勇者の夢 第14話
いつもの通話ではなく、勇者の目の前に姿を現した女神は、深刻そうな顔をして勇者に話し始めた。
女神「お久しぶりです、お元気でしたか?」
勇者は女神がいつもより元気の無い声色に少し同様していた。
勇者「はい…」
女神「そうですか、今回は私からお願いしたい事があり、直接来ました。この事をあなたに頼むのは大変心苦しいのですが、あなたにしか頼めない内容なのでお話します。実は…」
アラン達は(前代)魔王の首を持って、王国へ向かっていた。
少し肌寒くなっていた頃、アラン達は王国が見える場所まで来ていた。
その時彼らは青ざめ、持っていた魔王の首を落とした事も気にせずに足早に王国へ向かい、王国に着いた頃には絶望の表情をしていた。
王国は戦争に負けたのだ。
国中が火の海で、魔族達の笑い声と遠くで微かに聞こえる人間の悲鳴、建物の崩れる音や魔術による爆発音がする。
辺りには人間と魔族の死体が一面に広がっていて、アラン達にとって、その光景はまさに地獄絵図だった。
それを見たホルスの心の底から魔族に対する憎悪の気持ちが溢れ、心の中を満たしていく。
ホルスの抱いたその気持ちが、アランの持つ『共有』によって全員がその気持ちに共感した。
すると、何かが割れた音と共に彼らの体には有り余る程の赤い魔力が溢れていた。
アラン達はその力に「魔族共を皆殺しにしたい」と言う強い願いを乗せて、彼らが想像し得る限りで最強の力を手に入れた。
『鑑定』レベル10(MAX)
エラーにより鑑定不可能
女神『突然すみません、あなた方に渡した鑑定では今の彼らが持つ能力を見る事ができません。変わりに私から見えた彼らの能力をこの鑑定の画面を利用し、できる限り表示させますので、ここからはそれを見てお楽しみ下さい。』
『女神が神目で見えた物を表示』
名 アランクイネラストホルスレイン
スキル『火10』『水10』『風17』『光5』『シールド20』『剣術10』『楯術10』『弓術10』『他言語理解(人語、魔族語)6』『鑑定10』『隠密5』『挑発10』『魔力形成10』『アイテムボックス5』『未来視』『身体永続強化』『魔力無限強化』『持続超回復』『共有』
武器 聖剣、杖、ヘレスの剣+大楯、剣+弓、杖
女神『これが彼らの能力です、誰を見ても一緒でした。彼らは「5人で1つの存在」と言う表現が一番正しいのかもしれませんね。それでは失礼しました。』
彼らはその力を使い、王国中で暴れ回る魔族を片っ端から、昼夜問わず殺して行った。
この時の彼らにはもう理性は無く、真冬のような寒さも感じない。
感じられる事と言えば魔族を殺した時に沸き上がるような、快感のみだった。
アラン達が来るまで散々人間を殺し、楽しんでいた魔族達が今度はアラン達を恐れ、逃げ惑った。
数日後、アラン達は魔族の死体の山の上に立っていて、王国に居た魔族は全て殺し尽くされていた。
するとそこへ、蛇のような化け物共が王国へ押し寄せて、アラン達へ向かって一斉に襲いかかって来た。
5人の内、ラストが大楯をクイネとレインが持っていた杖をそれぞれの『アイテムボックス』に入れ、『魔力形成』で剣を作り出して全員で化け物共を片っ端から切り裂いて回った。
途中で誰かの体の一部を食べられても『持続超回復』で瞬時に元通り。
蛇ように締め付けられても『身体永続強化』で、レインですら力負けする事は無かった。
彼らの武器や防具には『魔力無限強化』が常に連続使用されていて、今現在のアランが持つ聖剣の威力は、勇者が『聖剣化』を使用していた時と同等の魔力量だった。
彼らは最後の一体を残し、全ての蛇の化け物を殺し尽くした。
残りの一体は他の化け物と違って体が大きく、アラン達のように体が欠損したり傷を付けても、すぐに治ってしまう。
大きな傷を着けた後でアラン達が集まって、全員で『火』魔法を傷に集中砲火するとその化け物は倒れ込んだ。
それは普通の傷とは違って、火傷の治りが少し遅かったので、アラン達は更に『火』魔法を化け物が死ぬまで放ち続けようとしていた。
その瞬間、彼らの真後ろに勇者の姿が現れ、『未来視』によってアラン達は一斉に振り向いた。
勇者は魔剣を持ち、全てを諦めた顔をしていて、全身と魔剣からは白いオーラを放っていた。
勇者は現れてすぐに剣を薙ぎ、後ろに立って居たレインとクイネの首を同時に切り落とした。
レインはその直前に『シールド』を発動させたが、勇者の魔剣は、空を切るかのように通り過ぎて行った。
クイネはレインとの『共有』が完全に絶たれたのを感じ、生きる事を諦めて残り数瞬の時間で少しでもダメージを与えるために特大の『火』魔法を頭上に発動させるが、気付けばレインと同様に魔剣は通り過ぎていて、発動した魔法は空の遥か彼方に移動し、爆発していた。
切り落とされた2人は回復する事ができずに絶命した。
2人から『共有』されていたスキルが、生き残っているアラン達のステータスから消え去った。
勇者が現れてから一番早く、攻撃のために肉体を動かし始めたアランの聖剣が勇者に振り下ろされ、その距離が近付いていたが、勇者が『シールド』を発動させたと思った次の瞬間には、勇者も『シールド』もその姿は無く、聖剣は空振りする事になり、それを見て動こうとしていたラストの体を魔剣が背後から貫いていた。
ラストは死の直前に『シールド』で勇者を閉じ込めようとするが、『シールド』は発動できずに体から魔剣は引き抜かれ、血を流し息絶えた。
ホルスはその時点で、勇者に勝つ事は不可能と分かりながらも「死にたくない」と思う人間の本能で体は動き、全力を込めて矢を放つが、その直後に勇者はそれに合わせて魔剣の先端を当てるように突いて、『魔力形成』された矢は砕け散り、その勢いで体の中心に魔剣によって大きく穴を空けられ、ホルスは生涯を終えた。
その後、最後に残ったアランと勇者は互いに向かい合いながら剣を構え直した。
同時に動き出し、全く同じ構え同じ動きで2本の剣は交差した。
そして聖剣は折れ、アランの上半身が斜めに切断されて倒れた。
勇者は剣に付いた血を振り払い、これで勇者とかつての仲間との戦いは、ほんの僅かな時間で終わった。
戦いの終わった勇者の前に、先程までアラン達が戦っていた蛇の化け物が、受けた傷を完治させて起き上がった。
勇者はそれに向かって、ゆっくりと魔剣で空を薙いだ。
すると、衝撃波と共に蛇の化け物の体に無数の線が入った、次の瞬間には細切れになり灰となって消滅し、血の雨が降った。
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