第30話 最後の一撃

 砂埃で舞った霧のようなものが徐々に消えて、視界が明るくなって行く。そして、ドラゴンの姿が私の目に入り込んでくる。さっきのソーニアの大型雷撃魔法でドラゴンは壁に叩き付けられたみたいで、魔物は壁に寄り掛かり、うなだれている。


 私は抱きかかえたアルソーに特製ポーションを飲ませる。これで彼の傷も癒える、私は少し安心し、周囲を見渡す。前方にハインリヒトの後ろ姿が見える。肩で大きく息をして、ドラゴンを見据えている。


 ハインリヒトがドラゴンに向かって行ってくれなければ、私とアルソーは間違いなくドラゴンの炎に焼かれていた。心の中でありがとうと、ハインリヒトに感謝する。


 そうなのだ。ハインリヒトもあの日、アルソーが死んだ時、私と一緒に涙を流していたのだ。口ではアルソーの事を信用していないと言っていたが、彼も親友に死なれたくなかった。アルソーを助けたかった。これがハインリヒトの本心なのだ。回避型の人間でも、当たり前だが人を愛している。愛する事が出来るのだ。


 そして、私は振り返り、後方にいるソーニアを見る。彼女の特大魔法がなければ、ハインリヒトは確実に死んでいただろう。彼女にも感謝をする。仲間を助けてくれた仲間に。パーティー全員無事に塔を下りようと、改めて私は心に誓う。


 ドラゴンがピクリと動き、起き上がる。やはり、今のでは死んでいない。緊張感が蘇り、私はキッとドラゴンを睨む。


「だから、危ないから来るなって言ったのに、バカヤローめ」


 抱きかかえられたアルソーが目を覚まし、私の胸の中で文句を言っている。でも、かなり嬉しそうだ。ちょっと微笑んでいる。


「もう、大丈夫なの?」


「お前の作ったポーションを飲ませたんだろ? 大丈夫に決まってんだろ」


 アルソーは私にそう応えると、サッと起きて、自分の長槍を担ぐ。


「じゃ、アイツを倒して来るわ、援護よろしくな」


 ドラゴンに向かって歩き出すアルソーの後ろ姿に、私は言葉を掛ける。


「約束しなさい。もう二度と私の目の前で死なないでね」


 アルソーは振り返り、私にニコリと微笑むと、ドラゴンに向かって走り出す。そして、彼は再びドラゴンの正面に立つ。私はそれを見てから、後方にいるソーニアの元へと向かう。


「ソーニア! さっきの巨大雷撃魔法、まだ使える?」


「もう無理よ。魔法消費量の限界近くまで来てるわ。軽い魔法なら使えるけど、なぜ?」


「今、現状でドラゴンを倒せる人間がアルソー以外にいるのか知りたかったの」


 アルソーが危機になった場合、あのドラゴンを倒せる者がいない。もちろんハインリヒトには無理だ。彼は大技は持っていない。厳しい現実を突き付けられる。どうする、私は策を考える。


 アルソーとドラゴンの接近戦が始まる。ドラゴンも炎を吐くには、一定の溜め時間が必要の様だ。接近戦で連続攻撃を仕掛けられると使う事が出来ない。アルソーもそれを見越しての、槍の連続攻撃だ。


 ドラゴンも両手と尻尾で応戦する。互いに攻撃と防御を繰り返す。魔物と戦士の攻防を見ていて、私は気が付く。ドラゴンの片目を失った側の反応が鈍い。


「アルソー! 見えてない側から攻撃して!」


 アルソーは私の声に反応し、そちら側から攻撃を仕掛ける。ドラゴンも死角側からの攻撃に押され始める。


 そうか、目だ。私にアイデアがひらめく。


「ソーニア、私の矢に雷撃の魔法を付与出来る?」


「それくらいなら、出来るわよ。魔法消費量少ないから。でも、あのドラゴンの皮膚には私の軽い雷撃魔法を付与した所で、ダメージを与える事は出来ないわよ」


「構わない! お願い、魔法を掛けて!」


 私は矢を一本取り出し、ソーニアに雷撃の付与魔法を掛けてもらう。


 すると、アルソーが槍の連続突きを繰り出す。ドラゴンの身体に次々と決まって行く。鮮血を飛び散らせながら、ドラゴンが堪らず後退する。


 やった、勝てる。彼の勝利が近いと私は感じる。しかし、ドラゴンの目は死んでいない。ドラゴンはアルソーの槍の突きにカウンターで合わせ、平手打ちを繰り出す。アルソーの身体が吹っ飛ぶ。そして、彼は地面に転がる様に倒れる。


 ドラゴンがアルソーを見下ろしている。勝利を確信し、笑っている様に見える。ドラゴンの口が赤く光り始める。


 ソーニアから魔法を付与してもらった矢を受け取り、私は弓矢を構える。


「絶対に外さない!」


 雷撃の魔法を帯びた矢を私は放つ。矢は一直線に雷の尾を引きながら、ドラゴンの傷付いた方の目に刺さる。バチバチという音が一瞬して、ドラゴンの頭や顔から白い煙が吹き出す。そして、ドラゴンは白眼をむき、地面に豪快に倒れる。


「何をしたんだ、クレアラ?」


 ハインリヒトが驚きの顔で、こちらに向かって来る。


「目から脳に向けて雷を送ってやったのよ。きっとドラゴンの脳は雷でショートして、グチャグチャのはずよ」


 ドラゴンはしばらくの間ピクピクと痙攣していたが、時間が経つと動かなくなっていた。


 私達の勝利だ。私達パーティーが六階のボスのドラゴンを倒したのだ。アルソーが仰向けの状態で、手を振っている。良かった、どうやら致命傷ではないみたいだ。


 また彼にポーションを飲ませてあげよう。私は笑顔で大好きな人の元へ駆け寄って行った。






 






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