なんかどこぞの異世界だとか言ってたような気が……すいません、それ以上の情報は無いッス……。」

レッドアローの男はそう言って頭を下げた。だが雄二は首を横に振り、言った。

「……いや、十分過ぎる情報だ!感謝する!」

そう言って雄二はレッドアローの男の肩を軽く叩き、踵を返した。

「トレーニングは中止だ!これより緊急対応に入るぞ!」

雄二はメリス達3人に指示を出し、出口へ駆け出した。

「了解!」

「了解ですよ〜!」

『心得た!』





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





雄二達はすぐに支部へ帰還後、警視庁の交通課へ連絡。『旅券』が暴走族間で流通している可能性ありという内容を通達した。

その日から各所で検問が増やされ、暴走族達の検挙が一気に増加したと連絡が入った。だがそんな中でも検問を突破して逃走する族達や、そもそもマークされているはずなのに検問に現れない族も確認されているという情報が入り、『旅券』が使用されている可能性があるという実感をより強めていた。


これまでの情報から、いくつかの暴走族が絞り込まれ、そのうち2つの族を雄二達がこれから捜査することになった。

一つは「艶辺羅悪(エンペラー)」。

一つは「沫怒棲迦琉(マッドスカル)」。

それぞれ縄張りは全く別区画なのでぶつかり合うことはない族ではあるが、どちらもここ最近検問に全く現れなくなった族達である。

『以前から思っているのだが、何故この無法者達の組織名はヘンテコな命名様式なのだ?』

捜査準備中、雄二達がいる部署で人化状態のギルディアスがそう言った。確かに言われてみれば奇妙なネーミングセンスである。

「諸説あるが詳しくは誰も知らないだろうな。俺も良くはわからんが、何某か「自分は人とは違う」という何かを表現したいが故、なのかもしれんな。」

自身の考えを告げながら捜査準備を進める雄二であった。

『うーむ、変わった文化だな……。』

「ははは、確かにな……。」



某日夜。

まずは艶辺羅悪が縄張りとしている区画へ、ドラゴン形態のギルディアスに乗って向かった。

ギルディアスは元々習得している魔法として『認識阻害魔法』があるので上空を飛んでも意外と気づかれにくいのだ。認識阻害魔法は相手の意識を逸らしたり、集中力を削ぐことで視覚情報の改竄を行う術である。そのため上空から俯瞰して街中を見てもよほど目を皿のようにしないとギルディアスの姿は見つけられないのだ。

『どうだ?それらしい者達は見えたか?』

背中に乗っている雄二達にギルディアスは問う。なお認識阻害をサポートするためあえて通信機越しだ。

「いや、まだ見えないな…。」

雄二はパワードスーツ装着状態なのでヘルメットバイザーで分析しつつ答える。警察から提供された艶辺羅悪の活動範囲上空を旋回するように飛び回って監視しているのだが、それらしいバイク集団は見当たらない。数ヶ月前は警察への騒音苦情通報も多く寄せられていたのが今はパッタリと止んでおり、如実に『旅券を使用した』疑いが強まっていた。

やがて、郊外にある廃倉庫に到着した。そこが艶辺羅悪の集合地点となっているという情報があった。

雄二、メリス、エルメナの3人がギルディアスの背から降り、ギルディアスも人化魔法で人間に変身。

「動くな!境界警察局だ!!」

雄二の警告とともに廃倉庫内に突入すると、そこには誰もおらず、代わりに開きっぱなしの門(ポータル)が放置されていたのだ。

そう、『旅券』である。

「ちぃ、やっぱり使っていたか!!」

「はいはいお任せあれ〜!!」

舌打ちする雄二を横目にエルメナがすぐに機器を展開、周囲にあった『旅券』用機器をハッキングし掌握していった。

「ホイホイホイホイ……あ〜良かった正規交流中の異世界でしたよ〜。」

そう言いながらエルメナはあっという間に掌握を完了した。

「よし、メリス、ギルディアス、突入するぞ!」

「了解!」

『心得た!』


違法ポータルである『旅券』で突入した先の異世界。到達したのは夜中の草原であった。見渡す先には街道なのか草の生えていない道があり、馬車が通行していると思しき車輪跡が確認できるがそれ以外に明らかに不自然なタイヤ跡が複数見えた。

そして…。

『雄二よ、先の方でバイクの爆音がけたたましく響いておるぞ!』

ギルディアスがそう言って指差す方向には街道を爆走する複数のバイク。……間違いなく艶辺羅悪のメンバーだろう。

「よし、行くぞ!!」

「はい!」

『うむ!』


この時、艶辺羅悪のメンバー達はバイクで爆音を上げて暴走行為をしながら…。

「オラオラオラオラァ!!」

「舐めんじゃねぇぞゴラァ!!」

「ッハッハーーーー!気持ちいいぜぇ!!」

手にした金属バットや鉄パイプなどで、現地のモンスターを嬲っていたのだ。相手は野生型ゴブリンの群れで、狼に乗って行動しているゴブリンライダーも複数個体存在する。

「ギャギャギャギャーーーー!!」

艶辺羅悪たちのバイクの爆音にイライラしているのか、逃げることなく積極的に殺意を持って襲いかかるゴブリン達だが、武装の差もあってまるでお遊戯でもするかのように次々と倒されていく。

「ヒャッハーーーーー!!」

それを心底楽しそうに嬲る艶辺羅悪達。正直、筆舌に尽くしがたい醜態である。

「……なんてこった……。」

そんなゴブリン達の悲鳴をギルディアスの背の上から聞いた雄二は唖然とするのであった……。


艶辺羅悪たちの上空に認識阻害で回り込んだギルディアスが認識阻害を解除し、姿を表すとともに咆哮を上げる。

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

竜の咆哮は便利だ。こうすれば暴走族でも魔物でも皆一斉に動きが止まり、体が強張る。

続いて雄二が警告を発する。

「こちら境界警察局だ!お前達は違法ポータルプログラムを利用した違法越境行為の容疑がかかっている!大人しくしろ!」

そう告げると艶辺羅悪のメンバー達は顔を見合わせ、明らかに焦り出し始める。

「オイオイどうすんだよこれ…。」

「ドラゴンで来るなんて聞いてねぇぞ…!?」

「ってか今の声ってまさか…!?」

そうしてうろたえている間に周囲にまだ残っていたゴブリン達が吹き返し始める。

「ギギィ…!!」

しかし、そのゴブリン達には同じくギルディアスの背に乗っているメリスが放った茨の蔓が襲い掛かる。

「ギャギャギャギャーーーー!?」

あっという間にゴブリン達は殲滅された。その様を間近で見ることとなった艶辺羅悪たちは戦慄を覚える。

「い、一瞬で…!?」

「やべぇよやべぇよ…。」

「俺等もう終わりじゃん……。」

と、絶望感に支配されている間に雄二は艶辺羅悪のリーダーらしい男のもとに降り立ち、静かに言う。

「おとなしく投降しろ、これ以上抵抗しないなら悪いようにはしない。」

そう言って両手を広げて降参の意思を見せるよう促す雄二であったが……。

「やっぱり!!グランプリレーサーの雄二さんッスよね!!」

リーダーは突如目を輝かせて雄二のもとに走り寄ったのだ。

「…そうだが?」

一瞬だけ困惑するもすぐに冷静になって問い返す雄二。するとリーダーは饒舌になって語り出す。

「俺昔からグランプリ好きだからあのレース見てて凄く感動したんスよ!マシンの操作も、事故の時の冷静さと判断力にも目を惹かれて……あ!サイン貰っていいッスか!?」

そう言いながらメモ帳をバックパックから取り出そうとするリーダーに雄二はため息をして言った。

「……大人しく投降するんだな?」

「……へ?あ、はぁ……。」

急に態度が冷たくなったので一瞬困惑するリーダーだがすぐに我に返り頷いて両手を上げた。そんなリーダーの姿を見た他の手下達もやれやれと言った様子で持っている武器を手放し投降したのであった。



彼等を連れてポータルから元の地球に帰還するとそこには既にエルメナによって通報を受けた現地警察が駆けつけていた。

「それでは、後はよろしくお願いします。幸い現地の知性型に対する接触は一切確認されませんでした。」

「わかりました、後はお任せください。」

メリスが警察官に引き継ぎ報告を行い、互いに敬礼する。

その時、手錠をかけられた艶辺羅悪のリーダーが雄二に声をかけた。

「あの、雄二さん!お会いできて光栄ッス!」

それを聞いた雄二はこう答えた。

「…今度はしっかり更生してから来てくれよな。公式レースでならいくらでも挑戦を受けてやるぞ。」

雄二は左手を振りながら彼の眼の前から去っていった。

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