26:非番
「ふむ、結構美味いなこのタコライス。」
先日、私服巡回時に訪れたカフェ&バー「レッドサンシャイン」。
改めて非番で訪れた雄二とメリス。
雄二は注文したスパイシータコライスを頬張り、舌鼓をうつ。
「ふふ、雄二に喜んでもらえてよかったです♪」
そんな雄二を眺めるメリスが満面の笑顔で喜びながらワッフルを頬張る。
「あの時俺達がロゼッタさんを追跡してた間、お前達はこんな美味い物を楽しんでいた、というわけだなぁ?」
ニヤリと笑いながらメリスを見つめる雄二。
言われてメリスはやや縮こまる。
「え、えぇまぁ、その……。」
「冗談だ。そう申し訳無さそうな顔するな、可愛い顔が台無しだぞ?」
慌てるメリスを窘めながら雄二はまたタコライスを口に運ぶ。
「しかしこのカフェ…静かで雰囲気もあっていい店だな。よく見つけたなこんな店。」
店内を眺めて雄二が言う。
「今の時代、こういう隠れ家的なお店もネットで見つけられますしね。雄二がツーリング予定を組む時よくやってますよね♪」
「成る程な、確かにその通りだ。」
雄二の趣味であるツーリングを振り返りながら2人で笑いあう。
そんな時、カフェのドアが開く音がし、来客を告げる呼び鈴が店内に鳴り響いた。
「いらっしゃいませ~、何名様ですか?」
すぐに店員がやってきて対応する。
『4人なんじゃが、空いとるかのぉ?』
先頭にいた、白髭が立派な老人が店員に人数を告げる。
「かしこまりました、こちらへどうぞ!」
直ぐ様店員が案内。そうして老人含む4人が店内に入ってきた。
そのメンツを見て雄二とメリスは思わず目を見開いてしまう。
「え、え、うえぇ!?」
「おいおい、珍しいメンツだな…何やってんだ?」
入ってきた4人のうち、一人は何とチームメイトのエルメナ・エンジード。
もう一人は同じくチームメイト、人化魔法で人間に変身した機光竜ギルディアス。
更に一人はなんと、境界連盟機構横田駐屯地所属第18即応部隊隊長である妙齢の女性、ドリス・アン・ビルソン大佐だ。軍服ではなく私服なのか茶色のショート丈のミリタリージャケットにVネックのトップス、デニムパンツという出で立ち。
そして先頭にいた老人。先述の通り立派な白髭を生やし、対して頭はキレイに禿げ上がっている。服装は派手な紫のアロハシャツにチノパン姿。よく見るとギルディアスと同じく、右腕と右足が機械義肢になっており、右目の義眼を中心に顔の右側も仮面のような機械仕掛けとなっている。
『さぁさぁ、今宵は儂が奢ってやるぞ〜。遠慮せず食べるのじゃ♪』
白髭の老人が上機嫌でエルメナ達3人を労う。
「えぇえぇそりゃもう、遠慮なく行かせてもらいますよ!」
「全くだ、これくらいの役得は当然だろう!」
対してエルメナとビルソン大佐は不機嫌極まりないといった感じでメニューを開く。
『………二人とも、本当に申し訳ない…まさか老が…。』
『何じゃギル坊、お前さんは儂に恩を返してくれただけではないか。恥じることなど無いぞ?』
何故か落ち込んで縮こまっているギルディアスを白髭の老人がフォローしていた。
「ま、まぁ確かにギルディアスは悪くはないですよねぇ。」
「あぁ、そこは私も同意する。貴様は何も落ち度はない。」
エルメナとビルソン大佐もそこには同意した。
そのまま続けてビルソン大佐が発言。
「まさか人化魔法を習得して人化したとたんにここまではっちゃけるとは思わなかったぞ、バルディオス大尉!!」
『フォッフォッフォッフォッフォ、お前さん達人間が皆楽しそうなのがいけないんじゃろうが、儂は改めてこうして楽しんどるだけじゃぞ〜ドリス嬢ちゃん?』
「……へ?」
「何……だと………!?」
別の席から見ていたデート中の雄二とメリスは驚きを隠せなかった。
そう、エルメナ達3人を労っている白髭の老人の正体。
それはドリス・アン・ビルソン大佐が率いる境界連盟機構横田駐屯地所属第18即応部隊所属軍竜、バルディオス大尉だったのだ。
ギルディアスにとっては、以前瀕死状態で地球にやってきた際に助けてくれた、恩人ならぬ恩竜である。
『ギル坊が教えてくれた機械義肢対応版の人化魔法のおかげで、儂もこうして街で休暇を楽しめるようになったんじゃ。改めて礼を言わせてもらうぞ、ギル坊。』
『老……そんな、勿体無いお言葉です……。』
縮こまったまま礼を言うギルディアス。
エルメナとビルソン大佐はそんなバルディオスをジト目で睨むのであった。
そんな光景を雄二とメリスは唖然とした様子で眺めるしかなかった……。
(嘘だろオイ……!?)
(バルディオス老が……人間になってる……?)
それはあまりにも、衝撃的な光景だった。
雄二とメリスは驚きが隠せず、食べているのも忘れて凝視してしまっていた。
そんな視線を察知したのだろう、バルディオスがメリスと雄二のいるテーブル席のほうを振り向いた。
『お〜ご両人も来ておったか〜♪』
呑気な雰囲気で手を振るバルディオス。
二人は戸惑いを隠せないまま返答する。
「え、えっとその……お久しぶりです…?」
「ほ、本当に大尉なのですか…??」
『フォッフォッフォ、間違いないぞい。』
笑いながら頷くバルディオス。
「大尉……正直、人間に変身した姿に度肝を抜かれました。」
『フォッフォッフォ!老いぼれとは言えまだまだ捨てたもんじゃないぞ?』
雄二の言葉に上機嫌に笑うバルディオス。
『それもこれも、ギル坊が人化魔法を教えてくれたおかげじゃよ♪』
そう言ってバルディオスは隣で縮こまったままのギルディアスの頭をワシャワシャ撫で回す。
『ちょ、やめてくださいよバルディオス老…!』
撫で回されているギルディアスは困惑顔だ。
「それだけで済んでればよかったんですけどねぇ〜…。」
「全くだ。」
未だにエルメナとビルソン大佐は不機嫌のままだ。
「…そういえば、エルにビルソン大佐も…どうしてそんなに不機嫌になってるんですか?」
その様子を疑問に思ったメリスが問いかける。
その問いかけにバルディオスが答えた。
『なぁ〜に、人化形態の動きを確認するためにちょいと組手をしてただけじゃよ。』
「組手、つまりエルやビルソン大佐を相手取って?」
雄二も疑問に思い問う。
そこでエルメナが一気に捲し立てた。
「その組手で相手した時に!!…私や大佐の攻撃をひらひら躱しながら、胸突付いたり尻撫で回したり太モモにスリついたりしてきたんですよぉ!!!」
「……は?」
雄二の目が点になる。
「……バルディオス老?」
メリスの目がまるでゴミを見るかのような冷たい目になる。
『フォッフォッフォ、軽いスキンシップのつもりだったんじゃがのぉ?』
「どう考えてもセクハラ以外の何物でもないだろうが!!」
悪びれないバルディオスにビルソン大佐が声を荒げる。
『だったらそのセクハラに対抗できるようにもっと修行を積むべきじゃろう?儂の上官のくせに儂に翻弄されていては形無しじゃよドリス嬢ちゃん?』
「ぐぬぅ……!」
バルディオスの言葉にビルソン大佐が悔しそうに呻く。
雄二もまさかの展開に絶句するしかなかった。
(な、なんつー恐ろしい竜なんだ……!?)
(とんでもないセクハラ爺じゃないですか……!)
メリスも雄二も戦慄を禁じ得なかった……。
『こんなことなら人化魔法を教えるべきではなかったかも知れぬ…。』
一方でショックを受けているのはギルディアスだ。
『フォッフォッフォ!まだまだ修行が足りんぞ〜?儂のセクハラに対抗できるようになるまで精進じゃよ♪』
バルディオスはそう言ってカラカラ笑う。
「全く……このセクハラ爺、どこまでフリーダムなんだか……。」
呆れたエルメナがジト目でバルディオスを睨みつける。
『フォッフォッフォ!何とでも言うがいいさ〜!』
そんな視線を受けながらも、バルディオスは何処吹く風だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『か〜っかっかっかっか!美味い酒じゃったのぉ〜!』
食事を終えて店を出た一同。
白ワインやカクテルを飲んで上機嫌のバルディオス。
「こんのジジイ…!!」
その様子に怒り心頭のエルメナが拳を握りしめるも、隣を歩くビルソン大佐がその拳を抑える。
「やめておけエンジード捜査官、どうせのらりくらり躱されるだけだ。」
「うぎぎぎぎ…!」
歯嚙みしながら唸るエルメナ。
「ご馳走様でした、バルディオス老……。」
「まさか我々の分まで支払われるとは…。」
そんな二人に構わず雄二とメリスはお礼を告げる。
『なぁ〜に、ついでじゃよついで。人化できなかった時代からずっと給金が貯まりっぱなしじゃったしのぉ♪』
カラカラと笑いながらそう告げるバルディオス。
『さて、儂はそろそろ次の店にでも行くとするかのぉ。そら、行くぞぃドリス嬢ちゃん。』
「分かっているぞバルディオス大尉…私が監視せねば何をやらかすか…!」
『なんじゃ、そんなに儂のセクハラが気になるのか〜?』
「当たり前だろうが馬鹿者!!」
そう言ってバルディオスとビルソン大佐は次の店へと歩を進める。
その後姿に対し、雄二が礼を言う。
「バルディオス大尉!本日はありがとうございました!」
その礼に対し、バルディオスは振り向かずに手を降って答えた。
『ギル坊をよろしくな〜。』
その場には、境界警察局の4人のメンツが残された。
雄二、メリス、エルメナ、ギルディアスだ。
「…さて、俺達はこれからどうしようか?」
雄二が問いかけると、まずメリスが答える。
「せっかくのデートでしたけど……こんな状態のエルを放ってはおけないですよね。」
そう言うメリスの視線の先にいるのは、バルディオスによるセクハラの怒りが発散しきれずイライラが収まっていないエルメナ。
腕を組み、仁王立ちしながら虚空を睨みつけている。
「メリスの言う通りだ、エルをこのまま放ってはおけんな……。」
雄二も同意する。
「エル、よければ別の店で飲み直そうか?」
雄二の提案にエルメナは怒りの収まらないまま頷く。
「そうですねぇ、正直飲まなきゃやってられないですよ!」
そうして4人は付近にあるチェーンの居酒屋に入った。
「いやしかしまさか、バルディオスがあんなセクハラジジイだったとは思いも寄りませんでしたよ!」
1杯目の生ビール大ジョッキを一気に飲み干し、グラスをテーブルに叩きつけながらエルメナが慟哭した。
今4人は出来るだけ騒げるように個室席に入っている。
しかしその慟哭に雄二がこう発言する。
「いや、大尉なら結構前の竜の頃からその片鱗は見せてはいたな。」
メリスも補足。
「えぇ、主に顔合わせしてたのは私と雄二でしたからエルは知らないかもですけど、私と雄二をよくご両人と称してからかうことが多かったですもんね。」
「マジですか……全くあのジジイは……。」
やれやれと溜め息を吐きながらエルメナは二杯目の生ビールを注文。
『こんなことなら教えるべきではなかったやも知れぬな…。』
ギルディアスは未だ縮こまりながら梅酒をちびちび飲んでいる。
その発言を聞いてエルメナは即座に訂正する。
「いやいや、ギルディアスは何も悪くないですよぉ〜。」
『そ、そうか……?』
「そうですよ〜。悪いのは全部あのセクハラ爺です!」
ジョッキを握り締めて力説するエルメナ。
「そう言えば、そもそもどうしてエルとギルディアスがバルディオス老に魔法を教える流れに?」
カルーアミルクを飲みながらメリスが問いかける。
その問いにまずはギルディアスが答える。
『元々我とバルディオス老は以前からメッセージでやりとりをしていたのだ。それで人化魔法再構築に成功した旨をメッセしたら老が食い付いてきてな…。』
「それで、プロジェクト総監した私も同行してバルディオスにも使えるかどうか実験したわけですよ。勿論連盟機構側の監督としてビルソン大佐が付いて、ですけどね。」
いつの間にか注文していた生ジョッキ3杯目を空けつつエルメナが補足。更に続ける。
「それでバルディオスに人化魔法を伝授したらあっさり習得しちゃったんですよ…。それで実際に人化してみたらあんな白髭の爺さん姿になりまして。」
『恐らく、ドラゴンとしての年齢を人間体に変換した結果なのだろう。我が若輩故に若者の姿になったのと同じ感じでバルディオス老は老齢故に老人姿になったのだ。』
ギルディアスが更に補足。この「人化魔法の効果」については雄二やメリスも知っていることだ。
ここで説明しているエルメナの表情が曇りだす。
「そこまでは良かったんですよ…。その後人化形態の動かし方を確認するために軽く組手をしてみようって話になって、それでギルディアスと私とビルソン大佐の3人で順番に相手したら………。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『フォッフォッフォ、軽いスキンシップのつもりだったんじゃがのぉ?』
のらりくらりと、まるでずっと前から慣れていたかのようにエルメナのトレーニング用ショートポールやビルソン大佐の訓練用ブレードをかわしながら老竜バルディオスは囁く。
「冗談キツいですよバルディオス老……!!」
「全くだ!こんなことをさせるために人化魔法を修得させたわけでは無いぞ!?」
ビルソン大佐とエルメナも反発する。
『バルディオス老…よくもまぁ余裕でいられますな!!』
エルメナとビルソン大佐をフォローするように人化形態のギルディアスも格闘戦でバルディオスに襲い掛かるも、やはりひらりと躱されてしまう。
『そこは年の功じゃよギル坊、儂がこの世界でどれだけ軍事作戦こなしてきとると思うとるんじゃ!』
躱しながらギルディアスの腹に掌底を打ち込み吹き飛ばすバルディオス。
『ぐあっ!?』
思いっきり吹き飛ばされるギルディアス。
「そこだっ!!」
掌底の後隙を狙って訓練用ブレードを突き出すビルソン大佐。
が、バルディオスはそれを義肢である右手でつまんで阻止、そのままビルソン大佐を自分側に引っ張り寄せる。
『飛んで火に入る何とやらじゃぞい♪』
「ぐうっ!?」
くるりと回すようにビルソン大佐を引き込んだ後、背中からホールドする体制に持ち込んだバルディオス。
そしてそのまま…。
『ん〜まだまだハリは失っておらんようじゃのぉ〜関心関心♪』
ビルソン大佐の胸を撫で回したのである。
「き、貴様……!!」
『か〜っかっかっかっか!まだまだ鍛えがいがあるのう♪』
バルディオスを睨みつけるビルソン大佐。しかし当のバルディオスはあっけらかんと笑いながらホールドを解除して解放する。
(こんなセクハラ爺に一本も取れぬとは……情けない……!)
心の中で歯噛みするビルソン大佐であった。
その様を見ていたエルメナは決意を固める。
このジジイは生半可な攻撃では無力化できないことを。
そこでエルメナは白衣の下に隠しているスモークグレネードを2つ投下、周囲を煙で覆う。
『ほぉ、それを解禁しおったか。』
煙幕を見てもバルディオスは動じない。
エルメナは追撃で特殊装備である『マジック・チャフ・グレネード』を手に取り、投げようとするが…。
『抜いたのならば、儂も装備を解禁せざるを得んじゃろう?』
煙の向こうから、発射音と共に2本のワイヤーがエルメナに向かって飛んできたのだ。1本がエルメナの右手のマジック・チャフ・グレネードに巻き付き、もう1本はエルメナの体に勢いよく巻き付いた。
「にょわっ、ちょ、待っ……!?」
ミスリルワイヤーとアダマンタイトチェーンを編み合わせて作られているバルディオスのワイヤーにはバルディオスの魔力が流れており、それにより意のままに操ることが出来るようにもなっている。それによってワイヤーは複雑な動きでエルメナの体を絡め取り、最終的に……。
「ちょ、なんでよりによってこんな縛り方なんですかぁ〜〜!!??」
ワイヤーはいわゆる『亀甲縛り』の形でエルメナの体を縛り吊るしてしまったのである。そのせいでエルメナの体はがっちり拘束され、なおかつエルメナの豊満な胸や太モモを強調する状態となっている。
「うぎぎ……!!」
思わず歯噛みするエルメナ。
『フォッフォッフォ、眼福、眼福じゃわい♪』
そんな様子をせせら笑うバルディオス。
(このセクハラジジイ〜!!)
何とか脱出しようともがくが、魔力を帯びた特製ワイヤーは想像以上に固く、とても振り解けそうにない
その時、煙の向こうからギルディアスが飛び出してくる!
『フンッ!!』
そしてそのままバルディオスの顔面に右腕の義手で刺突を繰り出す。
が、その刺突もバルディオスは何と『歯で噛んで』止めてしまう。
『なっ!?』
右手を咥えられたギルディアスはそのままバルディオスに顎で投げ飛ばされてしまう。
『ちぃっ!』
とは言えギルディアスもバルディオスと同じドラゴン。すぐに体制を整え着地する。
『バルディオス老!流石に戯れが過ぎますぞ!!エルメナに対し何と言う破廉恥な真似を!!』
流石に怒りを隠しきれないギルディアスが叫んだ。
『しかしのぉ、そっちが先に武装を抜いたんじゃぞ?ならば儂も抜かねばアンフェアじゃろうて。』
バルディオスは自身の右胸元から発射されて未だ繋がったままのワイヤーランチャーを見せながら愚痴る。
『ならば、この姿で出来る技として我と同じようにやってみせよ!』
そう言い放ち、ギルディアスは大きく口を開く。その口には眩い雷光が迸り始める。
『ほぉ、ならば儂もやらねば無作法じゃのぉ。』
バルディオスはビルソン大佐を射程外に突き放し、同じように大きく口を開く。口内に揺らめくはおどろおどろしい紫色の炎。
未だ吊るされているエルメナと突き放されたビルソン大佐は戦慄した。
((完全にドラゴンの竜闘じゃないか!))
そんな2人を尻目に、両者は互いに必殺のブレスを放つ態勢に入る。
『ゴアアアアアアアアアアアア!!!』
『ギャオオオオオオオオオオオ!!!』
ギルディアスの口から特大の雷光『ライトニング・ブレス』が、バルディオスの口から紫炎の奔流『ダーク・ブレス』が放たれ、お互いのブレスがぶつかり合う。
周囲の機材を吹き飛ばすほどの大爆発を起こし、互いの技が拮抗していることを見せつける。が、やがてバルディオスのダーク・ブレスがギルディアスのライトニング・ブレスを押し込み始める。
『(このままではマズい!)』
ギルディアスはそう判断し、自身の魔力全てを解き放つ準備をする。しかしその時、ビルソン大佐の怒号が響き渡る。
『いい加減にせんか貴様等ー!!もはや組手の域を超えているぞ!!』
ビルソン大佐は自身で風魔法を利用して自身の怒号を大音量にブーストして言い放ったのだ。その声に思わず両竜はブレスを止め、ぶつかり合っていたブレスは霧散し消えた。
『あー……申し訳ない……熱くなり過ぎてしまった…。』
『おぉ……すまんのぉドリス嬢ちゃん、久しぶりに燃えてしもうたわい。』
ブレスを止めたギルディアスとバルディオスは頭をかきながら謝罪した。
「全く…この埋め合わせはしてもらうぞバルディオス大尉。」
バルディオスを睨みつけながら言い放つビルソン大佐。
『いやしかし、この人間形態でも結構色々出来ることが分かって良かったのぉ〜ッフォッフォッフォッ。』
「そう思ってるんならそろそろ下ろしてくれませんかねぇ?」
呑気に笑うバルディオスに、未だ吊るされたままのエルメナが文句を言う。
『おぉ、すまんのぉ。』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……とまぁ、こんな事があったわけですよ。」
既に何杯目かもわからない生大ジョッキを空けながらエルメナが〆た。
「本当に盛りだくさんな時間だったんですね……。」
メリスは感心しながら、デザートとして注文していたバニラアイスを食べる。
『最後のブレス合戦では我も思わず熱くなってしまったな。』
熱燗を飲みながら言うギルディアス。
「いやぁ、それにしても……バルディオス、街中ではちゃんと触ってこなかったんですよねぇ。発言がちょいちょいセクハラじみてましたけど…。」
エルメナが未だ文句を垂れ流す。
「今後はメリスを近づけないほうが良いか…?」
雄二はやや厳しい目つきになりながら、隣りに座っていたメリスの肩を掴み抱き寄せる。
「雄二…♪」
酔いが回っているメリスは雄二に抱き寄せられて幸せそうに頬を赤らめ、頭をすり寄せる。
ふと、メリスは気になったことを発言する。
「そういえば、私達4人チームが揃ってこうしてプライベートで飲み会するって初めてですよね?」
「確かに、そうだな。」
雄二は微笑みながらメリス、エルメナ、ギルディアスの3人を見る。
「この光景を、当たり前にしたいな。」
雄二はそう言って、生中ジョッキを掲げる。
「えぇ、そうですね。」
メリスもカルーアミルクの入ったロックグラスを掲げる。
「もち、またいずれ非番の時に♪」
エルメナも生大ジョッキを掲げる。
『我も、この平和な時を再び享受したいな。』
ギルディアスも熱燗の入ったお猪口を掲げる。
「「「『乾杯。』」」」
4人は、数多ある世界と境界の中で出会えたことを感謝しながら乾杯したのであった。
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