第24話 安定型の男の決意

 五階のボス、六本腕の巨人を倒したその夜、私達四人は街の酒場でお祝いをする事にした。


 酒場内は冒険者達で、ほぼ満席だった。ガヤガヤとした雰囲気の中、私達四人は空いている隅のテーブルを見つける。ちょうど四人掛けのテーブルだ。空いてて良かった、そう思いながら私は席に着く。


 私はアルソーの左横に座る。もちろん意図的にそこの席を狙ったのだ。好きな人の隣に座りたいと言う気持ちが、まず一番だった。ハインリヒトの隣は正直、嫌だなと言うのも実はあったのだが。そして、私の正面にソーニア、斜め向かいにハインリヒトがそれぞれ座る。


 一瞬、ソーニアと目が合う。へぇ、そうなのという何か勘付いている様な目で、私を見ている。アルソーの事を好きなのがバレたのかなと私は察する。彼女は人付き合いが嫌いな癖に、そういう事にホントに鋭い。ソーニアには嘘は付けないなと苦笑いしながら、私は彼女から視線を外す。


 不意にハインリヒトが私の目に映る。確かハインリヒトはさっきまで勝利に酔いしれて、ご機嫌だったはずなのだが、今はなぜかムスッとした表情に変わっている。私がアルソーの隣に座ったからなのか。まさかと思いながら、私は飲み物と料理を注文する。


「珍しいな。ソーニアがこういう場に来るなんて。いつもは飲みに誘っても、断るのにな」


 アルソーが笑いながら、ソーニアに絡んで行く。ソーニアはチラッとアルソーを見て、表情を変えずに応える。


「今日は特別。ホントは人が多いうるさい場所は嫌いだけど。クレアラと話がしたかったから、参加しただけよ。」


「え、私と?」


 意外な事を言われたので、私は驚く。


「よく魔法の代償を克服したわね。さすがね。あの過去に戻る魔法を使うと、ほとんどダメになる人が多いのに。新しいデータが取れたわ」


 ソーニアは普通に、普通じゃない事を言う。そんな危険な魔法を私に使ったのか、私は唖然として彼女を見る。とはいえ、今はその魔法を私に使ってくれた事に感謝している。


「何だよ、お前ら。俺にも分かる様に説明しろよ」


 アルソーは面白くなさそうな顔で、私とソーニアを見ている。


「クレアラ、みんなに説明したら。私もなぜ、貴方が代償の大きい過去に戻る魔法を選択したのかが知りたいわ」


 みんなの視線が私に集まる。私は少し考える。話していい内容なのかどうかを。そして、私は言葉を選びながら、説明を始める事にした。


 話した内容は、私達が六階のボスの所まで行った事、そこでボスのドラゴンにアルソーが殺された事だ。


 みんな無言で聞いている。それほど、アルソーが殺されると言う事実は衝撃的だったみたいだ。


「俺がドラゴンに殺られたから、お前は過去に戻る魔法って言うのを、ソーニアから受けたのか? 自分が魔法を使えなくなる代償を払って」


 アルソーは深刻そうな顔で、重い口調で話す。私に対して申し訳なさを感じてる様だ。


「アルソー、責任を感じないで。貴方は足手まといになっている私を助けて犠牲になったの。だから、悪いのは私なの。これで良かったのよ。貴方は悪くない」


 私は素直な気持ちを伝える。私自身、本当にそう思っているし、アルソーに心の負担を掛けたくなかった。


「私は、アルソーが生きている事が幸せなの。だから、私には後悔の気持ちはない。魔法を失った今の方が私は幸せなのよ」


 アルソーと見つめ合う。アルソーは少し照れているが、真剣な顔で私を見ている。私は彼に微笑みを返す。これが私の今の気持ちなのだと彼に伝える。


「アルソー、君はこの事実を知ってどうするつもりなんだ? 塔を登る事を辞退する気なのか?」


 リーダーのハインリヒトが不機嫌そうな顔で、アルソーに問い詰める。


「辞退はしない。塔に登って六階のボスを倒す。それに……」


 アルソーは言い掛けて、言葉を止める。


「それに、何だ? 言いたい事があるなら、ハッキリ言ってくれ」


 ハインリヒトは、アルソーに詰め寄る。アルソーがどう思ってるのかスゴく気にしているみたいだ。


「けじめをつけたい事がある。六階のボスを倒したら、やるって決めてる事が俺にはある」


「何だよ、決めてる事って」


「それは、ちょっとここでは言えない……」


 アルソーは下を向き応える。ハインリヒトは眉間にシワを寄せ、アルソーをじっと見ている。


 私もじっとアルソーを見る。こんなアルソーを見たのは初めてだ。彼が何を考えているのか、私もスゴく気になってしまう。


「そうか、分かった。言いたくないなら、無理には聞かない。実は俺もアルソーと同じ様に六階のボスを倒したら、やろうと決めていた事があるんだ。皆に聞いて欲しい」


 ハインリヒトの発言に私達三人は注目する。とはいえ、どうせ大した話じゃないんでしょと、私は思っていた。


 私は正直、ハインリヒトの決めていた事よりも、アルソーの決めていた事が気になっているのだ。この場が早く解散して、アルソーから何なのか聞き出したい、そう思っていた。しかし、事態は思わぬ展開へと転がり始める。


 ハインリヒトが私をじっと見つめ、口を開く。


「六階のボスを倒したら、クレアラに交際を申し込もうと思っている。結婚を前提とした真剣な交際をね」




 






 










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