第20話 不安型の決断

「恋愛タイプって何ですか?」


 アイリは不思議そうに私に訊ねる。


「人が人を愛する傾向には、いくつかのタイプがあるの。これは、愛着スタイルとも言われているもので、私は恋愛において重要な要素を含んでいるから、恋愛タイプと呼んでいるわ」


「え、私のタイプって何か分かりますか?」

「行動パターンから推測すると、貴方は私と同じ恋愛タイプ、不安型だと思うわ」


 彼女は私の話を興味深く聞いている。私はそれを確認して話を続ける。


「不安型は文字通り、恋人関係になると不安になるから、距離を縮めようとするの。貴方も恋人とは、ずっと一緒にいたいと思うタイプよね?」


「はい、そうです。他の人もみんな同じだと思ってました。違う人もいるんですか?」

「うん。ハインリヒトの様に自分の心の領域に入られる事を嫌がるタイプもいるの。これが回避型よ」


「つまり、もっと近付きたいタイプと近付かれたら困るタイプがいる訳ですね」

「そう。だからトラブルが起きるの。相反する二人だから。私や貴方の様に悩む人がいるのは、そういう事なの」


 アイリは頷きながら、私の話を聞いている。


「え、じゃあ、私達、不安型と相性の良いタイプとかいるんですか?」

 アイリは必死な感じで私に尋ねる。


「私達と合うのは恋愛タイプ安定型よ。アルソーがそうだわ」

「あ、やっぱり。ハインリヒトさんよりアルソーさんの方が素敵だなって、最近気付いたんです。ハインリヒトさんと別れて、アルソーさんと付き合おうかな?」


「え………」


 私はその言葉で一瞬身体が固まる。アルソーが他の人と付き合う、少しも考えなかった事だ。


「でも、アルソーさんには通い詰めている女性がいるみたいです。私じゃ、どうも無理みたいですね」


 アイリは視線を落とし、うなだれる。そして、私の方を向き、ニコリとする。どうもアルソーの想い人が私だと勘付いているようだ。


「私、決めました。ハインリヒトさんと別れて、パーティーを脱退します。ずっと迷ってたんですけど、クレアラさんとお話して吹っ切れました」


「え……」


 アイリは私に満面の笑みを見せる。逆に私は突然の彼女の告白に戸惑う。


「私も今度付き合う人は、安定型の人にします。クレアラさん、お互い幸せになりましょうね。今日はありがとうございました」


 彼女の早い決断に私は驚いてしまう。同じ不安型でも、私はその決断がなかなか出来なかった。だから、不幸を招いてしまったのだ。


 私は彼女を羨ましく思った。そして、彼女を見習わなければと、弱い自分に言い聞かせる。


「いえ、私の方こそありがとう。自分で恋愛タイプの事を説明してて、改めて自分が何をすべきなのか分かったわ。貴方と話せてホントに良かった。ありがとう、アイリさん」


 私とアイリは席を立ち、店を後にする。そして、お互い幸せになる為に行動しようと、笑顔で別れる。


 去って行くアイリを見ながら、私は何をしなければならないか解りかけていた。



    *    *    *    *



 次の日、アルソーが慌てて私の家へやって来た。


「アイリがパーティーを脱退したいって言って来たぞ。お前、アイツに何か言ったのか?」


 アルソーが私に詰め寄る。アルソーが私にアイリさんを紹介した直後なのだ。その彼の慌て振りは予想がついていた。


「私は悩みを聞いただけよ。彼女は元々、脱退を考えてたみたいよ」


 私は淡々とアルソーに伝える。アルソーは不信な目で私を見ている。お前が辞めさせたんじゃないのかという念を感じる。


「回復士がいなくなっちまった。次のメンバーが見つかるまで待機だな。俺もまた暇になるな」

「あら? そんな事ないわよ。私が貴方のパーティーに復帰するから大丈夫よ」


 私は思っている事を遠慮なく言う。


「は……。お前、やっぱりアイリに……。これを狙ってやったのか?」

 アルソーはかなり動揺している。私は至って冷静に彼に話す。


「そんな狙って出来る程、私は器用じゃないわよ。偶然よ。だから、ハインリヒトに伝えて。クレアラを復帰させろと」


 私はアルソーにウインクをする。彼は困った顔をしている。そんな彼を横目に私は次の行動を考えていた。



    *    *    *    *



 私をパーティーに戻すように、アルソーはハインリヒトに掛け合ってくれた。最初はやはり、なかなかいい返事が貰えなかったらしい。でも、アルソーが根気強く、ハインリヒトを説得してくれた為、私はテストを受ける事になった。


 テストとはそう、ハインリヒトが私の実力を見て、パーティーに迎え入れるかどうか決めるテストであった。


 私は久々に宿屋の中庭を訪れる。一年前に戦力外通告を受けた思い出の場所だ。ハインリヒトからこの場所でテストをするからと言う事で、私はこの場所に呼ばれたのだ。


 周りを見渡す。景色はあの時とほとんど変わっていない。アルソーとソーニアが近くで見ている。そして、ハインリヒトが私に近付いて来る。


「久しぶりだね、クレアラ。元気にしてたかい?」


 ハインリヒトは私に軽く挨拶をして来る。私としては、彼にフラレたり、クビにされたりして苦い経験をたくさん味合わされた。色々と思う所があったが、今回はそれを全て水に流してテストに集中しようと考える。


「それでは、クレアラ。テストを始める。用意はいいか?」


 ハインリヒトが私に確認して来る。私は目を瞑り、集中力を高めていた。


 






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