第13話 勇者と魔王
魔王の居る部屋の前に立った勇者は、扉を2回ノックして「失礼します」と言って開けたその時、特大の氷の塊が部屋の中から飛んで来た。
勇者はそれを冷静に『魔術タンクシールド』で全て吸収し、部屋に入りながらそのシールドを球体にして部屋の外に投げた後すぐに扉を閉め押さえる。
それとほぼ同時にシールドは爆発し、扉の外が氷漬けになった。
そして魔王に背を向けていた勇者は振り向き、改めて日本語で挨拶をした。
勇者「こんにちは」
この時初めて異世界で勇者と魔王は互いの姿を目の当たりにした。
『鑑定』(レベル7)
レベルアップにより『隠蔽』されたスキルの一部観覧が可能になりました。
勇者 男 人間
スキル『火』『水』『風』『シールド』『回復』『剣術』『察知』『他言語理解(人語)(魔族語)』『隠密』『鑑定』『ドレイン』『カウンター』『アイテムボックス』『魔力タンクシールド』『テレポート』『読心』『記憶定着』『聖剣化』『運命』
ステータス HP、スピード、スタミナ、魔力
が高い
攻撃力、防御力が低い
武器 ヘレスの剣
状態 ●●(ひび割れている)
魔王 女 魔族(元人間)
スキル『水』『氷』『シールド』『回復』『剣術』『身体強化』『察知』『他言語理解(魔族語)』『鑑定』『魔剣化』『運命』
ステータス HP、攻撃力、スピード、魔力が
高い
防御力、スタミナが低い
武器 魔剣
状態 忘却、●●
すると魔王は忘却のスキルによって忘れていた事故の記憶が蘇り、涙を流して苦しんだ。
『忘却』の文字が消える。
わずかな時間が経つが記憶の整理がつかない状態で、魔王は泣きながら魔剣を握りしめて『身体強化』と『魔剣化』のスキルを使用して、勇者に剣を振るう。
勇者はヘレスの剣に『聖剣化』を使用し、それをどうにか受け止める。
魔王「どうして私の幸せを奪ったの!、あの子達を殺したの!」
勇者「…あなたを救うには、こうするしかなかった。」
勇者は悲しそうに言った。
それを聞いた魔王は怒り、会話をやめて全力で戦闘を始める。
勇者と魔王は互いに教えてもらった剣術 (勇者はヘレス、魔王はバーン)を最大限に活用して剣撃を繰り広げた。
戦いの途中で魔王は後ろへ跳んで距離を取りながら氷の魔術を使い、大量の氷の刺が豪雨のように勇者に降り注いだ。
勇者は『魔力タンクシールド』で氷の魔術を溜めて、『ドレイン』で自身の魔力を補充した。
最後の氷魔術を放った魔王は剣を構えた。
そして全ての氷魔術が勇者のシールドに消えた時、魔王は勇者に突進し、全力の一撃を振るった。
その剣は軽々とシールドを破り、勇者へ迫る。
勇者はそれに合わせるように自身の剣を振るうと、剣が『聖剣化』の輝きから黒いオーラに変化した。
互いの剣が強く衝突した次の瞬間、2本の剣が同時に消え去った。
しかし、武器を失った魔王は少し戸惑うが残りの魔力を全て使って、自身の右手に『魔剣化』の紫色の魔力を宿し、拳を握って最後の一撃を突き出した。
勇者も右手に『聖剣化』の金色の魔力を宿して受け止めた。
相反する強大なエネルギーのぶつかり合いで魔王城の壁や床に亀裂が入り、互いに互角のまま次第に落ち着いていった。
全ての魔力を使い切った魔王はその場に座り込んで、全てを諦めたように言った。
魔王「早くあの子達に会わせて…」
勇者「わかった」
そう言った勇者は、自身のステータスを画面のように実体化させて勇者は右手に再び『聖剣化』を宿し、『運命』の文字の周りに5本の指を強く押し当てた。
触れた指の部分からステータスにひびが入り5本の指がステータスを貫通した。
そして勇者は『運命』を手で掴んで取り出した。
それと同時に勇者のひびの入った『●●』が音を立てて割れ、魔王のステータスが勝手に実体化して『運命』の文字が宙に浮いた。
残された2人のステータスが砕け散る
勇者は取り出した『運命』のスキル(ガラスの破片のような物)を強く握り締めると、手から流れた血液が『運命』の文字を赤く染め、魔王の宙に浮いた『運命』も赤く染まり2つの『運命』は同時に割れた。
スキルに込められた膨大な魔力が2人の周囲を包み込む。
それは2人の体を癒し傷を治した後、一本の赤い糸を生み出し2人の左手の小指に結ばれ、結び目の部分が指輪になってそれ以外は見えなくなった。
装備
『運命の指輪』
装備者は互いに感情、記憶、スキルなどが共有される。
2人の頭の中に相手の感情や記憶が流れ込んだ。
全てを理解した魔王は再び涙を流し、勇者はそんな魔王に左手を差しのべる。
魔王はその手を握って立ち上がった。
勇者は魔王と手を繋いだまま、『アイテムボックス』からヘレスの剣を取り出して、黒いオーラを纏わせると、誰も居ない方向へ振り下ろした。
黒い斬撃は進む事無く空中に静止したまま、円形に戻り2人は中に入って行った。
その後、魔王が世界から消えた事で魔物や魔族は力を失ない、人類に平和が訪れた。
数年後
場所『アイテムボックス』内の小世界
そこはとても穏やかで、草原の中に一軒の大きな家と広い庭、近くには畑と田んぼがあって、子供達が庭で遊んでいる。
その庭の隅でテーブルの上にノートを置いて椅子に座った魔王が日傘の下でこの物語を書いていた。
魔王の下へ2人の魔族の女子が駆け寄って来た。
サフィア「外で遊ぶの飽きたー」
メシス「また面白い話聞かせて」
魔王「そろそろバルトも帰って来るから、みんな揃ったら話してあげる」
サフィア、メシス「はーい」
そう返事をした2人から少し離れた場所に、この世界の入り口が開き、人魔の男の子と勇者が魔物を担いで出てきた。
魔王はノートを閉じて立ち上がった。
魔王「お帰りなさい」
勇者「ただいま」
バルト「お母さん見てー、今日はすっごく大きいの捕まえたよ!」
魔王「すごい!、今日はごちそうだね。」
バルト「うん!」
魔王「さぁみんな家に入りましょう、ご飯ができるまで面白い話し聞かせてあげるから。」
バルト、サフィア、メシス「やったー」
そう言って家に向かう3人の子供達と、後ろから勇者と魔王が歩いて行く。
勇者と魔王の左手の薬指には『運命の指輪』が光っているのでした。
おわり
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