第25話 3つの恋愛タイプの三角関係

「え……」


 予想をしてなかったハインリヒトの言葉に、私の意識は全て吹き飛ばされる。ただ呆然と、ハインリヒトの顔をしばらく見ている。


 何秒か時間が経って、思考が少しずつ回復していく。本気で言っているのか、冗談で言っているのか。無意識の内にハインリヒトの表情から、彼の真意を伺っている。


「クレアラ、君がうちのパーティーにいなくなってから、初めて自分の気持ちに気が付いたんだ。俺は君の事を愛していたんだと。この気持ちに偽りはない。俺との交際を考えていて欲しいんだ」


 ハインリヒトは真剣な目で、私に訴え掛けて来る。


 分からない、分からない――――。


 ハインリヒトの気持ちと自分自身の気持ちがゴチャゴチャになって、私は混乱する。


 なぜ、今なのだ。なぜ、このタイミングで私にそんな想いを伝えるのだ。


 もし、ソーニアの魔法で過去に戻る前に私に優しくしてくれていたならば、こんな状況になっていなかったではないか。遅い、遅過ぎる。今、心変わりをされても、こちらは困るのだ。


 そもそも回避型のハインリヒトがなぜこの状況で、みんなの前で私に気持ちを伝えるのだ。あんなに自分との関係を隠そうとしていたのに。私達が付き合ってる事を私に話されて、あんなに怒っていた貴方がなぜ、こんな行動を起こすのか。頭の中で疑問ばかりが生じる。


 ふと、私は隣にいるアルソーに視線を移す。彼は、アルソーはハインリヒトのこの行動をどう思っているのだ。自分の気持ちの整理に必死で、アルソーの気持ちを今になって考え始める。


 アルソーは下を向き、考え込んでいる。唇をギュッと噛んで、自分の気持ちを押し殺す様にずっと黙っている。


「クレアラ、返事は六階のボスを倒した後でいいよ。アルソーの事もあるしね。俺は先に帰るよ。それじゃ、また明日。塔の探索で」


 ハインリヒトは席を立ち、手を振りながら去って行く。私はハインリヒトの後ろ姿を見て、アルソーの横顔を覗く。かなり悩んでいる表情だ。彼もふうっと溜め息をつくと立ち上がる。


「俺も帰るわ。一人でちょっと考えたい。また明日な」


 アルソーもそう言うと、酒場を出て行く。ハインリヒトと対照的で足取りが重そうだ。そんなアルソーの後ろ姿を見ながら、正面のソーニアに視線を移す。


「せっかくやり直したのに、相変わらずの三角関係ね。クレアラはモテモテで大変ね。まぁ、私には関係ないけど」


 ソーニアは淡々と私に話す。もう少し心配するとか、相談に乗ってくれるとかして欲しいんですけど。無言の私は、引きつった笑顔を浮かべる。


「まぁ、ハッキリした方がいいんじゃない? 貴方が悩んで、また誰か死ぬ事になったら嫌でしょ? もう一回、過去に戻る魔法を受けるなら別だけど」


 ナイフの様な鋭い言葉を、ソーニアは私に浴びせる。確かにそうだけど、もう少し優しい言葉でお願いします。私はそう思いながら、彼女の言葉を黙って受け止める。


「私も一人で考えて答えを出すわ。ありがとう、ソーニア。貴方に迷惑を掛ける様なマネは二度としないわ」


「あら、私は何も迷惑を掛けられていないわよ。掛けられたのは、過去に戻る前の私だから、別人よ。だから、今の私に迷惑を掛けないでね」


 ソーニアの言葉で再び、苦笑いをする。そして、そのまま私は席を立つ。そして、彼女にまた明日と伝え、私も宿へと戻る事にした。



   *   *   *   *



 次の日の朝、私は目覚める。もう少し悩んで眠れないかなと思っていたが、昨日の夜はスンナリ眠れた。今まで散々悩んで来たのだ。大体の答えは私の胸の内にある。迷いはほぼない、そんな所だ。


 朝食を終え、仲間達と塔に向かう為、宿屋の玄関に移動する。装備もバッチリ整っている。恐らく今日、六階のボスを倒しに行くという流れになるだろう。昨日の事も気になるが、そちらに注意を取られ、命を落とす訳にはいかない。同じ過ちは二度と犯さない。そう心に強く刻む。


 しばらくすると、ソーニアが現れる。至っていつもと同じ雰囲気だ。みんなが来るまで、彼女と軽く雑談を始める。


 すると、ハインリヒトが現れる。彼は私とソーニアに挨拶をするが、私に対して少しよそよそしい感じがする。これは回避型だからなのか、安定型でもこうなるのか、判別がしにくい。そんな空気の中、私達は最後の仲間、アルソーが来るのを待っていた。


 アルソーがゆっくりと現れる。いつもアクビなどして眠そうな素振りでやって来るのだが、今日はいつもと違う。目の下にクマが出来て、ゲッソリとした感がある。一睡も出来なかった、そんな感じの酷い状態だ。


 アルソーとハインリヒトが軽く挨拶をし合う。ギクシャクした感じがこちらにも伝わる。親友同士なのになと思ったが、ギクシャクの原因は私なので複雑だ。


 アルソーと目が合う。彼は視線をサッと外し、私に挨拶をする。彼も私に対して、よそよそしい。仕方ないのかなと思いながら、私は笑顔で彼に挨拶をする。


 私がいつも以上に、いつも通りに振る舞わないといけない。誰も死なせない様に。そう自分に言い聞かせる。


 そして、私達四人は互いに色んな想いを抱えながら、塔へと登って行く。




 


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