第31話 二人にゴメンナサイ
ダリアの塔の六階のボス、ドラゴンを倒した翌日の朝、私は二人の男性に呼び出される。呼び出されたのは、町の外れにある小さな森だ。
ここはかつて私がハインリヒトに愛の告白を行って、それから彼と付き合い始めた思い出の場所だ。あの時は私が彼を呼び出した。今回は私が呼び出される番になった。
今もあの時と同じ春の日の朝だ。緑が太陽の光に照らされてキラキラときらめいている。本当に気持ちのいい朝だ。
二人の男性は横に並んで、正面にいる私を緊張の面持ちで見ている。二人の男性とは、もちろん勇者ハインリヒトと戦士アルソーであった。
「クレアラ、約束通り君に愛の告白に来た。今の俺はプライドとか体裁とか関係ない。本当に君の事が必要なんだ。この俺と付き合って欲しい。そして、我が妻になって欲しい」
私の前で、勇者ハインリヒトは恭しく片膝を付き、頭を下げる。ドラゴンとの戦いの中で彼も変わったな、私はそう感じ、優しく彼を見つめる。そして、もう一人の男性がハインリヒトの横に歩み出て、私の前に立つ。
「えーと、クレアラ。あんまこういうの慣れてねぇからさ。上手く言えないんだけど、俺、お前の事が好きだ。俺と付き合って欲しい」
彼は立ったまま私に頭を下げる。相変わらず、不器用な人だ。そんな彼を見て、私は微笑む。
私は天を仰ぎ、深く息を吸う。二人の男性から同時に愛の告白を受けた。今までの人生の中で初めての経験だ。
だからこそ、断る側の男性の気持ちを配慮をしなければならない。出来るだけ傷付けてはならない。彼とはずっと仲間でいたいのだ。私は悩み、行動に出る。
アルソーの前に私は立つ。頭を下げたアルソーがピクリと動く。
「ごめんなさい、アルソー。ハインリヒトと話がしたいの」
私はアルソーに断りを入れ、片膝を付いているハインリヒトの前に立つ。
「顔を上げて、ハインリヒト」
片膝を付き、頭を下げている勇者の肩に、私はそっと手を触れる。ハインリヒトは笑顔で立ち上がる。
「俺を選んでくれたのか、クレアラ」
「……。貴方にキチンと話しておきたい事があるの」
「何の話かな?」
「ソーニアの魔法で、私が未来からやって来た話をしたわよね。その魔法を使う前に、私は貴方とお付き合いしてたの」
その言葉でハインリヒトは満面の笑みを浮かべる。逆にアルソーは呆然とした顔で、こっちを見ている。
「その結果、分かった事があって、私とハインリヒトは上手くいかない相性だったの。だから、ハインリヒト。私は貴方と付き合う事は出来ないの。ごめんなさい」
私はハインリヒトに頭を下げる。ハインリヒトは動揺し、混乱気味になる。
「ちょっと待ってくれ。納得がいかない。もしも仮に君の言った事がそうだとしても、今度は上手くいくはずだ。俺と君は最高のパートナーになれる。それに俺は心を入れ替える。だから、俺と付き合ってくれ。お願いだ」
「それは、出来ない。私は貴方とアイリさんの事も知っている。私はアイリさんと同じ不安型。だから、私は過去を繰り返さない」
ハインリヒトはガクッと両膝を付き、うなだれる。そんな彼を優しく見ながら、私は彼に言葉を掛ける。
「ハインリヒト、貴方には恋愛タイプ安定型の女性が必要なの。貴方なら、きっといい人を見つけて、幸せになれると思うわ。こんな私を好きになってくれて、ありがとう。嬉しかったわ」
うなだれているハインリヒトを見た後、ハインリヒトの隣にいるアルソーの正面に私は立つ。
「アルソー、待たせてごめんね。いや、本当にずっと貴方の事を待たせていたわね。何年間も。私も貴方の事が好きよ。だから、私を貴方の彼女にして下さい。これからもよろしくお願いします」
私はアルソーに頭を下げる。そして、顔を上げる。私は彼の顔を見つめる。彼は笑顔だ。愛する人の最高の笑顔だ。
私とアルソーはこうして恋人同士になった。
* * * *
私とアルソーが付き合う事によって、パーティーが解散になるかと思われたが、そうはならなかった。リーダーのハインリヒトから、このままパーティーを継続したいという申し出があったからだ。ソーニアも付き合う付き合わないで何も変わりはしないわと私達の事を了承してくれた。
数年後、私達四人はダリアの塔の十階のボスを倒す事となる。それはダリアの塔の完全攻略を意味する。前人未到の快挙を私達は達成したのだ。
ダリアの塔を悲劇の塔と呼ぶ者はもういない。完全攻略を成した事で、魔物達がいなくなってしまったからだ。今では、塔は整備され、観光地として使われているみたいだ。
その一方、私とアルソーがどうなったかと言えば……。
「クレアラ、聞いてくれ。俺、十階のボスを倒して、ダリアの塔を攻略したら、やるって決めてた事があるんだよ。それで、この間みんなでダリアの塔を攻略しただろ?」
「えぇ、そうね」
「攻略したら、クレアラにプロポーズしようと決めてたんだよ、ずっと前から。だからその、俺と結婚してくれないか? 必ず、幸せにするから」
「幸せにしてくれるならいいわよ。よろしくお願いします」
そして、私はアルソーの妻となる。相変わらず、ドキドキ感はない。胸がキュンキュンする事もない。不安型の私は安定型の彼の事をいつもつまらないと思ってしまう。
しかし、私は私のまま、ありのままで生きていける。無理して彼に合わせる事もない。それに彼といると、不安感や恐れも感じない。心が安定して、リラックス出来るのだ。
私は幸せを手に入れた。もう、過去に戻って人生をやり直す事はないだろう……。
私と彼との相性は最悪でした。魔法で過去に戻ってやり直します。 かたりべダンロー @kataribedanro
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