27:"公認奴隷"所有者監禁事件

地球と異世界、様々な世界との交流が行われるようになった現代において、度々議題に上がる概念がある。


それが、"奴隷"という概念についてだ。


人としての権利を持たず、所有物として譲渡、売買の対象となる人間。それが現在地球において奴隷という概念の定義となっている。

地球では概念そのものが違法と見なされるようになって久しい、奴隷。

しかし、異世界においてはその限りではないほうが多い。

世界によって様々だが、地球以外の世界では現在も奴隷というものが存在し、売買または運用が行われている。

だが、一口に奴隷と言っても世界によって形態は様々である。

ある世界ではそれこそ"モノ"として粗雑に扱われ命を落としても見向きもされないような存在とされているが、また別の世界では奴隷所有者に奴隷の扶養義務があり、健康で文化的な最低限度の生活を保証しなければ所有者が逮捕処罰されるようになっている。


そんな"奴隷"だが、基本的に元々の世界で合法とされているのであれば地球側にその制度や存在を問う権利は認められていない。元々の世界側の体制に口出しをするのは侵略と見なされかねないためだ。

だが、何らかの形で越境し地球にやってくるのであれば話は変わってくる。

異世界側から違法ポータルを開いたり、地球側から『旅券』を使って違法に門を開いたりなどは当然論外となるが、境界門管理所などを利用して正規に地球へやってくる異世界人も多くおり、その中には奴隷身分の者やその所有者も当然ながら存在する。

その際には境界門管理所にて所定の手続きを行うことになっており、その際に元世界側の政治体制、とりわけ奴隷制度に関しての照合が行われる。そのうえで合法である確認が取れれば、次は奴隷と所有者の情報を照合する。そこで正式な契約である確認が取れ、なおかつ奴隷本人の健康状態が良好であればようやく地球への渡航が許可され、"公認奴隷"として専用許可証が発行されるのだ。

こうした手続を経てやっと地球へやってくることが出来るのだが、さらに地球側では色々と気をつけて過ごさなければならないのが現状だ。

まず、地球側では『新規の奴隷契約締結』と『奴隷売買』は完全に禁止である。公認とは言え地球側では奴隷の概念そのものが違法であるのは変わりないためだ。

また、法ではないが民間意識として奴隷というものに対し偏見や忌避感がいまだ根強いのも事実である。人権擁護団体の活動やデモも未だに活発である。悪どい連中が違法人身売買目的で奴隷を狙ってくる場合もあれば、正義心に駆られた人権団体らによる公認奴隷所有者への襲撃も残念ながら起きてしまっているのだ。

そう言った者達から公認奴隷やその所有者を守るのも境界警察局の役目であり、通報あれば直ちに対応に入るのだ。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆




私服巡回中のメリスとエルメナ、そして後方から認識阻害で隠れつつ補佐している雄二とギルディアス。

「こちらメリス、ここまで私の方では何もなしですが、そちらはどうですか?」

『こちら雄二、俺からも特に不審点はないぞ。その調子でこの後も頼む。』

「こちらメリス、了解で〜す。」

お互い距離を離しているので、通信機で定時連絡をするメリスと雄二。

境界警察局員の4人はいつも通りに周辺を巡回していた。

そんなある日であった。


「ん?駅前が随分騒がしいですね?」

駅前に来た4人。メリスがふと駅前ロータリーの方向を見ると、何やら不自然な人だかりが出来ていた。その中では怒号が響いている。

「何事でしょうか?」

「行ってみましょうか〜。」

メリスとエルメナはその人だかりの中へと押し入っていく。

「は〜い、ちょっとどいてくださいね〜!」

「すみません、通してください!」

人だかりをかき分けて進むメリスとエルメナ。密かに認識阻害状態の雄二とギルディアスもフォローする。

そうして渦中へと飛び込んだメリスとエルメナが見たのは…。



40代から50代の主婦と思われる女性が3人、金髪の男と獣人の少女の2人組に相対し、がなり立てていたのだ。



「一体何なんだね君達は!?」

金髪の男は連れている獣人の少女を主婦3人から守るように抱きかかえながら反論している。よく見れば少女の首には首輪かかけられている。

その様を見て主婦3人は更にヒートアップする。

「まぁ、この男いたいけな女の子に掴みかかったわよ!!」

「やっぱりそういう目的でこの子を奴隷にしたのね!!」

「やっぱり奴隷なんて認めちゃいけないわ!!」

がなり立てる主婦達に、金髪の男の腕の中にいる少女が言い放った。

「御主人様を悪く言うな!!御主人様は私の命を救ってくれたんだ!奴隷も悪いことばかりじゃない!お前達のような頭のおかしい連中から守ってくれるんだ!!」

「あぁ、ナターシャ……。」

少女……ナターシャの言葉を聞いて金髪の男(御主人様と呼ばれていた)は目尻に涙を浮かべる。

そんな様子を見て主婦達はヒートアップする。

「何を訳のわからないことを言っているのよこの子は!?」

「あぁ可哀想に…この男に洗脳されてしまったのね!」

「もう大丈夫よお嬢ちゃん!すぐにこの悪漢から助けてあげるから!」

少女、ナターシャの発言を都合よく曲解している主婦達。そしてついにナターシャに向かって手を伸ばそうとしてきたのだ。



「はーい、そこまで!!」



ここでメリスが割って入る。メリスが主婦等を睨み、エルメナがナターシャと主人のもとへ駆けつける。

「ちょっと、いきなり何なのあなたは!?」

「私達はその子を奴隷から救ってあげようとしているだけです!」

「邪魔しないで!」

メリスに向かってがなり立てる主婦達だが、メリスは冷静に境界警察局員手帳を掲げて宣言する。

「落ち着いてください、私は境界警察局のメリス・ガーランドです。」

この発言で周囲がざわめき出す。

「境界警察局…!?」

「あぁ、やっと来てくれたんですのね!」

メリスが境界警察局だと知るやいなや、主婦達は味方が現れたと笑顔になる。

「警察の方!早くその男を逮捕してくださいな!!」

「その男はいたいけな少女を奴隷にして連れ歩いてたんですのよ!!」

「首輪つけさせてますし、御主人様だなんて呼ばせて…見てられませんわ!!」

主婦達は本当に声が大きい。メリスは既にうんざりしていた。

「奥様方、落ち着いて…」


「そこまでですよ奥様方。この子は連盟からの正式認可が下りている"公認奴隷"ですよ。ちゃんと許可証も持ってます。」

後ろでナターシャと主人に対応していたエルメナが主婦達を睨みつける。

「な、何よ、いきなり現れてそんなこと言われても納得出来ませんわ!」

「そもそも連盟なんて関係ないでしょう!連盟の認可なんてなんの効力もないでしょう!?」

なおも食い下がる主婦達だが、エルメナに一蹴される。

「私達は境界警察局ですよ?これ以上意見がお有りでしたら支部で詳しくお伺いしましょうか?」

エルメナが眼鏡越しに睨みを効かせると主婦達は一気に大人しくなった。

「べ、別にそこまでしなくてもいいですわ!」

「とにかく、奴隷だなんて認めませんからね!!」

「フン!!」

鼻息を粗くしながら主婦達はその場を立ち去っていった。


「エル、助かりました。」

主婦達が去った後、メリスは振り向いてエルメナに礼を言う。

「これくらいお安い御用ですよ。確認も取れましたしね。」

エルメナはメガネをクイッと動かしながら答える。

「あ、ありがとうございます…おかげで助かりました。」

金髪の男は少女ナターシャとともに頭を下げて礼を言う。

「いえいえ、大事に至らなくて何よりです。」

「とはいえこの度は地球世界側でこのような事態に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。」

メリスが礼を返し、エルメナが今回の事を地球側として謝罪する。

「いやその、境界門管理所での手続きの際に注意説明は受けてましたから一応心構えはしてたんですよ…あそこまで激しい人達は初めて見ましたが…。」

金髪の主人は恥ずかしがりながら答える。

「この地球じゃ、奴隷ってそんなに悪いことなんですか…?」

奴隷であるナターシャは不安げに問い、エルメナがそれに答える。

「今ここで話すには長くなりすぎるので端折りますけど、大昔の地球も奴隷制があって、しかもひどい扱いだったからそれを正した結果…ですねぇ。」

「そ、そうだったんですか……。」

エルメナの説明を聞いてややショックを受けるナターシャ。そんな様子に主人がなだめるように話しかける。

「ナターシャ、俺たちは大丈夫だから。それに境界門管理所の手続きで確認が取れているのなら合法的に認められているからな。」

「……うん!」

金髪の主人はナターシャの肩を抱きながら励ますと、ナターシャも笑顔になって頷く。

そんな微笑ましい様子を見ながらエルメナは主人に話しかける。

「お2人はどちらへ向かう途中ですか?」

「私たちはこの街を観光中だったのですが、この駅前で休憩していたらいきなりあの3人組がやってきて揉め事になって……ほんと参りましたよ……。」

金髪の主人は苦笑しながら話す。

「いきなり、ですか…なにか以前にあの方々と関わりがあったわけではないということですね?」

メリスが質問する。

「えぇ、全く。」

主人ははっきりと答えた。

「わかりました……。」

メリスは答えを聞くと頷き、通信を繋ぐ。

「こちらメリス。雄二、そちらはどうですか?」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「こちら雄二、例の主婦3人を追跡中だ。」

依然としてギルディアスの認識阻害魔法で隠れた状態の雄二とギルディアスは、立ち去っていた主婦3人を追っていた。

実は雄二は一つ、主婦達を見ていて引っかかることがあったのだ。

「主婦3人はみな同じ方向に向かっている。それに、3人のバッグに付いているキーホルダー……ありゃあ『全奴隷解放委員会』のエンブレムだ。」

雄二からの報告を聞いて、通信先のメリスは嫌な予感を覚える。

『全奴隷解放委員会って、あのですか……?』

「あぁそうだ。」

雄二からの肯定の言葉にメリスの顔は険しいものになる。

それもそのはず、人権擁護団体『全奴隷解放委員会』は以前から境界警察局がマークしていた非合法団体だ。「全ての世界から全ての奴隷を開放する」を行動理念に掲げている、一部では有名な組織だ。

主に政府や政党施設への過激なデモ活動を行っており、ちょくちょく公認奴隷所有者に対しても恐喝や暴力事件を起こしている。

人権擁護団体とは言うが、要は"奴隷の強制解放”を叫ぶ危険な団体だ。

そんな団体にあの主婦3人が参加している可能性があるとなると、見過ごすわけには行かない。

「もう少し追跡する。メリス達は被害者2名の保護に回ってくれ。」

『こちらメリス、了解です。どうか気をつけて…。』

ナターシャと主人を保護するよう指示を出して通信を終える雄二。

「聞いていたなギルディアス、追うぞ。」

『心得た。必要なら光学迷彩魔法もかけるか?』

「いや、光学迷彩と認識阻害の重ねがけは消耗が激しいだろ。今は認識阻害で行こう。」

『…心得た。』

ギルディアスの提案を取り下げた雄二。

そしてそのまま追跡を続ける。



「うーむ……道中もぐちぐち文句を言い続けているな…。」

主婦3人を追っている雄二とギルディアス。

『しかも内容が奴隷は皆可哀想とか、なぜ公認奴隷なんてものが存在するんだとか、さっきの女邪魔しやがってとか…メリスのことか…。』

「ほほぉ……言ってくれるじゃないかあのババア…。」

『雄二、口が悪いぞ?』

「おっとすまんな。」

ギルディアスからつい口が悪くなってしまったことを注意された雄二は謝罪する。

「しかしまぁ、どいつもこいつもバカばっかりだな……自分達の状況も見れてない。」

『全くだ。』

雄二とギルディアスが呆れながら歩いていると、主婦達はどこかの施設にたどり着いた。

そこは『全奴隷解放委員会』のマークであるエンブレムを掲げた建物で、一見すると倉庫だった。

『倉庫か…ここを会合場所に?』

「恐らくそうだろう…。」

隠れている雄二とギルディアス。ギルディアスが魔法で聴覚を少し強化し、主婦達の会話に聞き耳を立てる。


『全く、あの生意気な女が邪魔しなければ今頃あの女の子を助け出すことが出来たのに!』

『本当よ!何なのよあの女!!』

『境界警察局って言ってたし、さぞかしエリート街道だったんでしょうねぇ!』

『どうせいいとこのお嬢様がぬくぬく安全圏から吠えてるだけでしょう!私達の活動は正義のための崇高な活動なのにねぇ!!』

『まぁ、とにかく今は会長に報告しましょ。あの少女を助ける手立てを考えてくださるはずよ!』

『そうね、そうしましょ!!』


そう言いながら倉庫内に入っていった主婦達。

会話内容を聞いた雄二とギルディアスは、意を決した。

「突入するぞ。認識阻害の解除タイミングは俺が指示する。」

『心得たが…スーツなしの徒手空拳で行けるのだな?』

「問題ないさ。」

『…ならば良い。』


認識阻害のままで倉庫内に潜入する雄二とギルディアス。

そこで見たのは、悍ましい光景であった。


「会長〜!今日もまた奴隷を見つけました〜!」

「でも境界警察局に邪魔されてしまいまして〜…!」

主婦達が奥に立っている男を会長と称して駆け寄っていった。

会長と称された男は主婦達に向き直り、優しげな笑顔で答える。

「そうでしたか…妨害されてしまったのは残念ではありますが、発見できただけでも僥倖です。これから改めてお伺いするとしましょう。では詳しいお話を伺いましょうか。」

「はい、ありがとうございます!」

「ぜひぜひ!!」

甘いマスクを持つ会長にノせられてすっかり舞い上がっている主婦達3人は会長に促されて奥へと消えていった。

そしてそこに残されたのは、会長の部下達数名、そして…。


檻の中に閉じ込められた、異世界人と思しき人達。

対して、同じく異世界人と思しき人達が、檻とは対象的に大きなソファに座らされて大量のお菓子を供されていた。

檻の中の人達は酷い暴力を加えられたのか皆傷や痣がひどく、対してソファに座らされている人達はそんな檻の中の人達をずっと心配そうに見るも、部下達に遮られてそれもままならない。

「御主人様…。」

ソファに座らされているうちの一人である少女が、檻の方を見てそう呟くも…。

「いけませんよ。彼等はあなた達を奴隷としてこき使い痛めつけようとしていた極悪人なのです。もう彼等に隷属させられる心配はないのですから、関わろうとしてはいけませんよ。」

会長の部下の一人がそう優しげに話し宥めようとしてくる。

「でも…私は御主人様が…。」

「駄目です、いけません。奴隷なんて概念が存在するなんて許されないのです。いずれあなたの世界でも奴隷制度そのものを完全に開放するつもりですから、どうか安心してくださいね。」

ソファに座らされている人達は檻の方へ駆けつけたがっているようだが、それを部下達が優しく、だが頑なにさせようとしない。

「た、助けて……。誰か……。」

檻の中の一人がか細い声で助けを求める。

「御主人様……御主人様ぁ…!!」

ソファに座らされている人の一人もか細い声で助けを求める。


雄二はすぐに感づいた。

「ソファに座らされている人達は恐らく公認奴隷、そして檻の中にいるのはその所有者達だな…。」

『そのようだな。』

雄二とギルディアスは頷きながら状況を整理する。

「つまり、奴隷の強制解放を謳い文句にしている"全奴隷解放委員会"が公認奴隷所有者を拉致監禁して、公認奴隷を無理やり引き離して強制開放しようとしている、ということだ。」

『そんな所だろうな。』

「んで……あの会長とか名乗っている奴が親玉か……。」

『恐らくな。で、どうするのだ?』

ギルディアスが雄二に問う。

「既に応援は要請しているな?なら俺達で彼等を救助するぞ。まずは部下達を無力化するぞ。」

『心得た。』


雄二はあらかじめメリスたちに状況を報告。

「こちら雄二、奴らのアジトに潜入中。そこで拉致監禁被害者を多数発見した。これより救助を行う。」

『こちらメリス、了解しましたけど…応援は要請してますよね?』

「こちら雄二、ギルディアスが要請済みだ。」

『こちらメリス、了解しました。私もナターシャさん達を安全な場所に避難させてから向かいますからね!』

「こちら雄二、了解だ。」


認識阻害をかけたままの状態で雄二とギルディアスは部下達にこっそりと接近。うち一人の背後に迫った雄二は、右手に力を集中させる。そして…。

「フン!!」

部下の背中に右掌を打ち付けた。

「ぐがっ…!?」

全身に衝撃が響き渡り、部下は気を失って倒れた。

『ほぉ、ギフトを利用した衝撃波か。』

ギルディアスは感心した。これは雄二が持つギフト『実質無尽蔵の生命エネルギー』を利用したもので、生命エネルギーを右手から衝撃として放つことで相手の精神に直接ダメージを与えるというものだ。

パワードスーツの武装を自身の生命エネルギーで利用している中で編み出した、スーツ未装着時用の技だ。

同じように他の部下達も雄二の衝撃波で気絶させ、彼等はギルディアスの右胸元から発射するワイヤーランチャーのワイヤーで縛り上げた。

『これで動けまい。』

「よし、認識阻害解除だ。」

『心得た。』

雄二の指示により、ここでついにギルディアスが認識阻害を解除。

同時に捕まっている公認奴隷達やその所有者達が雄二達に気づく。

「え、だ、だれ!?」

「いつの間に…!?」

雄二はすぐに手帳を掲げて宣言する。

「落ち着いてください、境界警察局です。助けに来ました!」

『応援も要請済みだ。皆安心してくれ。』

「境界警察局……!?」

「あ、あの手帳は……!」

手帳を見て驚きつつもどこか安心している様子の公認奴隷所有者達。

「ギルディアス、檻を破壊してくれ。」

『心得た。ふん!!』

雄二の指示でギルディアスは檻へ向かい、鍵を爪で引き裂き破壊。檻の扉を開放した。

「「「御主人様ぁ!!」」」

檻が解放されるとすぐに公認奴隷達が駆けつけ、それぞれの主人を介抱する。

「御主人様、大丈夫ですか!?」

「お怪我は……あぁ……酷い……!」

主人の怪我の度合いを見て涙を流しながら心配する公認奴隷達。

しかしこのタイミングで、会長と主婦3人が戻ってきたのだ。

「なっ!?同志達が!!」

会長は縛られている部下達を見て驚く。

「ちょ、何なのよあんた達!?」

主婦達が雄二たちにがなり立てる。

「境界警察局だ!貴様等全員、公認奴隷及び所有権利者の拉致監禁及び暴行傷害の現行犯で逮捕だ!」

雄二が境界警察局手帳を掲げて宣言する。

「な、何ですって!?いいがかりよ!!私たちは拉致監禁なんてしてないわ!!」

宣言を聞かされてもなお主婦達はがなり立てるが、会長は冷静に前に出る。

「拉致監禁とは聞き捨てなりませんね。これは奴隷身分に落とされてしまった被害者達の開放、すなわち正義の名のもとに行っている正当な活動です。その活動を非難される謂れはない。」

会長は自分達が正しいかのようにそう主張した。

「ほぉ、正当な活動というのならなぜ我々境界警察局に通報や支援要請をしないのでしょうか?」

会長の主張に対して雄二はこう返した。それには主婦達が反論する。

「何よ何よ!あんた達は『公認奴隷』とか言って全然奴隷を開放しようとしてくれないじゃない!」

「それに異世界にはまだまだ多くの苦しんでいる奴隷達がいるのよ!」

「彼等を助けるためにも、まずはこの地球がしっかり責任を果たさないといけないじゃない!!これは正義なの!正しいことなの!!」

がなり立て続ける主婦達の目は血走っている。

そんな主婦達の言葉に、会長は頷いて続ける。

「そうですとも……地球が奴隷をしっかり救っていれば……こんなことにはなりませんでしたよ!!」

そう言って会長は右手を高く掲げ、その手に持ったものを見せる。

雄二とギルディアスはその会長が手に持っているものを注視する。

それは、紛れもなく"拳銃"だった。

「生憎ですが捕まるわけには行かないのです。正義のためにも!」



会長が拳銃のトリガーを引く直前、突如放たれた白いレーザービームが会長の右手を貫き、同時に拳銃を破壊した。



「ぐああっ!?」

右手を撃たれ、血を流し悶える会長。

「えぇ!?」

「いやあああ!会長!!」

「血が!!血があああ!!」

一気に狼狽え出す主婦達。

一方雄二はギルディアスの方を見て唖然としていた。

「ギルディアス……お前いつの間にそんな武装を???」

『ついこの前にエルメナが搭載してくれたのだ。ブレスよりも威力は低いしピンポイントで狙えるから結構応用効くぞ。』

そう言ってギルディアスは義眼の入っている右顔面を指でコツンコツンと軽く叩く。

そう、今会長の右手を撃ち抜いたレーザービームはギルディアスの義眼である右目から発射されたものなのだ。

「報告受けてねぇぞその武装…あとでエルとギルディアスは始末書だな。」

『何だと!?』

驚くギルディアスをスルーして会長の方を見る雄二。ギルディアスもすぐ切り替えて会長らに迫る。

右手から血を流しながら苦悶の表情でうずくまる会長。主婦達は会長に駆け寄り、心配するように声を掛けている。

雄二は彼等を見下ろし、言った。

「全奴隷解放委員会会長…そして会員のお前達。お前達が捕まえて痛めつけていたのは公認奴隷所有権利者…つまり、『地球側から見ても基本的人権の遵守が成されていると認められている者達』なんだ。彼等は例え奴隷と主人という関係性だとしてもしっかりと幸せを掴んでいる者達や、むしろ奴隷と主人だからこそ幸せになれた者達だっているんだ。そんな彼等の関係を、ただの第三者であるお前等が引き裂く権利など無い!ましてや暴力で引き裂こうなど言語道断だ!」

ギルディアスも続く。

『人間というのは往々にして、『正義』というものに毒されやすい。己の行動は正義であると感じた瞬間、どんな残虐で悍ましい行為も喜んで行おうとする。此度の公認奴隷と所有権利者への拉致監禁と暴行傷害のようにな。貴様等のような『正義中毒者』はしばらく刑務所で頭を冷やすべきであろうな。』

ここまで言われてもなお会長と主婦達は猛抗議。

「ばかな!正義は正しいもののはず!なぜ毒のように貶すのです!正義の執行者たる警察機関のあなた達が!?」

「そうよそうよ!奴隷制は悪なの!奴隷はかわいそうな子たちなの!」

「そんなかわいそうな子達を助けるのが私達の役目なのよ!!」

「いい加減邪魔しないで!!」

ここまで言われても態度を変えない彼等に、雄二とギルディアスはいい加減嫌気が差してきた。

『雄二よ、人化解除で脅して良いか?』

「面倒だしそのまま鷲掴みで逮捕拘束してくれ…。」

『心得た。では救助者と一緒に下がっているが良い。』

言われて雄二は檻に隠れていた被害者達を下がらせるためにギルディアスから離れた。


そして眩い光とともにギルディアスが人化魔法を解除、一気に全長15mの巨大なドラゴンの姿に戻った。

同時に巨大となった両の手で会長と主婦達の計4人を一気に捕まえた。

「「「「ぎゃああああああああああああああ!!!!」」」」

突如目の前に現れたドラゴンに恐怖する会長と主婦達。

「うわぁ!ば、化け物!!」

「いやぁ!!何なのよおぉ!!」

「ひいいい!!」

絶叫し続けるためにまだ喧しい主婦達。その様にいい加減にキレたギルディアスは…。


『ゴアアアアアアアアアアアア!!!』


至近距離で大音量の咆哮を放ったのである。

流石にそれに耐えられるわけもなく、会長と主婦達3人は気絶したのであった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





その後、要請していた応援も駆けつけ、無事に下手人達は全員連行され、囚われていた被害者達も皆救助された。

そしてメリスとエルメナも現場に駆けつけ、雄二達と合流した。

「雄二!」

「おぉメリス、遅かったな。」

雄二は余裕を持って出迎える。

「まさかこんなに公認奴隷や所有権利者が不当に捕まえられてたなんて…。」

現場である全奴隷解放委員会のアジト、その中にある多くの檻を見てメリスは嘆く。

「あぁ、これが『正義中毒者』の現実だ。」

「ここまでくると重症ですねぇ……。」

エルメナも呆れながら呟く。

「そして、この『正義中毒』は誰でも発症しうる危険性があるからな…俺達も、気をつけねばな。」

「えぇ、そうですね…。」



「あれ?どうしたんですかギルディアス〜?」

ふと、エルメナがギルディアスの様子を見て問いかける。

ギルディアスは両手を広げたまましょげている様子だ。

『おのれ…彼奴ら、気絶した瞬間に我の手の中で漏らしよった…!』

「Oh……。」

エルメナはドン引きしつつ、洗浄準備に入るのであった。

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