勇者の夢 第13話

部屋を出てすぐに、パーティーメンバーのレインが勇者を見つけて駆け寄って来た。

レイン「凄い音と揺れがして、あなたに何かあったらと思い急いで来ましたが、まさか1人で魔王と戦ったのですか?」

勇者は頷いて、聖剣をレインに渡しながら言った。勇者「役目は果たしました。アランに渡しておいてください、私にはもうこの剣を握る資格は無いので。」

レインはその悲しそうな顔を見て、魔王との戦いで何があったのか聞き返す事ができなかった。

共有も完全に拒絶されていて、勇者の気持ちを知る事ができなかった。

勇者は魔王城の壁に近付くと殴って大穴を開け、外に出る前に振り向かずに「さよなら」と言って魔王城を出た。

その直後には空いていた穴が跡形もなく塞がって、レインは勇者を追えなかった。



その後、仲間達と合流したレインは勇者の言葉を伝えて、アランに聖剣を手渡した。

アラン達は、魔王を討ち取った証拠を王国に持ち帰るために、魔王城内を隅々の部屋まで調べた。

そして一匹の魔族の死体を見付けて、そこにあった扉は鍵が開いていて中に入り、階段を下って進んだ先にもう1つの鍵のかかった扉があり、ラストを先頭に全員の体当たりで扉ごと破壊して部屋の中に入ると、そこには目的の(前代)魔王の死体が隠されるように置かれてていた。

その部屋には争った形跡は無く、(前代)魔王の体には短い刃物で刺された傷があり、勇者が殺したとは考え難かった。

(勇者は誰と戦ったのか?)アラン達は考えるが、答えは出なかった。

アランは(前代)魔王の首を切り落として持ち、魔王城を後にした。


アラン達は王様にどのように報告するか話し合った結果、「勇者は物語のように消えてしまった」と言って、王様に勇者を探さないよう話し、勇者を自由の身にしようと決まった。

勇者が抜けて、今までの旅よりも少し不便な生活になったが、魔王が倒された影響で魔物が全体的に弱体化していて、戦闘で苦戦する事は無く旅する事ができた。



勇者は魔王城を出て、王国とは反対方向にできる限り進み、人と魔族から見付からないような遠く離れた地を住む場所に決めた後、女神様と連絡を取った。

女神「おめでとうございます、あなたは魔王との戦いで生き残りました。約束通りに私のできる範囲で1つ願いを叶えましょう。」

勇者「だったら魔王を生き返らせるか、普通の人間として生まれ変わらせて欲しい。」

女神「残念ですが、彼女の魂(意志)はそれを拒んでいます。記憶を全て消し去って生まれ変わらせる事はできます、しかし見た目も性格も何もかもが違う新たな人間が生まれますが、それはあなたの望んだ願いでは無いでしょう。」

勇者「そうか…、なら願いの内容は未定にしておいてくれ。」

女神「わかりました、願いが決まったらお呼びください。」

勇者「あぁ」

女神「それでは最後に忠告です。あなたが魔王城で使われた、あの力はもう使わない事をおすすめします。」

勇者「?」

女神「あの力を使えば使う程、あるいは1回の影響力が強い程に、肉体は衰えませんが使用者の寿命は確実に失われているからです。」

勇者「わかった。ちなみに俺の寿命はどれくらい減ったんだ?」

女神「10年ぐらいです。危険ですので十分にお気を付け下さい。」

通話終了


勇者は魔王を土に埋めてお墓を作った。

それからは1人で、アラン達と旅していた時の生活を自力で再現して過ごした。

『察知』のスキルは、アランが共有していた感覚を思い出しながら徹夜して、ほぼ自力で手に入れた。

『シールド』のレベルは10に上がった。

『火』も7に上がった。

そんな生活が長く続き、少し肌寒さを感じるようになった。

この世界に日本のような季節の移り変わりが存在するのか、わからないが日本で言う雪は降るのだろうか、等と考えながら生活していた。

そんなある日、女神様が勇者の前に姿を現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る