03:県警案件・OL行方不明事件(後)

行方不明者救助の任務のために地球からやってきた境界警察局の2人と、


邪教集団退治の依頼を受けて近隣の街からやってきた現地の冒険者パーティ4人。








「改めて、俺は冒険者パーティ『ルミナス』のまとめ役を務めている、アルフォード。剣士だ。」


「僕はロイ。斥候だ。」


「……ディム。魔術師。」


「僧侶のミーシャです。」




「こちらも改めて、境界警察局のメリス・ガーランドです。言うなれば、エージェント、ですかね。」


「同じく境界警察局の烏山雄二。同じくエージェントだ。」




お互いに自己紹介含む情報交換をした結果、すっかり日も落ちて暗くなってしまった。


そのため、計6人は廃屋敷の正門前にキャンプを張り、焚火を焚いて夜を明かすことにしていた。






焚火を囲み、お互いに食料を出してつまみつつ話し合う。


アルフォードたち『ルミナス』の4人は黒パンに干し肉を茹でた簡素なスープ、


メリスと雄二の二人は支給の携帯糧食であるブロッククッキーとドリンクゼリー。


「…ユージ、うまいのか?それ。」


斥候のロイが雄二に聞く。


ヘルメットを脱いで糧食を食べる雄二は答えた。


「支部からの支給品で味のリクエストに応えてくれるからな、意外といけるぞ。まぁ分けるわけにはいかんが。」


「なんだ、残念。」






「あ、あの…。」


食事後、僧侶のミーシャが、メリスに恐る恐る問いかける。


「何でしょう?」




「メリスさん…あなたって、その……アンデッド、ですよね?」




このミーシャの発言と同時に、アルフォードとロイは武器を構えようとし、ディムも杖を構えようとする。


しかし、雄二はやれやれまたかといった感じで肩をすくめ、当のメリスはケラケラと笑う。


「まぁ別に隠してるわけじゃありませんしね。えぇそうですよ、私はアンデッド。『リッチ』です。」


「や、やっぱり…!!」


あっさりと認めたメリス。ミーシャは僧侶故に思ったことを聞いた。


「でも、どうして生者を恨む存在であるアンデッドのあなたが人助けを…!?」


その言葉に、メリスは笑顔で答える。




「詳しくは長くなりすぎるので端折りますが、恨みなら過去にもう清算済み、とだけ。それに私は今を全力で楽しんでいますし、雄二に恩をまだ返し切れてませんからね。」




アンデッドとはとても思えない、美しい笑顔。


雄二は照れくさそうに視線をそらし、アルフォード達は思わず構えを解いて見とれていた。




「それに、境界警察局ではインテリジェンス・アンデッドの採用には積極的なんですよ。」


「え、そうなのか!?」


メリスのさらなる発言にロイが驚きの声を上げる。


そこからは雄二が補足した。


「昔あった事件からの教訓、でな。ある凶悪犯を追い詰めた時なんだが、そいつは逃亡のために違法なポータルプログラムを使って異世界への門を開けてしまった。だが開いた門の先の異世界というのがな…」


「…というのが?」


アルフォードが興味を抱く。


「まさかの、毒性の大気が渦巻くとんでもない世界だったんだ。それで犯人を含む多くの局員が門から吹き込んできた毒の瘴気で殉職してしまった…。」


「そ、そんな世界が…!?」


驚くロイに、メリスが補足する。


「その後に開きっぱなしとなってしまった門を閉じるために尽力したのが、私達アンデッドの局員だったんです。毒の瘴気もアンデッドの私達には関係ありませんからね。」


「た、確かに…。」


「なので、それ以降は異世界調査に向かう際は魔法やスーツなどで防護を完璧にするか、アンデッドの局員が対応するのが普通になったんですよ。」


そんなメリスの姿を見て、アルフォードたちは納得しつつ、同時に尊敬の目線をメリスに向けた。


「すごいな……俺なんかとは大違いだ……。」


「俺もだよ……俺らもまだまだ半人前だなぁ……。」


「……あぁ。」


アルフォード、ロイ、ディムの3人がボヤく。


メリスはそれを聞いて、微笑みながら言った。


「これからですよ、皆さん。人間だろうが、アンデッドだろうが、誰かを救う力になれますよ。私がそうであったように。」


「そうだな……ありがとう。」


アルフォードたちも微笑み返す。


「さて、話はこれくらいにしておきましょうか。」










翌日。


アルフォードたちの案内で街にやってきたメリスと雄二。


一旦冒険者ギルドに報告すべきと判断したためだ。


道中の森で一度魔狼の群れに遭遇するも、熟練冒険者パーティであるアルフォード達なら問題はなく、同時にメリスと雄二の2人の戦い方を披露する場にもなった。


「ユージの右手の武器、斥候としては気になるなぁ。」


「アームキャノンの事か。」


「放たれてたのは魔弾でしたし、むしろ魔術師の私向きかと。」


「ちぇ~。」


「すごかったですね、メリスさんの茨の鞭!」


「アレもリッチになって得たものなんですか?」


「まぁそんな感じです。皆さんこそ、素晴らしい連携だったじゃないですか。」


「いえ、私達なんてまだまだですよ。」








酒場と兼用となっている、冒険者ギルド。


明らかに浮いている雄二のパワードスーツ姿やメリスの局員服姿でどよめきが起こったが、そこは『ルミナス』の4人が説得して納めてくれた。どうやらそれなりに名の知れたパーティらしい。


そして受付嬢に事情を話し、ギルドマスターと面会することに。


「なるほど、話は分かった。それで、君たち『ルミナス』はこの件をどうしたいと考えている?」


「依頼は達成したいと考えています。行方不明者がいれば救出も。」


「ふむ……。」


ギルドマスターは考え込む。


「ちなみに、その行方不明になっている女性というのは……?」


「……こちら側で捜索願が出ている者です。私達は公的機関として要請を受けています。」


メリスが小さく手を上げて答える。


ギルドマスターは更に考え込んだが、やがて思い出したように話し出す。


「…確か、この国にも大昔に異界から知啓を授かるために賢者を呼び出したというお伽話があったが…まさか邪教徒たちは本気でそれを…!?」


ギルドマスターの発言に、メリスはギラリと目を光らせる。


「おやおや、この世界にはそんな伝説があるのですか?これは詳しくお話を伺いませんと…!」


「メリス落ち着け、任務優先だ。」


すかさず雄二が諫める。


「おっと失礼、ホホホ。」


諫められたメリスはおどけるように笑った。


しかし、目を光らせた際に一瞬漏れ出ていた黒い殺気に、この世界の面々は驚き大量の冷や汗をかいたのだった。






その後改めて協力体制を結び、周辺で聞き込みを開始した。


廃屋敷にはもう手がかりはなかったのだ。既に移動しているとなると、この街に補給もかねて潜伏している可能性が高い。


そう考えた一行は街の中を探し回っていた。


メリスと雄二は専用通信機マギ・コールで離れてても連絡を取り合えるので、『ルミナス』の4人が二手に分かれ、それぞれにメリスと雄二が分かれて同行するという3人態勢をとった。


雄二、アルフォード、ミーシャの3人、


メリス、ロイ、ディムの3人だ。




「……ん?」


路地裏に差し掛かったところで、雄二が何かを見つけたらしく立ち止まる。


「ユージ、どうかしたのか?」


「……あそこ、誰かいるぞ。」


「えっ、どこだ?」


「あそこの、壁際。」


雄二に言われ、アルフォードとミーシャは雄二の指差す方向を見る。


確かにそこには、フードを深く被って壁に背を預けた人影があった。


「なんだありゃ、怪しいな……。」


「声をかけてみますか?」


「いや待て、まずは様子を見よう。」


「了解。」


「わかりました。」


3人は物陰に隠れつつ、人影の様子をうかがい始めた。


特に雄二はスーツのヘルメットバイザーを利用してフードの人影を分析してゆく。


「………………男、成年、腰にナイフと内容物不明の液体袋、フードの下に何やら紋章入りの衣服、か。」


分析の結果を伝えると、アルフォードとミーシャも驚く。


「凄いな、そこまでわかるもんなのか……。」


「はい、流石ですね……。」


「まぁな。」


雄二は二人に答えながら、分析で読み取った『フード下の衣服に描かれた紋章』をスーツデバイスを使って映像化し二人に見せた。


「こんな紋章を読み取れたんだが、見覚えはあるか?」


その映像を見て、アルフォードは驚く。


「これは!まさに俺たちが追っている邪教の紋章じゃないか!!」


「そうか、どうやらビンゴのようだな。」


その言葉を聞いて、雄二はすぐ確認を取る。


「奴らは生け捕り前提か?それとも、デッドオアアライブ?」


「で、でっど・・・?」


ミーシャが首をかしげるが、アルフォードは答えた。


「いや、もうすでに奴らはたくさんの人達を生贄と称して殺している。だから依頼でも『討伐せよ』とはっきり明言してるほどだ。俺もためらわない。」


その言葉を聞いて、雄二はヘルメットの下でニヤリと笑った。


「それを聞いて安心したぞ。これで俺もためらわずに済む。」


そして、マギ・コールを起動しメリスに連絡を取る。


「こちら雄二、容疑者一味の一人を発見した。これより拘束する。」


『こちらメリス、了解です。すぐに合流します。』


通信を切り、すぐに雄二はアームキャノンをチャージし始める。


そして物陰から不意打ちでチャージビームを発射した!


「あがががががg!?」


フード男は全身が痺れ、その場に倒れた。


「あれ、殺さなかった?」


ビームを撃ち込んだのでアルフォード達はてっきり射殺したかと思ったのだが、雄二が補足する。


「今撃ったのは暴徒鎮圧用のショックビームだ。魔狼に撃った射殺目的のプラズマビームではないぞ。」


「術を切り替えてたんですね…」






「は~い、ちょっとチクッとしますよ~♪」


合流したメリスが腕から複数本の茨の蔓を生やし、拘束した邪教徒の男の頭にゆっくり次々と突き刺してゆく。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”・・・・・」


痺れて動けないままの邪教徒の男は茨を突き刺されると同時に悶絶し、体をビクンビクンと震わせる。


「……いったい何をしてるんだ??」


その悍ましい光景にドン引きしながらロイは問うた。


メリスはあっけらかんと答える。


「簡単ですよ、こうして蔓を突き立てることで相手の脳内を読み取るんですよ♪」


「それで情報を引き出すというわけだ。」


雄二も一緒に補足した。


「うぇ……なんだか気分悪くなるな……?」


「私もそんな感じがしてきました……。」


あまりのえげつなさに、ロイもミーシャも顔をしかめる。


その後、悶絶する男から情報を引き出したメリスが蔓を引き抜いた。


「さて、必要な情報は取れました。まだ生きてますし、男はこの街の衛兵隊にでも引き渡しましょう。」


「ということは、奴らのアジトが分かったんですね?」


アルフォードがメリスに問う。


「えぇ、急ぎましょう!」






奴らは街の地下、下水道の一角にアジトを構えていた。


廃屋敷にて召喚の義を執り行った際に門に魔力を吸い尽くされたことで多くの邪教徒が死んでしまっており、教祖含め総数は10人を下回っていた。


「賢者様はいまだ我らの教義をご理解されておられない。何故なのだ…?」


「まだ混乱されておられるのでしょう。もうしばらく様子を見ませんと。」


「しかしそれではいつまで経っても叡智を授かることが…」














『はーい、そこまで!!』












アジトの中に、メリスの声が響き渡った。












「見つけたぞ邪教徒どもめ!!」


続いて冒険者パーティ『ルミナス』のリーダー、アルフォードが剣を構え前に立つ。


「あなた達の行いは神の意志に反します!大人しく裁きを受けるのです!」


僧侶ミーシャもフレイルを構える。


「お前たちの企みは全て聞いた!もはや言い逃れはできないぞ!!」


ロイも弓を番えて構えた。


「観念しろ、貴様らもここまでだ。」


最後に雄二もフルチャージのアームキャノンを構えた。


邪教徒たちは皆狼狽えだす。


「馬鹿な、どうやってここを突き止めたのだ!?」


「まさか、我々の計画が漏れていたというのか!?」


「おのれ!こうなれば無理にでも賢者様から…!!」


「おやおや、させませんよ?」


不穏な発言をメリスは聞き逃さず、すかさず茨の鞭を振るい男達を打ち据えてゆく!


「ぐぁあああ!!?」


「ぎゃっ!!」


「ぐうぅうう!!!」


茨の蔓に打たれた男達は瞬く間に血まみれになっていく。


「おのれえええええ!!!我等が教義は間違ってなどいない!!!」


邪教徒の中でも屈強そうな体格の男たちがフレイルを片手に突撃してくる。


「紅蓮の炎よ!」


しかし敵の突撃は、ディムの放った炎の魔法によって阻まれた。


「メリスやユージに助けられてばかりではいられませんからね。」


「そろそろこっちもイイとこ見せなきゃな!」


ディムの魔法に続くようにロイも弓で攻撃を始める。


「くっ、小賢しい真似をしおって!!」


「無駄だ、貴様らの攻撃なぞ効かぬわ!」


邪教徒たちも負けじと反撃に出ようとする。


「ならば、これならどうだ?」


雄二も狙いを定め、ビームを発射する。今度は非殺傷のショックビームではない。殺傷目的の、プラズマビームだ。


「あがっ………!?」


フルチャージのプラズマビームを受けた一人の邪教徒は一瞬で焼け焦げ炭化し、崩れて消えた。


「ひぃいい!?」


「ば、化け物!?」


「怯むな!我らの下には賢者様が……!!」


リーダー格の男が檄を飛ばすが、アルフォードが切り込んでゆく。


「させると思うか?」


アルフォードの剣が閃き、次々と邪教徒たちを斬り伏せてゆく。


「現地の人達に討伐してほしいと願われてますからね。私も容赦しませんよ♪」


メリスの茨の蔓もまた一人、二人と敵を絡め捕り、引き裂いていった。


「これで終わりです!」


「あががg!?」


ミーシャのフレイルが最後の邪教徒を打ち据え、ついに邪教徒たちは全滅した。








「お腹………すいたよぉ…………」


邪教徒たちが作った簡素な独房に閉じ込められている女性。


既にボロボロで汚れまみれではあるが、明らかにこの世界の文化圏に不釣り合いなビジネスジャケットにタイトスカート。


彼女こそが、今回行方不明となっていたOL、小川梢(おがわこずえ)である。


「何が賢者様よ……何が我らに叡智をよ………あんたらみたいなイカレ野郎たちの知りたいことなんざ知らないわよ……!」


会社帰りに突如召喚され連れてこられた邪教徒たちの塒。碌な食料もなくただただ叡智を授かりたいと狂った眼差しで縋り続けてくる奴ら。いくらこちらが弁明しようとしても「おぉ、賢者様はいまだ混乱の中にあるのだ!」と遮り聞こうとしてくれない。


「誰か、助けてよぉ……」




「こちらから声が聞こえました!」




女性の声が梢の耳に聞こえた。


「え、誰?」


その疑問はすぐに解けることになる。


独房の格子越しに、テレビなどで見慣れた格好を見たからだ。


元の世界、地球で活躍している組織、『境界警察局のエンブレムがあしらわれた制服』だ!


「境界警察局!?」


梢は思わず声を上げた。


それを聞いたメリスが即座に答える。


「小川 梢さんですね!境界警察局の者です!助けに来ました!!」
















救出した小川梢のある程度の回復を待つため、3日ほど冒険者ギルド管轄の宿で過ごした。


その間、ルミナス達はギルドマスターへの報告や報酬受け取り、雄二は一度地球に帰還して地球側から門の再設置(今度はギルド内に門を設置し廃屋敷の門は破棄)をしたりと忙しく過ごした。梢の元にはメリスとミーシャが付き、世話をした。


そして最終日、いよいよ帰還の日となった。


ギルド内の会議室の一角に改めて開かれた『門』の前に、ギルドマスターとパーティ『ルミナス』の面々、そしてメリスと雄二に、助けられた梢が集う。


門の向こう側からは、チームメイトのメカニックであるエルメナと共に、他の支部局員や医療スタッフたちの姿が見える。


「現地冒険者の皆様、この度は捜査へのご協力、ありがとうございました!」


メリスは冒険者ギルドの面々に改めて向かい合い、敬礼する。


「こちらこそ、邪教討伐依頼へのご協力、感謝します。」


ルミナスのリーダー、アルフォードが礼を述べる。


続けて、ギルドマスターが梢の方を向く。


「そして、コズエさん。この度は我々の世界の者達が不埒な真似をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」


ギルドマスターは深々と頭を下げて謝罪した。


「えっと、その………もう大丈夫ですから…ミーシャさんやマスターさんには本当に親切にしてもらいましたから…。この世界も、あんな悪い奴らばかりじゃないってわかりましたし…。」


「それを聞いて安心しました。どうか、元の世界でもご息災で。」


ミーシャが返事した。


「なぁ、メリス、ユージ。」


アルフォードが前に出た。それにメリスが答える。


「何でしょう?」


「俺達も、あなた達のような『誰かを救う力』として戦っていきたいと、改めて思ったよ。ありがとう!」


「……えぇ、応援してますよ。」




メリスとアルフォードは力強い握手を交わした。






















帰還後、メリスと雄二はメディカルチェック後に部署へと戻ってきた。


小川梢は医療スタッフに連れられ病院へ。その後警察手続きを経て帰還することとなる。


「おかえりなさ~い。意外と早く終わりましたねぇ~。」


メカニックのエルメナが二人を労う。


「えぇ、意外と早かったです。」


「とはいえ数日は向こうで過ごしたからな。まずはうまいもんでも食いたいな。」


「そうです!限定スイーツ!!まだ間に合いますよね!!」


「ホント甘党ですねぇメリス…」


呆れるエルメナであった。


「では、お先に失礼しまーす!」


メリスは挨拶をして、満面の笑みで帰路に就いた。


その後ろ姿を、エルメナはやや呆れ顔で、雄二は温かい眼差しで見送るのであった。




「地球を満喫しすぎでしょう…あの不死者(アンデッド)……。」


「……別にいいだろう、死んでからやっと掴んだ幸福なんだからな……。」


「まぁ、それもそうですねぇ。」

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