第23話 安定型の人と恋愛する事

「ハインリヒト、アルソー! 突撃して!」


 私は前衛の二人に指示を出す。勇者と戦士は私の声に反応して、巨人に向かって走り出す。


「やっと来たか。愚かな人間共め。いかに作戦を練ろうとも我には通用せぬぞ」


 六本腕の巨人は笑いながら、待ち構える。六つの手に剣や斧、金棒など各々武器を持っている。接近戦ではかなり手強い、そんな印象を持つ魔物だ。


「ハインリヒトは距離を取って、巨人を牽制して。アルソーは隙を突いて、攻撃して」


 巨人の様子を伺いながら、私は指揮を執る。二人は指示通り、巨人との間合いを調整している。


「フッ、我が間合いに恐ろしくて入って来れぬか? それでいかにして我に勝つ」


 巨人は嘲笑いながら、二人を見ている。すると、轟音と光が辺りを支配する。ソーニアの雷撃の魔法が巨人を捕らえたのだ。


 巨人はヨロヨロとしながら、後退する。次の瞬間、ハインリヒトとアルソーが動き出す。巨人目掛けて剣と槍を振るう。巨人は二人に近付かれない様に、剣を無作為に振るう。


 巨人の剣がハインリヒトを襲う。ハインリヒトは攻撃を仕掛ける体制の為、無防備だ。


 危ない!


 私は弓矢を構え、矢を放つ。私の放った矢がハインリヒトを襲っている巨人の腕に刺さる。


「ぐっ……」


 巨人は苦痛の表情を浮かべ、攻撃を中断する。そこへアルソーの槍の突きの連打が巨人に叩き込まれる。激しい音と共に巨人が鮮血を飛び散らせ、後退する。


「ソーニア、今よ!」


 私は隣にいるソーニアを見る。それは、ちょうどソーニアの呪文の詠唱が終わったタイミングであった。ソーニアの身体の前で、雷で出来た大きなエネルギーの塊がうごめく。その瞬間、雷の塊はバチバチと激しい音を立てながら、巨人の方へと飛んで行く。


 ソーニアの最大級雷撃魔法が巨人の胸を貫く。巨人は叫びながら、倒れる。


「アルソー、トドメよ!」


 私がその言葉を言うか言うまいかのタイミングで、アルソーが飛び出す。そして、巨人の額に目掛け槍を突き刺す。巨人は再び叫び声を上げ、そのまま息絶える。


「勝った、ホントに勝ったぞ」


 ハインリヒトがポツリと呟く。そして、飛び上がり、喜びを表現する。


 アルソーとソーニアがやれやれと言う顔で、私の所に集まって来る。彼等二人の表情は、ハインリヒトとは対照的であった。


 彼等の表情から、彼等の心理を私は推測する。ボスに勝てた事が単純に嬉しいと言うのが、ハインリヒトの気持ちなのであろう。しかし、アルソーとソーニアは今まで勝てる戦いに勝って来れなかった事にやっと終止符が打たれた、そんな感じの様な顔だ。


 つまり、ハインリヒトの采配が悪かった為にこのボスに勝てなかったと言うのが、私の結論だ。


 私の作戦は単純な物だった。ハインリヒトはいつも先走って敵からのダメージを受けている。私が回復魔法使いだった頃は、回復魔法はハインリヒトの為にほぼ使っていた。正直、彼が一番最初に飛び込むのは邪魔でしかなかった。過去のデータから、それは明らかであった。


 だから、今回ハインリヒトには敵の攻撃が当たらない距離でいる事を指示したのだ。彼のプライドが傷付かない様に、アルソーの援護が出来るのは貴方だけなのと言って。


 ソーニアとアルソーにはタイミングを見て、攻撃をしてとしか言わなかった。それで充分勝てると私は予測していたからだ。


 その結果の勝利なのだ。みんなを見て、私も少し微笑む。


「やったな、クレアラ。お前の作戦のおかげだよ」


 アルソーは笑いながら、私の肩を叩く。私もアルソーに笑顔を返す。


「クレアラ、貴方、どこまで塔の攻略が進んでたの?」


 いつもと同じ様にソーニアが淡々と私に質問して来る。彼女の質問の真意を私は理解する。彼女が言っているのは、魔法で過去に戻る前に、どこまで塔の攻略が進んでいたのかと言う事なのだ。つまり、彼女は私がどれだけ塔の情報持っているのかを知ろうとしているのだ。


「六階のボスまでよ。でも、そのボスは倒せていない」


「……なるほど。貴方が魔法で過去に戻った理由もその辺にある訳ね」


 ソーニアは頷きながら、納得する。彼女は勘が鋭い。六階のボスの所で誰かが死んだ事を察知している様であった。


「お前ら、何訳の分からねえ事を言ってんだよ。さぁ、帰って祝杯だ。今日は飲むぞ」


 アルソーはスゴくご機嫌だ。ハインリヒトも同調している。二人が並んで歩いている。私は二人の後ろ姿を見比べ、後を付いて行く。


 私が好きな人、愛すべき人はどちらなのか。答えはもうハッキリしていた。戦闘の最中、私が気にしていた人、見ていた人はアルソーだった。


 彼が笑ってくれる事、私の側にいてくれる事で私の心は癒やされていたのだ。


 アルソーからはハインリヒトを好きだった頃の様なドキドキ感や刺激はない。しかし、アルソーは私に安心感をもたらしてくれる。私をあるがまま受け入れてくれるのだ。だから、彼の前では私は飾らなくていい。私は私のままで良いのだ。


 回避型のハインリヒトの様に恋の駆け引きをする事もない。不安型の自分のままでも愛してくれるのだ。


 安定型のアルソーなら信じて付いて行ける。そう私は確信する。いや、何度も気付いていたのに、その決断が出来なかったのだ。恐かったから。でも、今は違う。


 私は決めていた。


 六階のボスを倒したら、アルソーに告白して彼と付き合おうと言うことを……。


 




 




 




















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