第22話 私が指揮を執る

 五階のボスの間の扉がゆっくりと開く。このボスとの対決は今回で二度目だ。一度目の戦いは、魔法で過去に戻る前での話だ。あの時はアルソーの活躍で何とか勝利した。しかし、今回も勝てるとは限らない。死ぬかもしれないと言う緊張感が私を襲う。


「みんな、気を付けろ。今までは、ずっとやられっ放しだったが、今回は勝つぞ!」


 先頭のハインリヒトが皆に声を掛ける。


 やられっ放しだった……。どういう事だ。私がパーティーに戻って来る前、つまりアイリさんがいた時に何度か戦ってみたが勝てなかったと言う事なのか。私はその言葉に疑問を感じる。


 ハッキリ言って、アルソーは強い。一人でこのボスを余裕で倒せるレベルだと、あの時私は思った。それなのになぜ、このボスを倒せていないのだ。


 前をゆっくりと歩くアルソーを、私は覗き込むように見る。


「何だよ? 何見てんだよ」


 私の視線に気付いたアルソーが振り返って、私をジロリと見る。


「アルソーなら、あのボスに余裕で勝てるでしょ? なのになぜ、倒せてないの?」


 私は率直な疑問をぶつける。アルソーは驚いた表情を見せ、考えて応える。


「無茶言うなよ。お前が思うほど、俺は強くねぇよ。期待し過ぎだ。まぁ、でも……」


 アルソーは何か言い掛けて、途中で止める。私は気になり、それを追求する。


「でも、何よ?」


「頼りになる回復士がいれば、勝てるかもな。怪我しても直ぐに治してくれるから、安心して戦える。だから、強くなれるかもしれないな」


「え、それって、私を頼りにしてるって事?」


 アルソーの顔を見て、私は問い掛ける。


「なっ、調子に乗るんじゃねぇよ、バカ。いいから、お前は自分の仕事をしろ。分かったな?」


 アルソーは顔を真っ赤にし、急いで私から顔を反らす。コイツ、照れてるな。私はそう思い、正面を向く。すると、ハインリヒトの後ろ姿が目に入る。


 魔法で過去に戻る前は、私はハインリヒトの事ばかり考えていた。彼の事が大好きで、このボスに勝てれば告白しようと考えていた。


 でも、今は違う。正直、ハインリヒトの事はあまり意識をしていない。かなりの心境の変化だなと、自分でもそう感じる。


 では、私の今の気持ちはどうなのか。自分でも正確には分かっていない。だが、恐らく彼の事が好きなのだ。


 恋愛タイプ安定型のアルソーの事が……。


 私の気持ちを確かめなければならない。本当にハインリヒトから吹っ切れて、アルソーを愛せるのかどうかを。


「出て来たぞ。六本腕の巨人が……」


 ハインリヒトの声で、私達の視線が魔物に集中する。六本腕の巨人の魔物は、ニヤニヤとしながら、私達を見下ろす。


「また、懲りずに来たのか? 今度は逃げられぬ様に、殺してやるぞ」


 魔物の重たい声が広間に響く。しかし、思ったほど、恐怖を感じない。自分が予想以上に冷静であることに私は驚く。


「行くぞ! アルソー!」


 ハインリヒトがそう叫んで飛び込もうとする。アルソーもその声に反応して、突進しようとする。


「待ちなさい! ハインリヒト、アルソー」


 彼等に向かって私は叫ぶ。勢い良く飛び出そうとした二人は私の声で、急ブレーキを掛ける。そして、驚いた二人は私の方を振り向く。


「私が作戦を考える。勝ちたかったら指示に従いなさい」


 私は毅然とした態度を取る。


「クレアラ、君には無理だ。指揮は俺が執る。口出ししないで欲しい」


 ハインリヒトが激しく反論する。


「ハインリヒト、あの巨人に何度もヤラれたんじゃないの? 今度は死ぬかもしれないのよ。私はあの巨人の倒し方を知っている。お願い、任せて」


「巨人の倒し方を知ってるだって? どういう事だ?」


 ハインリヒトは興奮して、私に食い入るように聞いて来る。すると、ソーニアが割り込む様に話に入って来る。


「貴方、魔法で過去に戻る前にアイツを倒した事があるの?」


「ある。だから、お願い」


 私はソーニアに頭を下げる。ソーニアはしばらく考えて、口を開く。


「分かったわ。ハインリヒト、指揮権をクレアラに。この戦い、そうすれば勝てるわ」


 ハインリヒトは気に食わない顔をする。プライドの高い男だ。私は知恵を絞り、説得に入る。


「もし、あのボスに勝てたらリーダーである貴方の評価が上がるのよ。貴方が任命した仲間が戦略を考えた訳だからね」


 ハインリヒトは少し考えて、なるほどと納得した顔をする。結局、この人は自分の手柄が欲しいのだ。彼は私の方を見て、ニコリとして応える。


「分かった、クレアラ。試しにやってみてくれ。ダメなら、直ぐに俺と交代だ」


「ありがとう、ハインリヒト。誰も死なせずに勝たせてみせるわ。じゃ、作戦を伝えるから、みんな集まって」


 巨人から、かなり距離を取り、私は三人に作戦を伝える。警戒の為、巨人から視線を外さないで、私は話を続ける。三人はウンウンと言いながら、私の作戦を聞いている。


「分かった、その作戦で行こう」


 ハインリヒトが笑顔で皆に声を掛ける。アルソーもソーニアもそれに納得と理解の態度を示す。


 そして、私達四人は六本腕の巨人を倒す為に作戦を決行する。


















 






















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