14:非番

「ん〜……。」


境界警察局日本支部の局員寮。自室のベッドで目を覚ました女性、メリス・ガーランド。

もちろんいつも通り、全裸だ。

珍しく早く起きてしまったようだ。傍らでは相棒の烏山雄二が未だ寝息を立てている。

今日は非番だ。

メリスはスラリとしたその裸体を惜しげも無く晒したまま伸びをした。そして、相棒を起こさないようそっとベッドから降り、身支度をする。

「ふふっ、たまには私が朝ごはん作りましょうか♪」



「おいメリス。」

肌着を着た雄二が渋面でメリスを睨みつける。

「ん〜?何ですか〜?」

満面の笑みで朝食を頬張るメリスが上機嫌で返事。

「寝坊したことは謝る。だがこれはあんまりじゃないか??」

そう言って雄二は並べられた朝食を見た。

今目の前に並んでいたのは生クリーム山盛りの特大パンケーキ。

メリスは上機嫌で頬張っているが、甘い物がやや苦手な傾向にある雄二は既に食わずして胸焼けを起こし掛けていた。

「だ〜いじょうぶですよ。ちゃんと雄二の分は甘さ控えめにしてますから。」

「そういう問題じゃない…。」

雄二の痛切な叫びにメリスは微笑んだ。

「さ、良いから食べちゃって下さい。今日はデートするんですから。私の奢りです。」

「……わかったわかった。」

雄二は釈然としないようにメリスが作った朝食を食べる。

「……美味いな。」

「でしょ〜?」

メリスは自分の分をペロリと平らげると雄二にすり寄り、耳元で囁いた。

「今日、ちょっと頑張りましょ?」

「っ……!急にそういう言い方するのやめてくれ。」

ニヤニヤしながら雄二の腕に抱きつくメリス。

「うふふっ。」

雄二は、己の自制心との闘いを強いられることとなった。

「さぁ、張り切って行きましょー!」

「はぁ……。」

すっかりテンションの高いメリス。対照的に雄二は、重い溜め息をついた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「エル〜、久しぶりに帰ってきたのに寝てばっかりなの〜?」

東京都福生市のアメリカンハウス街にある、エルメナ・エンジードの実家。母親であるジュリア・エンジードが朝食の準備をしながら娘であるエルメナを起こしに来た。

「うぅぅ〜……。」

いつものメガネを外したエルメナの目は眠気でいつも以上にしょぼしょぼしている。桃色のミディアムヘアーも寝癖でぐしゃぐしゃだ。

「あら、今日はなかなか起きなかったわね〜。」

ジュリアは娘の様子を見て少し嬉しそうに微笑んだ。

「ん、おはよう……。」

エルメナはベッドからムクリと起き上がると、ジュリア共にリビングに向かった。二人分のベーコンエッグが準備されている。

「んぁ〜、イタダキマ〜ス…。」

適当な挨拶後にエルメナがベーコンエッグを頬張る。

「エル、お行儀悪いわよ。」

やれやれと言った感じで母ジュリアは娘エルメナを嗜める。

「ん〜、マミーのベーコンエッグサイコ〜……。」

まだ寝ぼけている様子のエルメナはベーコンエッグを頬張りながら言った。

「はいはい、ありがとうね。」

ジュリアは慣れた手つきでエルメナの寝癖を直しながら言った。

「……で、今日はどうするの?せっかく帰って来たのに、休みだからって寝てばっかり……。」

娘を心配するジュリアにエルメナはなおも寝ぼけ眼で呟いた。

「いいじゃない〜寝てばっかりでも〜……ここんとこ〜緊急対応やらメンテの連続やらで〜…ずっと徹夜ばっかりだったも〜ん…。」

エルメナは普段からは考えられないほどの緩慢な動作でトーストにスクランブルエッグを載せ、ゆっくりと口に運んだ。

「も〜、そんな事だと結婚できないわよ。」

ジュリアが口を突いて出た言葉を、聞いてか聞かずかエルメナはモグモグと咀嚼し、飲み込んでから口を開いた。

「ん〜……その時は〜……マミーがもらって〜……。」

エルメナはそう言って、食べ終わった皿をそのままに再び寝室に戻っていってしまった。

「全く……。」

ジュリアは娘のそんな様子に深い溜め息を一つつくと、自分もゆっくりとベーコンエッグを口に運んだ。

「今日は久々にダディーが帰ってくるっていうのに…あの子忘れてるわね?」

そう言ってジュリアはニヤリとイタズラっ子のようにほくそ笑んだのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「お、おおおぉぉぉ…………!!!」

数時間後、雄二はメリスに連れてこられた場所を見て、興奮していた。

「来たかったんですよね、雄二?」

そう言ってメリスははにかんだ笑顔で雄二を見つめる。

「おいおいメリス……お前最高かよ……!?」

興奮状態の雄二はメリスを褒め称えながら、眼前の光景に心を踊らせている。

今、メリスと雄二は……。



「「「ワアアアアアアアアアアアア!!!」」」

『さぁ、ボーダーグランプリレース!地球予選最終戦も残り50kmを切りました!先頭は大方の予想を裏切って、本レースから初参戦!異世界ハルプの魔族国ヘルハルプスからの先駆者!ストリートレーサー、ビリー・ザ・ブラック操るマシン、ブラックリザードがゴールへ向かって突き進んでおります!!』



広大な敷地に作られた、カーレーシングサーキット。

東京都あきる野市に新設された超大規模サーキットに、メリスは雄二を連れてきたのだ。

「凄いな!これは凄い!」

いつもの寡黙気味な様子は何処へやら。

雄二は子供のようにはしゃいでいた。

「でしょ、来た甲斐ありました?」

そんな雄二の様子を見て、メリスも満更ではない様子。

「ああ!ありがとな!本当に、最高の気分だ!」

興奮冷めやらぬ様子で雄二が笑っていると、レースカーが目の前を勢いよく通り過ぎた。

凄まじいスピードで走るマシンとそれによって発生する衝撃は、雄二の心を鷲掴みにした。

「ッハッハァーーー!!こりゃ今度のグランプリが楽しみだ!!」

雄二はレースを観戦し期待に胸を膨らませる。

「ふふっ。」

メリスはそんな雄二の姿に微笑んでいた。

雄二は興奮冷めやらぬまま、メリスとレースを観戦し続ける。



現在、境界協力連盟が主催する他境界間対抗のカーレースが大人気となっている。

マシンの技術は主に地球産の自動車がベースとなっており、各々の世界で独自の様々な改造を施し強化されたマシンが多種多様な世界のコースを疾走ししのぎを削る…そんな夢のような光景が人気を博している。

また、このレースは実は「他境界間戦争の代理」という側面もある。

高性能なマシンを完成させるということはすなわち「その世界の技術力の高さをアピールする手段」にもなっており、そんな過酷なレースに出場するレーサーの強靭さはすなわち「その世界の戦士の強さをアピールする手段」にもなっている。これによって「殺し合いの戦争するくらいなら楽しみ合える代理戦争としてレースしてたほうが良いではないか」という結論に持っていこうという狙いがあるのだ。

もちろん、実際に殺し合いをする者達は居るが、そういった者達はただ別世界の力を見せつけたいだけの戦闘狂であるため「命を掛けた争い」などは好かない。実際に、レースの結果を左右するのは飽くまで「スポンサー」である境界協力連盟である。

そう、他境界間戦争は今やただのチーム対抗戦となっているのだ。

それに加えて、異世界から参戦してきたレーサー達は皆一様に『モーターレースのスピード』に魅せられてしまうのだ。向かい合って血を流し合う戦争では味わえない、ライバルたちとのデッドヒート。一度これを味わってしまうと、レーサー達はもう、戻れなくなるのだ。

そして、このレースから派生して様々なモータースポーツの人気急上昇に繋がったのである。



そうこうしているうちにレースも大詰めとなった。

『さぁ!レースもついに大詰め!このレースも今、ビリー・ザ・ブラックがファイナルストレートに差し掛かったぞ!これはもう決まりか!?このままビリーが一着で決着するのか!?』

「「ワァアア!!」」

そんな実況者の声に再び観客が沸き立つ。

『いや、まだだ!後続集団から1台がブーストダッシュで加速!このマシンは…グリーンウィンドだああ!!異世界エメラルディアはヴァーミア蟲王国のエース、エバン・クレトン操るエースマシンがここで賭けに出たあああ!!』

「「ワアアアアアアアアアアアア!!」」

「おぉ、ここでベテランレーサーが来たな!!」

眼前に映し出されたデッドヒートを興奮状態で観戦する雄二。その様を微笑んで見つめるメリス。

今レースは新人の魔族ビリー・ザ・ブラックの駆るマシン『ブラックリザード』と、ベテランの蟲人種エバン・クレトンの駆るマシン『グリーンウィンド』の一騎打ちにもつれ込んでいた。

「「ワアア!!」」

『ゴールは目前だ!勝つのはビリーかエバンか!?グリーンウィンドとブラックリザードの鍔迫り合いになるぞッ!』

実況者の声と共に両者は一歩も譲らない状態で最終局面を迎えた。

『グリーンウィンドとブラックリザードの激しいデッドヒート!!これはもう予測できない!さぁいよいよゴールライン!!果たして勝者は!?!?』

実況の興奮した声の中、雄二は食い入るようにレースの行く末に見入る。

そしてついに…。

『ゴォォォォォォォォォル!!!!もはやこれは肉眼では確認できません!!ほとんど同時に2台がフィニッシュを決めたああああああ!!!』

トップを走っていた2台が、ほぼ同時にゴールラインを突破。勝負の行方は映像判定へと持ち込まれた。

メリスはそんなレースに興奮しっぱなしの雄二を見て、心から嬉しそうな表情を浮かべた。

「もう、雄二ったら……かわいいんですから〜♪」

ニヤニヤが抑えきれず、思わず口に出てしまったメリス。

「ん?あ、あぁ。うん……。その……は、恥ずかしい所を見せてしまったな。俺もちょっとテンション上がっちまった……。」

対する雄二は恥ずかしそうに頭を掻いて視線を逸らせた。

「ふふっ。ありがとうございます〜。」

そんな雄二にメリスは微笑んでお礼を言った。

「な、何がだ?」

メリスのお礼の意味がわからず、聞き返す雄二。

「久しぶりに、子供みたいにはしゃぐ雄二の姿が見れたことに、ですよ♪」

「そっちか…。」

雄二はさらに照れて顔をそらしてしまう。

そんなやりとりをしていると、コース外に設置された臨時の計測機器が結果を報せるブザーを鳴らした。

『お待たせしました!さぁ結果は………あ〜!!』

判定映像が大きく映し出され、観客達が固唾をのんで見守る。そして……。

『ブラックリザード、鼻先差でトップフィニッシュ!!1位はまさかの大型新人、ビリー・ザ・ブラックのブラックリザードだあああああああ!!!!』

「「ワアアアアアアアアアアア!!」」

レースの結果に観客達は大いに沸いた。メリスと雄二も例に漏れず、歓喜の声を上げたのだった。




表彰式準備中のサーキットの観客席で、雄二とメリスは語り合っていた。

「そういえばハルプって、こないだワイオンモール監査で行った世界ですよね。あそこって竜車が普及してて自動車は見かけませんでしたけど…。」

「あぁ、一般普及してるのはあくまで竜車だが、元々闘争心が強いハルプ魔族だからな。グランプリ委員会が営業かけてみたらアッサリ乗ってきたんだ。それに以前から竜車のパーツとしてタイヤやサスペンションは輸入してたからな。あとはエンジンやフレームを独自に輸入して研究し組み上げて、レーサーを鍛えて…といった感じであっという間に一丸となってレース業界に乗り込んできたぞ。」

「ハルプ人、恐るべしですね……。」

「まったくだ……。ハルプの魔族連中、戦い方が雑なだけで技術力は相当高いからな。」

苦笑いを浮かべながら雄二はそう言った。

そうこうしているうちに表彰式が始まった。

『改めまして、ボーダーグランプリレース地球予選最終戦。優勝は異世界ハルプからの新星、ビリー・ザ・ブラック!』

司会者のアナウンスで優勝者であるハルプ魔族、ビリー・ザ・ブラックが壇上へ上がる。

『今、ビリー・ザ・ブラックにトロフィーが授与されました!これにより、ビリー・ザ・ブラックがグランプリ本戦への切符を手にしました!!』

「ウオオオオオオ!!!」

「「ワアアアアアアアアアアアア!!」」

トロフィーを手渡されたビリーが、高々とトロフィーを掲げて勝鬨をあげる。同時に歓声も上がる。

そんな光景を見ながら、雄二は表情を引き締めた。

「ビリー・ザ・ブラック……グランプリ本戦で彼とぶつかり合うことになるわけだな…。」

「そうなりますね…。」

メリスも答える。

そう、雄二とメリスとエルメナの3人チームは既に境界警察局代表としてボーダーグランプリレース予選を別の異世界で通過しており、既に本戦出場への切符を手にしていた。メリスはコースや他選手のリサーチを中心とした情報戦、エルメナがマシンの設計やピット担当(パーツ調達は親方から)、そして雄二がレーサーとして実際に走るのだ。

本戦の日はまだ当分先ではあるが、それでも雄二とメリスはビリー・ザ・ブラックに全霊を賭して臨む事を心に決め、決意を新たにしたのだった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「せ、せっかくゆっくり休んだのに………。」

モスグリーンのタンクトップに迷彩柄ズボンとブーツを履いたエルメナが全身汗だくで実家の庭にへたり込んでいた。

そして彼女の眼前には筋骨隆々、スキンヘッドの男がにこやかな顔で佇んでいた。彼こそがエルメナの父、ジェイムズ・エンジードである。米軍横田基地所属の曹長で久しぶりに帰ってきたのだ。

「ヘイヘイ、どうしたマイスイートドーター?随分鈍ってるんじゃないか〜い?」

マッスルポーズを決めながら父ジェイムズはへたり込むエルメナの肩を掴む。

「勘弁してよダディー……私はメカニック……!」

言い訳しようとするエルメナをジェイムズはすぐ遮る。

「隠しても無駄だぜマイドーター?少し前に異世界イルフェジュールで単独戦闘したんだろ?」

「うぎぎ……!」

父の言葉にバツが悪そうに視線を反らすエルメナ。

「まったく、無茶をするなぁ……怪我してないか?」

「…だいじょーぶ。」

「ハッハッ!それは良かった。じゃあもう少し頑張るかぁ!」

そう言ってジェイムズはトレーニング用ショートポール2本を構える。

フィリピンの棒術、カリの構えだ。エルメナがスタンロッド2刀流で戦うのも父ジェイムズから(半ば無理やり)伝授させられたカリがベースとなっている。

「もう勘弁してよダディー…!」

悲痛な声を上げつつもエルメナは一応トレーニング用ショートポール2本を構える。

「ハッ!じゃあ行くぞマイドーター……!!」

「もう、勘弁してぇええええ!」

エルメナの悲鳴が家に響き渡ったのであった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





雄二とメリスの二人乗りのリバーストライクが、エルメナの実家前に停まった。

既に日は沈みかけており、庭にはエルメナの母ジュリアと父ジェイムズによってバーベキューが用意されており、今まさに焼いている最中の野菜や肉が香ばしい香りを漂わせている。

「お〜、待ってたぞ〜ユージにメリス!」

ジェイムズが手を振って雄二達を出迎える。

「お久しぶりです、ジェイムズさんにジュリアさん。」

「今夜はご招待ありがとうございます〜♪」

返事しながら雄二とメリスは庭に入った。

そしてメリスは周囲をキョロキョロ見渡す。

「……あの、エルは?」

メリスの問いにジュリアが答えた。

「エルならそこのコットよ。」

ジュリアが指し示す方、ウッドデッキに広げられたコットベッドの上に寝かされていた。

「…白目向いてません?」

メリスが引きつった笑顔で問うが、それにはジェイムズが応えた。

「な〜に、マイドーターは死ぬほど疲れただけさ。起こさないでやってくれ♪」

『良いんですかそのセリフ……?』

思わず脳内ツッコミをしてしまうメリス。

「ま、まぁエルも疲れてるから、許してあげてね?」

ジュリアのフォローが入るが、メリスにとって今一番心配なのがそこなのであった。



庭の芝生に設置されたバーベキューコンロの上で炭火で焼かれる野菜や肉達のジューシーな香りは、その場にいる全員の顔から笑顔を引き出した。

そして焼き上がるタイミングを見計らって、ジュリアが皆に肉を配る。

「はい、エルも起きなさい。」

「……うぐぅ……まだ寝てたい……。」

そんな寝言を言いながら起きようとしないエルメナの顔にジュリアは焼いた肉を押し付けた。

「ふごっ!?ぶっ!?」

思わず変な声を上げながら目を覚ますエルメナ。

「熱っつつ……もぅ、何するのマミー!」

「ほら、食べなさいエル。もう準備出来てるんだから。」

ジュリアの言葉にメリスが同調する。

「そうですよ、せっかくのバーベキューなんだから食べないと♪」

「む〜……。」

メリスとジュリアの言葉に渋い顔をしながらも肉にかぶりつくエルメナ。

そんな様子を見てジェイムズもニヤリと笑う。

「はっはっは、ウチの家族は皆食いしん坊だな!」

そんな父の言葉にメリスもニコニコと笑顔になった。


「そういえば今日がグランプリ地球予選だったか。」

ジェイムズが肉を食べながら雄二に話す。

「えぇ、ここのところ忙しかったので観戦するのを忘れかけてしまいましたが、メリスのお陰で楽しむことが出来ましたよ。」

雄二はそう言って、何の気無しにメリスの肩を掴み自身に寄せた。

それに対しメリスはビックリして顔を赤らめながらあたふたしてしまうが、当のジュリアもジェイムズもそんな雄二の行動は特に気にしていない。

「はっはっは、そうかそうか。まぁメリスをしっかりエスコートしたんだろうな?」

言いつつジェイムズは持っていたフォークで野菜を刺す。そしてその刺し取った野菜をメリスの口に持って行く。

「わ、私だっていつもサポートしてますし……。」

むーっとした顔になりながらメリスはその野菜を食べた。

「これじゃぁエルの入り込む隙はないわね〜。ちょっと残念だわ。」

ジュリアも焼けた肉や野菜をメリスや雄二に渡しながら茶化す。

「ちょっとマミー……!?」

エルメナが抗議の声を上げようとするも時すでに遅し。

ジュリアの茶化しを聞いたメリスから黒い殺気が漏れ出し、そのせいなのか美しい銀色のロングヘアーがゆらゆら動き出したように見えた。

「えぇ当然ですよたとえチームメイトといえども私と雄二の間に入り込むのは許しませんよ〜ウフフフフフフフフ」

言いながらメリスは雄二の腕をガッチリ抱きしめて離さない。

「お。おいメリス……地味に痛いんだが……!?」

腕を締め付けられる形となった雄二が悲痛な抗議をする。

が、メリスは笑顔を貼り付けたまま雄二の腕を締め上げる。そんな中、ジュリアとジェイムズは「やだコワ〜イ」などと言いながらバーベキューを楽しんでいるのであった。

そしてエルメナは

「年の差的にアウトでしょ……。」

と、おどける両親を見て嘆くのであった。


ウイスキーロックを空けながらジェイムズは雄二に問うた。

「なぁミスター…エルはうまくやってるかい?」

その問いに雄二は麦茶を飲みながら答える。

「えぇ、彼女には大いに助けられてます。職務中に使うパワードスーツやポータルレンズは彼女がいないとままなりませんし、彼女が作った発明品が連盟にも採用されたりしてますしね。」

「そうだなぁ!俺も驚いたと同時に誇らしかったぜ!連盟から配給された『マジック・チャフ・グレネード』!あれがまさか愛する娘が開発したものだったなんて…クゥ〜!!」

ジュリアやメリスに聞こえないくらいの小声で叫ぶジェイムズ。やはり娘ラブな彼である。

「あー!ダディーったらまたマジック・チャフの話してるー!」

そんな叫び声を聞いてエルメナが庭までやって来た。

「マイドーター!!聞いてくれよこれは俺の大切な思い出なんだよ〜!」

「はいはい、わかってるから。ってか酒臭っ!!」

父ジェイムズの酒臭さにむせながらボヤくエルメナである。

「ダディー飲み過ぎだよー!」

「はっはっは!今日は無礼講だからな、良いのさ!」

言いながらジェイムズはエルメナの肩を抱いてグラスを高く掲げた。


「では俺達はこれで。」

トライクに跨る雄二とメリスが、エンジード一家に礼を言う。

重要なことだが、雄二はハンドルキーパーとして麦茶のみで済ませたのでアルコールは一切摂取していない。

「ユージ、メリス!また二人で来てくれよ!」

「今度は泊りで来るのよ?歓迎するわ!」

エルメナの両親が手を振って見送る。

「じゃあまた仕事で〜!」

エルメナも手を振って見送る。

そして雄二とメリスは手を振りかえしつつ、トライクを発進させていったのであった。


「なんで結婚しないかねぇ、あの二人…。」

「私もよくツッコミ入れてるんですよ〜?」

「まぁ、いずれそうなるでしょ。エルもいい加減婚活でもしたら?」

「余計なお世話よマミー!!」

「アッハハハハハ!エルを娶るなら俺を倒せるかだなぁ!!」

「ダディー、それ洒落にならないでしょ…。」






◆◇◆◇◆◇◆◇◆





寮に帰ってきて数時間。

ベッドの上で雄二とメリスが荒い息遣いで寝そべっていた。

アンデッドであるメリスに雄二がギフテッドとしての力を利用して常日頃から生命力を供給するためにお互い裸で抱き合って眠る日々なのだ。つまりはまぁ……コトに及ぶ日も結構頻繁である。

「あぁ〜……今日もしつこかったなぁ、メリス……。」

雄二には珍しくグッタリした表情を浮かべる。

一方のメリスは普段より妖艶な笑みを浮かべる。

「フフッ♪お褒めの言葉ありがとうございます♪」

メリスが上気した顔で雄二をまっすぐ見つめる。

「全く……こんな関係、いつまで続ければ良いんだろうな……?」

そんな雄二の呟きを聞いてメリスも笑みを消して俯いた。

「……いつかは終わると思いますので……それまではよろしくお願い致します……。」

「……何を言うかと思えば。」

そう言ってもう一度メリスを抱き寄せる雄二。

「今更お前を離したりなんかしないさ。覚悟しろよ?」

少し茶化すようにメリスに言った雄二の顔は、いつもより優しく見えた。

「えぇ。」

そんな雄二の笑顔をメリスは満足気に見つめながら応えるのであった。

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