19:修学旅行客集団召喚事件

境界警察局員の4人。

ベテラン日本人、烏山雄二。

不死者の元魔王、メリス・ガーランド。

天才メカニック、エルメナ・エンジード。

新人の機光竜、ギルディアス。


今、3人がギルディアスの背に乗って現場へと急行していた。

通報があったのは高速道路サービスエリア。ある高校の修学旅行で複数台のバスで移動中、サービスエリアで休憩中にバス1台が突如光とともに消えてしまったという内容。同乗していた教師1名に運転手1名、添乗員1名、そして生徒30名がこつ然と消えてしまったというのだ。

状況が状況なだけに直ぐ様他の教員が境界警察局へ通報。今までなら高機動車両やヘリなどで駆けつけるために到着まで時間がかかってしまっていたが、ギルディアスが飛んで行くことによってものの数分で駆けつけることが出来た。


サービスエリアの広い駐車場に緊急で着陸スペースが確保され、そこに15mもの巨体であるギルディアスが着地。すぐに雄二達が背から降りて対応に入る。

「通報を受けて参りました、境界警察局の烏山雄二です。」

「あぁ、お待ちしておりました…。」

通報者である教師が雄二のもとへ駆け寄る。

そのまま雄二が教師や生徒たちから話を聞いていき、その間にバスが消えた地点でエルメナとギルディアスがポータルレンズの敷設を進めてゆく。周囲には生徒達の他に居合わせていた者達が野次馬となって集まってきていた。

その野次馬達にはメリスが対応する。

「皆さ〜ん、これより捜査を行いますのでもう少し下がってくださ〜い!!」


駐車場に急遽敷設されたポータルレンズ、及び付随の各種オペレート設備。

共に運ばれてきたスーツキャリアー内でメリスと共に準備を行った雄二もパワードスーツ装着を完了。

そして、以前よりも大型に改造されたポータルレンズによってエルメナが転移先世界の特定を完了。ここまでは彼等にとってはいつものことなので実にスムーズだ。

そして、ポータルレンズによって映し出された『向こう側』に対し、突入前の警告を行う。

まずはメリスが一声。


「はーい、そこまで!」


この声に、『向こう側』の者達はどよめき出す。今映っている向こう側の世界は、転移されたバスと中から出てきた生徒達や教師、そして召喚者と思われる魔道士達に王族と思われる豪奢な服装の女性達だ。まだポータルは開通させていないので向こう側の声は一切聞こえないが、こちらからの声は向こうに届けられるので警告はそのまま続けられる。メリスは続きの警告を行う。


「えー、こちら境界警察局です。連盟からの承認なき異世界召喚は立派な誘拐事件であり取り締まり対象となっています!これより取り調べのためそちらの世界に介入します!今のうちに投降姿勢を取っておくことをおすすめしま〜す!そして教員及び生徒の皆様、これより救助を行いますのでバスの中に退避してください!」


この警告を聞いた向こう側の教師が生徒達を誘導してバスに退避させるのが確認できた。

周囲の魔道士達や王族達は明らかに敵対姿勢を見せる。

その様子を見てメリスの表情が歪む。

「うーん、結局今回も敵対意思を向けられてしまいましたね…。」

『ではここからは我の出番だな。メリスよ、下がるが良い。』

メリスに代わって今度はギルディアスがポータルレンズの前に歩み寄る。そして今度はギルディアスが警告。まずはドラゴンとして『咆哮』を行う。


『ゴアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


この咆哮で周囲の魔道士達や王族達は明らかに驚き、萎縮する。

続けて警告文を言う。


『そこな召喚者達よ、そこのバスに乗っている子供達や教師達は我々の世界に生きる者達である。事前の承諾無しに召喚するということはすなわち「悪意を持った誘拐の可能性あり」と見なさねばならなくなる。汚名を着たくなければ大人しくしておるが良い。』


この警告後、ギルディアスは義手である右腕を突きの姿勢で構える。

その爪の切っ先が向いているのは、ポータルレンズで発生している空間の歪みだ。

そしてギルディアスは爪先に魔力を込める。そう、ギルディアスの爪先にD(ディメンショナル)バンカーと同じ機能がエルメナの手によって搭載されたのだ。

「それじゃギルディアス〜、Dバンカー改め『D(ディメンショナル)クロー』!思いっきりやっちゃってくださ〜い!」

ポータルレンズを操作しているエルメナが指示を出す。

『うむ、任せるが良い!』

エルメナの声に答え、ギルディアスがD(ディメンショナル)クローをポータルレンズ内側の空間の歪みに思いっきり突き入れた。

突き立った爪を起点に、空間が一気にひび割れていき、一撃で空間が砕け散った。

「はい安定化プロセス稼働〜!」

すぐにエルメナがシステムを起動し割れた空間をポータルレンズのフレームに固定化。巨大なポータルが開いた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





まずは召喚先異世界に雄二とメリスが突入。エルメナはそのまま後方オペレート、ギルディアスはポータル越しに睨みを効かせながら待機だ。

「メリス!まずはバスを確保だ!」

「はい、任せてください!」

雄二の指示でメリスがすぐ動く。バスの出入り口を守るように両腕から生やした茨を展開した。既に全員がバスに逃げ込んだのをポータルレンズから確認してたのでこれで安全は確保できた。

バスを確保したので次はその周囲。召喚主と思しき魔術士達数人に王族と思しき女達。そして王族を守るために兵士数名が立ち塞がる。

「ど、どうするつもりだ!こ、この異界の蛮族め!!」

女魔術士が雄二達を賊呼ばわりする。自分達のことを棚に上げてよく言うものだ。

雄二は表情も変えずに切り返す。

「うん?別世界から無理やり人を誘拐しておいてその言い草は無いんじゃないのかな?」

正論で反論され魔術士達がたじろぐ。

「静まれぇ!!」

壇上に立っている王族の女が叫んだ。周囲の魔術士達は引き下がる。

「貴様等、『きょうかいけいさつきょく』とは何者だ?」

続けて王族の女が雄二に問う。

「我々はこうした異世界系案件解決のために組織されています。そして今回もあなた方が何の許可もなく地球側の無関係な学生含む複数名を強制的にこの世界へ召喚した『越境略取及び誘拐』対応のため介入しています。」

雄二はヘルメットバイザーの向こうで鋭い目つきをしながら王族の女に答えた。

「……つまり、我らを侵略者と呼ぶか!?」

王族の女は憤るが、雄二は全くたじろぎもしない。

「事実そう言われても仕方のない状況ですよ。何か弁明が?」

淡々と答える雄二に周囲にいた魔術士達が激昂する。

「き、貴様等異世界人風情が我ら王族に対してそのような態度を取るとは言語道断だ!!衛兵!!」

召喚主と思われる女魔術士の指示で数名の兵士が出てくる。

だが、これを開いたポータルからずっと見ていたギルディアスが動いた。

『ゴアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

ポータルから首だけを出し、再度咆哮を上げる。ポータルレンズ越しではない、直に叩きつけられる咆哮の衝撃。周囲の壁がビリビリと震え、体が強張るほどだ。

「ひいいぃぃ!?」

「な、何だ!?」

駆けつけてきていた兵士達は震え上がりその場にへたり込んでしまう。雄二やメリスはもう何度も聞いて慣れているので涼しい顔だ。

「な…さっきの咆哮はこの化け物の仕業だったのか!?」

護衛に支えられながら王族の女はギルディアスに言い放つ。

それを聞いてギルディアスはしかめっ面になった。

『化け物とはご挨拶だな。我は境界警察局員、機光竜ギルディアスであるぞ。』

「な……貴様もこの蛮族共の仲間だと言うのか!?」

なおも王族の女はまくし立てる。

「いい加減そちらも名乗って頂きたいんですがねぇ?」

バスを守っているメリスがうんざりしながら問う。

「わ、私はオーユゴック国第2王女、プラナ・オーユゴックであるぞ!貴様等蛮族には覚える必要はないがな!」

その自己紹介を聞いた雄二は面倒くさそうな顔になった。

「…で、そのオーユゴック国が何故別世界の人間を召喚しようとお思いに?」

雄二の質問を聞いてプラナと名乗った女は得意げに答えた。

「ふん、知れたことよ!それは我らがオーユゴック国がこの世界を統べるためである!」

雄二とメリスは呆れて溜息をつく。その態度に、後ろに控えている魔術士達が一斉に騒めきだした。

雄二は王女プラナを睨みながらさらに問う。

「世界を統べるため…それは危急の事態で仕方なくやったことですか?それとも…?」

「ふん、知れたことよ!それは我々が選ばれし民だからだ!異世界人を召喚できるのは我らオーユゴック国の人間のみであり、故に他世界の者達を従えるのは当然であろう!!」

雄二の問いにプラナは声高らかに答えた。その内容はあまりにも下らない選民思想であった。

こめかみに血管を浮き上がらせながら雄二はなおも問う。

「…従わない者達はどうするおつもりで?」

王女プラナはさも当然のように答えた。

「ふん、知れたことよ!他世界の蛮族など奴隷として利用してやるわ!そのための奴隷紋の準備も整えておるぞ!」


瞬間、雄二のアームキャノンから放たれたショックビームが王女プラナを不意打ちで捉えた。


「あががががっ!?」

体が痺れ、膝をつくプラナ。流石にチャージは間に合わずノーチャージで放ったので意識までは刈り取れていない。

「貴様ぁ!王女殿下になんという事を!!」

護衛の兵士達が剣や槍を構え、雄二に向かって突撃した。

が、雄二は的確にビームを連射して兵士達を迎撃する。それも、ノーチャージのプラズマビームで剣や槍などの武器だけを破壊する形で。

「がっ!?」

「ぎゃぁ!!」

「うぐぅ!」

雄二の容赦のない反撃で兵士達は一瞬で行動不能にされてしまう。プラズマビームから迸る高熱が金属製の武器を融解・破壊し、なおかつ体をも焼こうとするからだ。兵士達は慌てて焼き溶かされた武器から手を離す。

そんな様子を見てプラナ王女はさらに憤慨した。

「きいいぃぃ!お前達何をしているのだ!」

そう言っている間に…。


『よ〜し、もう大丈夫だからな〜。』

ポータルから上半身を乗り出したギルディアスが、その巨体でバスを軽々両腕で持ち上げて元の世界である地球側に連れ戻していた。バスには召喚された生徒達や教師達他全員が乗っているので、これで無事救出完了だ。


「なっ……なあああああ!!」

ギルディアスがバスを元の世界に戻す様子を見てプラナ王女は絶叫する。護衛の兵士達もあまりの光景に呆然としている。

「これで要救助対象の安全確保完了。」

「後顧の憂いなし、になりましたね。」

アームキャノンを構える雄二の隣に、バス護衛を終えたメリスが合流。そのままメリスは腕から生やした茨をくねらせてオーユゴック国の面々を睨みつける。

無論、さっき雄二から受けた仕打ちによほど怒りを覚えたのだろう。

「こ、これで勝ったつもりか!?このような暴挙はオーユゴック国が許すとでも思っているのか!?」

オーユゴック国の兵士達が残った武器を構えて脅しにかかるが……。

「さて、まだ続けますか?」

「我々としては、王女プラナ容疑者とその従者数名、召喚魔術士数名にご同行頂きたいのですがね?」

雄二とメリスはそれぞれの得物を構えながら問う。

「くっ……調子にのるなよ蛮族共め!!」

召喚魔術士が叫んで何やら魔法陣を書き始めた。

即座に雄二が反応しショックビームを発射するも、今度は別の魔術士が結界を張って防いでみせた。

「むっ!?」

雄二が少し驚く瞬間に陣を書き終えた召喚魔術士が術を発動した。

「来たれ、我が忠実なる下僕!ブラックスライムよ!!」

魔法陣から黒光りする液状生命体…スライムが召喚され、雄二とメリスに襲いかかってきた。

「ちぃっ!!」

雄二は咄嗟にショックビームを撃ち込むもスライムには効いている様子がない。メリスが茨の蔓で打ち付けたり切り裂いたりするもスライムの液状の体には効果がない。

「ふはははは!愚かなり蛮族め!このままブラックスライムに溶かされるがいい!!」

勝利を確信したのかプラナが痺れた体を押えながらも高らかに笑う。


『これで公務執行妨害も成立だな。』


再びポータルから顔を出したギルディアスが口を大きく開き、『ブリザードブレス』を吐き出した。

「な……なあああああ!?」

プラナが絶叫を上げる。それもそのはず、広範囲のブリザードブレスが召喚されたブラックスライムを一瞬で凍りつかせ、空気中に霧散させてしまったのだから。

残ったのはテニスボールサイズの『核』のみ。

「助かったぞギルディアス。」

雄二はギルディアスに礼を言ってからプラズマビームを発射、核を塵も残さず焼き尽くした。

「ば、馬鹿な…。」

絶句する召喚魔術士。雄二は冷淡に告げる。

「…さて、大人しくしてもらえますね?」

しかし、プラナはなおも怒り続ける。

「おのれおのれおのれおのれええええ!!この私をここまで侮辱するか!!貴様等は死刑だ!!この上なく残虐に痛めつけて殺してやるうううううう!!!」

そう言って首飾りを掴み、何やら集中し始めた。どうやら魔力を込めているらしい。

「まだ抵抗しますか!!」

メリスが茨を伸ばしプラナを狙う。

しかし、それは突然現れた一人の剣士によって防がれてしまう。

「!?」

メリスは慌てて茨を引き距離をとる。剣士は剣を構えたままプラナ王女を守るように立ち塞がった。

「貴様、何者だ!?」

雄二が詰問する。だがその剣士の男がこちらを向くと、雄二達は驚いて目を見開いたのだった。


「うぅ…助けて…境界警察局…さん……!!」


その黒髪の青年の剣士…顔の右半分に禍々しく刻まれた焼印が痛々しい。その焼き印が不規則に赤く光り、青年剣士を苦しめているようであった。

そして、同じ赤い光が王女プラナの首飾りから放たれていた。

「…まさか……!?」

雄二はすぐに気がついた。彼は同じ地球人、それも今回とは別件で召喚によって拉致された被害者…恐らくはあの顔に刻まれた焼印が「奴隷紋」なのだろう。あれで強制隷属させられているという事だ。

「さぁ、私の愛しい勇者様!この愚かな蛮族共を斬り捨てて下さいませ!!」

青年を見て恍惚な表情となっているプラナが、青年剣士を勇者と称しながら命令を下した。

「うぐぐ…いやなのに……!!」

青年剣士は意思ではプラナに反抗しているのだが、それもむなしく体は勝手に剣を構える。

「ぐうううう!!よ、避けてくださいいいいい!!」

そう叫びながら青年剣士は雄二達に斬りかかる。

雄二は仕方なくビームチャージ中のアームキャノンを振り上げ、青年剣士の斬撃を弾き返した。青年剣士を引き離すことが出来たがビームチャージが防御に回されたため霧散してしまう。

「っ!ご、ごめんなさい……!!」

青年剣士は我に返ったかのように謝るが、尚も体が勝手に動き続ける。

「ちぃ!仕方ないか!」

雄二は即座にビームをショックビームに切り替え、チャージを始める。

「あっははははははは!!私の愛する勇者様はこの程度で諦めるようなお方ではなくてよ!さぁ、遠慮なく切り刻んでしまいなさい!」

青年剣士に命令するプラナ。

「っぐ!!」

青年剣士は苦しんで顔を歪めるが剣を振り続ける。

「させません!!」

メリスが複数本の茨の蔓で援護しようとするが…

「うわああああ!!」

青年剣士の体はまるで最初からわかっていたかのように襲い来る茨を次々と斬り捨ててしまった。斬り刻まれた茨の蔓が地面に落ち瞬時に枯れ果てる。

「くっ…なんて反応ですか!?」

「うむむ……これはかなり苦しい状況だぞ……。」

雄二達が苦虫を嚙み潰したような表情で呟く。今の青年剣士に抵抗する力は無さそうだ。プラナの持つ強制隷属の首飾りのせいなのは間違いなさそうなのだが、狙おうとすれば絶妙に青年剣士や護衛の兵士が守ろうとするのでそれも難しい。

それでいて、召喚時に何かしらの能力を授からされてギフテッドになったためなのか非常に強い。このままではジリ貧だ。

「おほほ、どうしましたの!?その程度では私の愛しい勇者様は倒せませんわよ!?」

嘲笑するプラナ王女。



「仕方が無い…メリス、フォロー頼む。」


そう言って、雄二は一度アームキャノンを下ろしてしまう。

「……!?」

一瞬驚くメリスだったが、すぐに察した。

「まさか雄二…!?」



『ライフエネルギー注入…オーバーバースト、アクティベート!』



雄二はパワードスーツ『イージスMark=Ⅱ』のリアクターに自身の生命力を追加注入する組込術式を起動。スーツ全体が青く輝き出し、青白いスパークが迸り始める。

「そんな…オーバーバーストを使うだなんて!?」

メリスが悲しげな表情で叫ぶ。

「な、まだ隠し玉があるんですの!?」

プラナもその光景を見て目をしかめる。

そんな言葉も意に介さず、雄二はオーバーバーストを発動したことによって肉体に凄まじい負荷がかかり始める。

「ぐあああああ………!!!」

雄二の全身の筋肉がオーバーバーストによって大きく隆起してゆく。

「ぐぎ……やはりキツいな…!!」

雄二の全身に尋常ではない激痛が走り、あまりの負荷に目が血走る。オーバーバーストの効果で大幅にパンプアップした体が悲鳴をあげているのだ。

(だが……!)

しかし雄二は奥歯を噛みしめてアームキャノンを構え直すとショックビームを発射する。しかも、通常時のフルチャージをノーチャージで放ったのだ。

青年剣士は咄嗟にビームを剣戟で斬り払って防ぐが、恐ろしいのはここからだ。

本来のフルチャージをノーチャージで放てるということは、フルチャージビームを間断なく猛連射できるということだ。

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

怒涛の勢いで連射されるショックビーム。青年剣士も流石に2〜3発程度しかいなすことが出来ず、ついにショックビームが当たった。

「うわああああ!!」

青年剣士は体が痺れ、あまりの勢いに吹き飛ばされた。

その先は……。

「きゃああああ!?」

プラナ王女だ。そのまま青年剣士とぶつかり、もつれるように倒れ込んだ。

雄二は間髪入れずに吹き飛んだ青年剣士とプラナ王女の元へ飛び込んでいった。オーバーバーストの効果で筋力も数倍に跳ね上げているため、ひとっ飛びで二人の元へと迫る。

「ぬおおおおお!スマンなぁ!!」

雄二はもつれ込んだ青年剣士だけを左腕で弾き飛ばし、プラナから引き剥がす。

「貴様は逮捕だああああああ!!!」

そう叫んで雄二はアームキャノンの銃口をプラナの腹に直接叩きつける。

「がはっ!?」

尋常でない膂力で銃口を叩きつけられたプラナは思わず咳き込むが、雄二は構わずにそのままゼロ距離でショックビームを発射したのだ。

「がっ!?ぐ……あああ!!」

プラナはゼロ距離から発射されたショックビームを直接浴び、絶叫しながら倒れこんだ。その拍子に強制隷属の首飾りも外れてしまい地面に転がった。

そしてそのまま白目をむいてぴくりとも動かなくなる。どうやら気絶させたようだ。雄二はその首飾りを踏み潰して破壊した。

そしてすぐに振り向き、周囲で呆然としていた他の兵士や魔術士達にもオーバーバースト状態でのショックビームを連射する雄二。

「お前等も大人しくしてもらうぞおおおおおお!!」

怒涛の如く放たれるショックビームが次々と兵士達と魔術士達に命中し、無抵抗で吹き飛ばされてゆく。

「ぐああああ!!」

「きゃああ!?」

抵抗する間もなく次々と戦闘不能になっていくオーユゴック国の兵士や魔術士達。あまりにも一方的すぎる展開だ。

あっという間に立っているのは雄二達だけになってしまった。

「雄二……!!」

そんな雄二を心底心配するメリス。

やがて、敵勢力沈黙を確認した雄二がスーツのリミッターを起動して生命力の追加を停止。オーバーバーストを終了させた。

「ぐうっ!!」

途端に凄まじい激痛が雄二を襲う。全身の骨という骨が軋み、筋肉の全てが破裂しそうだ。体の感覚が麻痺して頭がグラグラする。思わずその場に片膝をついたまま動けなくなってしまった。

「くっ……やっぱりこうなるよな…!!」

「雄二!!」

メリスが雄二のもとへ駆けつける。

「お、おぅ…すまんな。」

「もう……!心配したのですよ!?」

メリスは涙ぐみながら雄二の肩に手を添えて介抱する。そんなメリスに申し訳無さそうな顔になる雄二。

「……本当にすまん……。」

雄二は介抱するメリスに謝罪しながら、ヘルメット組込のマギ・コールを起動しエルメナに繋いだ。

「こちら雄二…とりあえず要救助者1名追加、そして逮捕者が多数だ…支部に応援を要請してくれ…。」

『こちらエルメナ、既に要請済みです…オーバーバースト使ったの見てましたよ…。いくら危機的状況とはいえムチャしましたよねぇ…。』

向こう側のエルメナの声は心配しつつも呆れているような感じであった。

「状況打破のため必要だったことだ…何、始末書ならいくらでも書くさ…休んでから、な。」

『はいはい、とりあえずとっととメリスに支えてもらって帰ってきてくださいよ…。』

そう言って通信は切れた。

メリスも通信内容は把握しているので、すぐに雄二を支え始める。

「雄二…。」

メリスは両腕から茨を生やし、雄二の体に優しく巻きつける。これで体を支えるのだ。

「助かる…。」

雄二が礼を言う。だがメリスは雄二を涙目で睨む。

本気で怒っていた。

「まったくもう!……普段は私に無茶するなっていつも言っているくせに…!こんなムチャは二度としないでくださいね!?」

「……。」

流石にここまで心配されるとは思っていなかったらしく、雄二は何も言えなかった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




雄二は帰還後すぐに医療センターへ搬送され、オーユゴック国の者達の逮捕連行は後続の応援に任せる事になった。

その後のことを雄二は一時入院中のベッド上で聞くことになったのだが、あれから召喚された修学旅行客一同は全員ギルディアスによって救出されたため無事に修学旅行に復帰出来たそうだ。

そしてオーユゴック国の者達は全員逮捕連行され、ポータルも支部内境界門管理所に移設、国絡みということで境界連盟機構の協力の元現地の詳しい調査や下手人である王女プラナ容疑者らへの取り調べが行われた。

その結果、雄二達が直接聞いた通りオーユゴック国は国策として異世界人の召喚拉致及び奴隷化を推進していたことが判明。またそれら奴隷達を兵として投入することで周辺国への積極侵攻も行うというかなり悪辣な国家であった。召喚の影響で奴隷化された被害者たちにはギフテッドも多く存在していたため結果的に高い戦力となり周辺国はかなり厳しい状況に置かれていたらしい。

そんな状況下でもオーユゴック国は更に強い力を求めて強制隷属の首飾りなどという物まで開発し、勇者として異世界から召喚した者達を戦いに駆り立ててきたそうだ。

これだけでも重罪なのだが、問題はオーユゴック国の国民達が同調して支持していたことだ。本人達は単に自分達が暮らしやすい国を求めているだけなのだが、集団心理の後押しもあってどんどん暴走していったらしい。

結局境界連盟機構の本格介入が決定され、以下の内容が決定された。


①オーユゴック王室の即時解体、王族及び関係貴族の逮捕からの境界司法裁判所による裁定、服役

②現在隷属化させられている召喚被害者達の救助及び開放

③オーユゴック国内に境界連盟機構による暫定政府を敷き、周辺諸国との講話、もしくは周辺諸国へのオーユゴック国領土の全割譲のいずれか

④特別教育機関を設立し、現オーユゴック国民への再教育を徹底出来る環境を構築する


以上だ。

内容が内容だけに腰を据えて挑まねばならない長期案件となったので、以降は境界連盟機構に引き継がれ境界警察局は対応終了となる。

うまくやれればオーユゴック国は政体と思想を完全に入れ替えて新生オーユゴック国となれるだろうが、王族はおろか国民にまであの選民思想が染み込み切っている国だ。おそらくは国家解体からの領土分割の上で周辺諸国への領土割譲をもってオーユゴック国の滅亡となる可能性が高いであろう。そうなればオーユゴック国民の未来は真っ暗な絶望に堕ちることになるだろうが…。

「…まぁ、俺達もそこまで面倒見切れんしな。」

ベッド上で雄二が呟いた。

見舞いに来ていたメリスもその言葉に頷く。

「確かにそうですね……それが、これまでの行いに対する償いとなるでしょう……。」

メリスはそう言うと、窓の外を見つめるのであった。

「…そういえば、あの青年剣士君はどうなった?」

雄二がメリスに聞いた。それを聞いてメリスは表情をほころばせながら答えた。

「あれから専門病院で無事に奴隷紋の解除が完了したそうですよ。まだ入院中ですが今後はギフテッド支援センターに入所して社会復帰を目指すそうです。」

「そうか…本当に良かった。」

安心する雄二。だがすぐに顔をしかめるのであった。

「あとは、グランプリまでに体を万全にしないとだな…。」

「ですね…付き合いますよ、雄二。」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆




後日、境界司法裁判所にてプラナ達オーユゴック国王室の者達には全員『監獄世界での懲役刑』が課されることとなった。年数はそれぞれ異なるものの、プラナに対しては20年が課された。

そして護送車に詰め込まれたプラナ達は、特別ポータルを通って『監獄世界』へとやってきた。

そこはかつてメリスが完全に滅亡させた世界であり、あらゆる生命が死滅し切った不毛の大地しか存在しない世界である。

しかもこの世界は龍脈を全て枯渇させられた影響なのか、酸素濃度が異常なまでに低い世界であり、迂闊に外に出ればあっという間に窒息して命を落とすであろう。

故に、この世界にあえて巨大な刑務所が作られたのだ。ここにはプラナ達オーユゴック国王室の者だけではない。異世界で理不尽な侵略を行い、平和な世界を脅かしていた者達全員が収監されているのである。

加えてこの監獄世界において、この刑務所内にしか酸素は存在しない。故にこの刑務所から脱獄しようものなら、自動的に死んでしまうという仕様である。アンデッドならば酸素は関係なくなるが、そもそもここにアンデッドの犯罪者は収監されないので問題ない。

そんな過酷な環境であるこの世界の刑務所に収監された者達は、看守達や監視機械によって常に生殺与奪を握られているのである。

「何だここは……!?地獄か!?」

護送車から降りたプラナは早速その理不尽な環境に驚き絶望した。他のオーユゴック国の者達も全員同じ反応である。

そんな収監者達を出迎えたのは、この刑務所に務める刑務官である知性型不死者の一人、スケルトンのジャマルという男である。全身白骨のみの体に刑務官の制服と刑務帽を身に着けた不気味な出で立ちである。

「監獄世界へようこそ、旧オーユゴック国とかいうのを収めてた腐肉共よ…私はジャマル、貴様等腐肉共をこれからキレイな肉になるまで洗い直す担当になった。」

非常に低い声でプラナ達を侮辱しながら自己紹介するジャマル刑務官。

「貴様!!魔物風情が王女である私によくもそのような口を……!!」

王女プラナはジャマルの言動に激昂するが、すぐ喉元に警棒を突きつけられる。

「ここは監獄世界だと言ったろう?ここでは王族だろうと神だろうと我々刑務官に反抗したら問答無用で滅ぼされると思え。この腐肉以外に反抗できる者がいるなら抵抗してみろ。その時は特別懲罰房でじっくり可愛がってやる…ククク。」

不敵に笑うジャマルに、他のオーユゴック国王族は恐怖で青ざめた。ここで逆らえば待っているのは、死を懇願しても許されない地獄の責め苦だ。

「……わ……わかりました……。」

「よろしい、では付いてこい。」

ジャマルは満足したように頷くと、プラナ達旧オーユゴック国王族という名の『腐肉』を連れて刑務所の奥へと歩き始めた。プラナという腐肉は絶望に打ち拉がれながらも案内に従って進む以外にもう道はないのであった。

ここは監獄世界、生ある者は全て平等に腐肉へと貶める場所である。

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